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二階堂合戦記  作者: 犬河兼任
第一章 南が来る
5/83

1552 的中

<1552年 05月某日>


 叔父の伊達晴宗が須賀川城を訪れてから半年余りの月日が経つ。

 ここ半年の間に西日本、近畿、関東の三ブロックでそれぞれの勢力図に大幅な変化が生じている。


 遠国ゆえ中々噂も入って来なかったが、西日本の太守である大内家で政変が起こっていた。

 先年の俺の婚約騒ぎの少し前の天文二十年の八月末日。

 去る天文十二年の尼子攻めでの大敗後、急激に文治に傾斜していた主君の大内義隆に不満を抱き、武断派の重鎮の陶隆房が謀叛。

 陶隆房は大内家の重臣達や周辺の国衆の協力を得て大内義隆を襲撃し、大寧寺に押し込めて切腹を強要。

 更に義隆の実子の義尊も捕らえて殺害に及ぶ。

 そして己の権力基盤を固める為に、かつて義隆の猶子であった豊後の大友晴英を大内家当主に迎え入れる準備を進めていると聞く。


 近畿では今年正月早々に幕府と管領の細川京兆家の強力な後ろ盾だった近江守護兼管領代の六角定頼が病死。

 近江の一大勢力の六角氏は、足利尊氏の盟友で婆娑羅大名として名を駆せた佐々木道誉の系譜である。

 代々足利幕府との関係性も強く、その十四代目の定頼は管領の細川晴元の岳父であった。

 定頼は城割や楽市楽座などの先鋭的な政策や硬軟合わせた巧みな外交術により、近江一帯に絶大な勢力を築き上げた英傑である。

 その定頼を失ったことで娘婿の細川晴元の権勢も激減する。

 細川晴元を見限った将軍足利義藤は、三好長慶の誘いに乗って細川晴元と袂を別かち、幕臣を率いて京への帰還を果たしている。


 関東では相模の後北条氏の躍進が著しい。

 ついに敵対する山内上杉家の当主憲政を関東から追い出してしまった。

 天文十五年の河越夜戦から負け続けの山内上杉家には、もう単独で関東を回復する力は残っていない。

 憲政は越後の長尾景虎を頼るほか無い状況だ。

 上州に残って父の救援を待っていた憲政嫡子の龍若丸も、つい先日家来に裏切られて北条方に引き渡されてしまったらしい。

 小田原にて北条氏康自ら刀を取り、投降してきた恥ずべき旧上杉家臣ら諸共に年若の龍若丸を斬ったとか斬らないとか。


 ここまで全て史実と同じ流れである。

 そういう視点で見ると、伊達晴宗の置き土産である南姫との婚約も歴史の必然なのかもしれない。

 父の二階堂行秀が二つ返事で了承し、母の薫も良縁と歓んだために話はトントン拍子で進んでいる。

 既に両家の間での誓紙も取り交わし済みである。


 仙道筋の弱小大名である二階堂家としては、北方の大勢力である伊達家との繋がりを更に強くするのは願ったり叶ったりだ。

 和睦したとは言え、まだまだ緊張感ハンパない蘆名田村間の諍いに巻き込まれないためにも必要な一手とも言える。

 俺自身も納得はしているのだが・・・。


 俺の元服を待って南姫が輿入れするらしい。

 この時代の戦国武将の元服は、おおよそ数え年で十二歳から十五歳が目安となる。

 自分は今数えで九歳となるので、最短であと三年。

 自由に出来る時間は予想以上に少ない。


「はぁ〜、まぁ仕方ないか。ていっ!」


 スコン

 ぬ、また真ん中を外してしまった。

 俺の放った矢は的の板の端に刺さっている。


「若、もっと集中なさいませ」


 傅役の須田盛秀こと源次郎に注意される。


 今は須賀川城内の射場で弓の練習中。

 と言っても九歳の子供が引けるレベルの小弓で、的との距離も近い。

 弓の基本を源次郎に教わっているところであった。


 ふぅ。

 戦闘モードで射るとかなり楽なんだけどね。

 目を瞬かせる。


 キリキリ

 こんな風にFPS風味で的までの距離と必要な張力が可視化されるので。


「てりゃ!」


 スコーン

 見事真ん中に刺さる。


「そうです。今の具合をお続けなされ」


 源次郎に褒められるが何か違う。

 これに頼ってたら自分自身の技量が全然上がらないよな。

 目を再び瞬かせて戦闘モードを解除。

 自分の技を磨くにはやっぱりこっちっしょ。


「んー、てりゃあ!」


 ビヨヨーーン

 あー、矢が明後日の方向に!


「若は何事も集中なさると驚異的な結果を出されますが、いかんせんムラっ気があり過ぎますな」


 源次郎に呆れられてしまった。

 いやいやこれがチート無しのときの素の本性よ。

 弓の名手に至るまでの道は果てしなさそうだ。


 さて次の矢をつがえてっと。

 ん?


「はいやっ!!!」


 掛け声と共にダッタカダッタカと馬が走る音が鳴り始める。

 どうやら射馬の隣の馬場で誰かが流鏑馬の練習を始めたようだ。


 ズビシッ、ズビシッ、ズビシッと三つの的のど真ん中を次々と射抜いていく騎手。

 あれは誰だ?

