親友の為に生きるのは、もうやめます。
「信じられない‥‥貴方だったのね???」
ミレーシア・シャルク伯爵令嬢はレンディア・マディ伯爵令嬢を睨みつけた。
共に17歳。ミレーシアはレンディアと幼い頃から交流がある。
領地が隣同士で家同士の付き合いがあり、自然と交流することになった。
マディ伯爵夫人から10歳の時に同い年のレンディアを紹介された。
「うちの子はおっとりしているから、ミレーシア。面倒を見てあげて頂戴ね」
「解りました。ミレーシア・シャルクよ」
「レンディア・マディです」
真っ赤になって恥ずかしそうに言うレンディア。
ミレーシアは幼いながら華やかな金髪で派手な見た目の美人である。
それに比べて茶の髪のレンディアは大人しそうな地味な令嬢だ。
背も小さくて同い年には見えなくて。
レンディアの事をミレーシアはしっかりと面倒を見よう。そう思った。
王都にある伯爵家の屋敷も隣同士であり、レンディアは頻繁にミレーシアを訪ねて来た。
「ミレーシア。一緒に遊びましょう」
「今からお勉強なの」
「私は遊びたいの。ミレーシアがいないとどうしたらよいか解らないの」
ミレーシアは仕方なく、レンディアと庭でお花を摘んで、遊んだ。
幼いレンディアはミレーシアに小さな花束を作ってくれと良く強請った。
「だって、ミレーシアは花束を作るのが上手いだもん」
仕方なく作ってあげるとレンディアは喜ぶのだ。
「有難う。ミレーシア。可愛い花束だわ」
その喜ぶ顔が嬉しくてついつい小さな花束を作ってしまう。
レンディアがミレーシアを頼るのは年ごろになってもまるで変わらない。
王立学園に通うようになっても、いつもレンディアはミレーシアにくっついて、解らない所があると聞いて。
ミレーシアだって他の令嬢達と付き合いたいし、レンディアとだけ付き合う訳にはいかない。レンディアは他の令嬢達とミレーシアが仲良くしていると機嫌が悪くなるのだ。
「ミレーシアがいないと私、生きていけないから」
「レンディア。いい加減に私から離れた方がいいわ。もう子供じゃないのよ」
「いやよ。ミレーシアと一緒にいたいわ。ずっとずっと一緒にいたい」
そんな中、ミレーシアに婚約話が持ち上がった。
ヴァルド・キルデルク公爵令息とである。
ヴァルドは公爵家の三男で、婿入りしたいという。シャルク伯爵家はミレーシアしか子がいない。だから婚約者にどうかと話が来たのである。
ヴァルドはミレーシアと同じ年の17歳。
金髪碧眼の凄い美男である。
ミレーシアの胸はときめいた。
ヴァルドみたいな素敵な人と婚約者になれるの?
私が???
ああ、どうしよう。どうしたらいい???
レンディアがその話を聞きつけて、
「婚約おめでとう。ミレーシアは美人だから、お似合いね」
「いえ、まだ婚約者にどうかという話が来ただけで、正式にお見合いをしてから決まるのよ」
「そうなの。上手くいくといいわね」
レンディアはそっけなくそう言うと、背を向けて行ってしまった。
いつもならべったりとくっついて、教えて欲しいとか、助けて欲しいとか、相談に乗って欲しいとか言ってくるのに。
どうしたのかしら。
まぁいいわ。
まさか、レンディアが妨害してくるとは思わなかった。
二日後、学園でヴァルドに声をかけられた。
「君がミレーシア・シャルク伯爵令嬢?」
「ええ。そうですけれども」
廊下で声をかけられて、それはもうクラスは違うから普段はなかなか見かける事はないヴァルド。
傍でみるとそれはもう美しくて。
ミレーシアは思わず見とれてしまった。
ヴァルドはミレーシアに向かって、
「君は性格に難があるそうだね。かなり人にきつい事を言うって聞いたよ」
「え?どういうことです?」
「私は性格がきつい女性は苦手だ。だが、シャルク伯爵家に婿に入る婚約話は魅力的だ。前向きに考えようと思っている。ただ、私が君の事を好ましく思わない事を今から言っておく」
「私はきつい事を人に言った覚えはありませんわ」
「そうなのか。そう聞いたぞ」
「誰にです?」
「口止めされている。情報をくれた人間に君は報復をするだろう」
「そんな事、私はしませんわ」
「まぁ口ではどうとでも言えるからな。ともかく、君の事を好ましく思えない事は覚えておいて欲しい」
何が何だか解らなかった。
誰かに悪い事を吹き込まれて、ヴァルドはその言葉を信じているという事はなんとなく解った。
ひがまれている?
