ギルドの門を叩くもの 一章 07
「すまない。
ゾンビという存在というものはよく知らないが、教会に行かなければならないとは天空神の教えという物ですか?」
コトハがマーハトの言い方に何か気にかかったのか、サーシャを庇うように彼女の前に進み出た。
オルトスもコトハの心情を悟ったのであろう。
いつもなら黙っているところマーハト達を威嚇するようにコトハの前にたった。
「いえいえ、別に彼女にまだ穢れが残っているとは思いません。
ただ、何か後ろめたいことがあって教会に来なかったのではないかと言っているんですよ。」
「はい?」
分かるヒトは分かる言いがかりにサーシャは疑問の声を上げる。
「第一あなた無族ではありませんね。
種族を隠してまで活動するなんてふつう怪しいでしょう。」
さっきまで明るかったサーシャの表情が硬くそしてどこか怒りを含んだ物になっていた。
オルトスは内心うんざりしていた。
(だから無族とは関わりを持つとろくな事にならない。
特にこう言った神官連中は一度盲心的になると面倒くさいことこの上ない。)
「役人が動き出す前に自首した方がよろしいのではないですか。
あのハーフエルフの魔術師にも言っておきましたが・・・」
「一ついいでしょうか。」
オルトスとサーシャがい色んな意味で黙って神官の言い分を聞いている中でコトハが声を上げオルトスの前にでる。
「あなた方の神は"ヒトを追い詰めろ"という教えを広めているのでしょうか?」
その発言は神官という役職の者が聞けば、まあその神の教えによって異なるであろうが天空神ゼルビノスの教えは「広き正しき青き心」でありヒトを追い詰め陥れるような事はタブーとされている。
無論その言葉は神官連中のプライドを刺激するのに十分だった。
「今、なんと言いましたか。
今もし取り消すなら聞かなかったことにしてあげますが。」
「一度言った言葉を取り消せば私は自分を裏切ることになる。
聞こえてなかったのならもう一度言います。
あなた方の神は"ヒトを追い詰めろ"という教えを広めているのでしょうか?」
すると今まで黙っていた後ろの神官連中が声を上げる。
「我々の神を冒涜するか!」
「罪を素直に認めつぐなえば良いのだ。」
「ゼルビノス様の代行者である我々神官が今すぐお前等に天誅を加えてやっても良いのだぞ!」
「神官でもないくせに生意気な!」
どれもこれも神官とは思えないほどの幼稚な発言にコトハは思わずため息をつきそうになる。
「神を冒涜するか?素直に罪を認めろ?神の代行として天誅を下す?神官でもないくせに生意気?
果てには自分らに向けられた言葉をあたかも非難としてとらえる。
少なくとも私は"神官とはあくまでも神を信じ一人のヒトとして生きている"ものだと思っていますので、あなた方の言い方の方が何より"神を冒涜する"行為に当てはまると思うのですが。」
「何だと。」
さっきまで冷静だったマーハトはハッキリと怒りを見せていた。
神官達も揃って抗議したコトハに冷たい目線を送るもコトハは動じる事もなく、睨み返す事もなくただ静かに吹く風のように。
「私は見ての通りヒトに認められた神官という立場ではありません。
そしてどの神も信仰していません。
私はこの町にくるまでに三年間旅をしてきました。
その中で絶対にヒトが神を信仰しているとは限らない事を知りました。」
「ふざけるな!
そいつ等が天空神様を信仰していないのは穢れた心を持っているからだ。
ヒトが弱く醜く罪を犯し許されないのも神にろくな感謝もせず穢れた心を持っているのだ!
私たちが今その穢れを排除しようと清めを行って」
「お前こそふざけるな!」
マーハト達の自分勝手な言い分に怒鳴ったのはコトハではなくオルトスだった。
その声は一瞬だが空気に振動を揺らすほどの大きさと強さを持っており、マーハト達の言葉を遮り威圧するのは十分だった。
そしてコトハの前に立ちハッキリと彼らに言う。
「清めを行うだと。
ならまずお前等のその押しつけがましくて自己中心的な心を清めてこい。
ここにはお前等の清めを受ける必要を受ける奴はいない。
勿論罪とやらを犯したやつもいない。
言いがかりをつけるならお前等も同罪だ。
何故ゾンビ化したゴブリン達が現れたときお前等は現れなかった?
