表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

異世界召喚に大切なこと

作者: 木片樹

突発的に浮かんだネタ。

その世界は危機に瀕していた。


人間、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族、その他諸々、みんな仲良く過ごしていた世界だったが、ある日、世界中の動物たちが急変し、凶暴な存在となったのだ。


世界には魔法という技術があり、人々はその魔法で生活をしていたが、動物たちもその魔法を使うようになり、人々では手がつけられない存在となってしまった。世界中の動物のうちの9割がそうなり、魔物と呼ばれるようになったのはいつの頃からか。


動物が魔物と化した最初の頃、あらゆる手段で魔物の殲滅を行っていたが、魔物の増加と強化を止めることはできず、人々の数と住める地域は徐々に減ることとなった。


そして、20年が経った頃、とある大陸のとなる地域のみが生活圏となった時、彼らは決意した。



異世界に救いを求める。



所謂、異世界からの勇者召喚である。その術式を作るのに1年。小石やら小動物を対象に実験を行い、完成した術式は人々の希望だった。希望だったのだが、ある人がこう言った。


「おいおい。召喚する人にも生活があるだろ?承諾もなく、呼んじまったら魔物と何がちがうんだ?」


魔物は未来に続く自分たちの人性を奪い続けている。召喚した人を勝手に呼ぶことは、その人の人性を壊すことになる。それはなんとも身勝手か。


希望にすがろうとした人びとは一転して己の身勝手に恥じた。言われて納得。確かにそうだ。自分たちは魔物と違うのだから、ちゃんと来てくれるかを問わなければ。


人々は術式の一部を改良。まずは声を届けて来てくれる、と承諾してくれる人だけを召喚する術式を組んだ。その期間に半年を費やすこととなる。


術式を作り上げた人々は今度こそと術式を起動しようとして、しかし、また、ある人がこう言った。


「おいおい、こっちに来てくれるというのに声だけ届けるなんて失礼だろう?ちゃんと代表者が面と向かって説明して、納得して貰わなきゃ話半分に思われるかもしれないだろ?」


術式を起動しようとした人々は、そんな言葉に感銘を受けた。誠に仰る通りだ。この世界の救世主に対して、声だけの説明は失礼だ。この世界の現状を知ってもらうためにも、顔と顔を付き合わせて話さなければ、嘘だと思われ、面白半分に頷くかもしれない。


そうなれば、来てくれても文句を言われるだけかもしれない。来てやったと、大きな態度を取られかもしれない。そうなれば、召喚された人も自分たちも不快な思いをするだけだ。


再び言われて納得した人々はさらに術式を弄る。さらには、送る代表者も決めなければならない。行来できる術式にし、送った人が発動できる簡易的な術式も開発。礼儀正しく容姿も素晴らしい人を選び、その世界の言語に対応できる術式も覚えさせて準備を完了。


ようやく世界が救われると思えたのは、前回起動しようとしてから1年と少し。徐々に減る人口と地域に焦りつつも、術式発動手順を間違えないようにしつつ、しかし、やはりというべきか。2度あることは3度ある。ある人は三度口を出す。


「おいおいおい。お前たちの脳は大丈夫か。お前たちはどんな人物を呼ぶ気なんだ?弱い奴か強い奴かをどうやって判断するんだ?そもそもとして、異世界からきた人がこの世界の環境に耐えれるとも限らんだろうに。潜在的でもいいから強い奴をどうやって探すんだ?」


三度言われてさすがに起こるか。否、そんなこともなくやはり納得。人々は確かに考えていなかったと議論する。


魔物相手に普通の人が勝てるのであれば、召喚する意味もない。元々強かったとしても、それは異世界の話だけかもしれないのだ。救世主はこの世界に来て強くてなくては困るのだ。


人々は面を付き合わせては、ああだ、こうだ、と話しに話し、術式を作っては実験した。異世界に魔力がなくては戻れもしないことに気付き、慌てて携帯型魔力発生装置なるものも合わせて作った。


結果、異世界に行く人は人の潜在能力を見ることができる術式を編んだコンタクトレンズをつけることになった。さらには、その術式とこの世界に戻るための術式を発動できるように、魔力を産み出す術式を編んだ魔道具という、些かあべこべになりそうな魔道具も持たせた。さらにさらに、異世界から来る人が、この世界に来た際に強化する術式も召喚する術式に組み込んだ。


ここまでくれば、異世界に行って戻って来たときに、その人を強化する術式すらも作れそうな気はしてくるが、そんなことにまで頭の回らない人々は急く気持ちを抑えて、術式を発動させようとする。ある人は回る頭で勿論のこと、そのことには気づいてはいるが、そのことは口に出すことはなく、四度目の指摘をはしっかり行う。