ヴァルドはモテるのだ。
誰かが、嫉妬してある事無い事、ヴァルドに言いつけたのだろう。
レンディアがミレーシアに、
「一緒に帰りましょう。あら浮かない顔をしているわね」
「ヴァルド様に私の事がきついって言った人がいるのよ」
「まぁ酷い。私は貴方の親友ですもの。後で貴方の部屋に伺って話を聞いてあげるわ」
家に帰ると、さっそく、レンディアが訪ねて来た。
「ヴァルド様に貴方がきついって告げ口をされたの?大変ね」
「そうなのよ。私ってそんなにきついかしら」
「そんな事はないわ。ミレーシアはいつも私の為に色々と助けてくれるもの。それでね。ほら、今日、宿題が出たでしょう。一緒にやりましょう」
「そうね。宿題をやらないとならないわ」
レンディアは解らない所があるとミレーシアに聞いて来る。
ミレーシアはレンディアに一つ一つ丁寧に教えてあげるのだ。
レンディアは笑って、
「ミレーシアがいると助かるわ。ヴァルド様の事、誤解が解けるといいわね」
「有難う。レンディア。貴方は私の大事なお友達だわ」
それから一週間が過ぎて、ヴァルド・キルデルク公爵令息と、キルデルク公爵夫妻。
そして、ミレーシア・シャルク伯爵令嬢とシャルク伯爵夫妻が、顔合わせをした。
キルデルク公爵家のテラスで顔合わせは行われた。
豪華で美しい薔薇が咲き乱れる公爵家のテラスで、キルデルク公爵は、
「このような美しい娘さんと結婚出来るとは我が息子は幸せ者だ」
父シャルク伯爵は、
「とんでもない。それはこちらが言う言葉です。お美しくて優秀なヴァルド様をお迎え出来るとは、うちの娘もなんて幸せな」
ヴァルドは、ちらりとミレーシアを見つめて、
「顔は美しくても心根が良くない事は解っている。それでも婿に行ってやるんだ。感謝するがいい」
キルデルク公爵は慌てて、
「何を言っているのだ。ヴァルド」
公爵夫人も、
「そうよ。ヴァルド。ミレーシアに失礼よ」
ヴァルドは、
「私は知っているのです。この令嬢の素顔を。でも私は我慢して婿入りします。シャルク伯爵になる為に」
酷い言い方に、ミレーシアは思わず、
「誰に何を言われたのか知りませんが、真実を確かめないで私の性格が悪いと決めつけるのですか?」
「しかしだな。この情報は正しいと私は思っている。情報元は言えないが」
「何故、正しいと思っているのです?」
シャルク伯爵も、
「我が娘は心根は優しい自慢の娘です。それをそのように言われるとは……」
シャルク伯爵夫人も、
「情報元を教えて頂けないでしょうか。我が自慢の娘を悪く言う根拠を知りたいですわ」
両親が味方してくれるのがとても嬉しくて嬉しくて。
ヴァルドは、ミレーシアを見つめて、
「レンディア・マディ伯爵令嬢が、いつも君に虐められているって。マディ伯爵令嬢とは幼いころからの付き合いだろう。傍にいて、ミレーシアはきつい事ばかり言うから辛いと、そのような令嬢と婚約するだなんて可哀想だと私は言われた」
「レンディアが???レンディアとは親友ですわ。いつも一緒にいて、マディ伯爵夫人から面倒を見てあげてねって言われてからずっと、困った事があったらレンディアの力になってあげているのに……そんな事を言うなんて」
「君の言う事が真実なのか?それとも、君が私をごまかす為に言っているのか?」
「私を信じて下さらないのですね」
「マディ伯爵令嬢は泣きながら訴えてきた。君の言葉がきついと……」
「レンディアと話をして参ります。疑われたまま婚約を結ぶわけにはいきませんわ」
