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第六十一話:賢王の誤算と、君主国家アルエドの「回答」

「君主国家アルエド」の建国とG6会談の成功により、世界経済のハブとなった魔王領。 かつてアルスを魔王に任命し、この地へ送り出したサンライズ王国の国王は、執務室で自らの「先見の明」がもたらした、あまりにも巨大すぎる結果を噛み締めていた。


「……アルスよ。余は確かに、お前の『物理』という未知の理こそが、魔の蔓延る未開の地を切り拓き、我が国に利をもたらすと確信して任命した。だが……まさか、たった数年で魔王領を独立国家へ変え、天界と魔界までをもその経済圏に飲み込むとは、流石に計算が過ぎるぞ」


王の心中は複雑だった。自分の人事異動は正しかった。最高に正しかった。しかし、その「元部下」は今や、サンライズ王国という枠を完全に飛び出し、世界のシステムそのものを統治する「対等以上の君主」になってしまったのだ。


王都で行われたG6後の個別会談。 かつて魔王任命の書状を手渡した時と同じように、王はアルスと対峙した。


「アルス・ローベント。……いや、今はアルエド君主と呼ぶべきか。見事だ。余が命じた『開拓』どころか、お前はこの世界の秩序そのものを物理学で再構築してしまったな」


「陛下。僕をあのタイミングで、最も実験データが豊富で、かつ未整備だった魔王領へ任命してくれたこと、今でも感謝していますよ。陛下が僕の能力を信じて、あの環境を与えてくれたからこそ、今のアルエドがあります」


アルスは淡々と、しかし確かな敬意を込めて告げた。王はその言葉に満足げに頷いたが、手元に並ぶ「アルエドへの依存度が記された統計資料」を見て、ため息をついた。


「感謝、か。だがアルスよ、余はお前を『王国の切り札』として送り出したつもりだったのだ。だが蓋を開けてみれば、我が国の魔導列車も、通貨価値も、今やアルエドの管理サーバーなしでは一時間も維持できん。……余は、お前という存在は世に出すつもりはなかった……が、いつの間にか『世界の管理者』を誕生させてしまったようだ」


王は、自分が放った矢が、世界中を射抜いて自分たちを保護ホールドしている現状を悟っていた。


「陛下。それは非効率な考え方ですよ。サンライズ王国は、アルエドにとって最も信頼のおける同盟国です。ただ……」


「ただ……?」


「国家間の取引に『昔のよしみ』は通用しません。陛下も、来月から導入される『全世界共通・納税自動化パッチ』の承認、遅れないようにお願いしますね。サンライズ王国の役人たちは、まだ少し旧来の手続きに固執しているようですから」


「……っ。やはりそう来るか。お前の前では、王としての威厳も『計算の遅れ』で片付けられてしまうな」


王は、アルスの徹底した合理性と公平さに、苦笑しながらも降参するように判を押した。 かつて自分が目をかけ、戦略的に魔王へと押し上げた若者は、今や自分が泣き寝入りするしかないほどの高みへと至った。


「……分かった、アルスよ。余はお前の創る新しい世界に、一人の盟友として付いていくとしよう。だが、たまには『元・上司』の愚痴くらい、コーヒー一杯の間に聞いてくれ」


「……検討しておきます。そのコーヒーの温度管理パッチ、最新版を送っておきますね」


王は、あまりにも有能になりすぎた「元・部下」を前に、深い信頼と、ほんの少しの(利便性に振り回されることへの)嘆きを抱えながら、会談を終えたのである。

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