第七十話:無色のゲーマーと、地雷系の「演算」
無色の魔女ファリアがアルエドの「利便性」に屈服してから数週間。彼女の引きこもり生活は、アルスの予想を遥かに超える方向へと「最適化」されていた。
「……ファリアさん。君の部屋から漏れ出ている魔力波形が、最近妙に攻撃的というか、独特なリズムを刻んでいるんだけど……」
アルスがシルフィを伴って彼女のスイートルームを訪れると、そこには極東の絶域にいた頃の「無色」な影も形もない光景が広がっていた。
部屋は遮光カーテンで完全に密閉され、無数のモニターが怪しく明滅している。かつての透き通るようなドレスを脱ぎ捨てたファリアは、黒とピンクを基調としたフリルとリボンが過剰な装束――いわゆる「地雷系」のファッションに身を包んでいた。
「……遅いわよ、アルス。今、ランクマッチの最中なんだから」
ファリアはヘッドセットを装着し、超高速で魔導キーボードを叩いている。その目元には、アルスが解析した「物理的な泣きぼくろ(メイク)」が施され、手首には無数の黒いリボンが巻かれていた。
「シルフィ、あのファッションの意図を演算できるかな?」 「……アルス様。彼女の深層心理を解析するに、『一度色を失った反動で、最も極端な配色と重い感情の装飾』を求めた結果だと思われます。また、あの服装は『自分のテリトリーに踏み込む者を拒絶、あるいは依存させる』という地雷系の特性が、彼女の『無の領域』と親和性が高かったようですわ」
「……なるほど。地雷、という物理デバイスを概念的に纏っているわけか。合理的だね」
ファリアは、相手チームを「絶対停滞」のパッチで一方的に蹂躙しながら、エナジードリンク(アルスが魔界の薬草で開発した『高濃度魔力飲料』)をストローで啜る。
「……アルス、このゲーム、バグがあるわ。私の反応速度にサーバーが追いついていない。物理的に、光速の壁を突破する回線を引いてちょうだい。……あと、この服に合う厚底のブーツも。もっと重力が感じられるやつがいい」
「……やれやれ。極東の支配者が、今やオンラインゲームの頂点を目指しているとは。……シルフィ、彼女専用の『超高速・光子通信パッチ』を準備して。ついでに、彼女の地雷系ファッションを量産して、アルエドの新しいブランドとしてガブリアスやマジルカへ輸出しよう。……流行の演算、開始だ」
かつての絶望の魔女は、今やアルエドの流行発信地にして、ネット世界の守護神へとアップデートされた。
「……勝ったわ。……アルス、とんかつ持ってきて。……あ、キャベツ抜きで。……病んじゃうから」
「……それは栄養学的に非効率だよ、ファリアさん」
アルスの呆れ顔を余所に、地雷系ゲーマー魔女の夜は、紫色のモニターの光の中に更けていくのであった。




