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第四十八話:三ツ星の矜持と、転生者同士の晩餐会

魔王領が「超高効率ギルド」の運用で活気づく中、一人の男が魔王城の門を叩いた。


男の名はカロル。自由国家ランクルで、王族すら数ヶ月待ちという伝説のレストランを営む若き天才シェフである。しかし、彼には誰にも明かしていない秘密があった。前世は地球で三ツ星レストランの総料理長を務めていた記憶を持つ、転生者だということだ。


「……間違いない。この『全自動・分子調理器』のような魔導具、そして効率化された街の導線。この国の主、アルス・ローベントは、僕と同じ『向こう側』の人間だ」


カロルは、使い込まれた包丁セットを背負い、不敵な笑みを浮かべて城内へと足を踏み入れた。


アルスが謁見の間で対面したカロルは、これまでの訪問者とは放つ空気が違っていた。教皇のような威圧感でも、ジークのような殺気でもない。それは、一つの道を極めた「職人」だけが持つ、鋭くも澄んだ静寂だった。


「初めまして、新魔王アルス様。……いや、あえてこう呼ばせてもらおうか。『同郷の士』よ」


カロルの言葉に、アルスの眼鏡がわずかに光った。


「……やっぱり、君もそうなんだね。自由国家ランクルの三ツ星シェフ。君の作る料理が『この世界のことわりを超えている』という噂は、僕の演算データにも入っていたよ」


「理屈はいい。僕は、僕以外の誰かがこの世界を便利に書き換えているのが我慢ならなくてね。……どちらの『文明』が、よりこの世界を豊かにできるか、料理で勝負といこうじゃないか」


カロルの挑戦状に、城内は一気に沸き立った。 「面白いわね! アルスの作った調理器具と、三ツ星の腕。どっちが美味しいか決めようじゃない!」 リザ姉さんが拳を鳴らし、食いしん坊の白虎も期待に胸を膨らませて「にゃーん!」と鳴く。


こうして、魔王城の厨房を舞台に、前代未聞の「転生者対決」が幕を開けた。


アルスは、自ら開発した「超音波抽出機」と「高精度温度管理パッチ」を駆使し、食材の旨味成分を科学的に最大化する。対するカロルは、魔法を一切使わず、前世で培った神業のような包丁捌きと、火加減の「感覚」だけで挑む。


「アルス、君の料理は完璧な『正解』だ。だが、料理には数式では測れない『サプライズ』が必要なんだよ」


カロルが作り上げたのは、魔界の稀少なキノコと、リザが狩ってきた魔獣の肉を用いた「デミグラス・ラグー」だった。 その香りが漂った瞬間、実況席にいたリーズとシルフィが、あまりの香ばしさに理性を失いそうになる。


「……なんて香ばしさ。アルス様の料理が『究極の清潔』だとしたら、カロルさんの料理は『魂の揺さぶり』です……!」


いざ、試食。 審査員は、味にうるさいリリス、食の権威(自称)のレイヴン、そして中立な立場のジークだ。


アルスの「物理学スープ」を一口飲んだレイヴンは、「……旨い。細胞の一つ一つに栄養が染み渡るようだ」と感嘆する。 しかし、続いてカロルの「ラグー」を口にした瞬間、レイヴンの目から涙が溢れた。


「……これは、なんだ。懐かしい……いや、知らないはずなのに、故郷の夕焼けを思い出すような、圧倒的な熱量だ……!」


リリスもまた、スプーンを置けずにいた。 「アルスの料理は『毎日食べたい完成形』。でも、この方の料理は『人生で一度は出会うべき奇跡』……。甲乙つけがたいわ」


結果は、引き分け。 しかし、二人の転生者の間には、勝敗を超えた絆が芽生えていた。


「完敗だよ、カロル。僕の計算には『思い出の味』という変数は組み込まれていなかった」 「いや、アルス。君の調理器具がなければ、この世界の食材をここまで引き出すのにあと十年はかかっていたよ。……どうだい、僕と一緒に、この魔王領に『世界最高のレストラン学校』を作らないか?」


物理学者と三ツ星シェフ。 二人の転生者が手を組んだことで、魔王領の「食」のレベルは、神の領域へと突入することになった。


「カイル、ルナ! 次のクエストは『幻の調味料』の探索だ! 報酬は、カロルさんの特製フルコースだよ!」 「「おー!!」」


双子ギルド長が元気に叫び、魔王城にはまた一つ、新しい笑顔の種が蒔かれた。 しかし、そんな賑やかな宴の影で、アルスはカロルから渡された一つのメモをじっと見つめていた。


『アルス。この世界には、僕ら以外にも「神の気まぐれ」で呼ばれた奴らが、まだいるかもしれない。……気をつけてな』


新たな転生者の登場は、平和な魔王領に、さらなる波乱と進化の予感を運んでくるのであった。

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