これるはずないよな。
お前らその時酒場で酒を飲んでいたらしいしな。
それも料金押し倒しで。」
「な、何故それを。」
後ろの男が図星を突かれ動揺してるのが見て取れる。
「町の連中が目撃してんだよ。
神に仕えているから何でも許されるみたいなことも言っていたらしいな。」
「そいうことだ。」
オルトスが言った後に直ぐに誰かの声がした。
その声の主は神官達の直ぐ後ろにいた。
オルトスよりも背が高く全身黒ずくめの魔術師風のエルフの男だった。
青い長髪を後ろに一本に束ね同色の鋭い切れ目の瞳をしており知的ともう一つ、どこかとげとげしい印象があった。
その青年の後ろには不機嫌そうな目をした赤がかった長髪の女性と数人の衛兵が立っていた。
衛兵は神官たちを取り囲み「恐喝、器物損害、無銭飲食の容疑で連行させていただきます。」といい槍を構えた。
マーハト以外の神官が叫んだ。
「我々神官をなんだと思ってる!」
その質問には衛兵達のリーダーのような男が答えた。
「少なくとも今は容疑のかかった被疑者だ。
抵抗すれば、分かっているな。」
別の神官がエルフの男を睨みつける。
「ハーフエルフのくせに生意気な!
謀ったのか!」
「俺はただ単にあんたらの素行を伝えるべき場所に伝えただけだ。
罪は清められなければならないのであろう。」
ハーフエルフと呼ばれた男は動じることなくただ冷たく淡々と答える。
叫んだ神官の男はギリギリと歯ぎしり音をたてる。
「今に見ていろ!
神官長様に言いつけてやる!」
「そうか、ならついでにお前等がやらかした事も報告しなければな。」
そんなやり取りもしながらも神官達は大人しく衛兵達の指示に従い関所へと歩いていった。
その場に残ったのはコトハ、オルトス、サーシャ、ハーフエルフの青年、そして長髪の女性である。
ハーフエルフの男性はつかつかとコトハとオルトスを通り過ぎて、緊張の糸が切れ座り込んでしまっていたサーシャに歩み寄り「大丈夫か?」と手を差し伸べた。
サーシャはそのまま立ち上がると「大丈夫です。ありがとうございます。」と答えた。
長髪の女性がコトハとオルトスに話しかける。
「あなた達大したものね。
神官に対してあんなにはっきりと反論するなんて。
おかげでこっちはすっとしたわ。」
「あの、あなた方は?」
コトハが質問するとその女性は「失礼しました。」と一声置くと
「ラクノシア図書館館長兼司書のパープル・サミンガです。
大方察しが付くでしょうがあの神官野郎共が内の常連客と本に対して恐喝、本に水や塩をかけた事による器物損害の行為を行ったため私とそこのヴァレンティス・ロッドの名義で通報し現在に至ります。」
「館長、俺の名前出さないで下さいよ。」
「いい加減あんたも人嫌いなおしなさい。
だからニートって呼ばれんのよ。」
パープルとヴァレンティスがそんなやり取りをしているとオルトスが疑問を投げかける。
「それにしても、どうしてここが分かったんだ?」
「ロッドの探知魔法さえあれば隠されていなければ何でも見つけることができる。
こっちにきたのはあの阿呆共がサーシャさんにも絡んでないか、その確認にきたのよ。
案の定絡んでたけどあなた達が彼女を守ってくれていて助かったわ。
ありがとう。」
パープルに頭を下げられコトハはあわてて言葉を返す。
「いや、私たち達が勝手に彼らに食いついた訳ですしお礼なんて。
それに彼らは"ヒトとして情けないやり方"をしていたので、それを注意したというか何というか。」
「それでもあんた達のしたことは正しいと言えるよ。
サーシャのヒトとしての尊厳を守ってくれた。」
「・・・あの。」
コトハとパープルが会話しているとサーシャが力のない声でコトハとオルトスに声をかける。
「ありがとうございます。
でも一つだけ質問をいいでしょうか?」
「どうした?」
少しいいごもってからもう一度彼女は言葉を紡いだ。
「どうして信じてくれたんですか?」
「どうして、か。」
オルトスは言葉を区切る。
そしてこう答えた。
「あんたがゾンビを作り出すまねなんてできないと思ったからだ。
根拠なんか無いただの俺の直感だ。」
「そ、それだけですか!」
サーシャが信じられないという叫びをあげる。
そこにコトハもオルトスと同意見である発言をする。
「オルトス殿もそう思ってましたか。
私も同意見です。」
「私は無族では無いんですよ。」
「ヒトを信じるのに種族が関係あるのか?
