ギルドの門を叩くもの 一章 08
ラクノシア図書館。
ラクノシアの首都であるラバルンの高い丘に位置する。
首都の中心部からは離れている物の非常に豊富な本とそこの扱いやすさから、足を運ぶ者は多く主に学生や資料を求める研究員などの理系の人々が多い。
朝早くにもそれらを利用する物もいるのだが、今日の図書館には"閉館(close)"という板がぶら下げられており人気は少なかった。
しかし、図書館の中には現在5人のヒトがいた。
「ここがラクノシア最大の図書館、別名"ラルバンの書庫"と呼ばれるラクノシア図書館。」
パープルが腕を広げながら言葉を綴った。
ここに初めて来たのはコトハだけだったらしく、コトハは自分が予想していたものと遙かに違っていたこともあって唖然としていた。
第一に言えばコトハは予想以上の図書館の大きさに絶句してから黙りっぱなしである。
図書館の外見は一瞬城と見間違うほどの大きさであり、丸まった青い屋根と小さな戸窓がいくつも均等に並び町並みと同じように白い壁が美しかったが、長い年月が流れている現れなのか所々漆喰の白い色が落ち赤い部分が所々見え隠れしてる。
形を大雑把に言えば綺麗な湾曲にを描いた塔であり、あちこちに城壁やかつてはあったであろう城の別の部分の名残があった。
図書館の前には簡単な公園があり、中央にある噴水からはきれいな水が流れていた。
「ここは元々ラクノシアの王城"ラルクル城"っていう城跡でね。
そのお陰で沢山の本を収容することが出来たんだよ。」
パープルはまるで我が子のように自慢げに話していたがコトハ以外の面子は"もう何度も聞いている"という顔をしており、話を真面目に聞いているのはコトハだけであった。
ちなみに今図書館の捜索を行っているのが、コトハ、オルトス、サーシャ、そして館長であり司書のパープルである。
サーシャとパープルが朝ヴァレンティスを起に言ったら
「俺は一言も手伝うなんて言ってない。」
と正論を言われ断られたらしい。
見渡す限りの本や棚であり柱には絵が飾られている。
棚は新しい物が目立つが図書館の配色に合わせてか明るい茶色の物がほとんどで、暗い色と明るい色が絶妙にあっているためか特に圧迫感は無くとして静かな雰囲気を強調している。
ただしそこは第一カウンターがある入り口から入ったすぐホールの話であり、ホールの中央には二階へと続くかつて美しい装飾が施されてたであろう面影のある階段がある。
そしてホールの中央から左右にそれぞれ廊下が延びておりもっと広いことが改めて実感できる。
入り口からは二階の様子は全て見えないが、二階の手すりから本棚が見えるため二階にも本があると思われる。
階段の両脇には十人はゆうに座れる大きな長方形の奥に続くテーブルと、正確な数は分からないが一人用の小さな椅子が並んでいるのが見て取れる。
「ここにある本はラクノシアの本だけじゃない。
世界中から本が集められたいわゆる本の貯蔵庫さ。
いろんな種族の著者の本も置いてある。」
パープルは利用者が誰もいないにも関わらず静かにスタスタと歩く。
階段には足を向けず一階の奥に座していると表現しても違和感のない本棚に足を向けた。
ホールの壁となるゆっくりと湾曲した壁には本棚があった。
何冊か貸し出されている後なのか所々引き抜かれたような後があった。
「例えばこれ。」と一冊の本に手を伸ばす。
本棚から抜き取られた本は、表裏表紙が深い青い色で白い雲のような装飾が施されている。
表紙には「青き宴の者達」(Blue Banquet of Youngmanes)という題名が白い文字でかかれ、その下に"グレイマン・テラー"という著者の名前があった。
「グレイマン・テラーってたしかだいたい九十年前の"風の英雄"で知られる冒険家だったか。
同時に九十年前のラクノシアとアルカスの戦争を終わらせたと言われる"英雄"。」
「英雄、と言うことは広場にあったあの銅像ですか?」
オルトスの言葉にコトハが疑問を投げかける。
