表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歯車の宮殿  作者: 高倉麻耶
act.7
24/26

act.7 静謐 (1)

 僕がどうやって助かったのか。

 ごく簡単なことだ。

 でも、とても奇妙なこと。

 僕は鴉に助けられた。

 鴉たちは、まるで僕の心を読み取ったように――

 零印に向かって、襲い掛かった。


 僕をみつめていた一羽の鴉が、ばさっと大きな羽音をたてて、舞い上がった。

 すると、続いて他の鴉もみな一斉に飛立った。

 静かだったべランダは、一気に騒々しくなった。


「きゃあっ!」


 零印が甲高い悲鳴をあげた。鴉が彼女の頭めがけて、いきなり滑空してきたのだ。

 もちろん当たらないけれど、彼女は驚いて手を離した。それがチャンスだった。

 僕は柵の上に昇り、思い切ってジャンプした。

 つまり、みずから飛び降りた。


 一瞬、まるで世界が止まったように見えた。

 街燈の光の中に、黒い羽根がたくさん舞っていた。


 絶対領域は、衝撃から人体の安全を守る機能だ。

 〈絶対〉の名が示す通り、その機能は絶対的に働き続ける。どんな強い衝撃も、その壁を潜り抜けることはできない。ゆっくりと近づいて締め付けるような攻撃や、毒や、細菌といった微細なもの以外は、一定以上の速度で近づく物体を、必ず停止させることができる。それが、大地であろうとも。僕はことさら意識して呼吸を鎮めながら、近づいてくる大地の速度を計算していた。


 ゆっくりと地面に降り立った。振り向いて見上げると、家のベランダに鴉の群れがたかっていた。零印の金切り声が響いている。そして僕は理解した――あれはたぶん、生物じゃない。


「お父さん」


 思わず、僕はつぶやいた。

 一羽の鴉が、すうっと僕のそばに舞い降りてきた。そして、首を傾げながら僕をみつめ、カァッと一声鳴いた。


「もういいよ、鳴き真似なんて。わかってるんだから」


 鴉は口を閉じ、うつむいた。僕は続けて話しかけた。


「お父さん、でしょ? ねぇ。それ、監視カメラなんでしょ?」

『惜しい』


 鴉は(くちばし)をぱかっと開き、聞き覚えのある爽やかな男性の声で言った。


『私はきみのお父さんじゃないよ。でも、きみをずっと見守っている。それが私の仕事だからね』

「院長先生」


 僕は腕を組み、あごに手を当てた。


「もしかして――真印と瑠果の病気って――アルビノじゃないほうのあれ、定期的に出血するやつ。厳密に言えば病気ではない?」

『勘がいいね、さすが九頭竜の血。あれはノーマルな生理現象だ。たとえて言うなら、先祖返りってやつかな』


 やっぱり。あれは子宮の病気じゃなかったんだ。たぶん、子どもを産むための正常な機能ってところか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