雨声
シクシクシク。
どこかで、誰かが泣いているような気がした。
タッと走って見てみると、雨に濡れてボロボロのダンボールの中で震えている子猫たちがいた。
「泣かないで、今助けてやるからね」
子猫たちは運良く、温かくて優しい家庭に引き取られていった。
シクシクシク。
どこかで、誰かが泣いているような気がした。
またタッと走って見てみると、雨水をかぶって泥だらけになった一輪の花があった。
「こっちに植え替えてあげる。ちょっと痛いかもしれないけど、すぐに終わるからね」
植木鉢の中で、花は鮮やかに咲き誇り、そして見事に散っていった。
シクシクシク。
どこかで、誰かが泣いているような気がした。
タッと走って見てみると、誰もいない静かなバス停で、表情を隠した少女が雨やどりをしていた。
「どうして君は泣いているんだい」
「失礼ね、泣いてなんかいないわ」
「君は泣いているよ。目に見えなくても、心の中で。僕にはわかる。雨が教えてくれるからね。
我慢しないで、泣きたい時は思いっきり泣けばいいんだよ」
みるみるうちに少女の目に浮かぶ涙。こらえきれなかった一粒が、パシャンと雨音の中に溶けて消えた。
「お母さんと、喧嘩したの。よくある事なんだけど、今日はどうしても、我慢できなくって、それで、家を飛び出しちゃったの。私が悪いって、わかってるのに、だけど」
ひとつ、またひとつと落ちていく雫には、笑顔であふれる家族の姿があった。
「わかってるんなら、もう大丈夫。思っていることを素直に伝えればいいのさ」
傘をすっと差し出し、少女を送り出す。
「その傘は、僕と一緒に子猫たちや花を助ける手伝いをしてくれた、大切な傘なんだ。優しい心を持った君にあげるよ。今度は君が、たくさんの人をその傘と一緒に助けてあげて」
傘を受け取った直後、私を探しに来たお母さんが車で迎えに来た。話を聞いてくれたお礼を言おうと振り向いたけれど、彼はもうそこにはいなかった。
それ以来、雨の降る休日はあの傘とともに外に出ている。何か役に立てないかな、と思ってはじめたんだけど、本音は、こうしていれば、またあの人に会えるかもしれないなんて、根拠のない考え。そんな私の思いを知ってか知らずか、今日も雨はシクシクと振り続けている。
Fin.