08「闇に蠢く何か」
「オオォォォオ! オラァ!」
向かってくる芋虫に対し俺は宝刀【流星】を横に大振りすることで凌いでした。
キラーキャタピラーは小型犬くらいのサイズの芋虫だ。ある程度の大きさはあるので斬り捨てやすい。しかし、びっしりと小さな牙が埋め込まれた口から放たれる粘液と酸液は厄介だ。
自動修繕のついた刀だから、治るのは治るがら5秒ほど切れ味が落ちるので、闘いにくい。
そして、最も厄介なのはその数だ。倒しても倒しても次から次へと湧いてくる。既にレベルは結構上がっただろうか。しかし、確認している余裕はない。
俺は、押し寄せる怒涛の虫たちに嫌気が指しながらも、なんとか門を死守していた。
【西門side】
「ぐッ…この虫は…どこから湧いてくるのだ! 多すぎる! 持ちこたえられんッ!?」
西門には複数の戦士ゴブリンと少しの青年ゴブリン、そして薙刀を装備した族長によって守られていた。
しかし、虫の数に押され、少しずつではあるが怪我人が発生していた。
それをカバーするためか、一人、また一人と若いゴブリンが駆り出されるのだが、犠牲者が増えるだけである。
ゴブリン達は村からの「脱出」を言い出すものはいなかった。藁の家であっても皆、思い入れ深い住宅であったのだ。
しかし、現実は冷酷である。虫の数は増え続ける。
「ぐあっ!」
族長が足に酸液を浴びた。肉が焼けるような異臭が立ち込め、それを嗅いだ虫たちが族長に押し寄せる。
「ぐぅ…コレで終わりか…!!」
族長は諦めた。それは生きることであり、村で暮らすことであった。しかし、
「族長!お逃げください。」
「族長!ここは我々に!」
「族長をォ! 守れぇぇぇええ!」
戦士ゴブリンは立ち上がった。村の存亡、そして命がかかった戰いに恐怖を感じつつも、守るべきものの為に立ち上がったのだ。
それは、まさしく「戦士」である。
「お…お前ら‼」
族長は考える。この村を放棄し、脱出しよう。確かに村は故郷であり、守りたいものであるが、命には変えられないと。村の外には魔物や過激派ゴブリンもいて危険はあるが、ここで逃げないほうが被害は大きいと。
決断する。
「村を…放棄する!
皆!脱出の準備を!」
族長は酸に焼かれた足を引きずりながら村の中心へ移動し始めた。
【北門side】
「どんだけ…沸くんだァ、よォ!」
右から迫る虫を刀の柄ではたき落とし、切り裂いて、左からくる虫には火魔法を使って対処した。
次は右から多く虫が来たので、刀の先から炎を噴射して応戦した。
「【火炎放射】お前らァ!コッチ来んなァ!」
この戦いが続くのは非常にマズいことだが、経験値はとても美味しいようだ。
火魔法も始めはよくわからな買ったので、適当に使っていたが、ある時を堺に呪文が頭に浮かぶようになった。
【火玉】を唱えると火が球状に固まって飛ばすことができる。
【火炎放射】火を噴射してある程度の範囲を焦がすことができる。
【火壁】火で出来た壁を作り出すことができる。
︙
にしてもコイツらはどこから沸いているのだろうか。無から生まれるハズはない。何処かから産まれてここにきているのではないかと思う。
ううむ。調べる必要があるかな。
そうして俺は、戦いながら後ろにいる戦士ゴブリン数名に声をかけた。
「この虫がどこから沸いてきているのか、調べてきてくれないか。もちろんここは俺が食い止める。そちらも危険だから十分に注意しろよ。」
「はい!」
この時、ディーウェンの周りにいる戦士ゴブリンは、ディーウェンを英雄を見るような目で見ていたという。
北門付近の怪我人は…0。ほとんどの虫をディーウェンが蹴散らしていたからだ。
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「アラ…オカシイわね。そろそろあんな小さな村、潰れてもいい頃なのに…。」
不敵な笑みを浮かべた何者かがつぶやいた。そこは暗い場所。とてもとても暗い。
「偵察に行かせたコが帰ってきてないのも気になるわ…。あの村…何かいるわね。まぁ、このまま数で押せば、時期潰れるでしょうけど。」
「マザー。コード7000〜7999ももう戦えます。出撃させますか?」
「そうねぇ…。今回は出し惜しみ無しよ。出撃。」
そう言って、1000匹のキラーキャタピラーが野に放たれた。