伝える気持ち
前作『伝えたい気持ち』 http://ncode.syosetu.com/n1839bz/ の続きになります。そちらから読んでいただけたらよりよく見れるかと。
「告白だぁ!?」
「ちょ、孝太頼むからもう少し声のトーン下げろよ!」
こいつに相談したのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。そう思った頃にはもう時すでに遅し。ついこの間あった出来事をこの親友でありお騒がせキャラの孝太に話してしまった時点で、俺の選択肢が間違っていたことをなんとなくの空気が教えてくれた。
ついこの間、ちょうどバレンタインデーのその日。俺はある人に告白された。
その名も遠坂美菜。家がお菓子屋ということもあって部活に所属していない帰宅部。だけどなんだかんだで3年間同じクラスだったし、女子の中でもかなり控えめな性格が逆に男子の中では人気が高い女子。周りがあまりにも騒がしい女子が多いクラスの中でほぼ唯一といっていいほどの静かな女子なので他の男子からも一目置かれることがしばしばあった。もちろん俺もその例外ではなく、あまりはなしたことはないが遠目から見つめることも少なくはなかった。
そんな女子からの突然の告白。しかも話を聞けば、それはもう入学したてのころからの一目ぼれと聞いたもんだ。
入学当初から色んな人に告白されることはよくあったが、それでもここまで心揺れたことは一度たりともなかった。今まではなんとなく心の中に引っかかるものがあってそれをうまく言い表せないけど、それのおかげで過去色んな人の告白を断ってきた。
だけど、今回はそうもいかない。むしろ心が激しく動揺した。今まではすぐにでも返せる返事が、今回は出来なかった。どうして、と聞かれても困る。むしろ今どうしてこんな風な気持ちになっているのか、こちら側が教えてもらいたいくらいなのだから。
「にしても、あの翔が返事するのに時間を要すたぁ……こりゃ、な?」
「何だよその言い方。なんか含みある言い方じゃないか」
「そりゃそうっしょ~! だってあの『学校中の女子を振る』とまで噂されていたお前が、なぁ?」
「いや、そんな疑問符をこちらに向けられても困るんだが」
むしろ俺はこいつに聞いているくらいなんだが。この気持ちをどうにかわかりたくてこいつに相談したのに、疑問を返されるだなんてそんなこと考えもしない。何で俺が聞かれてるんだよ、お門違いだろうが。
「とにかく、俺はどうしたらいいんだ?」
「いやいやいやいや、そんなの俺に聞くなよ」
「はっ!?」
まさか俺の話をこいつは聞いていなかったのか。俺は最初からお前に「相談」をしに来たはずなんだが。どうして投げやりな解答として返ってくるんだ。そんなの俺が求めていた回答じゃない、むしろ全くの逆じゃないか。俺の表情を見て孝太は少し驚いた表情を見せて「あぁ、そういうことじゃなくてな」と慌てて付け加えた。
「そんなの、もうお前の中では決まってるだろ?」
「……は?」
「だぁかぁらぁ!
