第38話(高2編-6) わたしの嫌な物
(一)
2023年5月8日(月)
放課後。わたしと結二さん・零さんは、校舎の屋上に集合していた。
”ハート探偵クラブ”。『みんなで葉後高校を守る』。
そのために戦うチームを、わたしたちは結成した。学校を危険にさらす悪者が現れたら、追い払うのが役目、らしい。
『らしい』というのは、そういう悪者が近頃、現れていないから。
事件が起きない限りは、わたしたちは何もする用がない。
だから、毎日スーパーで買い漁ったお菓子を食べて、ボーッとするだけの日々と化している。
結二さんは「平和が一番!」と言ってるけど、この学校は別に平和ってわけでもない。
『イニシャルキラー』。葉後高校への『復讐』を企む武装組織。
さらに、葉後島の至る所で、人々を自殺させている。人の心を操るツール、ハートコントローラーを使って。
平和を保つためには、イニシャルキラーの存在は見過ごせない物だった。
しかし、奴らの手掛かりがない今、結局わたしたちには何もすることがないのだ。
今日の結二さんは、制服の上に白衣を羽織って、何か薬品のような物をゴチャゴチャしていた。
何をしてるのか不思議だったけど、しばらくすると、
「よっしゃ――!! 出来たぞ、零ちゃん! 『キラーライフル』!!」
薬品の爆発によってボサボサになった髪の毛を掻き上げながら、そう叫んだ。それに零さんが、
「ほんと!? 見せて、見せて!」
目をキラキラさせる彼女に「ほいっ」と、結二さんはソレを渡した。それはギターケース程の大きさの、真っ黒なパイプのような物。
「何? それ」
わたしの質問に結二さんは、
「ん? 兵器だよ」
と、何食わぬ顔で言い放った。サラッと物騒なことを言うので、わたしはびっくりする。
「このライフル、銃弾に爆薬を仕込んでるんだ。どんな敵でも、爆発で粉々にするよー!」
結二さんが教えると、零さんはお礼を言う。
「ありがとー結二先パイ!! これでアタシも、存分に戦えるわ!」
零さんは嬉しそうだ。
聞くと彼女は、スナイパーだったらしい。上機嫌にフンッと、鼻を鳴らして語る。
「狙撃でアタシに勝てる奴なんて、この世にいないわよ。それに昔は…、」
彼女が、何かを言おうとした。でも、それは遮られた。
そのタイミングで、その男は来たからだ。
「おつかれ様~」
ガタイの良い男が、扉を開けて、屋上に出てきた。
井丸 大。”ハート探偵クラブ”の、もう一人のメンバーである。
彼の幼馴染という結二さんが出迎える。
「あっ。井丸くん、やっと来たー!」
って。
彼がクラブの集合時間に遅れて来るのは、珍しいことではない。今日だって4時ピッタリに集合のはずが、今は4時半だ。
わたしは意識して低い声で、
「遅刻だぞー」
と、井丸に言った。すると彼は、
「ごめんごめん。教室で寝ててね」
そう微笑みながら謝る。その笑みが、気味悪く思えた。
そんなわたしとは反対に、結二さんは、
「まったく…。井丸くんはしょうがないなぁ……」
と笑って許している。
幼馴染ゆえの、情があるのだろうか。
結二さんが彼に、銃のような物を手渡した。
「これを作って、待ってたんだよ。僕の新しい発明、『キラーシューター』!」
受け取った井丸が、
「おぉ。ありがとう」
と微笑む。
「鉄のワイヤーを撃って、敵を拘束できる兵器だよ。ワイヤーに仕込んだセンサーが、温度で人を感知して、巻き付いてくれるの!」
『キラーシューター』の性能を解説する結二さんは、楽しそうだった。
井丸と楽しげに話す彼女の様子は、わたしを少し心配させるものだった。
(二)
その日の帰り。
「なー、結二さん。あの井丸って奴、何者なのさ」
わたしは歩きながら、結二さんに聞いた。
「住伏くんから話しかけるなんて、めずらしいね。僕のこと、好きになっちゃったとか?」
のんきな彼女に、わたしは念を押して聞く。