その質問の答えはパープルが答える。
「そう。
グレイマン・テラー。
この国に住んでいる者ならば知らぬ者はいないと言われる今や一世紀を過ぎようとした今なお、その名は伝わっている"風の英雄"。
彼がいなければラクノシアとアルカスの戦争は今でも終わることがなかったと言われているほどの偉業を成し遂げた人物。」
彼女はコトハに持っていた本を渡しテーブルに座るように勧め皆がそれぞれ座ってから話を切り出す。
「どうして彼の名を出したかというと、実は彼、いえ、正確には彼女かしら。」
「え!グレイマンって女性だったんですか!」
サーシャは知らなかったという声を上げ、オルトスも初耳だという驚いた顔をしている。
パープルはその反応を見れ少しうれしそうに微笑んでから、話に戻る。
「まぁ、普通はその反応だよね。
学者の間でも男性説の方が有力だし、私は今までの文献から女性だという考えでいくけどいいかい。」
「俺はどっちだっていい。」
「私も大丈夫だ。」
「私も平気です。」
オルトス、コトハ、サーシャの反応を見て彼女は安心したのか一息吐くと再び話を切り出す。
「グレイマンはどうもバルザード家の"繁栄の時期"に関わっているらしくてね。
バルザード家って知っての通り初代で莫大な財産を築き、そして二代目がその栄光に拍車をかけた。
その年数がおよそ四十年間。
実はね、バルザード家はグレイマンの手助けをしていた結構大物の商家だったらしくてね、グレイマンの手助けのついでに自分らの名前を売り込んでいたらしいのよ。」
「バルザード家について調べるのにそのグレイマンという人物についても調べればよい。
と言いたいのか?」
「そうそう、コトハさんって読みがいいわね。」
そうパープルがコトハに感心した後に立ち上がった。
「今日はあの神官連中のせいで休館だから誰も人が居ないし、どんなに音を立ててもいいけどここが図書館だって事を忘れたような行動をとり続けたら、
つ・ま・み・だ・す・か・ら・ね。」
パープルの口調は友好的であるも最後のドスの聞いた声で"図書館では静かに"という、別の声をコトハ達は聞き取った気がした。
「あの、私この本読むためにここに残っていいでしょうか?」
「サーシャ殿は元々自身の意志でここにいるわけですから、私達があなたの行動を制限するわけにはいかない。」
「俺もそれでいい。
何というか依頼に巻き込んですいません。」
「分かりました。
ではお言葉に甘えさせて貰いますね。」
そう言うとサーシャはコトハから本を受け取ると開きそれに集中し始めた。
「では、私はバルザード家の歴史について探してみます。」
「そうか。なら俺はここ数十年の海難事故について調べる。」
「商家の歴史ってのはそう残ってないはずだけど、バルザード家なら残ってると思うよ。
何せ風の英雄の知り合いだったわけだしね。
多分左手の廊下の一番奥にある"商家"のプレートが掛かっている第六図書館かな。
ちょうどその部屋の近くにはヴァレンの部屋があって、そいつの部屋は扉に私がプレートを掛けているから直ぐ分かるよ。
本を探せなかったらそいつにも協力を仰ぐといい。」
「手伝ってくれるだろうか?」
「なぁに。
あいつは無族嫌いでヒト不信だが本当にあんたのことが嫌いだったら、とっくに魔法を使って追い出してるよ。
それにあいつはああ見えても困ってる奴をほっとけないお人好しだよ。
いわゆるツンデレって奴だねププッ。」
どこかで「ブェック!」というくしゃみともとれる声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
「分かった。
いざという時には彼に頼ってみよう。」
「それがいい。
オルトスさんの言っていた海難事故については右手の廊下の進んで2番目にある"歴史"のプレートが掛かっている第二図書館だよ。
そこの棚にはグレイマン・テラーについての書物もあるはずだからそっちには私がついて行こう。」
「頼む。」