 かなり上手い。

 そして随分若いな。


「御一門の保土原兵部大輔殿の嫡男行藤殿でございましょう。確かまだ十五歳のはず。中々の腕前です。所作に無駄がありませぬ」


「あれが噂の保土原行藤か」


 昨年元服して最近頓に屋敷の女房たちの間で噂になってる年少イケメン候補生か。

 成長期途上だが中背の細身で見るからに機敏そうだ。

 まだ十歳にもならない自分が言うのもなんだが、年若いながらも才能に溢れた有望株と聞く。


 二階堂家は四年前の牛庭原の戦いの損害から立ち直るべく、まだ年若な者も早く一線級となるよう厳しく鍛えている最中だった。

 行藤もその中の一人であるが、その才覚にプラスして家柄もあって同年輩の若侍たちの間でも抜きん出た存在に成りつつある。

 弓矢だけでなく和歌にも興味があるらしく、女房衆にもかなりウケが良い。

 文武両道の良将に育つのではないかと家中の期待も大きかった。


 保土原氏は須賀川城のすぐ側にある支城の保土原館に居を構える二階堂家の庶流だ。

 須賀川城の本丸から保土原館までは、直線距離で500mちょっとしかないほどの至近である。

 転生前に訪れたはずの博物館は確か保土原館の跡地にあったはず。

 博物館に展示されてたジオラマを見て、こんな出城的な支城の城主に裏切られたらそりゃ本城も落ちますわと納得した覚えがある。


 そう。

 パカラッパカラッと馬を駆り、再び騎射の体勢に入ろうとしているあの保土原行藤。

 蘆名氏を滅ぼして須賀川に攻め寄せてきた伊達軍に内応して本家を裏切り、二階堂家滅亡の最後の切欠を作った存在であった。

 和歌や茶道を好む数寄者同士、伊達政宗と非常にウマが合ったらしい。


 相次いで主君を失った後の天正年間の二階堂家は、家中が佐竹派と伊達派で二分されていたという。

 多数派の佐竹派を率いたのが、須賀川城主の南姫から城代を任された須田盛秀。

 目の前にいる源次郎である。

 そして少数派の伊達派を率いたのが、今二回目の騎射も全て成功させた保土原行藤だった。

 両者は激しく反目し、最終的に行藤の離脱に繋がっていった。


 だけど・・・


「何か?」


 思わずマジマジと見てしまい、源次郎が困惑してる。


 ここまで篤実そうな源次郎が二階堂家を二つに割るまで我を押し立て、行藤と対立し続けるとは到底思えない。

 あくまで城主の南姫の意向に沿って行動したと考えるのが妥当だよなぁ。


 だとすると、やはり鍵はまだ見ぬ伊達家令嬢の南姫。

 南姫が佐竹に靡かないように予め手を打っておく必要があるな。

 うーむ。


「さ、弓の稽古にお戻りなされ」


