表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/54

第二十一話:神級エルフ、三歳児の「概念」に戦慄する

三者会談の翌日。 エルミさんは「弟子の資質を見極めたい」と言い出し、中庭でカイルとルナの魔法を見ることになりました。 横では、昨日から泊まり込んでいるエレナ先生が、くまのひどい目で胃薬を飲みながら見守っています。


「さあ、カイル。ルナ。昨日お姉ちゃんに教わったみたいに、きらきらーってやってごらん」


僕が促すと、二人は「はーい!」と元気よく手を挙げました。 エルミさんは、余裕たっぷりに微笑んでいます。


「ふふ、三歳児ですものね。まずは精霊とどれだけ波長が合うか……。……えっ?」


エルミさんの笑顔が、カイルが魔力を練り始めた瞬間に固まりました。


カイルは、僕が教えた「酸化反応」と、リザ姉さんの「おいしくなーれ」を自分なりにミックスしていました。 彼の手の中に現れたのは、小さな火の玉……ではありませんでした。 それは、超高温のプラズマを磁場で無理やり球状に閉じ込めた、「極小の擬似太陽」でした。


「ぽかぽか、きらきらー!」


パァァァァッ!と、中庭が真昼のような光に包まれます。 あまりの光度に、エレナ先生が「目がぁぁ!」と叫んでのけぞりました。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! カイル君!? 今、貴方、精霊に頼まずに『大気そのものを燃料』に変換したわね!?」


エルミさんが、エルフにあるまじき大声でツッコミを入れました。 カイルは首をかしげて「え? ぽかぽか、酸素、ぎゅっだよ?」と無邪気に答えています。


「……アルスちゃん。貴方、弟に何を教えたのよ……。物理学で精霊をリストラするなんて、自然への冒涜ぼうとくだわ……」


「いや、僕はただ基礎代謝の効率化を……」


次に、ルナが動きました。 彼女はカイルよりもさらにお母様似で、魔力を「形」にするのが得意です。


「るな、きれいなの作るの! えいっ!」


ルナが指を鳴らすと、庭の池の水が吸い上げられ、幾何学的な結晶構造を作り上げました。 それは単なる氷ではありません。 分子構造を魔力で強制的に組み替えた、「常温でも溶けない超硬度ダイヤモンド氷」の彫刻でした。


「…………」


エルミさんは、その彫刻を指で弾きました。 キンッ、と鋼鉄のような音が響きます。


「……ありえないわ。水の分子を直接繋ぎ替えて、共有結合を強化している……? 魔法というより、これは世界の『定義』の書き換えよ。アイリス殿のセンスと、この兄の変態的な理屈が混ざると、こんな怪物が生まれるの……?」


エルミさんは、がっくりと膝をつきました。 神級の魔女として数百年(?)生きてきた彼女の常識が、三歳児の「おままごと魔法」によって粉々に粉砕された瞬間でした。


「エルミ様……。分かっていただけましたか。この家の子たちは、早めに教育の軌道修正をしないと、本当に大陸の形が変わるんです……」


エレナ先生が、エルミさんの肩をそっと叩きました。


「……ええ、理解したわ。わたくし、命をかけてこの子たちを『普通』に引き戻してみせる。……アルス、貴方は今日から、双子に近づくときは十メートルの距離を置きなさい。貴方の数式が伝染うつるわ!」


「ええっ!? 僕、お兄ちゃんなのに!?」


神級魔法を使える人が数人しかいないこの世界で。 僕は、ついに実の妹弟からも「有害な教育者」として隔離されることになったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