ギルドの門を叩くもの 一章 10
ラクノシア図書館は全部で第一から第十三図書室までの図書室がある。
第一図書室は"総記"。
新聞や辞典などの特定の分野に分類できない書物が収められてる。
新聞は30年前の物から置かれており、辞書も世界各地の言語が書かれた物が数多く存在する。
大雑把にまとめられた図鑑もあり利用者は多い。
第二図書室は"歴史・地理"。
ラクノシアに関する歴史がまとめられた書物や、紀行文が多く地理に関する書物も保管されている。
第三図書室は"哲学・宗教"。
哲学者達が残した書物や、宗教について客観的に述べた物が多い。
ただし、他の図書室と比べると本の数は少ない。
これは数十年前にアルカスとの戦争で言論の自由が抑圧され、反政府に関するヒトが書いた書物とされた人々の本を政府が大部分を消却したためである。
第四図書室は"ラクノシア王家"。
ラクノシア王室についての書物が残されている。
いわばラクノシア専門の歴史について細かく残された書物が保管されている。
第五図書室は"ラクノシア気候"。
これも同じくラクノシア専門の書物が多く収められており、ラクノシアの独特な気候や地理について書かれている。
第六図書室は"ラクノシア商家"。
ラクノシアでも有名な商家についての書物が並べられている。
そして、第七から第十二図書室は二階にある。
第七図書室は"社会科学"。
"技術"と同様に図書館のなかでも豊富な種類を持ち、世界情勢、政治、行政、法律、経済、福祉、風俗など様々な種類が置かれている。
自然科学とは対比された社会についての科学的な認識活動などを科学的に探求する学術分野についての本が置かれている。
第八図書室は"自然科学"。
数学や物理化学、天分や気象、地学や生物、医学についての自然に属するもろもろの対象を取り扱い法則性を解明する自然科学。
科学者達のそれぞれの意見がまとめられた書物が保管されている。
第九図書室は"技術"。
図書館の中でも飛び抜けた種類のジャンルが置かれた本が保管されており、これまで発明された技術についての書物が多く置かれている。
第十図書室は"産業"。
農林、園芸、畜産、水産などの経済活動についての書物が多く、若者が多く利用する。
第十一図書室"芸術"。
美術や写真、音楽や演劇、体育について世界各地から集められた本が多い。
そのためここにも言語に関する辞典があり、読者が読みやすい配慮がなされている。
第十二図書室"言語"。
もっとも世界中から輸入された本が多い図書室であり、スピーチや外国語などの書物が多くある。
そして第十三図書室。
ここは入り口のホールの事を刺してる。
主に文学、小説、エッセイなのどの典型的な書物が置かれている。
普段ならば学生や学者、子供などが利用しておりそれなりに人の気配もあるはずだが、昨日の神官達のいざこざのせいで一日閉館になっている。
そにため図書館にいるヒトは少なく、その内の二人は第二図書室にいる。
第二図書室。
オルトスとパープルはここ数十年間に起きた海難事故について調べていた。
図書館の構造上光はあまり入ってこないため夜光石が多く置かれており、明るい部屋で読みたい場合は本を図書室から持ち出して読書スペースに持ち込む必要がある。
そのため二人は数冊の本を選んだ後に入り口のホールへと歩いていた。
ただし、実質本を持っているのはオルトスのみでパープルは一冊も本を持ってない。
「いやー、すまないね。
私の分の本まで持っても等ちゃって。
まさか本を積みすぎてひっくり返るとは思わなんだ。」
「いや、こっちは普段鍛えてるからお安いご用。
むしろ調査に協力してもらっている身なのでこっちが感謝するべき。」
ちなみに、現在オルトスはパープルが選んだ本と自信が選んだ本と合わせて10冊以上の本を重ねて両手で運んでいる。
その本の高さはゆうに彼の顔が半分は隠れてしまう程で、普通のヒトならバランスを崩してしまうも彼の普段から鍛えられている身体ではその心配はなかった。
「・・・意外だなぁ、と思ってね。」
「なにがだ?」
「君はアマルクア出身の戦士だろう。
あそこの土地柄が強い物はかなり荒々しいと聞いたんだが、君はそんなこともなく礼儀正しいし何より彼の指導役を受けている事じゃ等も面倒見がいい。」
「俺、あんたとは初対面だと思ったんだが、何処かであったか?」
「いや、初対面だよ。
ただ、以前にもアマルクア出身の戦士と会ったことがあってね。
雰囲気とか似ているし何よりその剣の装飾はアマルクア特有の物だ。
偏見的だったら謝るよ。」
「いや、実際俺の故郷じゃ結構荒々しい奴が多いし、全て強さで決まっちまうからな。
そういう捉え方をされるには仕方ないと思っている。
兄に"外の世界に出るならそれなりの礼儀は身につけておけ"って言われてな。
散々叩き込まれた上でやっと外の世界に出れた。」
「なんか、大変だったね。」
「そのお陰でこうした"交流する社会"の中でも生きていけるから有り難いもんです。」
オルトスがパープルの問いに切り返して答えているとき、突然歩みを止める。
「どうしたんだい?」
「いや、何か空気が揺れたような?」
「空気?」
オルトスは目の前に陽炎の揺れのようなものを見つけ出し、本を脇に置き、剣を直ぐ抜けるように右手を鞘にかざす。
パープルもその揺らめきに気付いたようでオルトスを静止する。
「大丈夫。
あれはヴァレンの魔術だ。」
「魔術?」
「あいつ、体力がないからって転移魔法で移動してきたな。
全く、だからニートって呼ばれるんだあいつは。」
陽炎から薄ぼんやりと黒い影が見える。
そしてその揺らめきの中から出てきたのは、コトハを抱えたヴァレンティスだった。
それを見て二人は固まっていたがコトハの様子に気づき直ぐに駆け寄った。
「ありゃりゃ!
