ギルドの門を叩くもの 一章 09
「バルザード家は元々貴族だったのか。」
意外な事実に思わず言葉がこぼれた。
(この話が本当ならば初代ルーファス・バルザードは元々貴族で、そこを妬んだ貧困層の人々の焼き討ちにあった。
その上戦争反対派の一家は恐らく国にその称号や財はすべて没収されてしまったと言うことか。
・・・いきなり大当たりを引いたな。)
また少しページを飛ばした。
戦争が終わって数年がたった。
風の英雄、グレイマン・テラーはバルザード家の商会の船に乗って何度も何度もラクノシアとアルカスを往復した。
貧困街も国の景気がよくなってきた影響か衛兵が立ち並び治安がよくなった。
私は全て失ったが、我妻と娘を殺した軍人がのうのうと生きているのを見てしまった。
だが恩人のために暴力沙汰を起こすわけにもいかない。
そこで私は言葉を本に残すことにした。
無論私は追われる身となり逃げ回った。
ルーファスが逃亡用の船を用意しようかと気遣ってくれたが、私は出来れば妻と娘が眠るこの地で死にたい。
いつか言論の自由がやってきて軍人や町の人々がした事が公になるだろう。
私はこの本に私の人生の一部を乗せる。
いつか平和な時代に生まれてくる若者達へのメッセージとして。
決して忘れてはいけない。
人間の行う残虐性を。
目を背けてはいけない。
戦争が犯した罪と罰、そして犠牲に。
A.M
何ページも飛ばしていたがここまでしか本には書かれてはいなかった。
最後のページを何となく開くと本の紙とは別に全く新しい紙が挟まれていた。
その文字は先ほどの太く荒々しい字とは異なり女性のような細い文字だった。
著者、アルジャーノン・マクドネル
彼は1681.4.5に生まれ医者として厳しい戦争の時代を生き、理不尽によって家族を失った。
最後はかつてバルザード家が所有していた小屋で孤独に死んでいるのを発見された。
彼の近くには彼の体験談が綴られた十冊以上の手帳が発見される。
そして彼は左手に紙を握り右手でペンを握っていた。
これ以外の彼の体験談は軍人達に引き取られ焼却されてしまいました。
この本は彼の体験談を軽くまとめた最後の本です。
最後まで自分の言葉で、文字で戦おうとしていたのである。
死亡が確認されたのは1771.2.18の寒い季節が終わりを告げる時期であったという。
彼は無族ではあり得ないほどに長生きしたのである。
90年の人生であった。
ご冥福をお祈りいたします。
パープル・サミンガ
パープルの書いた説明書のようなものであった。
コトハは静かに本を閉じる。
そして思わず両手を合わせ合掌していた。
(アルジャーノン殿。
面識はありませぬがどうかあの世では家族と仲良く静かにお暮らし下さい。
冥福をお祈りいたします。)
コトハは静かに本を脇に寄せ次の本を手に取った。
"風の英雄の後ろ盾"という少し厚い本で指を二本合わせたような厚さに緑の表紙に題名と無族の顔のようなレリーフが金の刺繍で彫り込まれた物である。
著者は"コリン・フリークン"。
本は古くもなく新しくもないが年代のスタンプに"1779.4.5"というスタンプが押されており今から約42年前に作られた本であることが伺える。
"フリークン"という名字に少し驚いたがとにかくその本を呼んでみることにした。
"風の英雄"の後ろ盾で有名である"バルザード家"は風の英雄の後ろ盾として有名でだけでなく、商人としても非常に優秀な家系である。
私が経営している薬草園も随分と世話になった。彼等は自らがしてきた過ちを償うかのように武器商人としての足と顔を捨て、外国に対して積極的な交易を行うようになった。そして彼等は薬草から技術までもを海外に売り込みその繁栄に乗り遅れまいと、多くの商店が自ら外国と交易、もしくはバルザード家を本社として契約を交わし彼らの参加にはいるような人々であり、その様子は"武器による戦争"ではなく、"商売による戦争"といっても過言ではない。
良くも悪くも国を復興へと導いたバルザード家について紹介しようと思う。
バルザード家は元々は上級貴族であり武器商人としての顔だけでなく、戦争反対派としての顔も持っていた。これだけ言えば矛盾しているという事が明らかだが、武器商人としての姿は国から強要された姿だったという説が非常に根強い。
