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第五十五話:自由国家の狡知と、計算通りの交易同盟

サンライズ王国の国王が空回りを続ける一方で、大陸最大の経済圏を持つ「自由国家ランクル」の指導者、大統領ヴァン・クロムウェルは全く異なる動きを見せていた。


彼は、最強のSランク冒険者ジークが「温泉とパン」で骨抜きにされ、さらには伝説のシェフ・カロルまでもが魔王城に居座ったという報告を受け、確信したのだ。


「武力で抗うのは三流、背を向けるのは二流。超一流は、その強大な濁流に乗り、一番いい場所で網を張るものだ」


数日後。魔王領の正門に、これまでの訪問者のような威圧感や殺気を一切持たない、極めて洗練された一行が現れた。ヴァン大統領は、護衛すら最小限に留め、まるで旧友の家を訪ねるかのような軽やかな足取りで、アルスの前に立った。


「初めまして、新魔王アルス・ローベント閣下。自由国家ランクルのヴァンだ。いやぁ、噂通りの素晴らしい空気だ。我が国のジークが『帰りたくない』と駄々をこねる理由がよく分かる」


ヴァンは、アルスが差し出す前に、自ら特産の高級葉巻……ではなく、ランクルの最新経済統計が記された魔導タブレットを差し出した。


「挨拶代わりの手土産だ。貴殿の『物理学』による統治に、我が国の『資本力』を掛け合わせたら、どれほどの利益が出るか……興味はないかな?」


「……話が早い人は嫌いじゃないですよ、大統領」


アルスの眼鏡が鋭く光った。二人の「転生者」に近い合理主義者たちは、形式的な礼儀を数秒で終わらせ、即座に魔王城の応接室へと籠もった。


ヴァンがまず食い付いたのは、双子のカイルとルナ、そしてアイラが切り盛りする「冒険者ギルド」のシステムだった。


「驚いたな。この『リアルタイム生存率演算』と、アイラ嬢による『魔力バフ供給』の効率。これはもはやギルドではない、巨大な投資プラントだ。閣下、このシステムをランクル全域のギルドと『相互接続』しないか? 我が国の豊富な依頼クエストと、貴殿の安全管理能力を共有するんだ」


「なるほど。相互接続すれば、ランクルの冒険者は魔王領の最新装備をレンタルし、魔王領の冒険者はランクルの広大なフィールドへノーリスクでアクセスできる……。ギルド手数料は双方で折半、ですね」


「交渉成立だ。……それから、交易ルートについても提案がある」


ヴァンは、アルスが開発した「空間転移門ゲート」の権利に目を向けた。


「王都に設置したゲート、あれを我が国の商業都市にも繋いでほしい。もちろん、関税の優遇と、ゲート維持費の80%は我が国が負担しよう。その代わり、カロル氏が監修する『魔王領ブランド』の食材を、我が国が独占的に流通させる権利を頂きたい」


「ふむ……。物流の効率化は、僕にとっても最大の関心事です。ただし、ゲートの管理OSは僕が握りますよ。ランクルの商人が変なものを持ち込まないように、分子スキャンを義務付けます」


「ガハハ! それでこそ魔王閣下だ。信頼ではなく、システムで縛る。実に素晴らしい!」


二人が恐るべき速度で契約書を作成している間、城内では他のメンバーたちが自由国家からの「お土産」を楽しんでいた。


「リザ様、見てください! ランクルの特注ウェイトです。重力操作石が埋め込まれていて、一瞬で十倍の重さになりますわ!」 「最高じゃない、ヴァン大統領! 分かってるわね、今度の合同演習が楽しみだわ!」


聖女リーズは、ランクルの最新化学洗剤(アルスの論文を元に開発されたもの)を手に取り、「これで、お義父様の頑固な汚れも一撃です!」と、目を輝かせていた。


数時間後。ヴァン大統領は、山のような「共同事業契約書」を抱え、満足げな笑みを浮かべてゲートへと向かった。


「いやぁ、実りある挨拶だった。アルス閣下、近いうちに我が国の議会でも講演してくれ。……あ、お土産に貰ったミーナ殿のパン、帰りの馬車で全部食べてしまいそうだ」


「ちゃっかりしてますね、大統領。……でも、これで魔王領の経済圏は、事実上大陸の半分を支配したことになります」


ヴァン大統領は、表面上はただの「気のいい観光客」のように振る舞いながら、その実、魔王領という巨大なエンジンの「一番いい燃料パイプ」を自国に繋ぎ変えて帰っていったのである。


「……計算通りだね、アルス様。でも、あの大統領、少しだけ父上に似た『したたかさ』を感じます」 シルフィの言葉に、アルスはノートを閉じながら小さく笑った。


「敵対するより、共に儲ける。それが一番の平和維持装置だよ。……さて、カイル! ルナ! アイラさん! 明日からランクルの冒険者が一千人単位で押し寄せるぞ。受付の処理能力を二倍に引き上げるパッチを当てるから、準備して!」


「「えええええっ!? お兄ちゃん、急すぎるよ!」」 「いいわ! カイル様との愛の共同作業が倍になるってことね! 受けて立つわ!」


自由国家との交易開始。 それは魔王領が「一地方の勢力」から、世界の「経済的中心」へと、物理法則を書き換えるが如き速度で飛躍する瞬間であった。

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