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第六十三話:五十万人の「産声」と、魔導スマートシティ建設パッチ

アルエドの領土は、ガブリアス、アクエラ、マジルカ、そしてダリルの軍勢を飲み込み、一気に五十万人の新市民を抱える巨大勢力へと膨れ上がった。


しかし、アルスにとってこれは「栄光」ではなく、純然たる「負荷」だった。 「……旧来の都市設計では、五十万人の排泄物処理と魔力供給のラグ(遅延)だけで、数年以内に環境崩壊が起きるね。シルフィ、現在の建築リソースの状況は?」


「はい、アルス様。ダリル氏率いる五千人の工作部隊が、既に旧魔王領の北西部に広がる荒野の整地を開始しています。ですが、建材の供給が追いつきませんわ」


アルスは眼鏡を指で押し上げ、メインモニターに映る荒野の3Dマップを眺めた。 「建材を運ぶのが非効率なら、その場で『生成』すればいい。……カイル、ルナ、出番だよ」


数日後。新市民たちが集まる広大な荒野に、アルスたちが降り立った。 そこには、獣王ガブリアス、アクエラの海皇、マジルカの魔導士たち、そして汗を流すダリルの男たちが、アルスの「神業」をひと目見ようと集結していた。


「いいかい、これから君たちの住む場所を『最適化』する。……演算開始。物質再構成パッチ、適応範囲:半径二十キロメートル」


アルスが地面に手を触れた瞬間、地中から凄まじい光の幾何学模様が走り出した。 アルスの物理演算により、地中の土砂や岩石が分子レベルで組み替えられ、瞬く間に白い硬質の「魔導コンクリート」へと変質していく。


「な、なんだこれは……!? 建物が地面から生えてくるだと!?」 獣王ガブリアスが目を見開く。


アルスが設計した「魔導スマートシティ」は、ただの街ではない。


全自動・魔力給湯システム: 全世帯に魔界の熱源を最適化したお湯が届く。


重力制御・多層建築: アクエラの民のために、階層ごとに気圧と湿度が自動調整される。


マジルカ式・共鳴通信網: 街全体が巨大なアンテナとなり、一瞬で全世界のニュースと繋がる。


「……よし。これで五十万人分のインフラは整った。次は、彼らの『仕事』の分配だ。獣王、君の部下たちはその強靭な足腰を活かして、大陸全土を繋ぐ『魔導ハイウェイ』の警備と輸送を任せる。アクエラの民は、アルエドの水質管理と海洋資源の採掘だ」


「ははっ! 我が牙、アルス君主の『利便性』のために捧げよう!」


ダリルの山賊(元)たちには、各戸に配置された「全自動・ゴミ収集ポッド」のメンテナンスと、物流のラストワンマイルを担うライセンスが与えられた。


「……ふぅ。これで一通り、システムの初期設定は終わったかな」 汗一つかかず、五十万人の生活基盤を一瞬で作り上げたアルス。その背後では、上級天使セラフィエルが「……この街のWi-Fi速度、天界より速いわね。延泊決定だわ」と、スマホのような魔導端末を操作しながら呟いていた。


しかし、この急速すぎる「進化」は、世界の裏側に眠る「古き神々の理」を刺激し始めていた。


「アルス様、演算にノイズが入っています。……極東の未踏地、ドミニアン帝国のさらに先から、我々のパッチを『拒絶』する異常な魔力反応が観測されましたわ」 シルフィの声に、アルスの瞳が鋭く光る。


「……物理学が通用しない『バグ』かな。面白い。……次のパッチ、準備しておいて」


世界一の人口を抱えたアルエド。その繁栄は、新たな「世界の歪み」を引き寄せようとしていた。

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