それは1731年、戦争が風の英雄の手によって和平というどちらかが勝ったわけでも、負けたわけでもない結末に終わったのは戦争が終わる6年前、1725年の8月12日に起こった貧民達によるバルザード家の焼き討ちがきっかけとも言える。
初代バルザード商会当主ルーファス・バルザードは非常に生真面目かつ穏和な人物であり当時正義があやふやな戦争の中でも、確固たる己の正義を持ち盲心的な正義を見せる事はなく、他者への配慮を忘れない非常に優れた人格者であった。
これは決して誇張していることではなく私自身が彼ともに行動して判断した結果から来ている。
彼は焼き討ちによって家を失い妻を失い、生まれたばかりに我が子を失った。
彼は嘆き悲しんだが決して彼らを憎み恨むことはなく"自分たちが彼らにしてきたことであってその怒りが偶然私に向けられたのだ。
彼らが私たち貴族を憎むように私達がさらに彼らに憎しみを抱けば、さらなる悲劇の連鎖になるだろう。
私は彼等をその渦の中から救い出す義務がある。
皮肉にも私は今回の騒動で地位も信頼も家族も全てを失った。
逆にゼロからやれるチャンスでもある。
貴族という身分に捕らえられることなく、彼らの苦しみを知り行動することが出来る。"と私にそう答えたのだ。
彼は全てを失った後、何度も貧困街に足を運んだ。
そして同時に商人としての道を歩むために何度も私たちに頭を下げた。
私は彼と共に行動していたために彼の誠意をすぐに受け入れた。
他の者達は彼が武器商人としての肩書きを持っていたこともあって友好的ではなかったが、彼が毎日頭を下げに来たことで彼の意思を半年以上もかけて受け入れ"バルザード商会"という商会を立ち上げた。
彼は貧困街にもその何度も足を踏み入れた。
時には大けがをして帰ってきた事もあったが彼はそれでも貧困街に通い続け、死にかけていた住民を保護してきたこともあった。
その理由は貧困街の中心部にある"組織"に会うためである。
当時の貧困街はその治安の悪さから一部の者達が集まり"組織"というものを形成しある程度のルールが作られ連帯が取られていた。
彼はその組織のリーダーに交渉を続けていたのである。
バルザード商会は彼の指揮下でますます大きくなり、商売としての活動だけでなく貧困に苦しむ民のために慈善活動も忘れず行った。
これらの行為は王宮にも耳に入りバルザード商会は何度も王宮から圧力をかけられ、時には商会の解体の危機もあった。
そしてその数年後、風の英雄の登場によって事態は大きく変化する。
英雄がやってきたのは領民が疲れ果て最早いつクーデターが起きてもおかしくないほどに緊張感の漂っていた戦争の終演であった。
英雄は不思議な力"魔法"というもので海で暴れていた魔物を沈め、皆の傷を癒して回った。
最初こそ皆その力を疑っていたが彼から漂う不思議な雰囲気や言葉に魅了され、ラクノシアとアルカスを和平に導いたとして風のように現れ、すさんだ空気を吹き飛ばしたという意味合いを込めて"風の英雄"と呼ばれるようになった。
これに全面的に協力したのがバルザード商会である。
バルザード商会はすでに薬草だけでなく、建築や不動産、販売や娯楽など幅広い分野に精通した大きなギルドのような規模であった。
バルザード商会は己の名を売れるというメリットと風の英雄とは親しい間柄だったという事もあって、アルカスとラクノシアを頻繁に出入りするようになった。
コトハは一旦本から顔を離し体を後ろに仰け反り、いつの間にか丸くなった背中を伸ばした。
窓からすでに日の光が差し込み昼時が近いことを知らされる。
(もう昼時か。
そいえば昼のことを相談することを忘れていたな。
一旦ホールに戻ってみるか。)
本を閉じ立ち上がった瞬間である。
歌声が聞こえたのである。
ただ、歌声というよりも猫の鳴き声に近い。
あまりにも音程が整っているせいで歌声と勘違いしてしまった。
コトハはその声の発生源を探す為に視線を動かしている間にもその歌声は続く。
コトハは少しづつ扉の方へ足を動かす。
ピリピリとした警戒心を持ったのは久しぶりである。
扉の前に来るとドアノブに手をかけ回し扉を押し開けようとしたが、扉はまるで動かなかった。
(扉が!
