第四十一話:国境を越えてきた最強の親バカ
魔王城の平穏な朝を切り裂いたのは、地鳴りのような馬蹄の音と、聞き覚えのある豪快な笑い声だった。
「ガハハハハ! アルス! リザ! 迎えに来たぞ……と言いたいところだが、なんだこの城は! 飯の匂いが国境まで漂ってきたぞ!」
城の正門を蹴破る勢いで現れたのは、アルスたちの父親であり、現在は国境の領地を任されているレイヴンだった。鎧もつけず、愛剣一本を腰に下げただけの軽装だが、その放つ威圧感だけで、魔王城の衛兵たちが次々と道を空けていく。
「父上!? なんでここに……というか、国境の守備はどうしたんですか?」
アルスが呆れ顔で出迎えると、レイヴンは息子の肩を壊さんばかりの力で叩いた。
「なに、あんなところは部下に任せてきた! それより聞いたぞ、リザが大会で優勝したんだってなぁ。流石は俺の娘だ! お祝いに、実家から秘蔵の酒と極上の肉を持ってきたぞ!」
「お父様、早かったわね! ちょうどお腹が空いてたところよ」
リザが嬉しそうに駆け寄ると、レイヴンは娘を軽々と抱き上げた。そのまま城の中庭へと突き進み、勝手に宴会の準備を始めてしまう。
「おい、そこな金ピカの男! ぼさっと見てないで火を起こせ!」
「き、金ピカ……。僕のことか? 僕はこれでも人類の勇者ハレルヤで——」
「勇者だろうが何だろうが、ここでは俺の娘のパシリだろ! ほら、さっさと焼かんか!」
レイヴンの凄まじい気迫に押され、神級魔法の使い手であるハレルヤが「は、はいっ!」と反射的に敬礼し、必死に炭を熾し始める。その横では、魔王リリスが「……あの人が、アルスのお義父様?」と珍しく緊張した面持ちで、お辞儀の練習をしていた。
「リリス、そんなに固くならなくていいよ。父上は細かいことは気にしないから」
「そうはいきませんわ! お義父様に認められてこそ、真の嫁ですもの!」
レイヴンは、運ばれてきた魔力入りのパンを一口食べると、「なんだこの旨いもんは! 城ごと実家に持って帰りたいぐらいだ!」と大絶賛。そのまま、拾われてきた白虎を巨大な猫のようにわしゃわしゃと撫で回し、神獣のプライドを粉砕していく。
「ガハハ! アルス、お前が魔王だか何だか知らんが、賑やかでいいじゃないか。俺も今日からしばらくここに居座るからな!」
「いや、父上の領地はどうするんですか……」
アルスのツッコミも虚しく、レイヴンは持ち込んだ酒をあおり、魔族も勇者も巻き込んで宴会のボルテージを上げていく。理屈もへったくれもない、ただただ圧倒的な「父親」という嵐が、魔王城の日常をさらに激しく塗り替えていくのだった。




