第七十二話:運営神(ディベロッパー)は二度笑う
アルエドの最先端エンターテインメントとして、リザとファリアを虜にしているオンラインゲーム『ワールド・オブ・パッチ』。そのあまりの完成度と、プレイヤーの挙動を先読みしたかのような絶妙なゲームバランスの裏には、アルエドが誇る「最強の知性」の影があった。
「……ねぇ、カイル。リザ姉さんの覇気、今のアップデートで少しだけ下方修正した方がよくない? サーバーの負荷が物理的に限界だよ」
「ダメだよルナ。リザ姉さんのプレイスタイルは『野生の直感』がベースだから、下手に数値をいじると『このゲーム、なんか私の筋肉と同期してないわね』って気づかれちゃう。それより、ファリアさんのデバフ範囲を0.01ミリだけ広げて、二人の連携をより『美しく』見せる調整をしよう」
アルエド中央管制塔の一角。そこには、数千枚の浮遊モニターに囲まれ、神のような手つきでコードを書き換える双子、カイルとルナの姿があった。
そう、この世界を熱狂させているゲームの正体は、双子が「アルスの物理学」を応用して作り上げた、『次世代型・国民統治(ストレス解消)シミュレーター』だったのである。
「……二人とも、そこまでにしておきなよ」 自動ドアが開き、アルスが差し入れの「魔力エナジードリンク」を持って現れた。
「「あ、お兄ちゃん!」」
「リザ姉さんたちが熱中しているのはいいけれど、運営が身内だとバレたら、姉さんの槍が物理的にこのサーバーを貫通することになるよ。……計算したかな?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん! 運営の名前は『チーム・双子星』にしてるし、僕たちの正体は暗号化パッチで完全に隠蔽してるから」 ルナが自信満々に胸を張る。
「それにね、お兄ちゃん。このゲームを通じて、僕たちは五十万人の新市民たちの『不満』や『欲望』をデータ化して、政策の最適化に役立ててるんだ。リザ姉さんとファリアさんは、いわば最高精度の『デバッグ・ユニット』なんだよ」
「……なるほど。遊びの中に統治の演算を組み込むとは。……君たち、僕の教えを効率的に使いすぎだね」 アルスは眼鏡を拭きながら、双子の成長に(少しの恐ろしさを伴う)感銘を受けていた。
その頃、ゲーミングルームでは——。
「ファリア! 見て、新しいイベントボスが現れたわ! ……でも、なんだかこのボスの動き……カイルの魔法のクセに似てない?」 リザが鋭い直感で画面を睨む。
「……言われてみれば、このトラップの配置……ルナの悪戯のパターンに一致するわ。……アルス、この運営、私たちの身近にいる『バグ』かもしれない」
「……特定、開始。……運営の正体、暴いてやるわ」 地雷系ゲーマー魔女の瞳が、解析モードで怪しく光った。
最強のプレイヤー(姉と魔女) vs 最強の運営(双子)。 アルエドの平和な日常は、今や身内同士の高度な情報戦(サイバー戦)へと突入しようとしていた。




