act.7 静謐 (2)
「……じゃあ、僕はその遺伝形質を持っている?」
『そう』
「つまり、僕の子どもに、この資質が引き継がれるんだね。もし将来僕に娘が生まれたら、レヴニール、つまり人類の母になるという可能性が――死んだらだけど」
『何も説明する必要はなさそうだ』
鴉は羽根をばたつかせ、ふわっと宙に浮いた。
「待って! まだ質問がある」
僕は両手を差し伸べた。
『なんだい?』
鴉はすばやく翼を折りたたみ、再びアスファルトの上に降り立って、ちょんちょんと跳びながら近寄ってきた。僕は、植え込みの囲いに腰をおろしながら尋ねた。
「まず、一つ目の質問。すべての鴉がニセモノなの?」
『いや、全部じゃない』
「そっか。じゃあ二つ目」
『どうぞ』
「僕の父親は、誰? あなたは知ってるはずだよね」
鴉はくるっと首をひねり、しばらく黙った。そして、再び嘴を開いた。
『九頭竜開人か、あるいは、その弟だね』
「弟? 僕に、伯父さんがいる?」
『そう』
そんな親戚の存在は、まったくの初耳だった。
「双子?」
『その通り』
「ああ、どっちが父親でどっちが伯父かわからないけど……いや、そんなことはどうでもいいんだ。とにかく、九頭竜という姓であることには間違いないのか。それならもう、僕は誰が父親だって構わない。九頭竜という名には誇りを持っていいんだね」
『そうだよ。新北京市、いや、おそらくすべてのドームシティに於いて、きみは、最も優秀なDNAの継承者だ』
「わかったよ、いろいろと納得がいった。なんで双子ばっかりなのかはちょっと気になるところだけど、でも、それは別にどうでもいいや」
僕は植え込みから立ち上がって、尻の辺りについた埃を払った。
「もうひとついいかな。三つ目の質問」
『どうぞ』
「僕とルカが、真印と九頭竜家の誰かの子どもだとすれば、おそらく……僕らは、水槽から生まれていないってことになるんじゃない?」
『そうだよ。私が、この手で真印の子宮を切り開いて、きみたち二人を取り出したんだ』
少し吐き気を催した。あの手術画像の赤ん坊は、僕と瑠果だったのか? 粗いコピー画像だったから、プロパティからは調べられない。でも、もしそうだとしたら、十年前に手術をしたってことは、博士は少なくとも三十歳を越えてるってことか。
「……高田ジニウス博士。あなた、年は? 年齢は幾つなんですか」
『その質問には答えられない。それじゃあ、また病院で』
鴉の姿をした精巧な監視ロボットは、大きな翼をはためかせ、悠々と空に飛び立った。あとから、黒い羽根が次々と降ってきた。もう、零印の悲鳴は聞こえなかった。
もしかしたら、監視カメラの機能を持っているのは、鴉だけじゃないかもしれない。あのじれったい動きをする鳩たちも、実は機械なのかもしれない。あるいは、キメラの中にだって混じっている可能性はある。高田博士が教えてくれたらいいんだけど、彼の言葉はどこまで本当なのか、信じていいのかわからないし。
信じられるのは、自分で確かめたものだけだと思う。もしかしたら猫の首を切った奴らは、監視カメラの存在に気づいて本物と偽物を見分けようとしたのかもしれない。いろんな疑問が頭に渦巻く。そういえば僕は「猫の首だ」と思っただけで、それが本物かどうかなんて確かめようとしなかった。
鴉のロボットが去ったあとを追うようにして、歩き出した。ベランダにいた鴉たちの羽音も、既に聞こえなくなっていた。




