第零話 プロローグ
プロローグ
かつて、この大陸には宗教を軸に争いを繰り返す二つの勢力があった。
西にハルガ教を信奉し、一柱の神のみを崇める国、グラジス。
東にはカミス教を信じ、自然に宿る精霊たちと共に生きる国、ペンタス。
二つの国は、宗教の違いから争いが絶えなかった。
人々は戦乱の日々に疲弊し、神に祈り続けた。
『どうかこの状況をどうにかしてください、平和をください』と。
その願いは通じ、神はグラジス国に一人の聖人を遣わす。
彼の者は幼少のころより神童と言われ、人々を魅力し、大きくなるや国すらを動かす指導者となる。
彼は国を率いて、争いの元凶であるペンタス国を滅ぼし併呑。
そして、自ら教皇に就任するや、もう片方の元凶である母国すら廃し、新たに教皇国を誕生させた。
グラジス国を支配していた五人の王も同時に廃され、彼等は嘆き悲しんだ。
哀れに思った教皇は五卿という名目だけの補佐役を命じられる。
そこで五卿は改心して、日々教皇の手助けに心を砕いたと言われる。
教皇となった聖人は腐敗しきっていた政治を改革し、全ての者が平等に扱われる国を作った。
悪しき者は罰せられ、正しき者が日の目を見る正しき政治が、ようやく行われ始めたのだ。
民衆は喜び、それを指導した教皇を神の御子と褒め称え、尊敬した。
黄金時代の始まりである。
国内は平和が謳歌され続けると誰もが信じて疑わなかった。
しかし、絶大な権力を握っていた教皇も寿命には勝てず、天に召される日が来た。
彼の君亡き後、五卿は元の欲が首をもたげる。
もう一度自分たちの時代が来るのではないかと。
彼等は表面上は今まで通りにしていたが、密かに教会を乗っ取り、再び支配権を獲得。
五卿の政は私欲にまみれ、教皇が敷いた正道なる天下は崩れ始める。
彼らは権力を握ることしか頭になかったからだ。
『民は民であって、人ではない』
この言葉を悪しき根とし、政治は徐々に歪み、国は乱れ、地方が独立を始める。
いつしか、教皇国は本山のあった地域を残すのみとなり、地方の政権の一つと成り下がった。
この国を取り巻く、世界の宗教事情も大きく変わった。
ハルガ教の正統派を主張する汚職にまみれた一派。
それに対抗するように、清貧の者が始めたユニウス教が分派として興る。
一方で、一度はペンタス国の滅亡とともに滅びたカミス教も蘇る。
世は更に乱れ、王を僭称する者は雨後の草の目のように頭角を顕し、宗教と利害を理由に戦争が日常化した世界へと変貌していた。