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ハート探偵  作者: 住伏暗
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第9話 友達蹴り


 クラナリを殴り飛ばした若亭。


「うっ…!! これは…か……!」


 やっぱり効いてるわ。若亭の方が実力は上よ。


「さすがだ、ハート(ジャック)…。だがァ……、」


 起き上がりながら、奴が嫌な笑みを浮かべた。すると。

 若亭の傷口から、ぶしゅーっと血が吹き出た。


「うあああああぁ!!」

「わ、若亭!?」


 そして倒れた。さっき受けたダメージが爆発したのか……。激しく動けば、その分傷も開くんだ。


「ハッハッハ! 俺様の棘グローブを舐めるなよ? その傷は並の人間なら、すぐ何もできなくなる。お前は少しは頑張ったが、残念だったな。ハッハッハッハッハ!!」

「……!! くそ…!」


 若亭はなんとか立とうとするが、もう体はガタガタだ。すごく痛そう…。制服が真っ赤になってる。


「さて、」


 奴がまたハートコントローラーを持った。


「おい、お前今更何をするつもりだ!」


 わたしの言うことを無視して、コントローラーで何か打ち込んでいる。この期に及んで、それを使って何を………。

 すると、


「よいしょ————!!」


 エンマくんが、座ってるわたしの元から抜け出した。あっ、やべ……。操られないよう押さえてたのに、隙を突かれた。


「しまった! お前まさか…!!」


 また彼が天突き体操をさせられるのかと思った。だけど、違った。エンマくんは倒れてる若亭のそばに駆け寄り、


「よいしょ———!! よいしょ———!! よいしょ———!!」


 と叫びながら彼の背中の傷を、右足で踏んづけはじめた。何度も、何度もだ。


「ぐぁ…、が……! あぁあ!!」


 若亭は苦しそうにもがくが、動けないから蹴られるばかり。あの不良、やりやがったな……。エンマくんのことを操ったんだ。若亭のことを痛めつけるように、コントローラーでプログラムした。


「ハッハッハッハッハ! どうだい、今の気分は!! それ以上傷が開けば死ぬだろう。てめぇの守ろうとした友達(だち)に死なせられる。こんな面白い光景があるか!? まさに雑魚に相応しい死に方だ! ハッハッハッハッハ!!」


 『よいしょー!!』と叫びながら、自分の友達の傷をつつく。こんな苦痛が、あるだろうか…。何もしない若亭に対して奴は、


「なぜ反撃しないんだ貴様。それが友情とでも? あぁ、そんな体じゃそもそも動けねぇか。プッ…」


 まさにこの男、クズって言葉にぴったりだ。このままじゃ、若亭が………!

 わたしは、エンマくんを蹴り飛ばした。


「ぶっ!!」


 壁にぶっ飛んで、エンマくんは止まった。なんとか、彼が友達の傷を抉るのは止められたわ。


「クラナリ…っていったよなお前。わたしの仲間をいじめるなんて、ちょっと遊びが過ぎたな」

「住伏亭…」

「若亭、交代よ。お前エンマくんを守ってろ。放っといたらまた蹴られるわよ」


 なんだエンマくん、伸びちゃってるわ。まぁ死んじゃいないだろ、多分。

 若亭は十分に奴を追い込んだわ。これ以上暴れたら、傷が余計開いてあの世に行きかねない。だから、


「この不良は、わたしがぶっ飛ばすわ!」


 わたしは奴に向かって、構えをとった。先生から学んだ、”ハート探偵”流・殺人術。


「俺様に勝つ気か? 武闘で」

「うん」


 さっきあれだけ若亭に押されてたくせに。自信満々なようね。奴がわたしに、一つ質問をしてきた。


「突然だが、学校において生徒のカーストを決めるものは何だ?」


 えっ、と…唐突だなぁ。


「…、コミュ力?」

「腕っぷしさ」


 そんなことを急に言われても…。奴は語りはじめた。でかい図体を見せびらかして、


「俺様はこの必死に鍛え抜いた体で、クラスカーストの上位に登り詰めてきた。学校という世界の中で、自由に過ごすために。殴られ、服を脱がされ体操させられない為にな……。

 この世の偉い偉くないは、暴力によって決まる。ハートJたちは負けたんだ。腕っぷしで、俺様に。だから俺様には、こいつらを好きにいじめる当然の権利がある。分かるな……? 弱ぇ奴は、強い人間の思う通りにする! 社会はそういうルールで出来ているんだよ!!」


 だって。何だか…、


「社会がどうかは知らないけど…、お前つまんない奴だな」

「何…?」

「じゃ、わたしが勝ったらいいんだな? お前に! 構えなさいよ」


 そういう驕りは、戦いにおいて命取りになる。よし、戦うぞ!

 わたしが奴を倒そうとした所で、後ろから声が聞こえた。


「住伏くん!?」


 その声の主は、わたしの友達であるキョウ男だった。それを聞いて、嫌なことが頭をよぎった。なんで今…。振り返って彼の姿を確認した。次の瞬間、


「どらあァ!!」


 頭を棘の塊に刺される感覚がした。やべ…。やっちまった……。そのままくらっとして、地面に倒れる。


「住伏くん!!」


 キョウ男が再度叫ぶ。馬鹿だな、わたしって。だけどなんで、今来たんだキョウ男。なぜ、わたしが血塗れの手袋した奴と喧嘩してるのを見てしまったのか。


「ハッハッハ! お友達の心配して隙を見せるとは、甘いもんだな!! ハハハ!」


 いや、ほんとその通りで…。油断したわ。情けない。


「あいつは貴様の友達だろ? ん? ん?」

「逃げろ…、キョウ男…」


 しかし、わたしの気持ちとは反対に、


「住伏くん!!」


 彼はわたしの元に来た。


「なんだこの血の量…。ってあの人たちも!? 早く何とかしないと……!」


 いや、いいわよそんなの。それより早く逃げてよ。


「……お前がやったのか?」

「そうだ」


 ダメよキョウ男。相手は武器を持ってるんだ。一般人のキョウ男じゃ勝てないわ。


「おい、お前あいつに喧嘩売んな。早く行け…」

「だが、君たちを置いて行けねぇ!」

「こっちは何とかするから早く」


 だが遅かった。


「”(ハリ)ィアップ”!!」


 殴打音とともに、キョウ男が弾け飛んだ。彼の顔から血が流れ出す。この不良、なんてことを……!!


