その日兄妹は青春をする。
「あまのじゃく!!」第3話をご覧頂きありがとうございます。今回の話は心の相談を解決する為にオカルト研究部が動きだします。しかしその選択が思いもよらない結末になってしまって。人の怖さと兄妹って良いなと思える話になっていると思うので最後まで読んで頂けると嬉しいです。
(私、喜怒心がお兄ちゃん達に相談してから3日が経った。お兄ちゃんは学校に一緒についてきてくれるし帰りは結城さんも一緒に帰ってくれてちょっとだけ…楽しい。学校では薫ちゃんも気にかけてくれて昼休みにはお兄ちゃんと結城さん、たまに拓郎さんも一緒にお弁当を食べている。今も一緒にお弁当を食べる為にお兄ちゃんの教室に向かっている。だけど、相変わらず私が感じる視線の問題は解決していない。)
「ハァ。」
心が思わずため息をついていると誰かが私の肩を叩いてきた。
「ひっ!?」
「あ。ごめんなさい。心ちゃん大丈夫?」
私の肩を叩いたのは神木さんだった。
「神木さ…先輩。すいません。大丈夫です。」
「なら、良いんだけど。なんだか元気無さそうだったから。」
「あはは。心配かけてすいません。」
2人が話しをしていると1人の男子が近寄ってきた。見た目は高校1年生のわりには高く顔も整っている。いわゆるイケメンというやつだ。
「喜怒さん。」
自分の名前を呼ばれて心は声がする方を見た。
「なんだ、佐藤君か。なんか用?」
「いや、最近付き合い悪いからちょっと気になってさ。」
そんなやり取りを見て神木が小声で心に話しかける。
「心ちゃんの知り合い?」
「同じクラスの男子です。まあクラスのリーダーですね。」
(ふ~ん。なるほどね。)
心から話を聞いた神木は佐藤の方を見て話し始めた。
「ごめんなさいね。喜怒さんは私との用事で最近忙しくしているの。」
「あ、そうだったんですか!!話し中だったのにすいません!!じゃあ僕は失礼します!!」
佐藤はそう言うと丁寧にお辞儀をしてから教室に戻って行った。
「神木先輩!!何であんな嘘を…元々は私の相談で。」
「その方が上手くいくからよ。あと…その先輩って言うの、もし言いにくいなら無理しなくて言いわ。好きに呼んで。じゃあ放課後に。」
神木は少し照れくさそうにしながら廊下を歩いて行った。そんな神木を見えなくなるまで見送ってから心は喜怒の教室に向かった。
(神木桜さん…か。)
心は考え事をしている間に喜怒の教室に着いた。教室には喜怒と結城と国木田、それと星野空が机を並べてスタンバッていた。
「お兄ちゃん!!」
心の声を聞いて国木田が相変わらずの明るいテンションで返事をする。
「心遅かったな!!便所か?」
「拓郎さん…いっぺん死んでください。」
心が冷たい目で国木田を見ていると結城が割って入った。
「心ちゃん、紹介するね。この子は私の親友のくうちゃん!!凄く優しいんだよ~。」
「あおい~!!可愛いやつめ~!!」
そんな2人の様子にちょっと戸惑いながらも心は挨拶をした。
「初めまして。喜怒心です。」
「初めまして~!!星野空です!!しかし喜怒君にこんな可愛い妹さんがいたなんてね~!!お姉さんびっくりだよ~。」
そんな話しをしていると林と瀬川が話しに入ってきた。
「ほんとそれだよ~。何で言ってくれなかったんだよ?喜怒っち~。」
「うん!!うん!!」
(いや、俺お前らと友達じゃないし。てか喜怒っちって誰!?)