キルデルク公爵が、
「しかし、婚約を結んで貰わないと困る。シャルク伯爵家の婿入りを、ヴァルドにさせるのは決定事項だ」
ミレーシアはきっぱりと、
「身の潔白を必ず証明致します」
王都にあるシャルク伯爵家に戻ると、両親と共に隣にあるマディ伯爵家を訪ねた。
マディ伯爵夫人とレンディアが客間で応対してくれた。
シャルク伯爵が、
「レンディアが、我が娘の婚約予定であるヴァルド・キルデルク公爵令息に、ミレーシアの性格がきつくて辛いと言ったそうだな。それは真実か?」
レンディアは首を振って、
「私はそんな事を言っていないわ」
ミレーシアはレンディアに向かって、
「ヴァルド様に言われたの。貴方が私の言葉がきつくて辛いと言っているって。どういうことなの?」
マディ伯爵夫人が、
「うちの娘がそんな事を言うはずありませんわ。ヴァルド様の思い違いでは?」
レンディアは涙を流しながら、
「貴方と私は親友よ。貴方を貶めるような事を言うはずないじゃない。ヴァルド様が勘違いしているのよ。きっと。私はいつでもミレーシアの味方よ」
そうレンディアが言うので、ミレーシアは納得するしかなかった。
「そうね。ヴァルド様が思い違いをしているのね。きっと……」
シャルク伯爵が、
「レンディアとミレーシアは幼い頃からの親友だから。そんな事をレンディアが言うはずはない」
シャルク伯爵夫人も、
「そうね。レンディアはとてもいい子ですもの」
レンディアは頷いて、
「信じて下さって有難うございますっ」
しかし、すっきりしないミレーシア。
何がどうなっているのかしら。
明日、王立学園に行って、ヴァルド様にもう一度、聞いてみよう。
翌日の昼休み、食堂で食事をしているヴァルドに向かって、
「お話がありますの。ヴァルド様」
「もうすぐで食事が終わる。食後の珈琲でも飲みながら話をしよう」
端の席に移動して、珈琲を飲みながら、ヴァルドと話をした。
「レンディアに聞いてみました。知らないと言っていましたわ」
「君が怖くて、本心を言えないのであろう」
「私が怖い?」
「あのように、震えながら泣く令嬢を見たら、気の毒に思えて仕方が無い」
「ヴァルド様。女性の涙に騙されては真実を見誤ってしまいますわ。レンディアを呼んできましょう。その方が早いですから」
レンディアを呼びに行った。
レンディアは、
「貴方は私を疑っているのね。酷いわ。ヴァルド様に会いにいかない。貴方と私は親友でしょう。私を疑わないで。私にとって貴方は大切なお友達よ」
ミレーシアは困った。
背後からヴァルドが現れた。
レンディアに向かって、
「君はミレーシアにきつい言葉を言われて辛いって泣きながら私に訴えた。そうだな?」
レンディアは目を見開いて、
「えええ?そんな事、言いましたっけ?気のせいですわ。夢でも見ていたのでは?」
ヴァルドはレンディアに向かって、
「君は私の胸に縋りながら、つらい苦しい。ミレーシアなんて大嫌いって」
「夢ですわ。夢……私はそのような事は言っていません」
レンディアはミレーシアに、
「貴方は信じてくれるわよね。私達は親友ですもの」
ヴァルドが嘘を言っている?嘘を言って得することなんて何もない。
彼は我がシャルク伯爵家に婿入りしたいはずだ。
だったらレンディアが……
「信じられない‥‥貴方だったのね???」
大事な友達だと思っていた。
一生懸命、困った事があったら面倒を見て来た。
ずっと傍にいたレンディア。
それが自分を裏切っていた???
