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ハート探偵  作者: 住伏暗
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第5話 『葉後高校自殺事件』


 2022年4月18日(月)


 葉後(はあと)高校に入学したばかりの一年生、住伏暗(すみふしアン)。陰キャのわたしに、昼飯を一緒に食う友達などいやしない。教室最後列、窓際の自分の席から外の景色を眺め食うばかりだ。

 グラウンドの隅に一本立ってる大きな木。桜の花も散ってきてるな。もう見頃を過ぎたのだろうか。


「メイさんに会いてー……」


 あの日から何度これを一人で呟いてるかしら。ため息をついてると、


「アンお前、いっつも一人で食ってんな。オレらと一緒に食わねぇ?」


 話しかけてきたのはエイジって少年。あらら、男友達と机を囲んで楽しそうなことで。


「いいわよ。あんたらじゃわたしと釣り合わないもの」

「どういう意味だコラ!」

「アハハ、口悪いや!」


 一緒に食ってるのは、この前彼の悪口を言ってた少年たちじゃないか。誰が誰と仲良くしようと構わないが、それこそどういう風の吹き回しで…。


「いいだろ~、友達(だち)なんだからよ!」

「まぁそうだけど…、わたしは忙しいのよ」


 男どもがわたしの顔を覗き込んで、


「っていうかアン、お前目に光なさすぎねぇか?」

「ほんとだ…。真っ黒だや!」

「あぁ、これ?」


 わたしの目のことなら、よく言われるわ。この学校では初めてだけど。

 わたしの目には光が無い。鏡で自分の目をアップして見ても、瞳に反射する光が全然見えない。漫画的に言うと、べた目。ハイライトの無い黒一色の目なのよ。


「実際ほんとにそうなのよね。これが気持ち悪いって、中学ではよくいじめられたものだわ」

「ふーん。そりゃ災難だったなぁ…」


 いじめとかの話をしても気楽なままってのは、ラフでいいわね。この子たちは新しい担任の先生とも仲良くやってるし、わたしもできればそんな性格になりたかったわよ。

 まぁ、わたしの自業自得の生い立ちを考えると、そうはなれないのだが……。


「おいアン、ハンバーグやろうか」

「え、大好物~♡ ってなるか!」

「アハハ、イケる口だなーお前!」


 いや、でも。気楽にねぇ…。



 5月2日(月)


 朝教室に入ると、何やら物々しい雰囲気でざわついていた。

 わたしの前の席の男子も、友達数人と集まって話してる。この感じは、また事件でもあったのかしら。


「おい聞いたか? やばすぎねぇか?」

「前の暴力事件のこともあるし、この学校呪われてるんじゃねぇ?」


 前の事件? やっぱり事件の話か。でも前の事件って…。


「何の話?」

「え、アン知らないのか!?」


 前もわたしに事件話をしてきた少年。名前はリオンっていうらしい。一緒に噂話をするような友達が出来たとは、何よりである。


「この学校の三年の生徒が、自殺したって話!」


 え?


「自殺って、この学校で?」

「そうなんだよ!!」


 よ、寄らないでよ。怖いなもう。


「いつ?」

「このゴールデンウィークの前の4月28日のことだよ。三年地組の…、時差(じさ)遂也(ツイヤ)って名前だったかな。その人が突然教室の窓から飛び降りたんだってよ。放課後で外は部活やってたから目撃者多数。地獄のような光景だったらしい…」


 なるほど。その光景はちょっと想像したくないな。


「自殺者のクラスメイトは彼を止めようと抑えたらしいが、何も言わずにすごい力で振り払って飛んだらしいぜ」


 何も言わずに? なんか前も似たような話がなかった?


「そこまでの意志が彼にあったのか。学校側はいじめとかなかったか調査してるけど、周りは心当たりがないらしく…。理由は分かりかねるんだとさ」

「へぇー……」


 理由が分からない、か。まさかまたハートコントローラー絡みじゃないだろうな。だとしたら面倒だなぁ色々と。


「とにかく! この新学期始まってから、原因不明の暴力事件に原因不明の自殺! この学校で奇妙なことが起こりすぎてんの!!」

「それならオレも、アンを殴った理由が分からねぇし…」


 あ、エイジ。呼んでもないのに、話に入ってきた…。


「あーそうだよな。お前あの時、何かに操られてるみたいだったもんなぁ……」


 まぁ、そっちに関してはわたしは理由(わけ)を知ってるが。自殺の方はどうかしら。ハートコントローラーで操れば、人を自殺させることも可能ではあるが……。


「いやでも君達、じゃあこれはご存知かな? 今年の3月、4月とこの葉後島で…、」

「あぁー! あれねぇ!!」


 今年の3月、4月?


