農家の朝は早い
農家の朝は早い。
街の奴らがまだ寝ぼけている時間から、マウントンを連れて畑に出る。いつもの作業着のベルトにナイフをさし、マウントンの背中に籠を二つかける。背中の両側に籠がぶら下がるようにしているのは、収穫が多いからではない。ただのバランスの問題だ。
「おまえ、まだ目が開いてないぞ」
「うもー」
マウントンは収穫物を街まで運んだり、畑を耕したりと農家には欠かせない家畜だ。俺も日々こきつかっているのだが、如何せんもう年寄りのせいか、寝る時間が若い頃の2倍位になっている。羨ましいことだ。
朝に起きないどころか、歩きながら寝て、橋から落ちてびしょ濡れになったこともある。荷物を背負ってなくてよかったよ。
「ほれ、行くぞ」
ぺしぺしとマウントンの首筋を叩くと、ぬぼー、と変な声を出しながらゆっくりと目を開け、歩き出した。
どうせ畑と言っても、家庭菜園に毛がはえた位の広さだ。老マウントンのとろくさい足でも、あっという間に目的地に着いてしまう。もっとも、俺一人暮らしていくには充分すぎる収穫があるのだが。
太陽はまだ見えない。薄暗い白い空気の中をのんびり作業を始める。
「おー、いい具合に赤くなってるなあ。」
「もー」
「ほれ、頼むぞ。」
「うもー」
そろそろアカナミ祭の行われるこの季節だと、拳大のトトが旬だ。つやつやした赤い皮が美味しそうだ。腰のナイフで実の上を切り、マウントンの籠にぽいぽい入れていく。
朝飯がわりに一つ食べてみる。
うん、甘さの中に仄かな酸味がうまい。果物と言ってもいいくらいの出来だな。
「ももももも?」
いやはや、さすが俺のトト。うまい。これは高く売れるねえ。
「ももももももももももも!?」
なんだよマウントン。服を引っ張ったって、おまえにゃあげないぞ。
「ももももももももももももももももももももも!!!!!」
ん?なんだか騒がしいマウントンの見ている方に目をやると...
なんだ!?トトの木と木の間に、見知らぬ異国の服を着た男が倒れている!