どうしたんだい?こんなに熱もちゃって。」
「その言い方だとおまえ達は"あの気配"に気付かなかったらしいな。
とにかくパープル、部屋に案内しろ。
あんたはこいつの指導役だろあんたが連れていけ。
俺はもう一度第六図書室を調べる。」
コトハをオルトスに引き渡しヴァレンティスはテキパキと指示を出すと「虚無なる壁よ・・・。」と再び呪文を唱えながらオルトス達に背を向け歩き出す。
そして「繋げ、亜空の扉。」と唱え終えると揺らめきが発生し、その中へと飛び込んでいき姿が消えた。
唖然と驚いていたオルトスであったがパープルは胸を張っていった。
「言ったろ。
彼奴は無族嫌いだが困っている奴は放っておけないいい奴だって。」
そこにタタタタと、軽やかな走ってくる音が聞こえた。
その足音の主はサーシャであった。
楽器を抱え緑の長い髪を気にかけず走ってきたためか大分崩れている。
「あっ!
パープルさん、オルトスさん、大変なんです!
コトハさんが・・・、あれもういる。」
あわてて走ってきた様子であったが、オルトスがコトハを抱えているのを見て大体何が起こったか察したようだった。
「ちょうどいい。
サーシャ、悪いけどそこにある本の山を持ってきてくれ。
私は彼らを部屋に案内するから。」
「分かりました!
任せて下さい!」
「それじゃあこっちだ。」とパープルはオルトスを案内しオルトスもそれに従ってきた道を引き返す。
だが、サーシャはあることに気づき「あ」と小さな声を出す。
「私、手があいてません。」
オルトスがパープルに連れられたどり着いたのは、廊下の一番突き当たりにある"管理人"というプレートが掛かっていた部屋だった。
パープルは右ポケットに右手を突っ込み鈍色の鍵を取り出し、ドアノブの下にある鍵穴に差し込み回す。
ガチャリと音が鳴り鍵を引き抜くとパープルはドアノブに手をかけ回して押し開けた。
オルトスの部屋への第一印象は"雑"である。
ゴミ袋が山ずみで棚や机からは恐らくこの図書館の利用記録や、資料がまとめられた紙がもう溢れて顔を出してしまっている。
足の踏み場もなくわずかな隙間をパープルは慣れてしまっているのか、ヒョイヒョイと飛ぶようにベットの近くまで行きオルトスへの配慮か物を脇に寄せ始める。
こんな不衛生な部屋で病人を寝せるのも少し気が引けた。
「安心しなよ。
確かに部屋は汚いけどベットは清潔を保ってんだから。」
「ヴァレンティスっていうさっきの奴にも"部屋を綺麗にしろ!"的なこと言われてないか?」
「ははは。
よく言われるよ。
明日じゅうに此処も片付けるとするかな。」
オルトスはパープルに続きベットまで跳ねるように近付いた。
コトハを寝かせるようにゆっくりと下ろす。
コトハは大分熱は下がってはいるも、まだ体は熱く目を覚ます様子はない。
さっきと様子が変わりようにオルトスは動揺を隠せていない。
「なにがあったんだ?」
「とりあえず、冷水を汲んでくるよ。」
「俺が汲んでくる。
場所を教えてくれ。」
「構わないけどさ、一つ質問いいかな?」
「なんだ?」
「どうして彼を避けているんだい?」
"母上、どうして私は皆と一緒に居てはならないのですか?"
