表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/76

第六十八話:無色の魔女と、絶対停滞の檻

レイヴンの覇気が黒い霧を切り裂き、リザの槍が空間を震わせる。しかし、極東の絶域・「うつろ」に潜むモノクロームの軍勢は、倒しても倒しても、インクが滲むように再び形を成した。


「……おかしいわね。手応えはあるのに、存在そのものを消しきれない!」 リザが焦燥を滲ませたその時、世界の「色」が完全に消失した。


『……騒がしいわね。理の光を持ち込む、野蛮な客人ゲストたち』


霧の奥から現れたのは、白でも黒でもない、透き通るような「無色」のドレスを纏った一人の少女だった。 長い銀髪は重力を無視して揺らめき、その瞳には感情の演算回路すら存在しない。彼女こそが、この絶域の主――無色の魔女「ファリア」。


「ターゲット確認。……シルフィ、解析を」 「アルス様、不可能です! 彼女の周囲は『時間の熱力学第二法則』が逆転していますわ。存在するだけで、周囲のエネルギーをゼロ……絶対零度以下の『無』へ引き込んでいるのです!」


ファリアが静かに指を鳴らす。 瞬間、猛然と突き進んでいたレイヴンとリザの動きが、まるで絵画の中に閉じ込められたように完全に静止した。


「父上! 姉さん!」 「無駄よ、アルス。彼らの『時間軸』を私の領域に固定したわ。五百年ほど、そのポーズで風景の一部になっていてもらうわね」


最強の武力であった二人が、戦うことすら許されず戦線離脱。 アルスは初めて、物理学的な「詰み」に近い状況に直面した。ファリアの能力は、法則を書き換えるのではない。法則そのものを「無効化」し、静止させる力だった。


「……なるほど。僕のパッチは、動き(運動)があることを前提に組まれている。君のように、すべてを『静止画』にする存在は、確かに天敵バグだね」


アルスは眼鏡の奥で、かつてない超高速演算を開始した。 視界からは色が消え、頼れる背中も失われた。一人残されたアルスは、冷徹な魔女の視線を真正面から受け止める。


「でも、ファリアさん。君の『無』の世界には、一つだけ欠陥がある。……何も動かないということは、君自身も『変化』を受け入れられないということだ。それは、君がこのとんかつの『揚げたてのサクサク感』を一生理解できないという、物理学的な不幸を意味するんだよ」


「……とんかつ……? サクサク……?」 初めて、無色の魔女の無機質な瞳に、微かな「ノイズ(興味)」が走った。


「そう。僕の理が届かない場所があるなら、僕が新しい理を『代入』するだけだ。……シルフィ、演算リソースをすべて『概念実体化』へ回せ。彼女の静止した時間を、僕の『食欲』という熱量で強制起動させる!」


最強の盾と矛を失い、一人で魔女に立ち向かうアルス。 極東の絶域は、物理学者と無色の魔女による、概念上書き(フォーマット)合戦へと突入した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