オルトスの承諾を得たパープルはサーシャに向き直った。
「一応誰も来ないと思うけど誰か来たら私に教えにきて。
もしも何かあったら叫ばないで音楽を流してちょうだい。」
「分かりました。」
コトハは三人と分かれた後左手の廊下に進んだ。
廊下に入って直ぐ右手に一つ目の扉を見かけた。
その扉には"ラクノシア王家"というプレートが掛かっていたため直ぐに通り過ぎた。
廊下は何も置いていない非常に質素なものだが、バルザード家の廊下と違いどこか古風な印象の石造りのもので奇妙な違和感もなかった。
そこで思い出したのだがバルザード家の屋敷の使用人のことである。
(今の所、ルドウィルスの執事とメイド長を名乗るルキしか知らない。
あんな大きな屋敷に主人に尽くす使用人が二人だけというのもおかしな話。
しかもうち一方は本当の使用人か怪しい。)
コトハはふと歩みを止め考えた言葉を思わず口に出す。
「もしやバルザード家はかなり衰退している?」
考えた先の答え。
それはバルザード家が以前よりも力が衰え使用人も雇えない状態ではないかという事。
彼の屋敷は一般人から見れば沢山の高級品があった。
がそれはあの屋敷には足りないと感じてしまう。
以前は何かあったのではないかという違和感。
(何にしても、バルザード家について調べる必要性は十分にある。
早く第六図書館とやらに行かねば。)
コトハは再び歩み出した。
廊下はまっすぐでははなく外で見たように湾曲に曲がり右に続いていた。
廊下は戸窓のお陰でそんなに暗くなく、風も通ってきて心地よい。
大体五分くらい歩いて同じく右手に次の扉を見かけた。
その扉には"ラクノシア気候"というプレートが掛かっていたためそこも通り過ぎた。
そして同じ様な景色をみてまた五分後、今度は扉が三方向にあった。
正面、右手、左手と三方向である。
構造的にはおそらく右手の部屋が第六図書館である。
コトハはあえて左手の扉のドアノブに手をかける。
冷たい金属のドアノブで扉は木で出来ており他の扉よりも古い印象を受ける。
扉は以外とすんなりと開いた。
そこは直接外に繋がっており海からの風が吹き込んできている。
鍵がないことに不用心に思った。
直ぐに扉を閉じ、正面の扉を見るそこには"関係者以外立ち入り禁止"という言葉刻まれたプレートがあり、ここが彼の部屋だと察した。
なぜなら、プレートの裏にある女性のような細い時で"ヴァレンティス"と書かれていたからである。
今の所、彼に用はないので素直に右手の扉のドアノブに手をかけ押し開ける。
扉を開けると直ぐ右手に本棚がずらりと並び、部屋の奥までそれが続いていた。
そしてその高さは一階フロアの一番高い窓の下まであり、よくよく見ると奥の壁には梯子が掛けられていた。
更に奥に入ってみると奥にある壁にそって反対側の壁にまで本棚が続いている。
そして内側に当たる部分には本棚が一定間隔に並べられており、借りる者が少ないのかここらの本棚には殆ど抜き取られた跡がなかった。
ただし窓に一番近い本棚は窓側には板が張り付けられており、日光から本を守るための処置であることが見て取れた。
廊下側の壁には本棚は置かれておらず読書スペースとなっており、長テーブルが部屋の奥まで続いており一人用の椅子が均等に並べられていた。
部屋の奥につくとそこは日の光が届かない為かランプの中に夜光石が置いてあり、明かりには困らなかった。
(バルザード家、バルザード家・・・。)
ずらりと並べられた本に圧巻されながらもバルザード家に関わりそうな本を探す。
そしてその中で"恩人バルザード家の為に残す手記"、"風の英雄の後ろ盾"、"これからのバルザード家の推察"、の共通語で書かれた3冊の本を引き抜く。
そのまま本を重ねて机に持って行き机に静かにおいた。
誇りが舞うこともなくコトハは椅子に腰掛ける。
そして"恩人バルザード家の為に残す手記"という非常に乱暴かつ力強い筆の本を読むことにした。
著者は"アルジャーノン・マクドネル"。