レンディアは泣きながら、
「だって、ミレーシアが結婚してしまったら、私を助けてくれる人がいなくなるじゃない。
ミレーシアはずっと私の傍にいて欲しかったから。だから、貴方の言葉がきつくて辛いって言ったの」
「だからって、ヴァルド様に嘘を言ってはいけないわ。キルデルク公爵家を騙した事になるのよ。貴方、自分がした事を解っているの?」
ずっとずっと信じていたレンディア。
ずっとずっと傍にいたレンディア。
自分を裏切っていたなんて、なんて悲しい。なんて辛い。
ヴァルドが、
「ミレーシア。君を疑ってすまなかった。申し訳ない」
頭を深く下げてきたので、慌てて、ミレーシアは、
「頭を下げないで下さいっ。謝罪は受け入れます」
受け入れますと言ってから、ミレーシアは思った。
本当にこのままでいいの???
このままで……
ミレーシアははっきりとヴァルドに向かって、
「両親がなんと言おうとも、貴方との婚約話は一旦、白紙にして下さいませ」
「え?謝罪は受け入れると言っただろう?」
「でも、貴方はよく調べもせずに、一方的にレンディアの言葉を信じて、私を疑ったわ。きつい言葉を言う女?自分の人生を潰されそうになって泣き寝入りしろと言うの?私はいや。ですから婚約話は白紙に戻して下さいませ。よろしいですわね」
何だか疲れてしまった。
レンディアが、
「ミレーシア待ってっーー」
呼び止められたが、答える気力も無く、ミレーシアはふらふらとその場を後にした。
婚約話は白紙になった。
キルデルク公爵家も無理強いはしてこなかったのだ。
キルデルク公爵家はマディ伯爵家に圧力をかけて、レンディアを王立学園から退学させた。
公爵令息を騙したのだ。
貴族の令嬢としての未来は潰れてしまった。
レンディアは家に閉じこもっていると言う。
王立学園で、ヴァルドが声をかけてきた。
「色々とすまなかった。だから、君に……」
「申し訳ありませんが」
女性を見下す態度や、簡単にレンディアに騙されるとか、色々と考えてあまり関わりになりたくないと思えるミレーシア。
だが、ヴァルドは待ち伏せするように現れる。
「ミレーシア。シャルク伯爵家にどうしても婿入りしたいんだ。シャルク伯爵家のワインの事業は魅力的で、私はどうしても関わりたい」
「ワインですか?」
「婿入りすれば、ワインの事業に関わる事が出来るだろう」
するとヴァルドの傍から声をかけてきた男性がいた。
「相変わらず自分勝手だな。ヴァルド」
「兄上。いつ留学から帰って来たのですか?」
「ロディス・キルデルク。ヴァルドの兄だ。似ているだろう?」
にこやかに、微笑むロディス。
ヴァルドはロディスに向かって、
「兄上はとっくに卒業しているでしょう。わざわざ学園になんの用です?」
「ミレーシア・シャルク伯爵令嬢。馬鹿な弟よりも私を婿入りの相手に如何かな?」
ミレーシアは驚いた。
「ロディス様は今まで隣国にいたんですよね。何故?我が家に?」
「国が恋しくなってね。弟が馬鹿なやらかしをしたと聞いて。私なら君を尊重する。女性だからって見下したりはしないし、物事はしっかり調べてから対処する」
ヴァルドが怒って、
「反省している。だが、相手は伯爵家、私は公爵家の息子だ。見下す事は仕方ないだろう」
「かといって、上から目線は嫌われるぞ。私は女性を尊重する」
ロディスはミレーシアの手を取って、
「私との婚約、いや、その前にお付き合いをしてからだな。お付き合いをして気に入ったら婚約を結んでくれないか?」
「よろしいのですか?それで」
「君の意志を尊重したい。今まで友達の面倒を見て、色々と大変だったのだろう?」
「ええ、大変でしたわ。とても……でも、私、あんな酷い目にあったのに、あの子がいないと寂しいんです。今も家に閉じこもっているレンディア。心配で心配で見に行きたくなってしまうのです」