「本当にちゃんと考えてるのかお前たちは。異世界がここと違う環境だったらどうするんだ?俺たちが常識だと考えてることが違う可能性を忘れていないか?言った瞬間に死んでしまう可能性だってあるんだぞ?お前たちは本当に何も考えてないんだな。世界が滅んでも仕方がないかもしれないな」


それはさすがに言い過ぎたのか、四度目の指摘に対して、ようやく人々は反論した。反論ばかりで何もしない奴が横から口を出すんじゃない。世界が滅んでも仕方がないというのなら、お前がさっさと死ねばいい。


救世主を待ち望む人々は次から次へと言い放つ。何も言えないがための子供のような反発とも言えるし、ただの八つ当たりとも言える。知能があってもそこも人。理性で全てが片付くはずはなく、感情が爆発して止まらなかった。


死ねばいい、と言われた人は謝るか、またまた、反論するかと思いきや、不適に笑ってこう言った。


「なるほどなるほど。俺は皆のためにと助言していたつもりだが、余計な口出しだったそうだ。いやはや、それは申し訳ない。老いたこの身では魔法すら手出しできないから口を出したが、迷惑というなら老害はここを去ろう」


言うや否や、4度に渡って口を挟んだ老人は懐からナイフを出して、喉を一突き。苦しい表情も後悔した様子もなく、皆のためになれたと思い、満足しきってこの世を去るのだった。


老人の遺体が残るなか、しかし、そこらには魔物によって殺された人々の死体が山のようにあるために、見慣れてしまったがために、人々は老人の助言を無視して術式を起動。救世主を招くべく、1人の使者を異世界へと送るのだった。







さてはて、何度も苦労はしたものの、漸く人々は召喚魔法を起動した。選ばれた者が異世界に飛び、不審に思われながらも条件に一致する人に話しかけ続けた。飲まず食わず寝ずの三拍子に、日に日に疲労は溜まっていき、最早誰も信じてくれないと諦めようとしたその時だった。これまでは試練で、合格したから紹介してやると神様に言われんばかりの奇跡が舞い降りた。


大丈夫かと、異世界に来た人に声をかけた青年は、召喚した際の強化に適合する人で、しかも最高レベルの適合率。優しく差しのべられた手にすがり、行き絶え絶えの説明もしっかり聞いてくれる青年は、救世主にしか見えなかった。


異世界に来た人の話を聞いた青年は、1日だけ時間をもらい、家族や友人へと連絡して事情を話す。話を信じきっている青年はそのまま簿化すことなく伝えるが、家族は息子の頭を心配し、友人はなんの冗談だ笑うだけだった。それでも、青年は愚直にも信じており、翌日、自分が住む世界とは異なる世界を救うべく、異世界へと来た人の手をとって、世界から旅立った。





ここで、話がうまく行くなら、青年はその世界を魔物から救い、英雄と呼ばれてハッピーエンドとなるだろう。しかしながら、現実というのはうまく行くとは限らない。救うべくやってきた青年の強化が失敗するかもしれないし、魔物が強化された青年よりも強いかもしれない。いや、もしかすると、ある程度の魔物を滅ぼせた時点で用済みと処分されるかもしれないし、世界を救ったあとに力を持ちすぎだと、人々から恨まれるかもしれない。








いやいや、そもそもとして。









本当に世界の間を簡単に行来できるのだろうか?








ちなみにだが、老人にはもう1つの助言を胸に抱えていた。それは今まで誰も世界を渡ったことがないし、渡ってきた人がいないということ。1年、2年で作った即席の術式だけで、簡単に世界を渡ることができるのか?地上から宇宙へ行くように、宇宙から地上へ戻るように。そこには何らかの障害があるのではなかろうか?


そう、例えて言えば"世界間の壁"とか。














「どうしてだ!どうして帰ってこないんだ!」

「あいつ、1人で助かりやがったんだ!」

「裏切者め!」

「そうだ!こんな世界捨てればいいんだ!」

「そうだそうだ!さっさと魔法を起動しろ!」

「俺たちも異世界へと逃げるんだ!」

「無理だ!魔力が足りないんだ!」

「だったら魔力を集めれば!」

「誰か!誰かが犠牲になればいいんだ!」






そう、争う人々の足元には小さな小さな、しかし、ここにはないはずの魔力発生装置があったとか、なかったとか。







人の体。世界の壁。果たして耐えられるものなのでしょうか?


異世界をお望みの方々へ。

くれぐれもお気をつけくださいませ。



※解決方法は不明です。



長編小説『剣魔戦姫の冒険譚』も連載中

http://ncode.syosetu.com/n3024ed/


よければ読みに来てください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