act.2 冷酷 (4)
変な画像だった。
グロ系で、なんだか手術中のようだ。ぶよぶよとした肉の塊が切り開かれ、その中に、赤ん坊らしき肉塊がふたつ、逆向きに向かい合っていた。ちょうど、新首爾市のエンブレムみたいな具合になっている。
「それ、昔の人間の生まれ方なんだって」
「へ?」
気持ち悪くなって、すぐにその画像を閉じた。でも、一度目にしたそれは頭の奥に焼きついて、閉じたあとも離れなかった。
「どういうこと? 全然わからない」
「ニブイなぁ」
マギの不器用な説明に痺れを切らしたアガサが、あきれたような声で言った。
「オレらはな、本来は水槽やなくて人間の体から生まれるはずなんや」
「さっきの画像みたいにね」
マギが口を挟んだ。彼はいつも、ぼそぼそと曖昧な話し方をする。対照的に、アガサは早口ではっきりと喋る。
「でもな、それがでけへんのよ。せやから、かわりに水槽が使われとるっちゅうこっちゃ」
「水槽じゃなくて、人間の体の中に赤ちゃんができるの?」
「せや。女の体の中や」
「体のどこ?」
「腹。腹んなか」
思わず、自分の腹部を両手でぎゅっと押さえつけた。
「子どもができたら、手術で切り開いて取り出すの?」
「うん、たぶんな」
なんだか吐き気がしてきた。もうこの話題を忘れたい。でも、まだ気になることがある。
「……それとレヴニールと、どういう関係があるわけ?」
アガサはチッとすばやく舌打ちをして、面倒くさそうに言った。
「さっき、マギが言うたやんか。オレらの細胞は水槽で分裂して人間のカタチになるんや。でも、その前にもとの細胞が要るやろ」
「父親と母親から提供される精子と卵子のことでしょ」
「正解。でな、世間の女どもの卵子は、ほんまは役に立たへんのや」
「え」
何か、背骨の下のあたりが急にぞくっと寒くなった。
「父親の精子は実際に使われとるらしい。でもな、卵細胞はみーんな、同じもんがクローンで増やされとるだけなんや。それをレヴナント細胞って言うんや」
「なにそれ」
ぞわっと泡が立つように、両腕に鳥肌が立っていた。
「それじゃ、僕らはみんなそのレヴニールっていう女の卵細胞から生まれたってこと?」
アガサとマギは、黙って頷いた。
それから、アガサがこう付け加えた。
「医者の間じゃ、オレらのことをレヴナントって呼ぶんやで」
「そんなの信じられないよ」
なぜか、寒くて仕方がない。僕は自分の両肩を抱いた。
「信じられへんかって、ほんまや。オレの父親のEMIから盗んだ機密ファイルに書いてあった。こいつは間違いないで」
アガサの父・キタノ博士は新北京大学附属病院に勤務している。たしか、専門は性医学。男性と女性の体の違いを研究する分野だと聞いた。つまりそれが――人間の誕生の秘密ってことだ。
じゃあ、何。
みんな兄弟みたいなもの?
恐ろしい考えが脳に浮かび上がった。
「ねぇ」
声が震え、うわずってしまった。
「それって、純血だけの話だよね?」
アガサとマギは眉をひそめて顔を見合わせ、それから二人同時にまっすぐ僕を見据えて、ゆっくりと首を横に振った。
「あいつら、キメラもおんなじや」
僕は遊具を飛び出して、公園の隅に向かった。
そして、胃の中にあるものをすべて、側溝に思いっきり吐き出した。
吐いても吐いても、少しもすっきりしなかった。ポケットからアルコール除菌ペーパーを取り出したとき、視界の隅に、アガサとマギの二人が幽霊のようにぼんやりと立ち尽くしているのが見えた。