"ーー、お前はこれから悲しいことや辛いこと、苦しいことに直面するでしょう。
だけど、お前の父を恨んでやるな。"
"母上、私は誓いを破った父上を許したくはありません。"
"・・・なら今はそれで構わない。"
"・・・今度生まれてくるのが男子であったら、母上は立場や父上からの愛情を失うんですよ。
どうしてそんなに冷静でいられるんですか。"
"ーー、私はいつかあなたが外の世界でありのままのあなたとして居きることを望みます。
たとえ、誰かがあなたの言動に非難を浴びせても、誰かがあなたを嘘吐きと呼んでも、誰かが貴方の存在を否定しても、あなたは私の・・・。"
「・・・ん。」
「おっ!
目を覚ましたみたいだね。」
コトハは意識を取り戻したときパープルの声を聞きその方を向いた。
ゆっくりまぶたを開けるとパープルがコトハをのぞき込んでいるような状態で、自身が何処かに横になっていることに気が付いた。
体を起こすと先程の体のだるさや熱が嘘のように消えており、実は先程のことは夢ではないかという疑問が生まれたが、それは自身の横に置かれていた本によって否定された。
「いや、本当に驚いたよ。
ヴァレンが高熱を帯びたあんたを連れきて目を覚まさないからどうしたのかと思った。」
「・・・一体どれくらい寝てたんですか。」
「ん?大体4時間くらいだよ。
因みにただ今の時間は4時53分。」
コトハはベットから降りそこで視線を周囲に配らせると、パープルと自分以外居ないことに気が付いた。
「他の皆は?」
「ああ、ちょっとしたトラブルが起きてね。
そっちに向かってもらっているよ。
あんたの方はなにがあったんだい。
熱は下がってもなかなか目を覚まさないし、私が見たこともない本をずっと放そうとしなかったり。」
「・・・説明します。」
コトハは第六図書室で起こったことを包み隠さず全て話した。
昼時になったので一度ホールへと戻ろうとしたこと。
そのときに謎の鳴き声が聞こえ探していた存在に行き当たったこと。
そして、謎の本を見た瞬間体調がおかしくなったこと。
一度ヴァレンティスに起こされるもまた眠りについてしまったこと。
・・・正直に言ってしまえばまだ眠い。
「なーんか、一筋縄じゃあいかなそうだね。
その本のことなんだけど、この図書館の物ではないし、さっきその本にふれようとしたら"拒絶"されちゃったんだよね。」
「拒絶された?
普通の本ではいないのか。」
「うん、おそらく"アーティファクト"じゃないかと私は思っている。」
「アーティファクト?」
「アーティファクトって言うのは遙か昔の文明の技術によって作られたいわば"強力な魔導具"の事を指すんだ。
その力は国をも動かすことも可能とされていて、その力を解明しようとする考古学者やその希少価値から貴族とかの関係のない連中からも狙われているんだよ。」
「そんなに貴重な物なのか。」
「そうだね。
それにアーティファクトは"持ち主以外に触れられるのを拒絶する"っていう特徴があるんだ。
さっきあたしがあんたから本を話そうとして指先に触れた瞬間に、静電気みたいなビリビリが発生したんだよ。」
「でもルットは普通に持っていました。
それに"これはお前の物だ"とまるで、昔から私がそれを持っていたかのような言い方をしていた。」
「うーん。
謎が謎を呼ぶって言い方が正しいんだろうね。
今度、時間があるときにヴァレンティスに聞いてみるといい。
そういう魔導具については彼奴の方がずっと詳しい。」
「そうしてみよう。
私もオルトス殿達の手伝いをせねば。」
「もう休まなくていいのかい?」
「十分に休みました。
私だけ寝ているわけにもいかん。」
「うーん分かったよ。
病み上がりのヒトをあまり動かすわけにも行かないけど、止めることは出来ないしね。
案内するよ。」
「頼む。」といい部屋を出ようとするパープルに着いていく
と。
ベダン!
後頭部に衝撃が走ったと共に堅いものと柔らかい物をぶつけた様な音が部屋に響く。
パープルが驚いてこちらを向いた。
コトハは衝撃の走った後頭部を押さえ殴った物の正体を探った。
そして、足元を見る。
そこには、あの本があった。
「えっ?あれ?
本が今勝手に動いた?」
今起こった状況に少しついてこれていないパープルをよそに、コトハは冷静にそして改めてその本をみた。
樹齢が何年も立ったような濃い茶色の表紙に何か大樹の枝が分かれたような装飾が施されてる。
そして、もう一つの特徴としてその枝先にはなにもはめ込まれていない丸い形をした水晶があった。
そして本の中央には美しいほどに透き通った拳サイズの水晶球がはめ込まれている。
「強力な魔導具なら動いても不思議ではないというのか。」
コトハはパープルにそう答えると本に手を伸ばした。
「えっ!
