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ワールドコネクト  作者: 葉桜
ギルドの門を叩くもの 一章 青い者達との宴
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ギルドの門を叩くもの 一章 05

「お、やっと帰ってきたか。

どこ行ってたんだ。」


コトハは夕暮れ時にやっと約束の場所である英雄像の前に帰ってきた。


「正直に言います。

迷子になりました。」

「ドンマイ。

で、何か収穫はあったか?」

「はい。

恐らくモコンキャットは街の方にはいないと思います。

迷っている間にも一応聞いて回ったので間違いないと思います。

ただ、気になる話を聞きました。」

「幽霊船、か?」

「はい!それです。

ラートを弾いていたご老人が教えて下さったのですが、なんらかの力に惹かれてそれが近いうちに現れる。っと言っていました。」

「やっぱり、あの猫ちゃんの言ってたことは本当だったんですね!」

「まぁ、確かに霊獣ですし・・・。

って、誰!?」


突然会話の中に入ってきた女性の声にコトハは一瞬固まり声の主の方を見た。


「あ、自己紹介が遅れました。

吟遊詩人をしてます。

サーシャ・カトレージです。

よろしくお願いしますね。」

「よろしくお願いします。

って、そうじゃなくて、猫見たんですか!」


すぐさまつっこみを切り返したコトハに対してサーシャは「そうですよ。」と何事もなかったかのように返してきた。


(待った待った待った待った待った!

今普通にこの人の前で私"霊獣"って言ってしまったぞ。)


頭が混乱している中、オルトスが冷静にコトハに声をかける。


「あー、っとそうだった。

この人は今回の依頼の協力者だから、あと霊獣のことも知ってるから、落ち着け。」

「え!いいんですかそれ!」

「依頼の内容によっては民間人に協力を要請することも許可されているし、なんか今回の依頼は特殊だからな。

あーだこーだ屁理屈言ってる場合じゃなさそうって事で、現にこのヒトも事前に事情を知ってるからそんなにショックを受けなくても大丈夫だからな。」

「わ、分かりました。」


ようやく精神を落ち着けたコトハはサーシャに再び向き直り「よろしく頼む」と頭を下げた。


「取りあえず、私が三日前に経験したことを話しますね。」



(お腹空いたなぁ。)


そう思った後盛大に腹の虫が鳴り響く。

サーシャは吟遊詩人として英雄像の前で「大海の賛歌」を詠い、いつものように生活費を稼いでいた。

いつもの常連客が帰った後は既に周囲には誰もおらず薄暗くなっていた。

ここラクノシアは海に囲まれた国であるが故に海神の信者が多く存在している。

そのためここでは「大海の賛歌」が何よりも人気を持っており人が集まりやすいのである。

ハープを布でくるんだ後屋台の並ぶ広場へと歩き出す。


(今日はなに食べようかなぁ。

デザートチキンの照り焼き食べたいなぁ。

うーん、でも唐揚げも捨てがたい。)


その時だった広間の方から悲鳴や怒号が聞こえた。


(むっ、何事ですか?

酔っぱらいでも暴れているのでしょうか?

一座で揉め事があったんでしょうか?

嫌な予感がしますねぇ。)


サーシャは駆け足になって広場へと急いだ。

広場は今四日ほど前に旅芸人の一座が腰を下ろし広場の活気を盛り上げていた。

広場に到着した彼女が見た物はどれも彼女が想像したのとは異なり酔っ払いが暴れているわけでもなく、一座で何かあったわけではなくただ広場でモンスターゴブリン達が暴れ回っていた。


(ちょっと、何で町中にゴブリンがいるんですか!?

普通のゴブリンよりも強そうだし数少ない友好的なタイプではなさそうです。)


サーシャは広場の入り口に立ち止まり広場を観察し始める。

数はざっと見て5匹。


(やっぱりゴブリン達が暴れているせいでみんなパニックになっていますね。

冒険者がいないときに何で暴れるんですかね。

呪歌で何とか抑えてみますか。

屋台まで破壊されてしまったら夕食にあり付けなくなります。)


サーシャそう決意すると広場から逃げ出そうとする人々の波をかき分け、広場の中央に駆け込みゴブリン達から少し離れたところでを取り出し、二、三回指で調律した後その細い指でハープの弦をなぞるように爪弾く。

途端にハープから整えられたメロディーが流れ出す。

非常に静かでありながらどこか眠気を誘いようなこのメロディーは「ララバイ」と呼ばれる呪歌である。

呪歌は魔力を込めたメロディーを奏で様々な効果を周囲に及ぼす言わば魔法の奏である。

この呪歌ララバイは聞いた者を眠りへと誘うメロディーを持ち、眠りまで行かなくとも相手の行動を鈍らせることができる。

魔力を持たない無族でも奏でることができることからメジャーな職業の一種でもある。


(これで少しでも時間を稼げれば何とか・・・。)


ゴブリン達はサーシャの奏でるララバイにピタリと動きを止める。


(効いた!)