そんな2人を見かねて今度は園田がやってきた。
「はいはい!!わかったからあんたらはこっち!!」
そう言いながら林と瀬川を引きずって行く途中園田は喜怒達に話しかけてきた。
「喜怒も妹さんもごめんね。」
それに対して心が返事をした。
「い、いえ。こちらこそ。」
「心、こっちこい。」
喜怒が心を隣に座らせてようやくお昼ご飯を食べる事になった。結城は相変わらず大量のコンビニ弁当を出してくる。
「しかし凄い量ですよね。結城先輩のお昼。」
「えへへ~。食べるのは得意だからね!!」
「いや、ほめてるわけじゃ。」
親指を立てて誇らしげにしている結城に心は思わずツッコミをいれた。
「いやしかし結城の身体を考えるとやはり心配だ!!今日も静からおかずをわけてもらうといい!!」
国木田がそう言うと結城は慌てながら言った。
「いやいや!!それじゃ喜怒君が食べる分無くなっちゃうよ~。」
「別に。」
「へ?」
「別に…良いよ。」
「本当に?」
結城が確認すると喜怒は黙って頷いた。
「ありがとう。どれにしようかな~?迷うよ~!!」
結城がおかずに悩んでいると喜怒が少し照れくさそうに話しだした。
「このきんぴらごぼう…自信作。」
「じゃあきんぴらごぼうにする!!」
心は兄のこんな姿を見るのが久しぶりで驚いていた。
(お兄ちゃん…。)
「私も食べてみたいな。喜怒君のお弁当。」
そう言ったのは星野だった。喜怒は星野にもきんぴらごぼうをわけてあげた。
「やっぱり喜怒君のお弁当は美味しいよ~。とろける~。」
「ほんとだ!!凄く美味しい!!」
お弁当を食べ終えると調度昼休みが終わり喜怒達は放課後に部室に集まる事にした。
全員が部室に集まると神木が話し始めた。
「私から1つ提案があります。」
「何だ神木?何かわかったのか?」
真宮が訪ねると神木は話しを続けた。
「少し、試してみたい事があるんです。」
その日、心は1人で学校から帰る事になった。その様子をオカルト研究部のメンバーが隠れながら見ている。
「おい、神木。本当にこれで大丈夫なのか?特に何も起きないが。」
「もう少し待って下さい。きっと何か起こるはずです。」
真宮と神木が話しをしていると結城が喜怒の袖を掴む。
「あの…ね、私、喜怒君に…。」
結城が何か言いかけた時、心に誰かが近寄って行くのが見えた。
「喜怒さん。」
心に声をかけたのは心と同じクラスの佐藤だった。
「佐藤…君?」
心が戸惑っていると佐藤が話し始めた。
「実は最近、喜怒さんが1人になるのをずっと待ってたんだ。ちょっと喜怒さんに話したい事があって。」
「…話したい事って…何?」
その時の心の声は少し震えていた。いつも感じる視線の正体が同じクラスの男子かも知れないのだ。恐怖を感じるのも当然だ。
「実は俺…喜怒さんの事が…!!」
佐藤が話している途中、他校の男子が2人に近寄って行くのが見える。人数は3人だ。
「お取り込み中悪いんだけどさ~。俺達その子に用があるんだよね~。」
そう言って男の1人が心の方を指差した。すると佐藤が男に向かって話しだした。
「何ですか、あなた達は!?すいませんけど今は…!?」
佐藤は話している途中に腹部に蹴りを入れられ地面にうずくまった。蹴られた佐藤を心配し心が駆け寄る。
「佐藤君大丈夫!?」
「喜怒さん…逃げて。」
佐藤は苦しそうに声を出した。男はそんなの何とも思っていないかの用に話しを続けた。
「君さ~かなりモテてるみたいじゃん?調子のってるからちょっと懲らしめて欲しいって頼まれちゃったんだよね~。」
その様子を見ていた真宮と神木が話し始めた。
「まずいわね。早くなんとかしないと!!」
「そうだな。喜怒…。」
真宮は途中で言葉を詰まらせた。真宮が喜怒の方を向いた時、喜怒の身体は震えていたのだ。男達が怖い訳ではない。何かもっと違うものに恐怖している用な目をしていた。
震えている喜怒を見た結城は何かを決意したような表情をし、男達の前に飛び出していった。
「心ちゃん逃げて!!」
「結城さん…何を!?」
「良いから早く!!」
男達の前に飛び出した結城を見て喜怒は息をのんだ。
(何してんだよ…あいつ?お前が敵う相手じゃねぇだろ。身体だってあんなに震えて、なのに…何でそんな真っ直ぐな目ができんだよ!?)