 源次郎に促され、考え事をしながら矢をつがえる。

 佐竹の南奥制覇を止めるにはどうしたら良いか。


 ビンッ


 あ、しまった。

 無意識に戦闘モードで打っちゃってた。


 スコーンッ!

 小気味好い音が鳴り響く。


「お見事!的中でございます」






「お見事、的中でござりまするな・・・。父上」


 まずは見事に的を撃ち抜いた父上を褒め称えよう。


 弓の修練から戻ると夕餉がやけに豪勢。

 父上も母上も膳を運ぶ女房も、みんなが華やいだ雰囲気。

 んん?と思っていたら珍しくウキウキの父上が開口一番、


「喜べ竜王丸、お前に弟か妹が出来るぞ」


 と、和かに告げてきた。

 思わずバッと顔を向けると、母上は嬉しそうにはにかんでいる。


 普段戦闘モードで見る機会はほとんどなかったので気付かなかったが。

 母上の体力ゲージの下に、僅かな幅のバーが重なるように追加されてた。

 あー、妊婦さんの場合こういう表示になるのね。


 切欠はやはり半年前に須賀川を訪れた叔父の伊達晴宗のようである。

 晴宗に煽られ、父上も母上も密かに夜の営みを頑張り続けていたようで。

 その成果が結実したようだ。


 人間五十年の敦盛が言葉通りにデフォルトな戦国時代。

 四十半ばを過ぎて子を成すバイタリティは凄い。

 父上、頑張られましたな!


 ただ、まだまだ綺麗で若々しいとは言え、母の薫も既に三十路である。

 この時代での三十を越えての出産は高齢出産に当たり、産む方にもよほどの覚悟がいる。


 レベルや位階により体力や容姿が強化されるこの世界。

 母上も奥州筆頭の武門の娘という上級国民なので補正は効くとは思うが、呆気なく亡くなった普賢丸のこともある。

 母上の栄養や衛生面の管理を徹底しなければ!


「父上、ご相談がありまする」


 まずは領内巡検の許可を得よう。






<1552年 06月某日>


「よし、出立じゃあ!」


 源次郎の馬にちょこんと相乗りし、意気揚々と采配を振るう。

 我ながら微笑ましい光景ではなかろうか。

 

 付き従う複数騎の武者たち。

 その中には先日射場で見かけた保土原行藤こと左近の姿もある。

 父上に特にお願いして護衛に入れてもらっていた。


 既に数度実施している領内巡検である。

 思惑通り源次郎との仲もだいぶ打ち解けてきたかな。

 

 年若いながらも飄々としている14歳の左近と、謹厳で真面目な22歳の源次郎。

 かなり年上なのにも関わらず、左近は源次郎に全然物怖じしない。

 隙あらば歌を詠もうとする左近を源次郎が咎めるシーンが何度も見れた。

 というか喧嘩ばかりしてね?


