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第四十七話:双子ギルド長と、魔王領冒険者ギルド「物理の門」

魔王領が世界一の観光地へと変貌しつつある中、アルスは新たな組織の設立を宣言した。それは、人類領の常識を覆す全く新しい形態の「冒険者ギルド」である。


「……というわけで、今日からこの『魔王領冒険者ギルド』の運営を、カイルとルナに任せるよ。二人の教育にもちょうどいいし、何より、既存のギルドの非効率なシステムを変えたいんだ」


アルスの言葉に、十歳になった双子は目を輝かせた。彼らはアルスから直接「物理学の初歩」と「魔力演算」を叩き込まれた、いわば次世代のエリートである。


「お兄ちゃん、任せて! ボクが効率的なクエスト配分システムを作るよ!」 「ルナは、冒険者の『安全管理(物理的防護)』を担当するね。……死なれたら、お掃除が大変だもん」


こうして、伝説のSランク冒険者ジークが見守る中、世界で最も「合理的」なギルドが産声を上げた。


初日に詰めかけたのは、魔王領の噂を聞きつけたランクルの冒険者や、職を求めていた腕利きの魔族たちだ。しかし、彼らがそこで目にしたのは、従来のギルドのような「荒くれ者が酒を飲む酒場」ではなく、まるで精密機械の制御室のような光景だった。


「はい、次の方。君、ランクCの剣士だね。……筋肉の付き方と可動域から見て、今の君に『火竜の討伐』は無理だよ。生存率は0.3%だね。代わりに、こちらの『高密度魔石の採掘(重力加速度パッチ付き)』なら、効率よくレベルが上がるし時給も高いよ」


カイルが、アルス特製の「戦闘力演算ゴーグル」を光らせながら、ベテラン冒険者に淡々と指示を出す。


「な、なんだと……!? 俺の長年の勘を、そんなガキの数字で決めつけるな!」


激昂した冒険者がカウンターを叩こうとした瞬間、隣にいたルナが指をパチンと鳴らした。


「……あ、危ないよ。カウンターの材質は君の拳より硬いから、そのまま叩くと骨が折れる。……『斥力せきりょくシールド』展開」


空間がわずかに歪み、冒険者の拳はカウンターに触れる直前で、見えないクッションに押し返された。


「ひっ……!? なんだ、今の魔法は……」


「魔法じゃないよ、ただの反発エネルギーの制御。……あ、お兄ちゃん、この人の装備、金属疲労が溜まってるよ。リーズちゃん、浄化とメンテナンスお願い」


「はい! お任せください!」


ギルドの片隅に設置された「メンテナンス・コーナー」では、聖女リーズが清浄の力で防具の汚れを分子レベルで落とし、ハレルヤが「勇者の加護」を付与した砥石で剣を研ぎ澄ましている。


その様子を、温泉上がりのジークがミルクを飲みながら眺めていた。


「……ガハハ! ジーク殿、どうだ。うちのチビたちの仕切りは」 「……恐ろしいな、レイヴン。俺が今まで通ってきたギルドが、まるで原始時代の集会所に見えてくる。……死亡率の計算、装備の科学的整備、そして適正に応じたクエスト配布。これでは、冒険者が『消耗品』ではなく『資産』として管理されている」


ジークの言葉通りだった。双子が管理するこのギルドでは、「命を賭けた冒険」は「計算された事業」へと変貌していた。


ルナは、依頼の難易度を全て物理量(必要魔力出力、想定衝撃荷重)に変換して提示し、カイルは専用の通信魔導具を使って、フィールドに出ている冒険者たちにリアルタイムで「効率的な撤退経路」や「敵の弱点」を指示する。


「お兄ちゃん、北西の森でゴブリンキングと交戦中のパーティー、火力が足りないみたい。……空域の酸素濃度を下げて、酸欠で弱らせるように指示出して」 「了解。……えー、第12班、聞こえる? 今から僕が現場の酸素を操作するから、君たちは呼吸魔法を維持して。五分で終わるよ」


わずか数日で、魔王領の冒険者たちの生存率は跳ね上がり、収入は従来の三倍を記録した。


「……アルス様。これでは、冒険者たちが皆、お二人の手のひらで踊っているようですね」


リーズが感心したように言うと、アルスは満足げに頷いた。


「冒険を『運』に任せるのはもう古いよ。これからは『管理された自由』の時代だ。……でも、一番の成果は、双子が『自分たちの力で誰かを守る』という責任感を学んでくれたことかな」


その日の夜、ギルドの閉鎖作業を終えたカイルとルナは、アルスに駆け寄った。


「お兄ちゃん、今日の利益で、ギルド専用の『全自動・ポーション精製プラント』を作っていいかな?」 「うん。それから、冒険者さんたちがリラックスできるように、お姉ちゃんの『気合の入ったマッサージ』もメニューに加えたいの」


「……あ、最後のはやめておこうか。姉さんのマッサージは、物理的に冒険者の寿命を縮めかねないからね」


物理学者の兄が見守る中、双子ギルド長による「超・高効率冒険」の幕が開けた。 人類領のギルドマスターたちが、この「魔王領方式」の脅威に気づくのは、まだ少し先のことになる。

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