誰だって他人に隠したいことは一つや二つあるだろうし、彼らの指摘したことはその事件とは全くといって関係ないだろう。」
「白々しいほどすっきりしているな。」
ヴァレンティスが口を挟めた。
コトハの発言が信じられないと露骨に現れてる。
「悪いが俺はヒト、特に無族は信用してはいない。
お前等無族が他種族に対してどんな仕打ちを明いてきたか、知らないわけじゃないだろう。
俺はお前を信じるようなことはしない。」
「ならばそれで今は構いません。
私をどう評価するかは勝手に決めてくれて結構だ。」
「ならばそうさせて貰おう。」
微妙な空気になったのをコトハは気にせずパープルに話し掛けた。
「パープル殿、出来れば明日図書館であることを調べたいのですが手伝っていただけないでしょうか?」
「無茶ぶりじゃなければね。
いってごらん。」
「バルザード家の歴史に関わるであろう本とここ数十年に起こった船の事故について調べたいんですが、そのときに協力を頼みたいのです。」
「ふーん。
またなんで?」
「私たちが今やっているペット探しの依頼と関係があるのです。
あとこの町で最近幽霊船がでるという話も聞きました。
もしかしたら、それで三日前に暴れまわったゾンビ化したゴブリン達についても何か分かるかもしれないので。」
ゴブリン達の話題がでるとヴァレンティスは眉をしかめ、サーシャが驚いた顔になった。
オルトスは何もいわず黙ってコトハの意見に耳を傾けている。
パープルはそれに興味を持ったようで質問を投げかけてきた。
「どういった関係性を感じてかな?」
「ゾンビ化した理由は分かりませんが幽霊船とゾンビは何か関係があると思うのです。
ゾンビと幽霊船はどちらも"この世ならざる物"。
その存在と噂がほぼ同時に時期に現れたというなら何か関連性があると見ていいでしょう。
しかしここ十年は大きな事故は起きていない。
となると、もっと昔の船の事故があるはず。
そして幽霊船の規模となればそれなりの商船か海賊船になる。
少なくとも数十年前から存在して周囲が驚くほどの盛況を遂げたただ一つ。」
「それが、バルザード家のバルザード商会って事だね。」
「そうだ。」とコトハは相槌を打った。
するとパープルは「面白い。」というと
「その話乗った!
どうせ明日は神官の奴らのせいで一日閉館状態だ。
好きに使っていいよ!
その調べ物は私も参加させて貰う。」
「ありがとうございます。」
「なんなら図書館に泊まりにきてもいいんだよ。
一人や二人や三人増えたって今更変わらないし。」
「いや、一度この事をギルドのみんなに話した方がいいだろう。
明日俺たちは自力で図書館に行く。」
「そうですね。
私もそれで構いません。」
「私は図書館の方に行きますね。
正直言って朝起きられる自信はありませんから。」
「分かった。
よし、じゃあ今度こそ解散。
明日朝図書館に集合って事で。」
オルトスの言葉に誰も異議を唱えなかったためそのままその場で解散となった。
オルトスとコトハはギルドに戻りギルドマスターにあらかたの説明を終え、コトハは簡単に木刀を振った後に、オルトスは少し資料をまとめてから眠りについた。
サーシャとヴァレンティス、パープルは図書館に戻りパープルは図書館の施錠を確認した後に直ぐに眠った。
サーシャは少しだけハープを小さな音で爪弾き心を少し落ち着けてから眠りについた。
ヴァレンティスは腐ったゴブリンを殴った杖を磨き、個室から見える深い闇にさざ波の音を立てる海を見つめ何を思ったのか右手拳を握り「風の目よ・・・」と呪文を唱え、彼が呪文を唱え終わると窓から手を出し拳の指を上に向けるように開く。
手の上には緑色の光る球体が現れ数秒その形を保っていたが、フッとヴァレンティスが軽く息を吹きかけると、まるてタンポポの綿毛のように光は細切れになりながら海へと飛ばされていった。
その様子を見届け光が見えなくなったのを見た彼は部屋のランプの火をもみ消し、同じく眠りについた。
そして夜が明けた。
依頼受託から二日目の朝である。