 南姫云々じゃなくて、もともと性格的に水と油だったかー。

 まぁ何度も護衛をしてもらって、連携も取れてきたようだし現時点では問題は無いだろう。


 既に菜の花の時期は終わっていたので、菜種油の精油からの石鹸制作は断念。

 岩瀬郡の領内の地形の把握を兼ねて、有用な在来種の植物の採取が目的となっていた。


「むむっ、あの草は役に立ちそうじゃ。根っこごと掘って城に運んでたもれ」


「「はっ」」


 源次郎の部下の須田家郎党が採取に動く。

 傍目にも当事者たちにも8歳の童のわがままに振り回されている光景に見えているだろう。


 源次郎を除く左近も含めた護衛たち全員、最初の頃は突然の採取命令に戸惑ってサボタージュ気味だった。

 しかしながら、泥まみれになりつつも苦労して城に持ち帰った野草が、格段に有益であることが後で判明すること数度。

 今では書物で仕入れた野草知識という俺の嘘説明を受け入れ、不平を零しながらも素直に命令に従ってくれるまでになっている。


 ちなみに前回はギョウジャニンニク、前々回は水辺で自生の山葵をゲット。

 既に父上にお願いして領民に栽培を開始させている。


 この戦闘モードってほんとにチートだよなぁ。

 役に立ちそうなものにマーカーと名称が出るので採取が超簡単。

 昨年父上に頼んで探索させていたが全然見つからなかった山葵なんかも、呆気なく発見。

 こんなことならさっさと自分で探しに行けば良かったと後悔したほどである。


 せっかく与えられた便利な能力である。

 内政に関しては活用しないとバチが当たるのではなかろうか。

 ただ、あまりにもピンポイントで食草を発見していると護衛たちにも不審に思われるので、ダミーを混ぜるのも忘れない。


「むっ、そっちの草もじゃ。左近!」


「またですか。やれやれ。竜王丸殿は人使いが荒い」


 保土原行藤にダミーの採取を命じる。

 せっかく穴掘りさせているけどすまんな、その労力って実は完全に無駄なのよ。

 だってお前最初の頃サボって歌ばっか詠んでたじゃん。

 きっちり仕返しの嫌がらせはしとく。


 さて次は山を攻める。

 熊が出る危険性があるので源次郎たちの警戒態勢も厳重だ。


 そんな中・・・。


「あった、あったぞ!」


 目当ての草がやっと見つかった!

 目論見が見事的中し、思わず小躍りしてしまう。


 見つけたのはシソ科の多年草。

 イヌハッカである。






 イヌハッカ。


 維新後に外国人が日本に持ち込み、信州に根付いてそこから生息地が広がっていったハーブと言われている。


 ただ日本原生の亜種も存在していたのではないかという説もある。

 ここは信州の山奥の冷涼な気候と似ているので、確率は低いがもしかしたらと一縷の希望を抱いていた。

 それがまさか本当に見つかるとは!


「それで、その草はどのようにして食すと美味いのです?」


 左近が興味深々で聞いてくる。


「いや、これは食用ではない。虫除けになる草じゃ!」


 そう、イヌハッカは防虫作用が強いハーブである。

 この時代、蚊取り線香も無ければ、蚊帳は値が張るし場所が限られる。

 普段の生活の中での蚊を媒介にした(マラリア)を防ぐ手立てがなかなか無い。

 これを母上のいる屋敷の周りに植えれば・・・。


 ヒヒーン!

 突然馬が騒ぎ出す。

 そしてオートで戦闘モードへ移行。


「若!左近殿!気をつけなされっ」


 あたりを警戒していた源次郎が警告を発する。


 グルグルグル


 木々の奥から獣の唸り声。

 まさか・・・熊!?


 で、でけぇ!


 強くなると容姿が変化するのって人間だけじゃなかったらしい。

 ツキノワグマなのにグリズリー級じゃないか。


 まさか初めての実戦が、こんな巨大熊相手になるとは思っても見なかったよっ。






<1552年 08月某日>


 左近が得意の弓矢をグリズリーもどきの左目に的中させ、なんとか無事に山中から持ち帰ることが出来たイヌハッカ。

 本丸の屋敷を囲むように植えてみた。

 まだまだ数は少ないが、種子が取れれば野草なので一気に増やすことも可能だろう、と思っていたのだが予想外の事態が。


 ニャーニャー

 ニャー

 ゴロゴロゴロゴロ


 ・・・へー、須賀川ってこんなに野良猫いたんだね!