男の1人が結城に近づいていく。
「何だ~?このチビ?さっさとそこ退けよ。退かねぇと。」
男が拳を握り今にも殴りかかろうとした時、喜怒が結城を庇う用に抱きしめ庇った喜怒は頭を思いっきり殴られていた。
「喜怒…君?」
「何だてめぇ!?てめぇもじゃますんならただじゃおかねぇぞ!!」
男達は、男である喜怒が現れた事によりまず最初に喜怒を黙らせる事にした。ターゲットにされた喜怒はゆっくりと立ち上がり男達の方を見る。その目は鋭くまるで鬼や悪魔の用だった。その目を見た男の1人が喜怒の顔面を殴った。
「許…さねぇ。」
「へ?」
「てめぇらぜってぇ許さねぇ!!」
そこからの喜怒は凄まじかった。相手の1人を殴り一撃で仕止めると、2人目は回し蹴りを決められ5メートルは吹っ飛んだ。逃げようとする3人目を掴むと片手で持ち上げ壁に叩きつけた。
「頼んだ奴らに伝えろ。俺の妹にもしこれ以上何かしたら…殺す!!」
「は、はい!!」
喜怒が手を離すと男達は逃げる用に走っていった。
喜怒はまだ拳を握り一言も話さない。心が近寄って行くとある事に気付いた。喜怒の身体は震えていたのだ。
(お兄ちゃん。)
心はそんな兄に何と声をかければいいのかわからなかった。すると結城が喜怒に近づいてそっと握られた拳に触れた。
「喜怒君の手…大きいね。固くてゴツゴツしてて、でも…優しい手。もういいんだよ?」
そう言って結城は喜怒の指を1本また1本とゆっくり触り、握られていた拳を開いた。
「喜怒君、守ってくれてありがとう。」
結城は笑顔でお礼を言うとただ黙って喜怒の目を見た。そんな結城を見て喜怒は思う。
(あぁ、まただ。こいつは俺の心に土足で踏み込んでくる。どんなに拒絶しても、どんなに逃げても追ってくる。忘れようとしても、気にしないようにしても、俺の心にこいつは…留まり続ける。)
「ありがとな…ゆ、結城。」
ぼそぼそと小さな声だったが結城にはしっかりと聞こえた。
「うん!!」
2人が話し終わった頃、隠れていた神木と真宮も出て来てまずは佐藤の話しを聞く事になり、近くの公園に移動した。佐藤は逃がさないと言わんばかりにベンチに座らされている。
「それで佐藤、何でお前は心をつけていたんだ?」
真宮が訪ねると佐藤は困った様子で答えた。
「そ、それは最近喜怒さんが元気無さそうだったから心配で。」
佐藤が答えると神木が疑うように話しだした。
「本当にそうかしら?それだけの理由でわざわざ後をつけてまで話しをしようだなんて、おかしいと思うのだけれど?」
神木に逃がさないといわんばかりに目を見詰められ佐藤は観念したように話しだした。
「おかしいですか?好きな娘が元気無いのが気になるのがそんなにおかしいですか!?」
開きなおったように話す佐藤に誰も何も言えず、佐藤の話しを黙って聞く事になった。
「最近なんだか上の空だし!!休み時間になるとどっか行くし!!学校の帰りなら話せるかと思ったら知らない男の人といるし!!あぁ、でもお兄さんなんですよね!?良かった~!!」
「えっ!?えー!?」
「私、告白してる人初めて見ちゃったよ~!!」
(何言ってんのこいつ?心が好き?お兄ちゃんは認めません!!)
「佐藤…。」
各々が混乱しているなか神木だけは満足したように頷いていた。
「やっぱりね。そうだと思ったわ。」
1人だけ理解したような表情の神木に結城が疑問をぶつける。
「ど、どういう事なの!?神木さん!!」
「答えは簡単よ。心ちゃんを見ていたのは佐藤君、でもそれだけじゃないのよ。佐藤君はクラスの人気者、顔も良いみたいだしさぞかしモテてるでしょうね。そんな彼が1人の女の子に夢中になってたら回りの女子はどう思うかしら?」
「それって…。」
「認めたくない?でも実際、心ちゃんは他の女子達に妬まれていたのよ。だから自然と彼女を見る視線は増えていった。これが心ちゃんが感じていた気配の正体よ。ほんと、嫌になる話よね。」
神木が話し終わると内容が内容だけに少しの沈黙がながれた。その沈黙を破ったのは意外にも佐藤だった。
「喜怒さんごめん!!」
そう言って佐藤は頭を下げ話しを続けた。
「俺、自分の事ばっかで回りが全然見えてなくて!!喜怒さんが悩んでいる事にも気付かないで!!」
さらに佐藤は勢いよく立ち上がり大きな声で話す。
「でも俺!!それでも喜怒さんが好きなんだ!!」
佐藤というありふれた名前をもつ少年の真っ直ぐな気持ちを聞いた少女は少年の目を真っ直ぐ見ると深呼吸してから自分の気持ちを言葉にした。
