番外編(1)
和泉の小規模な作戦
大丈夫、いつも通り。
中学二年の冬。こんなに寒いのに期末テストを行うなんてナンセンスだ、と毎年夏実は言う。
そんなことを教室の隅で聞きながら、チラリと彼のほうを見た。幼馴染で同じクラスになれたというのにあまり仲が良くない、気がする。
和泉は溜息をつきながら、隣で話をしている友人に適当に相槌を打つ。
和泉のほうからは夏実のことをだいたい知っている、つもり、のはずなのだが夏実はこちらのことをどれだけ知っているだろう。
自分はこんなに一大決心をしているというのに、いつも通りすぎる教室の様子がそれを揺らがせる。
でもだめだ。どんな手を使っても、最善を尽くすべきだ。どんなに卑怯だとしても、それしかないのだから。
ふらふらと立ち上がりながら、手に持った紙を握りしめる。夏実の席の周りには人は少ない。何気なく廊下に出るふりをして、机に紙を入れた。
廊下に出て、頭を冷やす。早くチャイムが鳴ればいいのに、この決心が揺らぐようじゃ、きっとうまくいかない。
教室に戻り、自分の席に座る。心臓の鼓動が緊張で早くなるが、気づかないふりをする。
しばらくすると、チャイムが鳴る。後悔の念なんて今更ないはずなのに、深呼吸をしなければ平常心が保てない。
大丈夫、準備だってしてきたんだ。あとはクラスの何人かに現場を見せ、根回ししておいたクラスメイトが証言をすれば終わりだ。
和泉はゆっくりと目を閉じて、テスト用紙と向かい合った。