act.6 戦慄 (2)
少しウトウトしかけた頃に、零印が帰ってきた。母……いや違う、母の姉。叔母だ。
「おかえり」
部屋のドアごしに声をかけたら、足音が止まった。
「あら、起きてたの?」
「いま起きた」
僕は体を起こして、ドアのほうを見た。しばらくドアの前に気配があったけれど、やがて足音が遠ざかっていった。
喉が渇いた。何か飲もうと思って、部屋から出た。
ダイニングの椅子に座った零印が、テーブルの上に顔を突っ伏していた。両手を頭の後ろで組んでいる。
「大丈夫?」
冷蔵庫を開けながら声をかけた。返事はなかった。疲れているのか、機嫌が悪そうだ。
僕はミルクの瓶を出し、棚から硝子のコップを取った。そして、できるだけ音をたてないようにミルクを注ぎ、瓶を冷蔵庫に戻した。
コップの中身を静かに飲み干して一息つくと、零印がうつぶせのまま声をあげた。
「ミカ」
「ん?」
僕は食器洗浄機にそっとコップを置きながら、返事をした。
「高田先生と何を話してたの、あんなに長い時間」
胸が、びりっと緊張した。
「……別に。学校のこととか、友だちのこととか訊かれただけだよ。そんなに長い時間だった?」
「長かったわ」
零印は顔を上げた。目の下に、青黒く隈が浮き出ていた。まとめ髪が崩れて、額に落ちかかっている。彼女はたぶん美人だろうと思うけど、こういう顔にはぞっとしてしまう。
「正直に言いなさいよ。何を話したの」
「だから、正直に言ってるよ。嘘なんかついてない」
実際、嘘はついていない。他に話したことといえば、アンチコードのことぐらいだ。
「嘘」
零印は引き下がらなかった。目が、ぎらぎらと光っている。
「ほんとだって……ねぇ、なんで怒ってるの?」
「あんた、レヴニールのこと知ってるんでしょ!」
ぎくっとした。なんで、零印がそのことを?
彼女は僕の表情をみて悟ったようだった。すっと目が据わり、あごが上がった。
「やっぱりね」
「零印……酔ってるの?」
僕はじりじりと後ろにさがりながら、訊いてみた。恐怖のせいで語尾が震えた。零印は椅子から立ち上がり、僕が後ろにさがったぶん、少しずつ距離をつめてくる。怖い。なんか怖い。なんでだろう、彼女の両眼がものすごく怖い。これは、いつもの零印じゃない。
「ミカ。なんで、あたしを呼び捨てにするの。ママって言いなさい。お母さんって呼びなさいよ!」
口を開いたけれど、言えなかった。あごが震えただけだった。
おかあさん、とは言えなかった。どうしても言えなかった。
「やっぱり、知ってるんじゃないの!」




