第二十七話:小さな「調停者」たち
リザ姉さんとミーナが最前線で暴れまわり、僕が裏で物理法則のパッチを当て続けていた、その時です。
『エルミ様、アルス兄様。……あんまりやりすぎると、大地の精霊が怒っちゃうよ?』
研究室の通信端末に、幼い、けれど凛とした声が割り込んできました。
「この声は……カイル? それにルナも!」
モニターを切り替えると、王都の城壁の上、リザ姉さんのちょうど真上に、二人の子供が浮いていました。 10歳になったカイルとルナです。 エルフの装束に身を包んだ二人は、かつての「暴走三歳児」の面影を残しつつも、エルミさんの教育によって神聖な空気すら纏っていました。
「カイル、ルナ! 貴方たち、森で修行してなさいって言ったのに!」 エルミさんが研究室で声を荒らげます。
『エルミ師匠、ごめんなさい。でも、兄様たちのやり方は「効率」と「気合」に偏りすぎて、このエリアの熱力学的な均衡が崩れかけています』
10歳のカイルが、僕の過去の発言を引用しながら冷静に指摘しました。 ……ぐふっ。僕の教育の残滓が、こんなところでブーメランになって返ってくるとは。
『カイルの言う通り。ルナたちが「お掃除」を手伝うね。……精霊さん、ちょっとだけ道を開けて』
ルナが祈るように手を合わせると、戦場に異変が起きました。 リザ姉さんが斬り伏せ、ミーナが吹き飛ばした魔王軍の残骸……。本来なら悪臭と呪いを撒き散らすはずのそれが、光の粒となって大地に吸い込まれていったのです。
『「浄化」——物質還元・再構成』
ルナが放ったのは、僕が教えた「物質の循環」と、エルミさんの「精霊魔法」が融合した未知の魔術でした。 倒した敵をエネルギーに変換し、味方の疲労を回復させ、さらに荒れた大地を一瞬で草原に変えていく。
『カイルも行くよ。——「ベクトル散乱」』
カイルが指を鳴らすと、魔王軍が放つ無数の矢や魔法が、まるで意志を持っているかのように軌道を逸らされ、空中で「花火」となって霧散しました。 僕のように重力で叩き潰すのではなく、最小限の力で「方向」だけを変える。
「……信じられない。あの子たち、わたくしが教えた精霊術を、アルス殿の物理学で『最適化(システム化)』して使いこなしているわ……」
研究室でエルミさんが絶句しています。 僕の「破壊的な物理」でもなく、エルミさんの「自然な魔法」でもない。 二人のいいとこ取りをした双子は、戦場を「管理」する、もっとも洗練された魔導師へと成長していたのです。
『姉様、ミーナ様。あとは私たちが綺麗にするから、思いっきりやっていいよ!』
双子のバックアップを得たリザ姉さんとミーナの攻撃は、さらに苛烈さを増しました。 もはや戦場は、一族による「大掃除」の会場と化しています。
『……ハハ。僕、もうパッチ当てる必要なくないかな?』
僕は研究室で、少しだけ寂しく、そして誇らしい気持ちで、モニターに映る「完成された次世代」を見つめるのでした。
神級魔法を使える人が数人しかいないこの世界で。 物理学者は、自分の理論をさらに美しく昇華させた弟妹の姿に、時代の移り変わりを感じずにはいられないのでした。