「だめですよ!せっかくみんな楽しみにしてる物壊したら!」


サーシャはできれば彼らを説得しようと声をかけ近づく。

しかし、彼らに近づいたことでサーシャは気付く。


(くっさ!

何ですかこの気持ち悪い臭い。

まるで、腐っているかのような。

ゴブリンの臭いじゃないです。

まさかこれ・・・。)


「ゾンビ化。

じゃ、ないですよね。」


サーシャの声に反応したかのように異臭を放つゴブリン達はゆっくりと彼女の方を振り返る。

そしてなぜか、ニタァと笑う。


(あ、図星だ。)


サーシャがそう思った瞬間だった。


(ギャー!

ララバイで効いてたんじゃなくって本当にただ単に聞いていただけだったー!)


ゾンビ化したゴブリン達が一斉に彼女の方に武器を振り回しながらかけだしてきたのである。

その行動にサーシャは思わずハープから手を離してしまい呪歌の効力は切れてしまう。

サーシャはそのままレクイエムのメロディーを爪弾こうとハープに手をかける。

が一体のゴブリンが既にサーシャの目の前まで来ており手に持っていた棍棒を振り下ろす。

しかし、それと同時に炎の玉が右手から飛んできてゴブリンはそのまま火だるまとなりぶっ飛ばされ悲鳴を上げ転げ回る。


「そのままレクイエムを弾け!

俺が援護する!」


炎の玉を放ったであろうヒトがサーシャを庇うように現れる。


「ヴァレンティスさん!

どうしてここに。」

「いいから急げ!数が多い!」

「は、はい!」


サーシャは言われたとおりに直ぐにハープに手をかけなめらかに爪弾いていく。

「レクイエム」とは不浄の者を再びしに眠らせる為の清めの歌である。

通常の呪歌もそうであるがその呪歌のメロディーに「言霊」という言葉そのものに魔力を乗せ呪歌の効果をさらに上げる事ができるのである。

レクイエムが奏でられていくと同時にゾンビ化していたゴブリン達はまるで空気が向けるような声を上げ、怒りを現したかのようにスピードを上げて突進してくる。


「汝大地に帰れ、己の生まれし創造なる母の胸元へ。

死者になりし者よ、光の下へ歩め・・・」

「・・・走れ火炎の玉!」


サーシャがレクイエムを歌い、ゴブリンを杖で殴り倒しながら詠唱を終えたヴァレンティスは杖を一体のゴブリンに向け杖の先に発生した炎の玉を投げつける。

ゴブリンはたちまち炎に包まれ火達磨になって倒れもがく。

ゴブリン達は仲間が半分になりながらも攻撃の手を緩めなかった。


「命の流れに帰れ、己の父なる天に見守られながら・・・」

「虚空に見えざる光の壁・・・」


ヴァレンティスはすぐに次に呪文を唱え始める。

ゾンビ化しているためなのだろうか、元々無理矢理動かされている骸に感情はないのだろう。

残りのゴブリン達はそれぞれ棍棒と弓矢を持っており、棍棒を持ったゴブリンがヴァレンティスに弓矢を持っているのがサーシャに狙いを定める。


「・・・塞げ障壁!」


サーシャの目の前に飛んできた矢はヴァレンティスがさっき唱え始めていた魔法によって見えない壁に弾かれカランと地面に音を立てて落ちる。


「輪廻の神よ、今一度地上に迷い込んだ哀れな魂にっ!

救済を・・・」


矢に驚いて一瞬リズムを崩しかけるも何とかリズムを持ち直し、ハープを爪弾き続ける。

ヴァレンティスは自分に向かってきたゴブリンを右足で蹴り飛ばしバランスを崩したゴブリンを杖で胴体を打ち付けるように殴り飛ばした。


(もう少し、もう少し。)


間奏に入ったとき焦っていく内心をよそにサーシャの耳に急に「声」が聞こえた。


(え、なに?)


サーシャその声を聞き取ろうとするともう一体のゴブリンがサーシャの目の前にいた。


「避けろ!」


ヴァレンティスの叫び声が聞こえたと同時にゴブリンは棍棒を振り下ろす。

サーシャはとっさに後ろに飛んでゴブリンの攻撃を避けた。

ゴブリンの攻撃はヴァレンティスがサーシャに掛けた守護の魔法に当たりはじき返されたが、サーシャは避けた行動でレクイエムを歌うのを止めてしまった。


(しまった!