「おい…! お前、あいつは関係ねぇだろ!!」

「貴様が巻き込んだ。だがこれ以上、弱い貴様らの相手をするのも馬鹿馬鹿しい…」


 何とか起き上がるが、ふらふらする。頭痛ぇ。そんなわたしに奴は、ハートコントローラーを見せた。


「こいつで、罰を下してやる!!」


 そう言って、キョウ男に近付く。


「コントローラー…!!」


 くそ、止めなきゃ! わたしは奴を追って走った。何をするか分かったからだ。だが、間に合わなかった。

 ドスッ! とキョウ男がわたしを蹴った。


「ぐえっ!」


 痛くないけど、体が吹き飛ばされた。


「ハッハッハ! 一足遅かったな! この雑魚にはもうプログラムを仕組んだよ! 貴様を痛めつけるようにな…」


 奴が再度見せてきたコントローラーの画面には、こう打ち込まれていた。『住伏を痛めつける』。制服の上着に書かれてるわたしの名字を見て、それをプログラムに使ったんだろう。


「てめぇ!!」


 やりやがったな、こいつ…。わたしの友達を操るか。


「友情を理由に反撃できねぇ質なら、貴様も死んでいけ。そこのクソ”ハート警察”のようにな…」


 わたしの頭に、キョウ男の踵落としが入る。


「うわっ…!!」

「こんな面白い光景を見逃すのは惜しいが、そろそろ授業が始まってしまうのでね…。じゃあな」

「おい、逃げんのかよ…!!」


 わたしと戦わずに逃げるのか…。この不良、とことんクズだな。


「…じゃあ、次受ける授業がお前の最後になるよ。せいぜいいっぱい学んでこいよ」


 お前は絶対ぶっ飛ばすから! そんな気持ちで奴に言うけど、


「ふん、その前に貴様が死んでしまうよ…」


 わたしとキョウ男、そしてボロボロの若亭とエンマくんを残して奴は去っていった。

 改めてキョウ男の顔を見た。さっきまでのうちらを心配してた顔じゃなく、今はわたしに暴力を振るうようプログラムされた機械のようなもの。五分待てばその効果は切れるが……、どうしたものか。

 キョウ男は地面に落ちてる石を拾った。先端が鋭利になっていて、ナイフ代わりになりそうな形状だ。わたしを蹴っても手応えがないことに気付いたか。ザクッと右手に持った石で、わたしのほっぺたを切った。


「うっ…!」


 わたしは反撃しない。そこにもう一発来た。今度はでこに。痛ぇ…。


「何してるんですか!」


 エンマくんの声。起きたのか。


「その人、アンさんを殺そうとしてますよ!?」


 彼、コントローラーの効果はもう切れたんだろうか。若亭を蹴ろうとする気配はない。

 キョウ男が胸倉を掴んで、そのまま地面に叩き落としてきた。


「うげ…!」


 わたしはなぜか打たれても大丈夫な体質だ。こういう攻撃は効かない。だけどきつい…。


「なんでやり返さないんですか!? これじゃアンさんが…!!」


 エンマくんの問いかけにわたしは答える。


友達(だち)なんだよ」

「は!?」

「わたしを友達って言った。友達(だち)には手ぇ出さねぇ」


 キョウ男が以前、わたしにそう言ってた。そんな奴、なかなかいない。わたしは陰キャだからな。この考えは他の人には、どうも理解し難いらしい。


「そ…そんなこと言ってる場合ですか!!」

「うるせぇお前黙ってろ。わたしは”ハート探偵”だから、友達(だち)は傷付けねぇ」


 ぐしゃぐしゃと顔を踏まれる。


「どうして友達にそこまで…! このままじゃあなたが…怪我なんかじゃ済まなくなる!!」


 どうしてと言われても…、逆にやり返す意味が分からない。悪口とか暴力とか、そういうのは友達失くすよ。

 わたしの顔を起点に、彼の足は上下運動し続ける。だがそれが効いてないことに気付いた彼は、近くにあった大きな石を持ってきた。そしてそれを、わたしの顔に向けて振り下ろす。


「うっ…!」 


 だが、落ちてくる石の刃を受け止めたのは、横入りしたエンマくんだった。彼の頬から、血が流れている。


「お前…」

「うぅ…!! あなたもこの人も、こんなことする必要はありません…」


 驚いた。どうしてエンマくんがわたしを…。


「私がこの人なら、友達を傷付ける気持ちは死んでも味わいたくない…。殴ってでも、殺してでも止めてほしい……。だから…、アンさんは…! 私が守ります!!」


 エンマくん、強い……。わたしは思った。だけどそこにキョウ男がまた石攻撃。


「ギャ—――――――!!」

「もう…!」


 友達でもないのに、余計なことするんじゃないわよ。わたしはエンマくんをどかした。そしてキョウ男の振り下ろした石の先端が、わたしのでこに。グサッ!!


「アンさん!!」


 エンマくんの、叫びが聞こえた。


 次回は1月5日(日)更新予定です。

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