 参ったな。

 何処からかやってきた猫たちがイヌハッカを荒らしてグデグデになってる。


 熊の次は猫かよっ。


 イヌハッカ。

 欧米での名前はキャットニップ。

 猫にとってマタタビのような効果があるハーブである。


「いや、まぁネズミも取れるし、これはこれで」


 前向きに捉えよう。


「フフフッ、酔っ払った猫に果たしてネズミが取れましょうや」


 居合わせた左近がすかさずツッコミを入れてくる。

 この珍奇な光景を見て歌に詠もうとしていたらしい。


「若、猫たちの糞尿の匂いが臭いとの訴えが上がっておりまする」


 さらに源次郎が女房たちの苦情を伝えに来た。

 確かにそっちの方も何とかしないといけないな。


 それに蚤もいるだろうし。

 蚤駆除用のオーガニックなスプレーを開発するために、また山にハーブを取りに行かねば。


 今度は忘れずに鈴付けて行くとしよう






<1552年 12月某日>


 寒空に月が煌々と輝く夜半。


 オギャーオギャー


 赤子の泣く声が細く聴こえて来た。

 産まれたようだな。

 良かった。


「産まれたか!」


 父上が産所に駆け付けようと立ち上がる。


「父上、落ち着いてくだされ。今行っても母上が疲れるだけです。待ちましょう」


「お、おう。そうだな」


 落ち着いているように見えて父上も焦っていたようだ。

 父には母上の前の妻、前妻をお産時に亡くした苦い記憶がある。

 何度経験しても慣れるものでは無いだろう。


 しばらくして産婆が報告に来る。


「おめでとうございまする。男子の稚児でございます」


「そうかっ。それで薫は?」


「今のところ命に別状ございませぬ。ただ、かなり消耗されておりまする。御方様との面会は夜が明けてからの方が宜しいかと」


「うむ。そうした方がよいか」


「赤子との対面は今しばらくお待ち下さいませ」


「あいわかった。大儀であった」


「ははー」


 下がっていく産婆。


 ホッと一息付く父上に合わせ、俺も体の力を抜く。

 しかし産気付いてから随分時間が掛かったなー。


「お主の時も普賢丸のときも難産じゃった。薫はまたよう頑張ってくれた」


 もう月が中天から落ちかかっていた。


 その後、乳母に任命される予定の女房が、厚い産着で包んだ弟を抱きかかえて参上。

 父上とともに初めて弟の顔を見ることになる。


 そこで初めて父上の口から弟の名前を聞く。


「お前の名は観音丸、観音丸じゃ」


 ネ(ネズミ)年の守り本尊の千手観音にあやかった名。


 二階堂盛義には成人した弟が一人いて、その弟は二階堂家庶流の大久保氏の名跡を継いだらしい。

 果たして観音丸がその弟に当たるのだろうか。






 夜が開けてすぐ、母上の様子を伺いに行く。

 床に横たわる雪のように白い母上の顔に、思わず戦闘モードに切り替えて母上の体力ゲージを確認してしまう。


 そして思わずハッと息を飲む。

 出産で体力を消費した結果、ゲージが大分目減りしているのだろうと予測していたのだが。

 ゲージの減りはもちろんとして、ゲージの絶対値自体が大幅に減っている?


「母上・・・」


「竜王丸、そんなに心配しないで。すぐに元気になりますから」


 自分のやつれた顔を見て衝撃を受けている俺を逆に気遣ってくれる母上。

 いかんぞ、何をやっているんだ俺は!


「ふふっ竜王丸、そなたの瞳は時折不思議な色を纏いますね」


 えっ?