ロディスは、
「君はもっと怒らなくてはいけないよ」
「怒らないといけないのですか?」
「マディ伯爵令嬢に対して。事の成り行きは聞いている。君が怒らなくてはいけない事は、君に対して嘘をついた事だ」
「確かに嘘をつかれましたわ。私を心配するふりをしてペラペラと嘘を。私にもヴァルド様にも」
「嘘をつく人間は人間の屑だ。私は嘘をつく人間は大嫌いだ」
背を向けてロディスは廊下を歩いていってしまった。
二日後、ロディスがシャルク伯爵家に訪ねて来た。
綺麗な赤い薔薇の花束を持って、両親に挨拶に来たのだ。
「弟がこのたびは迷惑をおかけして申し訳なかった。改めて、私がミレーシア嬢の婚約者に立候補してよいだろうか。隣国で公爵家に婿入りするはずだったのだが、その話が消えてしまって私としてはシャルク伯爵家に婿入り出来たらとても有難いのだが」
シャルク伯爵は、
「ヴァルド様との婚約話が白紙になって、せっかくのキルデルク公爵家との縁が無くなって私は落ち込んでいたのですよ。改めて婚約話を、本当に有難いです」
シャルク伯爵夫人も喜んで、
「こちらとしては大賛成ですわ」
喜ぶ両親にミレーシアは、
「ロディス様と二人でお話をしてよろしいでしょうか」
「ああ、庭で話をしよう」
ミレーシアは思い切って聞いてみた。
「この間、ロディス様は嘘をつく人間は嫌いだと言っておりましたわ。嘘をつかれたのですか?誰かに」
ロディスは口端を歪めて、
「婚約者だった公爵令嬢が浮気をしていた。ペラペラと私に対して嘘を言っていたんだ。私を愛している。貴方が一番よって。でも、庭師の男と出来ていて。婚約破棄してやった。
だから私は嘘をつく人間が嫌いだ。君はもっともっと怒るべきだ。君の友達だった女は嘘をついたんだろう?その嘘で君はヴァルドに疑われた。その女は自分本位で、自分が一番可愛くて、君を奴隷か何かと勘違いしているんだ。だからもっと怒らないと」
「ロディス様は傷ついたのですね。その婚約者だった令嬢を愛していたから」
ロディスは遠くを見つめながら、
「愛していた。家柄だけでなく、その令嬢の全てを愛していた。だから裏切られたと知った時、私は許せないと思った。その口で嘘を言うな。その口で愛を囁くな。嘘の愛を私に言うな。私はっ…その女を殺してやりたかった。勿論、そんな事は出来なかったけれどね」
「それで隣国からこちらに戻って来たのですね」
「君が嘘をつかれて、ヴァルドとの婚約話が白紙になったと聞いた。だったら私が立候補してもいいだろう?私は決して嘘をつかない。君だって嘘は大嫌いなはずだ」
「ええ、嘘は嫌いですわ。レンディアに嘘をつかれたのですもの。長年の友達だったレンディアに。裏切られたのですから」
「だったらもっと怒るがいい。そして自分の足でしっかりと立つんだ。君だって依存している。そのレンディアという女に。君だって自分の足で立つ必要がある」
「そうですわね。サビシイと思う時点で私も‥‥レンディアに依存しているんだわ」
ロディスと共にレンディアに面会することにした。
客間で待っているとレンディアが走って来て。
「私を心配して来てくれたのね。って連れの人は誰?」
ロディスが自己紹介をする。
「ロディス・キルデルク、キルデルク公爵家の次男だ。お前がレンディアか。我が弟に嘘をついてミレーシア嬢の悪口を言った女は」
レンディアはミレーシアの後ろに隠れて、
「助けてっ。ミレーシア。この人が私を虐めるっ。私はミレーシアがいればいいのっ」
ミレーシアはきっぱりと、
「貴方は私を貶める為に嘘をついたわね。私は貴方と改めて絶縁を言いに来たの」
「酷いわ。心配してきてくれたんじゃないのね」
「私は貴方の為に生きているわけではないわ。貴方は私の人生をめちゃめちゃにしようとした」