危ないよ。
どんな効果もあるか分からないんだ。」
コトハを遮るようにパープルは彼女の前に走ってきた。
「この本が本当にアーティファクトで、私に触れても"拒絶の反応がなかった"と言うことは、私はこの本に既に魅入られていることになる。」
「ならば」と一言おき、本に警戒の眼差しを向けこう一言。
「私がこの本について知る必要がある。」
そう言ってパープルを丁寧にどかし本の前に立った。
そして、ゆっくりと手を伸ばす。
本の背表紙に触れゆっくりと持ち上げる。
玉の数は裏と表の表紙を合わせて7つづつ、そしてその全てが色が全部異なっている、合計で14。
但し大きさは中央にある水晶球と比べると手の中に収まってしまうほどの小さいものだ。
本の最初の数十ページは開けなかった。
水晶球のはめ込んでいる構造の問題上層なっているのだろうか。
そして、中身の部分の紙を開く。
パープルも先程の本に対する警戒心はどこに行ったのか好奇心で本の中身をのぞき込んでいる。
本は一言で言えばなんの変哲もないただの本だ。
ただ、挿し絵が描かれている部分の絵柄は非常に細い線でかかれたように繊細でそれでいて強い力を感じる。
そして、その周りにかかれている言葉はどれも見たことがない物ばかりでEとMの言葉がくっついたような文字やRやPがくっついたような文字など似ている文字はある物の、コトハが沿っている文字のどれも当てはまらない未知の言葉だった。
知らないはず。
でもコトハはどこか強い懐かしさを覚えていた。
最初のページの挿絵には新緑のエメラルドの鎧に身を包んだ仮面の騎士の様な絵であった。
その挿し絵の上には先程と同じように謎の言葉が書かれていた。
そして、コトハには不思議とその言葉がわかった。
そして、力と言葉が体全体を包むような感触に襲われる。
「ーー翼を持つ守護なる騎士よ・・・」
意識していないにも関わらず口から奇妙な言葉が流れ出す。
「えっ?
どうしたの急に?」
パープルがコトハの空気が変わったことに気づき声をかけてきた。
だが、コトハは謎の詠唱をやめない。
「我、新たなる審判の者なり。」
コトハが言葉を紡いでいく内にコトハを中心に竜巻のような風が発生し、部屋の本や紙をごちゃごちゃに吹き飛ばす。
パープルは姿勢を低くしてそれらから身を守る。
「おーい。
本の片づけが終わった・・・。」
その時、オルトスとヴァレンティス、サーシャが入ってきた。
部屋で起きている現状に言葉を失っている。
「我が剣となり盾となれ、」
コトハは三人が入ってきた事に気づくも詠唱を止めることが出来ない。
真っ先に動いたのは、オルトスだった。
「コトハ!
その本を捨てろ!」
コトハの下へ素早くオルトスが駆け出す。
吹き飛ばされた紙や本を見事にかわしながらほぼ一瞬でオルトスはコトハの下に辿り着いた。
ヴァレンティスはマントをサーシャに被せるようにして顔をこわばらせている。
「目覚めよ、第一の戦士・・・。」
「コトハ!」
オルトスがコトハの腕をつかみ右手の手刀のコトハの右手首に当てた。
それによって本はコトハの手元から離れ落ちる。
タンッ!
と本が床に落ちたその時だった。
12の水晶球が光り輝きまるで光そのものになったかのように、本から離れた。
その光達はコトハとオルトスの周りをぐるぐると回ると、そのまま天井を突き抜け消えてしまった。
「・・・ エリュムス。」
コトハが最後の言葉を口にした。
その瞬間風が止み、本にたった一つ残されていた緑色の玉が緑色の光を放つ。
吹き飛ばされ露わになった床には光り輝く陣が浮かび上がった。
(なんだあの魔法陣。
見たことがない!)
ヴァレンティスはサーシャを光から庇いながらその魔法陣の事を考え出す。
魔法陣から放たれる緑色の光の中からやがて人の様な者が姿を現す。
現れたと同時に魔法陣は光を失っていき、やがて騎士だけを残して消えた。
その騎士はコトハが見た挿絵の騎士そのものであった。
顔は俯いており顔を伺い知るコトハできない。
エメラルドの色に輝く鎧、同色の兜を被っており、そして左腰に剣を差している。
俯いていた顔を騎士は上げる。
顔は黒いマスクによって目元意外が覆い隠されている。
騎士は顔を左右にゆっくりと動かし、オルトス、パープル、ヴァレンティス、ひょっこりとマントから顔を出したサーシャ、そして、言葉を唱えたまま硬直してしまっているコトハに目をやる。
そして、コトハの前まで一瞬で現れオルトスを驚愕させる。
オルトスは剣を抜こうと左手の剣を抜こうと構える。
騎士はコトハの前に立ちしばらく静止すると、跪いた。
オルトス達が驚くまもなく騎士は言葉を発した。
「私はエリュムス、審判の書に宿りし第一の戦士。
貴方の盾となり剣となる翼の騎士騎士。
マスター、あなたの名は?」