「きっと、私や皆には見えない何かが、その瞳には映っているのでしょう」


「母上」


「よいのです。竜王丸」


 細く白い母の右手が、膝の上でキツく握られた俺の手を包む。

 酷く冷たかった。


「私にはあなたが何を見ているのかわからないけれど。その力を使って弟や須賀川の皆を良き方向に導いて。ね?」


「は、はい。母上」


「きっとですよ」


「必ず。二階堂家は竜王丸が必ず守り通します」


 母の冷たい体に己の体の熱量が乗り移るように、その冷たい手をギュっと握り返し、そして誓う。


 良かった、と笑う母上の顔はとても綺麗で儚く、そのまま消えていってしまいそうな予感に囚われる。

 このまま消えてしまわないよう、俺はいつまでも母の手に縋り続けた。


 この予感だけは的中してくれるな。






<年表>

1552年 二階堂竜王丸 8歳


01月

★南近江の六角定頼(57歳)死去。六角義賢(31歳)が家督を継ぐ。

■米沢で伊達晴宗の正室の久保姫(31歳)が懐妊。


02月

★堅田の足利義藤(16歳)、六角定頼の死を受けて細川晴元(38歳)と決別。京に戻る。


03月

◆相模の北条氏康(37歳)、上野の平井城を攻略。上杉憲政(29歳)を関東から追う。


04月

◆上野の上杉憲政(29歳)、越後の長尾景虎(22歳)を頼る。関東に残された龍若丸(11歳)、家臣に裏切られ相模で処刑。

▽周防の陶隆房(32歳)、豊後の大友義鎮(22歳)の実弟晴英(20歳)を大内家の主君に据え、陶晴賢に改名。

☆尾張の織田信秀(41歳)死去。織田信長(18歳)が家督を継ぐ。信長、信秀の位牌に灰をぶちまける。

◆相模で北条氏康(37歳)の長男氏親(16歳)が病死。次男の氏政(14歳)が嫡子となる。


05月

◎須賀川で二階堂行秀(45歳)の正室の薫の方(31歳)が懐妊。

▽薩摩の島津貴久(38歳)、修理大夫補任。長男忠良(19歳)、将軍足利義藤(16歳)の偏諱を受け、島津義辰を名乗る。

☆尾張で赤津の戦い。織田信長(18歳)、叛旗を翻した鳴海城主の山口教継を攻めて今川方と小競り合い。土田弥平次討死。


06月

◆甲斐の武田晴信(31歳)、小諸の戦いで小笠原長時(38歳)を破る。長時、越後に逃亡。


07月

☆越前の朝倉延景(19歳)、将軍足利義藤(16歳)より偏諱を受け、朝倉義景に改名。

▷出雲の尼子晴久(38歳)、備後に攻め入る。大寧寺の変の後の政争中の陶晴賢(32歳)に代わって、安芸の毛利元就(55歳)が防戦。


08月

☆尾張の織田信長(18歳)、夫の土田弥平次を失って生駒家に戻っていた吉乃(24歳)を見初める。

■米沢で伊達晴宗の四女彦姫と五女宝姫が誕生。


11月

▽薩摩の島津貴久(38歳)、島津一門から一味同心の起請文を取り、名実共に薩摩守護となる。


12月

◎須賀川の二階堂行秀(45歳)の正室の薫(31歳)、行秀の四男の観音丸を産む。

▷出雲の尼子晴久(38歳)、将軍足利義藤(16歳)より山陰山陽八ヶ国の守護と幕府相伴衆に任ぜられ、従五位下修理大夫叙任。

☆駿河の今川義元(33歳)、甲駿同盟強化の為に、娘の松姫(11歳)を甲斐の武田義信(14歳)に嫁がす。


-------------

▲天変地異

◎二階堂

◇吉次

■伊達

▼奥羽

◆関東甲信越

☆北陸中部東海

★近畿

▷山陰山陽

▶︎︎四国

▽九州


<同盟情報[南奥 1552年末]>

- 伊達晴宗・岩城重隆

- 田村隆顕・相馬盛胤・畠山義国


挿絵(By みてみん)


須賀川二階堂家 勢力範囲 合計 5万1千石

・奥州 岩瀬郡 5万1千石

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