第三十八話:魔王領最強決定戦・開幕
アルスが設計した特設闘技場。観客席には魔族と人間が入り混じり、実況席にはアルスとリリス、そして解説としてエルミさんが座っています。
「えー、本大会は『物理学パッチ』の使用を許可。ただし、闘技場が消滅しないよう僕が常に因果律を調整します。では、一回戦から始めよう!」
第一試合:【物理の尖兵】シルフィ vs 【神の代行者】ハレルヤ
勇者ハレルヤの「奇跡」に対し、アルスの物理理論を最も忠実に体現するシルフィが挑みます。
ハレルヤが聖剣を振るい、「必中の加護」を乗せた光の斬撃を放ちます。
対するシルフィは、杖を掲げて呟きます。
「『流体解析・反転境界』!」
彼女の周囲に、空気の密度を極端に変えた「屈折の壁」が出現。
光の斬撃は物理法則に従い、シルフィに触れる直前でグニャリと屈折し、背後の壁を直撃しました。
焦るハレルヤの足元で、シルフィが地面の分子振動を加速。
熱膨張による局所的な爆発がハレルヤを襲います。
ハレルヤは「神の盾」で防ぎますが、アルスのパッチで威力を「一点集中」させたシルフィの火球が、盾の原子結合を物理的に破壊し、ハレルヤを場外へ吹き飛ばしました。
「そこまで!勝者!シルフィ!」
「奇跡も物理現象に変換すれば怖くないわね」
第二試合:【冷徹なる神獣】白虎 vs 【元・魔族三将軍】バルトス
かつての魔王軍重鎮が、双子のペット(神獣)に意地を見せます。
「神獣とて幼獣! 我が魔斧の錆にしてくれる!」
バルトスが漆黒の魔力を込めた斧で地割れを起こします。
しかし、白虎は欠伸を一つ。
白虎の周囲で「分子運動の完全停止」が発生。
バルトスの斧が白虎に触れた瞬間、極低温による「低温脆性」で、伝説の魔斧がガラス細工のように粉々に砕け散りました。
「にゃーん」と一鳴き。
白虎が前足で地面を叩くと、絶対零度の衝撃波が走り、バルトスは一瞬で「芸術的な氷像」と化して沈黙。
「そこまで!勝者!白虎!!
「にゃふ」(おじさん、冷たくしてごめんね)
第三試合【次世代の調停者】カイル&ルナ vs 【王都の賢者】エレナ先生
僕の師匠エレナ先生が、双子を相手に教育的指導を行います。
エレナ先生が神級魔法「雷神の槍」を展開。対する双子は、手をつないで歌うように唱えます。
『「電磁誘導・アース」!』
ルナが地面の誘電率を操作し、カイルが雷のベクトルをすべて「地中」へと誘導。
先生の必殺魔法は、双子の足元を素通りして地面に吸収されてしまいました。
「先生、お返しだよ!」
カイルが光を屈折させて先生の視界を奪い、その隙にルナが先生の靴の「重力」だけを100倍に増加。
一歩も動けなくなった先生は、そのまま「……降参よ。もう教えることなんてないわね」と苦笑い。
「そこまで!勝者!カイル&ルナ!!」
「「兄さん姉さん以外に負ける気はしないね」」
第四試合:【物理の極致】シルフィ vs 【最強の理不尽】リザ姉さん
いよいよシード枠のリザ姉さんが登場。物理の結晶vs野生の気合です。
シルフィはアルス直伝の「真空断熱防壁」を展開し、リザの接近を阻みます。
さらに、空気中の酸素を一点に集め、超高熱のプラズマを姉さんに叩きつけました。
しかし、姉さんは「あついのは嫌いよ!」と叫び、木剣を扇風機のように回しました。
すると、プラズマが姉さんの「気合の風」で押し戻されるという、流体力学を無視した現象が発生。
姉さんが一気に距離を詰め、木剣をシルフィの杖に添えました。
「シルフィ、計算もいいけど、最後は『当てる』っていう気持ちよ!」
木剣から伝わる謎の振動が、シルフィのパッチを強制終了させ、シルフィはそのまま尻もちをつきました。
「そこまで!勝者!リザ!!」
「ふふ、こんなもんかしら」
決勝戦:【神獣】白虎 vs 【次世代】カイル&ルナ vs 【最強】リザ姉さん
最後は三つ巴の乱戦。もはや僕も計算を諦めるレベルの激突です。
白虎が闘技場全体を凍らせ、双子が重力と光を操って白虎を封じ込めようとします。
そこにリザ姉さんが「みんなまとめて、晩ごはんだから片付けるわよ!」と乱入。
双子の重力波を「重いわね!」の一言で弾き飛ばし、白虎の絶対零度を「寒いわよ!」という怒りで融解させました。
姉さんが大きく息を吸い込み、地面をドンと踏みました。 「はぁぁぁぁっ!!」 ただの衝撃波が、双子の魔法障壁も、白虎の神威も、すべて「物理的に」なぎ倒しました。
「決着!!優勝はリザー!!」
「……というわけで、第一回大会の優勝者は、リザ姉さんです。……エルミさん、物理学的に今の解説できる?」
「……無理よ、アルス殿。あれはもう『宇宙がリザちゃんに忖度している』としか言いようがないわ……」
神級魔法を使える人が数人しかいないこの世界で。 物理学者は、優勝賞品のマシュマロを頬張る姉の姿を見て、「最強」とは計算式の外側にあるのだと、改めて悟る(諦める)のでした。




