07「奇襲。そして開戰。」
ゴブリン村より北西にしばらく行ったところ、そこには何かが蠢いていた。
モゾモゾ…モゾモゾモゾ。
それは着実に村へ近づいていた。悲劇の時は近い。
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「ふぁぁあ…よく寝た。」
俺、ディーウェンは藁の中でモゾモゾと体をひねさせ、起床した。日が登ってすぐの早朝である。
この世界では、日が落ちれば割と直に寝てしまう。暗くなるからだ。元の世界では1時に就寝し、8時に起床していた。この世界では、8時すぎには寝てしまうので、ゆっくり寝ても4時くらいには自然と目が覚めてしまうのだ。
藁の家から外に出る。少し肌寒かった。村を見渡すと、少人数の戦士ゴブリンが見張りをしていた。おそらく、異変があれば、直に察知し、大事にならぬよう回避するためだろう。この世界には魔物がいるのだから。
ふとこちらに気がついた戦士ゴブリンの一人がこちらに向かってきた。
「お早いお目覚めですね」
「ああ、何か目が覚めちゃったんですよね。」
「朝食ができましたら、また声がかかると思います。申し訳ありませんが、しばらく待っていてください」
「はい、ありがとうございます。」
なんて話をしていた。正直朝食には期待していない。することもないので、ステータスでも見て待ってようと藁の家に入ろうとした。
すると…
…カーンカーンカーン
高い金の音があたりにこだました。何だろう? 一瞬考えたが、直ぐにその答えがわかることとなる。
「魔物…キラーキャタピラーの大群が北西から村に向かって来ているッ! 皆! 起きろッ!」
なんと! キラーキャタピラーとは、この前の倒した芋虫である。 …この大群を考えると、あいつは斥候か何かだったのだろうか? いや、考えてもわからない。それよりも大群を凌ぐことを考えなければ。
この村は柵で覆われており、東西南北それぞれ一つづつに門がある。キラーキャタピラーの軍勢は北西から来ているという。
つまり、守るべきは北と西の門だ。
「俺は北門の守備に行きますっ!」
そう言って俺は飛び出した。北門へ着くと数名の戦士ゴブリンが居た。
そして、まだ少し先だが、森の方から土煙が舞っていることが見てわかる。
あの虫の大群が村へ押し寄せたら、被害は尋常ではないだろう。なんとかしたいとは思う。
しかし…。しかしだ。あの芋虫を進んで殺そうとは思えない。なんたってあの見た目の醜さ。近寄ることさえ躊躇われる。
そこでふと思い出す。それはスキル「火魔法」のことである。それは先日の朝、熊に勝利し得たスキルだ。しかし、その後の戦闘は、ただ一匹の芋虫だけで、混乱した俺は使用しなかった。今回の戦いで、「火魔法」を使用すれば、芋虫を殲滅できるのではないだろうか。
そして、村のゴブリンたちが叩き起こされ、戦うために武器を手に取り始めた頃、奴らの姿が見え始めた。
「うわぁ…。すげぇ量だ。」
驚くほどの大群が村へ進行してきた。
「火魔法…わかんねぇな! 火とか出ろッ!」
すると俺の手からは握り拳程度の火の塊が飛び出した。その火は、先に迫るキラーキャタピラーの腹を焼き、炭と化させた。
ギュルォォォォオオオオオ!
仲間を殺されたキラーキャタピラー達は怒り狂い、こちらへ向かってくる。
戦いの蓋は開けられた。開戦である。
短いですが、きりがいいので終わりました。