本自体がかなり古いもので年代のスタンプが"1771.2.17"と印しており戦争が終わって約40年後に作られた物らしい。
本はもうボロボロであせた赤色の表紙にページもずいぶんと黄ばんでいるも、文字は最初に濃く書かれその上でこの本があまり読まれていなかったのかハッキリと残っていた。
私はアルジャーノン・マクドネルである。
この本を書いたのは我が恩人、ルーファス・バルザードの栄光を記したものである。
そして、言論の自由が許されない今でも私は処刑覚悟でこの本に私の知る限りの戦争の事も記そうと思う。
知っての通り50年前のラクノシアとアルカスの戦争「海洋戦争」は何十年もの間、お互いを憎み合い殺し合った。
お互いの正義を守るためである。
多くの民が軍事のための増税のために金を搾り取られ、仕事にそれに似合わない報酬しか与えられず、貧しい者は貧しいまま。
一方貴族はいくらでも金を出せることから自由な生活を送っていた。
無論そんな理不尽を許すはずもない。
一部の富や子を奪われた者達は戦争が激化していく中で貴族の屋敷に焼き討ちをかける毎日となった。
今告白すれば私も焼き討ちをかけた一人である。
あのときの私は、飢えで理性を失い正常な判断が出来なかったのである。
私は小さな診療所を貧しいながらも妻と娘の三人で協力を惜しまず、戦争という重い時代の中で贅沢を望まずただ平和に暮らしていたかったのである。
だがある日、軍隊が家にやってきた。
軍隊曰わく「徴収」をしていたのだという。
だが徴収は一週間前に払ったばかりであった。
ただでさえ貧しいのに一ヶ月後に払うはずのためていた貯金を連中は妻を殴って奪ったのである。そして足りない分として娘を連れ去ったのだ!
あのときの怒りは忘れもしない!
翌朝、私達の家の前に町の人たちがやってきた。そして私達を"非国民"として石を投げ、殴り、家を打ち壊した。
しばらくして町の連中は帰っていた。
殴られ続け私は気絶していたのである。
そして気が付き一番最初に目に入ったのは頭から血を流しもう冷たくなっていた妻であった。
"何故!"という言葉が何度も私の中で台風のように、渦潮のように渦巻いた。
私は貧困がいにに逃げざる負えなかった。
そこでの生活は地獄であった。
ここに言葉で表すのも恐ろしい。
骨と皮ばかりになった飢えて死んだ者、たった一つのパンを取り合って殺された男、体の純潔を売って生き長らえた白い目をした少女、赤子に乳を飲ませようとも何も出来ない母親、母に飢えの苦しみを訴えて泣き叫ぶ赤ん坊。
他にももっと恐ろしい物を見たがここには書ききれない。
私も何日も飲まず食わずの日々を送った。
コトハは一旦本を閉じた。
気分が悪くなり深呼吸を何度もした。
何ページかを飛ばすと彼がバルザード家との関わりを持ったページを見つけた。
焼き討ちから数年後、私は品のある男と出会った。
貧困街で私は犯罪という言葉を忘れていた。
彼の後を付けそしていつの間にか奪い取ったナイフで彼を刺したのである。
しかし、彼は痛みで絶叫をあげるどころか私を哀れむような目で見たのである。
「これが、私たちの生んだ結果なのか。」
彼はそうつぶやいた。
彼は汚らしい貧困街に何度も足を踏み入れた。
何度も私はその後を付けた。
そして彼が貧困街の中心部、あらかた治安のよい場所に向かっていたことを知った。
私は彼が入った建物の窓から彼が何を話しているのか興味がわき盗み聞こうとした。
しかし、そこを見張りに見つかり何度も殴られ殺されかけた。
しかし、そこをその男に救われたのである。
「彼は私の連れです。
申し訳ありません。」
何故?再びその言葉が頭の中を渦巻いた。
私を庇った男は私を連れて貧困街を出た。
そして、私たちは焼き討ちをした近くの小屋に案内したのである。
そこで私は、戦争が二日前に終わったことと、私達が焼き討ちをした貴族がその男である頃を知った。
他に保護された者達の話によると、バルザード家は唯一"戦争反対派"の一家だった。




