act.6 戦慄 (1)
葬式というものに出るのは初めてだけど、僕は始終ぼんやりしていて、なんだか全てがどうでもよかった。
黒い礼服を着た人々の群れを眺めながら、ただ、ずっと、瑠果に会いたいと思っていた。
瑠果の清らかな笑顔だけが、僕の心をきれいに洗い流してくれそうな気がした。
零印がずっと瑠果ばかり可愛がって、僕に冷たくしてきた理由。一卵性双生児のはずなのに、瑠果と性別が違う理由。僕が瑠果と同じ病気ではない理由。真印が僕の母親だったと考えれば、納得がいく。ただ、真印と瑠果が同じ病気を持っていることだけが不思議だ。二人はかなり珍しい奇病で、その病気の因子は遺伝するものだったはず。ああ、もっと生物の勉強をしないとダメだな。
それにしても――僕が、あんなに泣くなんて。
たぶん初めてだと思う。
僕がうつむいて泣いている間、高田院長は肩や背中を撫でてくれた。
その手は温かかった。だけど僕はそれを、何度か振り払おうとした。
あの人はあんまり好きになれない。
なんとなく、平気で嘘をつきそうだ。
僕はひとりで家へ帰った。病院の面会時間は、とうの昔に終わっている。零印はきっと帰りが遅くなるだろう。へべれけに酔って帰宅するかもしれないし、あるいは帰ってこないかもしれない。
部屋に入るとすぐに、タブレットの電源を入れた。アガサからメールが来ていた。
「ミカ、機嫌なおせ。オレが悪かった」
ふっと気が緩んで、小さく笑い声が漏れた。
「おれも悪かった。ごめんな」
それだけ打って、返信した。それで十分だと思った。
すぐにタブレットを閉じて、ベッドの上に身を投げ出した。勢いよく投げ出すと絶対領域の力が働くから、少しのあいだ宙に浮く。昔はよく、これで遊んだ。それからゆっくりと体が降りていって、やがてベッドに沈み込む。
アガサとマギが、互いの体に触れているところを想像した。たぶん、アガサはずっと前にアンチコードを入手しているだろう。マギが泣いているとき、アガサは彼の背中を撫でてあげていたのかな。博士が僕にそうしていたように。
ははっ、馬鹿馬鹿しい。
目をつぶって、瑠果の顔を想像した。
真っ白な病室に、真っ白な彼女がいた。
天使のような笑顔で、嬉しそうに迎えてくれる。
僕が心を開くとすれば、相手はひとりしかいない。
無垢で、汚れのない、かわいい、きれいな、僕の天使。
つい先週、瑠果はEMIを使えるようになったらしい。
病院で教えてもらった瑠果のアカウントに、これから毎日メールを出そう。
チャットでもいい。
行けるときは直接病院に行って、彼女の顔をみておこう。
心に扉があるとして、僕はそれを彼女にうまく開けるかな?
ケンカしたほうがいいのかな?
よくわからない。
でも、きっと瑠果なら僕のことをわかってくれる。
そんな気がする。
だって、瑠果は高田院長を嫌がっていた。
あのときの彼女の表情は、きっと、僕が学校でいつもしているのと同じなんじゃないかって、思う。
それはただの期待だろうか? いや、そうじゃない――瑠果は特別だ。




