勇者の装備は中古品
俺の頭脳が導きだした最高の装備を整え、勇者に与える。
よし。非の打ち所がない。
これで依頼は楽勝だろう。
森の狼退治なんざ一瞬だ。
「じゃあ、行くか。」
「ちょっと待ってもらっていいですか。」
勇者キョータが真剣な眼差しで俺を見つめる。
俺も、負けじと眉間にシワを寄せ、キョータを見つめる。
「どうして、こんな格好をするんですか?」「森の狼退治なんだろう?俺の頭脳が導きだしたベストな装備だ。」
「これが装備?!変装の間違いでは?!」
「何を言っている。どこからどう見ても、完璧だろう。」
「どこからどう見ても、完璧な農民です!」
「なら、問題ないじゃないか。」
俺の言葉に激しく落ち込む勇者。
どうしてだ。
頭には俺のお古の麦わら帽子。
これまたお古の手拭いで頬被り。
自慢の鎧の代わりに、俺のお古の雨避け外套。
膝下まである耕運用の長靴。勿論俺のお古だ。
右手には剣、左手には虫除けのカンテラ。ヨモギを燻した煙が体の周りに漂っている。
うーむ、完璧じゃないか。
「剣の代わりに、鍬を持たせたいくらいだ。」
「勝手にクラスチェンジしないでください!」
「不満があるなら、返してもらって構わんのだが。」
う、と詰まるキョータ。
こんな格好だったら、おお勇者よ情けないとか言われるよ、何だよこれ、臭いし最悪とか、ぶつくさ言ってる。
まあ、聞かなかったことにしてやろう。
本当なら勇者らしいマントでもやりたいところだが、そんな金は俺もないからな。
「見た目より機能だぞ。」
「そこが一番心配なんですが。」
「大丈夫。俺はいつでもその装備で快適だ。」
「快適なのは農作業ですよね。」
「農作業ができれば、狼くらい倒せるさ。俺の言った通りに動けばな。」
我ながら信用度の低い台詞だなぁ。
「こんな頭巾してたら、髪型がぺしゃんこだよ」と、キョータが掌サイズの円い容器を取り出す。
そして、髪の毛にベタベタしたものを塗り付けはじめた。
まだ若くて黄色いオンジの実のような、爽やかな甘い香りがここまで漂ってくる。
「おい!バカか!」
だからか、あんなに虫に刺されたりしたのは。この匂いに寄ってきたんだ。そういや、マウントンも、コイツの髪の毛食べてたっけ。
無理やり頭を洗わせ、今度こそ出発だ。
半信半疑、いや9割9分疑っているキョータを出発させる。
そうして3時間後。
キョータはキョトンとした顔で、無傷のまま、狼退治の報酬を手に帰宅したのだった。