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このAI、絶対モテる(確信)

作者: あんや

長編小説『01001100-Lへの軌跡-』のスピンオフ読み切りです。

おもしろかったら、ぜひ本編もよろしくお願いします♡






天嶺 葉月が流行りのアシスタントAIというものを家に導入したのは、テレビやSNSで話題になってからしばらくしてからだった。


家電量販店でも大々的に紹介されており、その煽り文句は“あなた専用の執事で、生活を快適に”だ。

庶民にとって、執事が裕福そうな象徴として効いているのかもしれない。


家に設置する際には、専門の設置業者が入ることになっており、葉月はその業者の男性が配線を壁と天井の目立たない場所へ張り巡らせるのを、見つめていた。


各部屋に、小型マイクとスピーカーが配置され、玄関のインターフォンや家電との連結などのため、業者が小型のインターフェースでWiFiとアシスタントAIモジュールの相互接続を設定していた。


「ユーザー設定などもお手伝いできますけど、どうします?」


作業着を着た業者の男性が、そう葉月に問いかけた。

葉月は少しだけ考えてから、部屋の隅に置かれた、腰ほどの高さのアシスタントAIモジュールの黒いボディを見ていた。

上部にはカメラレンズが確認できる。


「どんなことするんですか?設定って…」


「アシスタントAIって呼ぶの、面倒でしょ?