何かの魔法か。
まさか。)
コトハはドアノブから手を離し、力を抜いた。
「ルットという霊獣はお前か。」
見えない相手に話しかける。
とたん歌声はピタリと止み、第六図書館に静寂が戻る。
いざというときの為に左腰に差している太刀に抜刀の構えをとる。
「そんなに警戒せんでも別にとって食ったりせんよ。」
その声は扉から見て最初の本棚の物陰から聞こえそしてそこから、ぬっと青い猫が姿を現した。
依頼の通りその猫は他の猫と比べれば一回り大きく青い毛並みを持っていた。
「ワシの名前を知っとると言うことは小僧から依頼を受けたな。」
「ルドウィルス殿のことか。
確かにおまえを捜すように依頼を受けた。」
「悪いがワシは余生を自由気ままに生きたいんでな。
屋敷に戻るつもりはない。」
「ルドウィルス殿とルキ殿が心配していたぞ。
封印の楔の場所から離れれば離れるほど、あなたの寿命を削ると。」
「・・・あのガキ共そこまで話していたか。
悪いがワシは寿命を削ろうが屋敷に戻るつもりは断じてない。
ワシは無族に関わりすぎた。
それに小僧もワシの力がなくとも十分に商人としての才を持っている。
多少力を失うだろうが十分バルザード商会を支えることが出来るだろうよ。」
「では、なぜ姿を現した。
そしてどうして私を閉じこめるような真似をした。」
「お前に用があったからだ。
預言しよう。
お前はこれから幽霊船に乗りある力を手に入れるだろう。
運命に導かれてな。
そして、これを渡しに来た。」
ルットは突然体から煙のように揺らめき同時に何か呪文のようなものを唱えだした。
崩れた煙は次第に形を持ち始め無族のような手足や体つきが形成されていく。
やがて現れた姿は青い髪に金色の瞳をした緑のローブに身を包んだ女性であり、手には本を持っていた。
コトハはその本を見た瞬間突然体が熱を帯びたかのように熱くなり、心臓の"ドクン"という音がハッキリと聞こえた。
そして、あまりの熱さに目眩を起こし視界が安定しなくなっていき、体のバランスが崩れ後ろ数歩下がり扉により掛かるような姿勢になった。
体から湯気が上がっているのではないかという錯覚が起こるほどに体が熱を帯びた。
呼吸が定まらず苦しみの中で焦点だけはブレながらもルットの持つ本に釘付けになっていた。
「これはお前の物だ。」
ルットはそんなコトハの様子を気にかけるような素振りも見せず、コトハに近付いてきた。
コトハは立っていられず滑り落ちるように扉の前に座り込む。
「何をした。」
やっとの事でコトハは声を絞り出す。
先程よりも視界がぼやけてきた。
「ワシは何もしていない。
強いて言えば・・・の・・・共鳴・・・・らばれた・・・・知っている・・・・戦士の名・・・。」
意識が朦朧として来てルットの声もほとんど聞き取れなくなった。
しかし、最後の"戦士の名"という部分はハッキリと聞き取った。
「ーーーーー・・・。」
何かを呟いた気がする。
しかし何を言ったかすらももう考えられない。
ルットはコトハに本を抱かせるように握らせると、スッと踵を返し奥へと歩みを進める。
日陰に入っていく中でルットはまた歌を歌っていた。
コトハはその歌をどこかで聴いた事がある気がした。
そんなことを思いながらも瞼が重力に逆らわず閉じコトハの意識も同時に暗転した。
「おいっ!・・・!・・・!
何が・・・!」
体を揺さぶられ意識をコトハは僅かに取り戻す。
重さを感じる頭を持ち上げ瞼をあける。
目の前には陶器のような白い肌に長髪の尖った耳の男がコトハの顔を屈んでのぞき込んでいた。
「ヴァレンティス殿・・・。」
「何があった?」
「ルットが現れて・・・。
それから、本を・・・。」
「それのことか。」
ヴァレンティスがコトハの抱いている本に指を指す。
今度は本を直視しても特に反応はなかった。
ヴァレンティスがコトハの抱いている本に手を伸ばし指先が触れた瞬間、バチィ!と火花が上がりすぐに指を引っ込める。
それを見てヴァレンティスは何かを思索するようにコトハを見つめ、本を回収できないことを悟りコトハの背中と足の下に腕を伸ばし抱き上げた。
(あれ?