今までお前は女に対してどうこうって思ったことはなかった。だから今までお前は色んな女子の告白を断ってきた。そこまではいいよな?」
「あ、あぁ……」
「んでも今回、遠坂に告白されて、動揺した。違うか?」
「し、した」
そう、俺は今まで感じたことのないほどの違和感と動揺を、あのとき感じたのだ。今まで様々な人に告白されてきたけれど、そんなことを一度も感じなかったのに。でも今回だけは、何もかもが例外過ぎて、どうしていいのか自分でもよくわからないのだ。
「ならもう、お前の中での答えは決まってるじゃないか」
「だからなんでそうなるんだよ」
「お前鈍いな! つーか何で俺がこれを言わないといけないんだよ!」
謎の憤怒をされて俺自身もどうしていいのかよくわからない。何もかもがはじめての感情で、どうしたらいいかわからないというのに、孝太にまでそんな反応されてしまってはますます俺の中での混乱の渦が大きくなっていく。
そんな俺の様子を察したのか、はぁ、と一際大きいため息をこぼして俺の方へと体ごと向ける。先程まで首だけが俺の方を見ていたので首が疲れたのだろう。改めて向き直して、真剣なまなざしへと変わる。
「いいか翔。お前のその感情ってのはな、所謂―――――――」
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3月14日。俺は一人で悶々と放課後を過ごしていた。
明日卒業式だからか、色んな人がアルバムの寄せ書きを書き合いしたりしていて、俺もそれに巻き込まれていた。特に女子からなんかは何でか知らないけどすごい来て、俺が書き終わるたびにきゃあきゃあと大きな黄色い声を発してくるものだから、耳がさすがに痛くなってくる。出来ることなら早くいなくなって欲しい。今は一人になりたいのだ。
そう考えていたのがようやくかなったのがもう夕方の7時を回った辺りのことだ。本当に最後の最後まで色んな人に寄せ書きを書いていて、最後の方は何を書いたのか自分でもよく覚えていない。それは無論、かきすぎということもあるけどそれ以上に頭の中を占めることがこの後に差し迫っていたからだ。
時計を見ながらぼんやりと今までの学生生活を振り返る。色んな事があったものだと思う。部活や学校生活、勉強もそうだし、恋なんかも色々あった。付き合おうと思ったことは一度もないけれど、それに反してなぜか色んな女子に告白をされた。そのたびに本能がちがうと叫び、彼女たちの思いを断り続けていた。一時的に同性愛者なんじゃないか、なんてうわさも流れたのだが、噂も七十五日で消えて、また告白されることも多くなっていった。
そんな中で出会った、最後の女子生徒。それが――――――
ガラガラ。
「……飯田、くん」
ほら、今こうして入ってきた。この人こそが、俺に最後に告白をしてきた女子。遠坂美菜その人だ。
あの時、真っ直ぐに告げられたその言葉にひどく動揺した。どうして俺なんかに、なんていつも通りに思ってはいたのだけど、今回だけは違って。今までだったらその場で答えをすぐ出していたというのに、今回はそんなこともいかなかった。考える暇がなければきっと彼女の事を大きく傷つけていたに違いないから。あっちは真っ直ぐに伝えてきたというのだから、こちらも生半可な気持ちのままでの返事はしたくなかったから。
そして俺は、孝太に呆れながらにして色々力説されて、ようやく悟ったんだ。
我ながらバカなんだと思う。何でこんなことにも、気付けなかったんだろう、って。
だから、俺は今伝えなくちゃならない。精一杯の気持ちを伝えてきてくれた彼女に、俺ができる精いっぱいの答えを。
「あの、手紙読んできたんだけど……」
「あぁ、サンキュ。この前のチョコ、すごく美味かった」
「あ、ありがと……」
「今回はその、あの時の答えを返しに来た」
「っ!!」
一瞬で遠坂の身体が強張るのを感じた。明らかに肩は震えて、さっきまで会わせていた目も下へと反らされてしまって、目を合わせることができない。
「遠坂、聞いてく」
「言わないで! 別に、答えはいらないから! あの時、私が、このままじゃ駄目だって思っただけだから! 私が勝手に、思いを伝えたかっただけだから!」
俺の話は聞く気ゼロですか。いやマジで聞いてください。俺の喋るターンをください。なんて思っていても彼女の口は止まることを知らないように、壊れた歯車のように止まらない。
「わかってるの、答えなんて。きっと受け入れてもらえないんだなっていうのだってわかってるの。だから、高校生活最後の思い出にしようって思ってたの。私が一目ぼれして3年間恋焦がれていた相手に、最後に告白をした、っていう思い出が欲しかっただけなの! そのあとのことなんてなにも求めていないから! 私なんか飯田君に釣りあうような女じゃないし、私なんかよりもずっといい人なんてたくさんいることだって知ってる! だからもういいの、言わないでよ。私の事、これ以上傷つけないで―――――!?」
あぁもう! 俺に喋らせろ!