「だって、私はミレーシアがいないと……」
「ずっと言いたかった事を言っていい?」
「な、なんなのよ」
「自分の足で立ちなさいよ。私は貴方のお母様でも、身内でもなんでもないの」
「でも何かあったらミレーシアが助けてくれるんでしょう。ずっと一緒に過ごしてきたじゃない」
「もう、貴方を助けないわ。貴方に嘘をつかれた事が許せないのよ。貴方とは親友だと思っていたのに。家に閉じこもっていないで、貴方なりに将来の事を考えなさいよ。貴族として生きていくことは出来ないにしろ、このまま閉じこもって生きていたってどうしようもないじゃない。私は手助けしない。だって私はもう貴方と絶縁したんだもの。私は伯爵令嬢として、いずれは伯爵夫人として貴方と関係ない所で生きるわ」
レンディアは泣き崩れた。
確かにそうね。
嘘をつかれた事が一番悲しい。
嘘をつかれた事が一番苦しい。
だから今度こそ、貴方と絶縁するわ。
さようならレンディア。偽りの親友。
ロディスと婚約を結ぶことになった。
彼と一緒にいると、楽しい。
彼は自分を前へ前へと引っ張って行ってくれる。
でも、ミレーシアは思う。
私もロディスを導けるように、彼と対等に生きていきたい。
ロディスと一緒に、人生を歩いてみたい。
そう思えた。
そして、彼の心の傷を癒してあげたい。
キルデルク公爵家に訪ねに言ったら、ヴァルドが待ち伏せしていて文句を言って来た。
「何で兄上と婚約を?私が婚約を結びたかったのに」
だから言ってやった。
「私を信じなかった人との婚約は白紙にしてよかったと思っておりますわ」
「それは私がレンディアという女に騙されたのだから仕方ないだろう」
ロディスが笑って、
「最初から、しっかりと事の次第を調べて、彼女を信じればよかっただろう。人の言葉を鵜呑みにして、彼女を傷つけたのはお前だ。ミレーシアがそんな男を選ばなかった。それだけの話だ」
「しかし兄上っ」
「なんだったら屑の美男を教育する、変…辺境騎士団へ推薦してやろうか?しっかりと改心して、良い婿入り先を探せ。お前は浅慮で駄目だから、しっかりと学ぶがいい」
「ぐっ……」
ミレーシアは背を向けて、そして思った。
公爵家の令息に言い過ぎだと思ったのだが、女性は相手によって天使にも悪魔にも変わるのよ。
ロディス様相手だと、優しい天使に私はなるの。
でも、ヴァルド様相手だと、悪魔になるわ。
マディ伯爵夫人が訪ねてきた。
「レンディアを許してあげて頂戴。悪気はなかったのよ」
「それは出来ません。私は私の人生があります。私に嘘をつき、害を与えるレンディアとお付き合いは出来ません。もう面倒も見られません。
レンディアの人生の為にも。どうかマディ伯爵夫人。レンディアが自分の足でしっかりと歩いていけるように、導いてあげて下さいませ。私はそれを遠くから見守っておりますわ」
ここでしっかりとしておかないと。
レンディアの為にも、そして自分の為にも。
レンディアが隣国へ留学するという話が決まった。
小さな花束をシャルク伯爵家の門番に渡し、レンディアは雨の降る朝に馬車で隣国に旅立った。
レンディアが置いていった小さな花束。
遠い日にレンディアに作ってあげた小さな花束を思い出す。
あの頃は楽しかったわね……
ミレーシアはその小さな花束を大切に、枯れないように加工してしまっておくことにした。
許せない友達。でも、ずっと一緒にいたわ。離れてしまったらサビシイ。
でも、いつかきっと、一緒にお茶が出来る日が来るといいわね……
ロディスが豪華な花束を持って訪ねて来た。
オシャレをしてロディスを出迎える。
私は自分の足でしっかりと人生を歩いていくわ。
愛しい人を迎える為に急ぎ足で階段を下りていくミレーシアの心は幸せに満たされているのであった。