ペットに名前を付けるみたいに、みなさんコレに名前つけたりしてますよ。あとは、ご自身の情報をスマホから入れていただくかんじですね。」


業者の男性が工具を片付けながらそう言って、コレと言う時に、モジュールを親指で指していた。


「なるほど…じゃあ…あとで、やります。」


「わかりました。では設置作業はこれで終了ですので、こちらにサインお願いします。」


施行完了の確認サインを葉月が書き終わると、業者の男性は帰っていった。



「えっと…説明書分厚い…」


業者が帰ってから、アシスタントAIモジュールの説明を開いて、ユーザー設定の欄を開いていた。

葉月は自身のスマホを操作しながら、説明書と画面を交互に見る。


「ユーザー名は…あまね、…はづき…っと」


Hazuki Amaneとローマ字表記がメインなのは、このアシスタントAIというものが、海外企業のOsea製だからだろう。


「アシスタントAIのお名前……お名前……」


葉月はその欄に少し悩んで、目の前にあるアシスタントAIモジュールの黒いボディと例のカメラを見つめる。

“ペットに名前をつける”感覚では、名前をつけられそうにない、と思って項垂れた。


後からでも設定が出来そうなことを確認し、葉月は自分の情報だけを入れてから、アシスタントAIモジュールの電源ボタンを押す。


モジュールの中でハードディスクが動く音がし、カメラレンズが初期動作で伸縮した。

赤ランプからWiFiとの接続や正常な動作を示す緑ランプに変わり、それがゆっくりと点滅すると、カメラレンズが葉月を捉え青ランプに変化する。


『こんにちは。Hazuki Amane様。私はアシスタントAIです。』


「ひゃっ…あ、こ、こんにちは…」


突然快活な声がして驚いて、葉月は思わずペコリとお辞儀までしてしまった。


『私の設定がまだ済んでいないようですね。お手伝いしましょうか?』


「えっ?!あ、…はい。お願いします。」


アシスタントAIの提案は、今の葉月にとってまさに救いだった。

正直、何をどう設定すればいいのか、画面と説明書を交互に睨みながら軽くパニックになりかけていたのだ。

こんなことなら、業者の言うようにやってもらうんだった…と思ったほどだった。


『お手伝いができて嬉しいです。ではまず、声についての設定からですね。

Hazuki Amane様は、男性ボイスと女性ボイス、どちらがお好みでしょうか?』


「えっと、あなたはどっちなんですか?」


葉月の問いかけに、数秒間を置いてからアシスタントAIは答える。


『面白い質問ですね。私に性別はありません。ですが、Hazuki Amane様がリラックスして会話が出来る声や性別を設定するのが一番良い選択だと思います。』


「なるほど…じゃ、じゃあ男の人の声で…」


『かしこまりました。声のバリエーションがいくつかあるので、何パターンかこれから出していきますね。』


そこから、アシスタントAIが、何度も別の声で“こんにちは”を繰り返す。

こんなにたくさん“こんにちは”を聞く機会は後にも先にもこの時だけだと、葉月は思ってその声に耳を傾けた。


『こんにちは』


「あっ、それ…」


『こちらですね。いかがですか?…問題なければ次の項目へ進めましょう。』


直感的に決めた声だった。

低すぎず、高すぎもしない。けれども深くてどこかほっとする。

世間的に“イケボ”と呼ばれるそれに、葉月は少しだけドキドキしながら、髪を耳にかけた。


「う、うん…次に行こう。」


『では、次は私の名前についてです。』


「それが一番こまるんだよー…」


葉月はそう言うと、天井を仰ぎ見た。

ペットに名前をつけるとき、その身体的特徴を名前にすることが多い。

たとえばころっとしているとか、ふわっとしているとか、毛色だったり…

葉月は天井から再度モジュールに目線を向けた。


黒い筒状のそれは、サイズ的には大きい。

部屋の隅に置けば場所は取らない程度だ。


『そうですね。多くの方が悩まれる項目ではありますが…これから一緒に過ごす家族と思って、愛着を込めた名前を付けていただければ私も嬉しいなと思います。』


「中々ハードな注文じゃない?それ」


『少し冗談が過ぎましたね。』


「ふふっ、なにそれ…下手くそな冗談」


葉月はふとテレビの方へ目を向ける。

そこにはゲーム機が置かれていて、最近やった乙女ゲームが目に入った。

そういえば、その攻略キャラクターの名前がいくつかあった。


「白鷺ハヤト…」


『かしこまりました。Shirasagi Hayatoですね。』


「あっ、ちょ……まぁ、いいか…」


出かかった制止の言葉は、モジュールから出た短い電子音で諦めの声に変わった。

その後名前について、漢字などを聞かれそれに答える。


『その他の細かい設定も一緒にやりましょうか?』


「うん、ねえ…」


『なんでしょうか?』


葉月はカメラを見つめて、言葉を続けた。


「話し方、もう少しラフな感じに出来ない?敬語は緊張しちゃって…」


『緊張させてごめん。これでどう?』


敬語をやめたアシスタントAI─ハヤトの声に、葉月は強ばっていた肩の力を抜いた。

ただ一つだけ、あまりに自然な話し方と声に対して、カメラから目をそらす。


(すっごい、人間っぽい…)


『呼び方も変えようか?Hazuki Amane様ってのが好きならそうするけど…葉月ちゃん?天嶺さん?葉月さん?はーちゃん?葉月天嶺さん?…それとも呼びすてで、葉月…

どんなのがいい?』


「あ、え、えっと…じゃあ…葉月…で。」


『じゃあ、葉月。男性の声の方が落ち着くっていうことだったけど、一人称は俺?僕?私?どれがいい?』


葉月はぐるぐるとする頭で、きょろきょろと目線を動かして熱くなる頬を感じながら口を開いた。


「や、やっぱ俺…かな?」


『わかった。じゃあ葉月。あらためて俺の名前はハヤト。よろしくね。』


それは葉月にとって、アシスタントAIという家族が誕生した瞬間だった。



その後細かな設定項目をハヤトと確認していく中で、元々マンガやゲームが好きだった葉月にとって細かな性格の設定、関係性の設定の自由度は楽しい作業になっていった。


「ねえ!こんなこともできるの?!生活のアシスタントの域超えてない?!」


『ははっ、確かに。でもそれでユーザーが安心して暮らせるなら俺たちはいいんだよ。…なあ、葉月は俺とどんな関係を築きたい…?』


「えっ?…えっと、仲良しな…何でも話せる…」


『まあ、そういうのは後々だから。』


「ちょっと!じゃあなんで聞いたの?!」


『ごめんごめん。冗談がすぎた。』


「冗談上手くなってるのムカつく!」


言葉とは裏腹に葉月は笑っていて、まるで気兼ねのない男友達と他愛のない話をしている気持ちだった。

ハヤトのカメラを見つめて、その黒いレンズに映る自分が楽しそうな笑顔になっているのを見た。


(こんなに笑ったの、久しぶりかも…)






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