「え、まだ何かあるの?」


 わたしが聞いたら、男どもみんなびっくり。


「アン、お前ほんとに何も知らねぇのな…」

「これみんな知ってるぞ、葉後島の人は……」


 いや、そんな目を点にして呆れられてもな。知らんもんは知らんし。


「わたし、ニュース見ないから。何があったのか教えてよ」

「いいぜ。身の毛もよだつ怖~ぇ話するぞ。漏らすんじゃねぇぞ!」


 どうやら教えてくれるらしい。


「そらお前の話だろ? 一緒にしてやるなよ」

「あのな、今年の3月からな!」


 今年の3月って、二か月前の話か。っていうか、まだうちら中学生じゃないの。その時期に何かあったかしら。ここ葉後島で。



 5月9日(月)


 中庭を散歩していると、道の真ん中に露骨にスマホのような物が落ちてるのを発見したわたし。だが背面に書かれてる文字は、『HEART CONTROLLER』。


「ハートコントローラー?」


 誰のだろう。ひょっとして、例の自殺事件の元凶が持ってる奴じゃないの?

 わたしが拾い上げると、


「おいお前」


 後ろから低い声が迫ってきた。何か背中に触れたな。振り返って確認したら、なんだ。それは拳銃だった。


「悪ぃがそのスマホ、渡してくれねぇか」


 銃の持ち主は目つきの悪い男。誰だろうか。まぁでも、怖いけど殺気は感じないし…。


「いいよ。はい」


 言われた通りに渡した。



 コントローラーを渡したら、銃を下げてくれた。その人は心海(しんかい)若葉(ワカバ)と名乗った。といっても、あくまでそれはこの学校に生徒として潜入するための偽名なんだと。


「へぇー、あんた”ハート警察”なのかぁ。そういう人がいるって先生から聞いてはいたけど、実際に会うのは初めてだわ」

「さっきは悪かったな。あのハートコントローラーは自亭がわざと落とした物だ」


 主にハートコントローラーを使う者たちで構成されている”ハート業界”という裏社会。その中でもいろんな立場がある。

 ”ハート警察”は業界内の法律”ハート界法”に則って、正義を執行する組織だ。業界、そして世界の平和のために。


「コントローラーのことを知ってる奴を探していたもんで」

「いいわよ。ただの脅しでしょ?」


 そっか。あれをハートコントローラーと分かって拾ったから、わたしが怪しまれたのね。


「あの拳銃には、実弾が入っていた」

「殺す気かお前はァ!!」

「だから悪かったと、」

「実弾の入った拳銃なんて危ないでしょ!! 学校だぞここは!」


 ガチャッと、彼がわたしのでこに拳銃を当てる。


「うっ…」


 怖ぇー。


「弾は抜いた。”ハート警察”の任務でこの学校に潜入している。お前はどういう立場で”ハート業界”に関わってる? コントローラーを持っていない辺り、悪事を起こすような”ハート犯罪者”ではないようだが…」


 どういう立場で、か。


「わたしは、”ハート探偵”になるの!」


 わたしの答えに、彼は驚いたようだった。


「”ハート探偵”だと…!?」

「うん。どういう物か詳しくは分からないけど、昔わたしの友達を助けてくれた人がそう言ってた。だからその人みたいに強くなって、わたしは友達(だち)を守るの」

友達(だち)を守る、ね。お前もその意志を継いでるのか…」


 意志? 何か意味ありそうな言い方するのね。


 ふいに、


「ぎゃあ————!!」


 という叫び声が聞こえた。近くで、誰か男の人の。


「悲鳴? 何だろ…」


 何か事件でも起きてるんだろうか。しかし”ハート警察”の彼はのんきに、


「まぁいい。お前が”ハート業界”における悪の立場、”ハート犯罪者”ではないことは分かった。自亭が追ってるのは……、」

「冷静に話を続けんな!! 今の悲鳴絶対ただ事じゃねぇだろ! 見に行くわよ!!」


 さっきの声、校舎の中からだよな。


「わたしの友達(だち)が、巻き込まれてなきゃいいけど…!」


 校舎に入るとそこには人がいっぱいいて、ひそひそ話していた。


「大変だ…」

「三年の不良、名栗(なぐり)大也(タイヤ)がキレてる。あの生徒、ボコボコにされるぞ…」


 不良? 暴力事件かな。じゃあこの人たちは野次馬? 彼らの視線を追うとそこには、


「おいてめぇどこに目ぇ付けてんだ!?」


 その不良と思しき大柄な男と、そいつに掴みかかられる小柄な生徒の姿があった。


「この名栗大也様にぶつかるとは何様だ!!」

「ひ、ひい~、ごめんなさい…!」


 あのやられてる方の生徒、わたしは知らない人だな。さっきの悲鳴はあの人のものか。


「何だ、暴力沙汰か?」


 ”ハート警察”の彼も来た。


 次回は12月8日(日)更新予定です。

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