そう思った俺の体は勝手に動いていて。その止まることの知らない口を、俺は。
自分の口で、塞いだ。
驚いたのは遠坂もそうだろうけど、一番に驚いていたのは俺だと思う。まさかこんなことをするなんて思いもしなかったし、正直驚いて離れた瞬間もお互いに目を合わせることができないまま。やらかしてしまったな、と思ってももうやってしまったことは止められなくて。顔を真っ赤にしてこちらを見つめる遠坂の事を見て、あぁやってしまった、と。深い後悔に襲われてしまったが、もう止められない。
「俺の話を聞いてくれ。頼むから」
そうなんだよ。俺、ようやく気付けたんだから。お前にはこの気持ちを伝えないと、いけないんだから。
相変わらず顔を真っ赤にして俯いたままの遠坂だが、話は一応聞いてくれるようだ。そう思った俺は、ふぅと一息ついて話しだす。
「正直、驚いてたんだよ。こんなに心が動揺したのだって初めてだったんだ。今まで色んな人に告白されてきた。でもこんな風に心が大きく揺らいだことなんてなかった。今までは本当にストンと落ちて、こいつは違う、付き合えないって思ってずっと断り続けてきた。簡単だったよ、だってもう既に目の前に俺の中の答えは出ていたんだから。
だけど、お前だけは違ったんだ。お前のまっすぐな目で見られて、俺はなんかこう、グサって刺さったんだよ。心の奥にまで届くような、そんな視線でな。だから俺は、ものすごく動揺したんだ。こんな風に感じたことは過去一度たりともなかったし、おかげでしどろもどろさ。その結果は、お前の知っての通りのあの無様な返答しか出来なかったんだよ。あの時は、ホントにごめん。だけど、この一ヶ月間猶予もらってさ、自分の気持ちと真剣に向き合ってさ、考えたんだ。それで、ようやく答えが出たんだ」
落ち着いて、大丈夫。今まで心の中でたくさん練習してきたじゃないか。なにも怖がることなんてない。いつも通りに、俺らしく、彼女の告白に、答えてやればいいだけだ。
「俺は、飯田翔は。遠坂美菜の事が、好きだ」
どのくらいの時が立っただろう。数分? 数十分? それとも一時間? 時間の感覚も失われて、俺は俯く彼女の回答をただ待っているだけしか出来なかった。今考えてもみれば抱きしめるだのなんなのすればよかったのに、あの時合わせた唇の感触があの時は全く消えてくれなくて、そんなことをする余裕すらなかったのだと今更ながら思う。
そしてそのあと、ようやく顔をあげた彼女は、目を真っ赤にしながら泣いていて。でも同時に。
日だまりのような笑顔が、そこにはあった。
「ねぇ、翔」
「うん?」
「あの時のこと、覚えてる?」
「あの時のこと?」
「うん、翔がホワイトデーにくれた、お返し」
「あぁ、あれな。お前の告白のお返ししか出来なかったけどな」
「でもね、あれが凄くうれしかったんだよ。今までもらってきたどのお返しよりも、ずっとあったかくて素敵なおかえしだった。あの時くれなかったら、今私こうやって翔の隣で笑ってないよ?」
「なぁに、あの時の俺はどうしてこんな簡単なことにも気付けなかったニブチンのバカ野郎だったなぁ。孝太にいわれなかったらまじでお前の事断るところだったかもしれないな」
「うわぁ、それひっどーい!」
「でもいいじゃないか。今は、幸せだろ?」
「……うん」
「ならそれでいいだろ?」
「…………ううん。まだよくない」
「へ?」
「もっともっと、私の事を、幸せにしてください」
「!! ……あぁ、もちろん!!」
あの時からもう数十年も経ったある日、俺たちはそっと笑いあった。
俺たちが笑いあう場所。その家の表札は『飯田』。その隣には『翔』と『美菜』の名前入り。
いかがでしたか?いやぁ、14日回っちゃいました(´;ω;`)←
どうも、森野です。
えぇ、基本的にハッピーエンド以外は求めておりません← こんな展開にしたらいいかなぁ、なんて思っても最後は基本的にハッピーエンドな森野でございます←←
最後の辺りですか? そんなのもう、色々察しちゃってくださいw
ということで、めでたしめでたしぃ!(`・ω・´)