もう一度一から歌い直し。)


サーシャがハープに手をかけようとした時、先ほど聞こえた鳴き声が聞こえた。

サーシャが少し視線を動かすとその鳴き声の主は英雄像の足下にいた少し大きめの青い猫だった。

その猫は鳴き声を先ほどのサーシャが奏でていたレクイエムの間奏部分を歌っていたのである。

ゴブリンは今度はその猫に視線を移しその猫に向かって走り出す。


「・・・爆炎の息吹!」


サーシャに殴りかかったゴブリンは彼の炎の先ほどよりも強い炎に飲まれ、黒こげになるもよろよろと立ち上がった。

サーシャは直ぐに猫の音楽に便乗しレクイエムの最後の節を歌い上げる。


「眠れ、天寿全うされた者達。

魂の加護があることを我は望む。

大地の揺りかごに身を委ね、再び永久の眠りの中へ。」


レクイエムの最後の節を歌い上げハープをリズム良く切る。

その最後の音がたなびく中、ゾンビゴブリン達は先程まで焼かれようが殴られようが悲鳴も上げなかったにも関わらず、ギーギーと声にならない悲鳴を上げる。

煙が上がり彼らの黒い肉体がドロドロと泥が剥ぎ落ちるように溶けていく。

そして音楽が完全に空気に溶けてなくなった時、ゾンビゴブリン達は骨となり二度と目覚めない眠りについた。



その後ようやく駆けつけた役人にサーシャとヴァレンティスは事情を聞かれ夜中にようやっと解放された。

サーシャとヴァレンティスは周囲の人々が戦う姿を目撃していた事もあって最悪の事態は避けられた。

ただなぜ、ゾンビ化したゴブリン達が現れたのかは謎のままである。


「ヴァレンティスさーん。

何か食べ物ないですかー。」


そうサーシャの悲鳴があがって直ぐに腹の虫の音"グ~"という情けない音が響いてくる。

ヴァレンティスはそれに対して"はぁ"とため息を付いた。

サーシャからすれば夕食を食す前にゾンビ化したゴブリンと戦い役人に事情聴取をされ、気付けばあっという間に真夜中である。

当然こんな月が真南に上った時間に開いている飲食店は大人向けの酒場か、旅人を迎え入れる宿屋程度だろう。


ヴァレンティスはため息を付いた後、懐に手を入れた。


「握り飯ならあるが食べるか?」


ヴァレンティスの手には握り飯、即ちおにぎりが握られていたが、先程の戦闘のせいか歪な形になっていた。


「頂きます!」


そんな見た目気にしないと言わんばかりにサーシャは手を伸ばしヴァレンティスからおにぎりを取り包み紙をささっと開き、歪な形になったおにぎりを口に運ぼうとした。

が、むき出しになったサーシャの歯や囗には何の感触もなく空を切った。

ヴァレンティスはサーシャの手からおにぎりを掠めとった黒い影を目撃した。

サーシャもその存在に直ぐに目を向けるも黒い影はタッタッタと軽い足取りで直ぐに物陰に隠れてしまう。


「私のおにぎりー!」


食べようとしたおにぎりを取られたサーシャは直ぐにその影を追いかける。

ヴァレンティスも彼女に続いてその影を追いかけ明かりの魔法を杖先に灯らせる。


物陰には、先程の歪なおにぎりを喰っていた猫がいた。

猫はヴァレンティスの魔法に照らされ食べる作業を中断し二人の方をみた。


「あ、猫でしたね。」

「猫だな。」

「だからどうしたんじゃ。」


二人が言葉に続いて誰かの声が聞こえた。


「なんか言ったか?」

「いいえ何も。」


二人がお互いを確認すると同時に猫の方へと視線を向けた。

猫はおにぎりの最後の口に付いた米粒を下で舐め取るとゴミ箱の上に飛び乗り口を開いた。


「もう少しうまく握れんのか。

まだあの小娘の握り飯の方がうまいわい。」


その言葉は紛れもなくその猫から発せられていた。

ヴァレンティスは絶句し猫をただ見つめている。

が何も反応を示さないサーシャに気づきそちらに目をやった。

「猫が、猫が」とつぶやいているのを聞き取ったのもつかの間。


「しゃべっっっったー!」


耳鳴りが聞こえるほどの大きな声が彼の耳元で響いたのである。

声の主はもちろんサーシャ。


「すごいですよヴァレンティスさん!喋る猫なんて始めてみました。」


ヴァレンティスは耳鳴りが響きながらも自身の好奇心と驚きからその猫から目を離すことができなかった。


「まさか、霊獣か?」

「あなた名前は?何処からきたの?ねぇねぇ!」


冷静にその存在をみるヴァレンティスに対してサーシャは己の好奇心のままに猫に質問責めをしており目を輝かせている。

「ねぇねぇ」と連呼するサーシャを無視し冷静に自分をみるヴァレンティスに猫は視線を移した。


「エルフの血を引くものはさすがに分かるか。

さっきの握り飯はお前が作ったのか」

「だからな」

「まずかった。」

「・・・・・・は?」


猫の発言に違う意味で固まったヴァレンティスをよそに猫は更に発言を続ける。


「私はこう見えてもグルメのだ。

あんな力加減も分からない鉄のような固さに、大量の塩だぞ。

病人を増やす気か、ばぁか。」


サーシャも猫の発言に戸惑っている。

そして、散々バカにされてしまったヴァレンティスはというと。


「ざっけんなぁぁぁぁぁぁ!

この泥棒猫ぉぉぉぉ!」


・・・・・・予想どおりにぶちぎれた。

ヤケクソで杖を地面に叩きつけコンクリートにヒビを入れるほどに。

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