「私、尊敬している人がいるの!!その人は誰よりも優しくて誰よりも強い!!今の私は自分よりその人が幸せになる事が大事なの!!だから…ごめんなさい。」
心の気持ちを聞いた佐藤は何処か満足したような笑みをこぼし話す。
「話してくれてありがとう。喜怒さんが尊敬している人がどんなに凄い人か、なんとなくわかった気がするよ。」
「佐藤君…。」
「でも俺…きっといつかその人を越えてみせるから。」
佐藤はそう言うと喜怒に深々と頭を下げ何かを決意したような表情をしながらしっかりと歩いて公園から姿を消した。
佐藤が見えなくなった頃心が話しだしそれをきっかけにみんな帰る事にした。
「お兄ちゃん、帰ろ!!」
「おう。」
「そうですね。」
「待ってよ~。私も一緒に帰る~。」
「お前ら明日は説教だから覚悟しとけよ~。」
「えー!?」
その日も喜怒達は結城と3人で帰る事になった。帰り道は誰も話さずいつも結城と別れる住宅街の十字路まで来た。すると結城が立ち止まり何かを言いたそうな表情で喜怒を見た。
「あ、あのね喜怒君。」
そう言ってから俯いて何も言わない結城を見て喜怒が話しかける。
「どうした?」
喜怒に話しかけられた結城は思いきって話した。
「連絡先交換してください!!お願いします!!」
そう言って頭を下げる結城を見て喜怒は呆気にとられていた。すると心が気をきかして話しだす。
「お兄ちゃん良いな~。私も結城さんと連絡先交換したいな~。結城さんダメですか?」
「も、もちろん良いよ!!心ちゃんも交換しよ!!」
「やった~!!じゃあお兄ちゃんのは私が後で送りますね~。」
「う、うん!!ありがとう!!」
「お、おい。」
結城と心が連絡先を交換すると結城は満足したように別れの挨拶をして走って行った。
「また明日ね~!!」
喜怒と心は家に着き晩御飯を済ませ後片付けをしていた。もちろん晩御飯を作ったのは喜怒である。
「お兄ちゃん良かったね~。結城さんと連絡先交換できて。」
そう言う心は悪戯をする子供の様に笑っていた。
「お前なぁ。」
「まぁまぁ。そんなに怖い顔しないでよ。後で殴られた所シップ貼ってあげるからさ。」
「そんな事より、お前…学校大丈夫か?」
「大丈夫だよ!!何かあったらお兄ちゃんがいるもん!!」
「何だそりゃ?」
そう言うと心は洗い物を止め喜怒に抱きついて小さな声で言った。
「でも…ありがとね。お兄ちゃん。」
「お兄ちゃん…だからな。」
喜怒が照れくさそうにしているとテーブルに置いてある喜怒の携帯が鳴り出した。すると心が喜怒よりも速く携帯を先に取りに行く。
「結城さんかな!?」
「おい。何故お前が取る?」
「だってお兄ちゃん緊張して1人じゃメールも見る事できないでしょ?」
「心ちゃん、お兄ちゃんちょっとショックなんだけど。」
「はいはい。気持ち悪いからそれ。さてと。」
そう言って心は喜怒の隣に移動し、携帯のメールを開いた。
結城葵
件名:結城だよ!!
本文
喜怒君ケガは大丈夫?今日は助けてくれてありがとう!!喜怒君が助けてくれた時凄く嬉しかった!!
誰かの為に頑張ってくれる喜怒君は凄く信頼できる人だと思いました!!だからね…初めてのメールでこんな事言うのもあれなんだけど、勇気を出して言うね。
メールを見ていく内に心と喜怒の心拍数はどんどん高くなっていく。
「こ、これって!?まさかお兄ちゃんへの告白メール!?」
「いやいや、お兄ちゃんは騙されないぞ。全然期待なんかしてないから。うん、マジで。」
心は息をのんでからメールの続きを見るために携帯の画面をスライドさせる。
人だと思いました!!だからね…初めてのメールでこんな事言うのもあれなんだけど、勇気を出して言うね。
私、国木田君が好きなの!!だからお願い!!喜怒君私に力を貸して!!
本文を読み終えた喜怒と心はあまりにも衝撃的すぎる内容に、気がつくと同じ言葉を発していた。
「え?」
「あまのじゃく!!」第3話をご覧頂きありがとうございます兄妹って良いですよね。何かあった時一番頼りになる存在だと思います。妹は兄の幸せを願い兄は妹の幸せを願い願っている。そんな話に出来たらなと思いこの話を書きました。喜怒がどうしてコミュ障になったのか、その原因も少しずつ出せていけたらと思っています。最後の結城からのメールがこの後どう物語を動かしていくのか期待して頂けると嬉しいです。第4話も楽しみにして頂けると嬉しいです。