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第五十話:深紅の来訪者と、双子ギルド長の受難

魔王領の日常を揺るがしたのは、空を真っ赤に染め上げるほどの膨大な魔力の奔流だった。魔王城の謁見の間に設置された「魔力密度測定器」が、警告音を鳴らす間もなく振り切れる。


「……あら、この傲慢で騒がしい魔力特性。心当たりがありますわ」


リリスが紅茶のカップを置くと同時に、空間が物理的に引き裂かれた。そこから現れたのは、リリスと同じ深紅の瞳を持ちながらも、より挑戦的な笑みを浮かべた少女――リリスの妹、アイラであった。


「お姉様! 相変わらずこんな辺境の地で、人間とおままごとを楽しんでいらっしゃるのね!」


アイラは周囲の近衛兵(物理学パッチ済みの魔族たち)を一瞥もせず、優雅な足取りで玉座へと近づく。しかし、その視線はある一点で釘付けになった。アルスの傍らで、ギルドの収支報告書を広げていた双子の兄、カイルである。


「……あら? あそこにいる小柄な殿方はどなた? 秩序(物理)と混沌(魔力)が完璧な比率で混ざり合った、この上なく美しい魂の輝き……。お姉様、あの『至宝』をどこで手に入れたの!?」


アイラはリリスへの挨拶もそこそこに、カイルの前へと瞬間移動した。カイルが「……え?」と声を漏らす暇もなく、アイラはその小さな手を握りしめ、顔を至近距離まで近づける。


「決めたわ。貴方、私の『伴侶おもちゃ』になりなさい。今すぐ魔界へ連れて帰って、永遠に私の側で計算を続けさせてあげる!」


「ちょ、ちょっと待ってください! ボクはギルドの仕事があるし、それに……!」


カイルが困惑してアルスに助けを求めるが、アイラの愛は暴走特急のようだった。彼女は魔界の王族特有の「所有権の呪印」を刻もうと魔力を高める。だが、その指先がカイルに触れる直前、見えない壁に阻まれた。


「……悪いけど、アイラさん。うちのギルド長を勝手に引き抜かれると、魔王領の経済が15%は停滞する計算なんだ。許可できないね」


アルスが眼鏡を光らせ、手元の端末で「魔力反転障壁」を展開していた。


「生意気な人間ね……。お姉様をたぶらかした物理学者とは貴方のこと? 私の愛を邪魔するなら、この城ごと灰にしてあげましょうか?」


アイラが指を鳴らそうとした瞬間、背後に凄まじい「圧」が立ち昇った。


「あらアイラ、随分と威勢がいいわね。でも、アルスとカイルに手を出そうっていうなら……お姉ちゃん、ちょっと本気で怒っちゃうわよ?」


リザが愛用の木剣(という名の鈍器)を肩に担ぎ、ニコニコと笑いながら歩み寄る。さらにその後ろでは、レイヴンが「ガハハ! 賑やかな身内が増えたな! 嬢ちゃん、挨拶代わりの一撃、受けてみるか?」と、大地を震わせるような覇気を放っていた。


「……な、何なのよこの人たち……。物理法則が私の魔力を押し返してる!? それにその男……人間なのに、なんで魔神クラスの威圧感を出しているのよ!」


アイラが戦慄していると、双子の妹であるルナがカイルの前に立ちはだかった。


「……お兄ちゃんにベタベタしないで。お兄ちゃんのスケジュールは、来月の末までルナが管理してるの。予約がない人の割り込みは、物理的に排除するよ」


ルナが指をさすと、アイラの足元の重力が局所的に十倍に跳ね上がった。


「くっ……! 面白いわ、この『家族』……。いいわ、力尽くで奪えないなら、実力で認めさせてあげる! 私も今日からここで暮らすわ! カイル、覚悟なさい! 貴方の数式を、私の愛で塗りつぶしてあげるんだから!」


こうして、魔王城に新たな「嵐」が定着した。 アイラは、カイルがギルドで仕事をしている横に陣取り、「その計算は非効率だわ! 魔界の秘術を使えば一瞬よ!」と魔力を撒き散らし、それをルナが「演算の邪魔」と一蹴し、最終的にアルスが「二人とも、この魔力発電機に力を流して」と、彼女たちの言い争いをエネルギー源として回収する。


「……アルス様。リーズちゃんの時もそうでしたが、このお城、どんどん『最強の身内』で溢れかえっていきますね」


ミーナが、アイラのために新しく用意した「魔界激辛オムライス」を運びながら苦笑する。


「いいじゃないか。多様な変数が混ざり合う方が、予測不能で面白い。……ただ、カイルの胃腸の健康管理パッチだけは、少し強化しておかないといけないね」


カイルを巡る、ルナとアイラの「妹&義妹」戦争。 そして、それを見守りつつエネルギーとして利用する兄。 物理学者アルスの統治する魔王領は、また一段と賑やかで、そして「騒がしい」日常を更新していくのであった。

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