以外と軽い。)
コトハを抱き上げそんなことを思いながらも扉を開きホールへと急いだ。
扉をでたと同時に「虚無なる壁よ・・・。」と呪文を唱え出す。
コトハの体温の熱さに尋常じゃないのを感じ取った彼は、パープルとコトハの指導役であるオルトスの下へ行きそのついでにサーシャも回収するつもりでいた。
「・・・繋げ、亜空の扉。」
呪文の最後の節を唱え終えると目の前に陽炎のような揺らめきが発生した。
ヴァレンティスは躊躇なくその中へと飛び込んだ。
所変わって入り口のホール。
サーシャは1人本を読んでいたが先程渡された本ではなく、"精霊の横笛"と題された文庫本だった。
サーシャは吟遊詩人として呪歌を歌うだけでなく、"精霊使い"という面も持っていた。
そのため、精霊に関する物には直ぐに飛びつく癖がある。
丁度ページをめくったところで、魔力の"波紋"を感じ取り顔を上げた。
目の前には陽炎のような揺らめきが発生しておりその中に黒い影が現れる。
そしてヴァレンティスがコトハを抱えて出て来たのである。
「ヴァレンティスさんどうしたんですか。
ってか!
どうしたんですかコトハさん!
顔真っ赤だし熱が。」
コトハの状態を察したのかサーシャは声をかけてくる。
先程のコトハの変わりように動揺を隠せないでいる。
「パープル達はまだ来ていないのか。」
「はい。
みなさんと別れてお昼になりましたがまだ来てません。
呼んできますね!」
そう言ってサーシャはパープル達の向かった廊下に走り出してしまった。
「おいっ!
魔法を使った方が、っち!
虚無なる壁よ・・・。」
ヴァレンティスは先程と同じ呪文を唱え出す。
「・・・繋げ、亜空の扉。」
そして先程と同様、呪文を唱え終えると彼の目の前に陽炎が現れその中へと飛び込んだ。
~葉桜~
皆さんこんにちは。
作者の葉桜です。
「第一章 青き者達の宴」は折り返し地点に入りました。
一章が長いと言うヒトのために、5の倍数の話の終わりに休憩もかねてある企画をもうけようと思っています。
その名も「ヴァレンティスの魔術講座」。
ファンタジーの世界と言ったらやはり真っ先に魔法が思い浮かびます。
但し作者によってその性質が異なります。
なので章の終わり事にヴァレンティスにはこの物語に関する魔法について説明してもらおうと思います。
~ヴァレンティス~
ちょっと待て、どうして俺がそんな事しないといけないんだ。
~葉桜~
あっ!
ヴァレンティスいたんだ。
いやさ、たぶん本編でも魔法についての説明はあると思うのよ。
ただ、それはかなり後の話になってしまうから私が忘れないようにする為もあるけど、ちょくちょくそう言った知識を残していかないと後々めんどくさい(体験談)。
それにこれはヴァレンティスにとっても魔法の復習にもなるから、あながちメリットがないわけでもないよ。
~ヴァレンティス~
・・・いいだろう。
但し条件がある。
~葉桜~
ん?
なんだい?
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ヴァレンティスが葉桜にひそひそと耳元で何かを話す。
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~葉桜~
ああ、そのくらいなら別に構わないよ。
~ヴァレンティス~
なら契約成立だ。
じゃあ、俺は来週講座に出す魔法のまとめに入るから戻るぞ。
~葉桜~
いやー、本当に助かる。
さすがツンデレ。
~ヴァレンティス~
誰がツンデレだ!
大体誰が言い出したのかは察しがつくがツンデレ止めろ。
~葉桜~
はいはい。
と言うかヒト嫌いと言いつつちゃっかりみんなに協力してるよね。
無族のコトハに対しても言動が冷たいだけで"あれ"を感じた瞬間に部屋を飛びだして、怪しい気配からコトハを守ろうとしてたじゃん。
やっぱツンデレ。
プークスクス。
~ヴァレンティス~
メタイ!
後そこまだ描写されてない場所だからあまり話すな!
後、もういっぺんツンデレっていって見ろ。
消し飛ばす。
~葉桜~
はいはい。
では、また来週お会いしましょう。
ではでは。
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~パープル~
ハックション!
あれ?風邪かな?




