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第六十四話:胃袋の最適化と、黄金の「ライス・プロジェクト」

五十万人の新市民を受け入れたアルエドにおいて、アルスが直面した最大の課題は、都市インフラでも軍事力でもなく、「カロリーの供給」であった。


「……シルフィ、現在の食料自給率の試算を出して。魔界からの輸入と、ガブリアスからの献上だけでは、五十万人が健康に、かつ『幸福に』活動し続けるには三割足りないね」


「はい、アルス様。特に主食となる穀物の不足が深刻ですわ。自由国家ランクルからは麦を輸入していますが、価格の変動幅が大きく、アルエドの経済安定性を損なうリスクがあります」


アルスは眼鏡を指で押し上げ、全世界の土壌・気候データをホログラムで展開した。 「麦は効率が悪い。僕が求めるのは、一粒あたりのエネルギー密度が高く、かつミーナの料理を最大限に活かせる食材……。そう、『米』だ」


世界食料事情の調査報告(アルス・パッチによる分析)

自由国家ランクル: 大規模な麦作地帯。しかし、過度な商業化により土壌の魔力枯渇が始まっている。


聖王皇国アシュタリア: 聖水を用いた高品質な果実や野菜。だが、大量消費には向かない「高付加価値型」。


サンライズ王国: 沿岸部で僅かに行われている稲作。しかし、品種が古く、収穫量(歩留まり)が極めて低い。


ドミニアン帝国: 寒冷地が多く、根菜類がメイン。主食とするには熱量が足りない。


「……決まったね。サンライズ王国の古い稲の遺伝子(魔力コード)をベースに、物理学的に最適化した『ハイブリッド・ライス』を開発する。これを新市民たちの手で、アルエドの未踏地へ植えるんだ」


計画名:黄金のライス・ロード

アルスは即座に、五十万人の新市民の中から「マジルカの魔導士」と「ダリルの工作部隊」を招集した。


「マジルカの諸君、君たちには水田の『魔力水・循環パッチ』の管理を任せる。 ダリル、君の部隊は、この広大な湿地帯を一週間で完璧な『段々畑』に作り変えてくれ。 そして、ガブリアスの獣人たちは、その脚力で害虫を物理的に駆除キックするんだ」


アルス自身は、サンライズ王国から取り寄せた数粒の種籾に、自らの物理演算を流し込んだ。 「……細胞分裂速度を十六倍に固定。光合成のエネルギー変換効率を限界まで引き上げ、魔力を直接『旨味成分』に置換する。……名称、『アルエド一号・きわみ』」


数日後。 アルエドの北部に広がる湿地帯は、ダリルたちの超高速土木工事によって、幾何学的に美しい広大な水田へと変貌していた。 そこに、マジルカの魔導士たちが精密に温度管理した魔力水が流れ込み、アルスが調整した種籾が蒔かれる。


「見て、アルス様! もう芽が出てきたわ! 聖なる光で浄化した水が、お米さんたちを喜ばせているみたい!」 リーズが聖女の力で水質をさらに安定させると、稲は目に見える速さで成長し、数日で辺り一面を黄金色に染め上げた。


「……計算通りだ。これで五十万人分の炭水化物は確保できた」


収穫されたばかりの「アルエド一号」を、魔界から帰還したミーナが巨大な羽釜で炊き上げる。 炊き上がった米は、一粒一粒が真珠のように輝き、立ち上る湯気には脳を直接揺さぶるような甘い香りが漂っていた。


「……何だ、この食べ物は! 噛むたびに魔力が溢れ、力が湧いてくる!」 獣王ガブリアスが丼を抱えて咆哮し、アクエラの民は「これなら海の中でも力が抜けない!」と歓喜した。


「……ふぅ。これで食糧危機という『バグ』は修正完了だ。シルフィ、次は余剰分を世界中に輸出するパッチを組もう。……あ、サンライズ王国の国王にも一俵送っておいて。『これが、君が送り出した土地の収穫だよ』ってね」


食を制したアルエド。 それは、武力でも経済でもなく、「胃袋の幸福」という最も抗いがたい理で、世界を真の意味で統一し始めたのであった。



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