「だって彼、遅刻ばっかじゃない。チームの約束を守れないような男、本当に信用できるの?」
井丸からは、過去のわたしと同じオーラが出ている。そんな気がしていた。
友達の心を、平気で踏みにじる。そんな、浅はかな人間。
もっとも、わたしの直感だから、外れてるかもしれないが。
結二さんが言った。
「住伏くんも心配性だね」
と。
「大丈夫だよー、あの子もいい奴なんだからさっ! 幼馴染の僕が言うんだから、信じててよ!」
そう言われると、これ以上は何も言いようがないわ。わたしは諦めた。
結二さんは心から、井丸を信頼してるみたいだった。
「まぁ……。それだったら、別にいいけど」
クラブに井丸が居ることで、何も悪いことが起きなきゃいいな。
そんな不安を、言っても理解されないと思ったわたしは、話題を変えた。
「そういや零さんが、わたしに喧嘩ばっかり売ってきてさー」
「あぁ。零ちゃんは強がりだからなー。住伏くんに、対抗心を燃やしてるんだなー」
話しながら、クラブの平穏を願った。
面倒なことが、起きませんようにって。
しかし、わたしの願いは、長くは続かなかった。
井丸が、結二さんに手を出したのだ。
(三)
2023年6月19日(月)
この日の放課後、結二さんは屋上に来なかった。約束の時間になっても。
井丸は当然だけど、結二さんは違う。いつも、わたしたちと会うのを楽しみにしていた。だから彼女は、一分たりとも遅刻をしたことはなかった。
それを心配した零さんに言われて、わたしたち二人は、結二さんの様子を見に行ったのだ。彼女のクラスの教室に。
そこで、わたしは嫌な物を見た。
零さんが、喋りながら教室のドアをピシャッと弾く。
「結二先パイー! むかえに来たわよー!!」
「あんたがクラブをすっぽかすとは、めずらし……」
わたしも声を掛けようとしたが、途中で声が出なくなった。
言葉を失ったんだ。目の前の光景に。
そこには、床に倒れた結二さんと、その彼女に馬乗りになった井丸の姿があった。
その様子に、わたしは頭が真っ白になって、その場に立ち尽くした。井丸がこっちを見て、『しまった!』という顔をする。
結二さんの頭からは血が出ているようで、床が赤色に染まっていた。
見つけた瞬間、井丸は結二さんに、よく分からない事をしていた。わたしには、その意味が分からなかったけど、その景色にドロドロとした恐怖を覚えた。
「いや…これは…!」
井丸がオロオロして、何とか言おうとするが、何も言えずにいる。見られて困ることを、していたのは確かだった。
そんな井丸の元に、零さんはゆっくり歩いて行った。
そして、彼の身体を、零さんは蹴り飛ばした。
吹き飛んだ井丸の体が壁に叩きつけられ、床にへたれ込む。
「…い……井丸くんは…」
何かを言おうとする結二さんをチラッと見た後、零さんは、
「どういうこと……? 説明して」
静かに、井丸に問い詰めた。彼が何と答えても、彼女に許す気はないのが分かる。
零さんは続ける。
「結二先パイの首元のアレ、キスマークよね? どういう事なのか、説明して」
キスマークって言葉を、わたしは知らなかったけど、察した。
つまり、そっち系の話だ。
「……」
黙ってる井丸に、零さんが、
「説明しなさい!!」
と声を荒げる。
そのキレように、まるでわたしも、追い詰められてるような気分になった。
「この状況……。先パイは血を流してるのに…、アンタがやってた事を考えたら…。悪意があるとしか思えない…」
どんどん井丸への憎しみを溜めていく零さんを見て、わたしは、
「零さん、落ち着いて。それより結二さんの怪我、早く治療してもらいましょ」
わたしの言葉に零さんは、こちらを見て「そうね」と頷いた。
わたしは知り合いの医者見習いに電話をして、来るようにお願いした。
「わたしの知り合いの医者、すぐ来てくれるって」
電話を切った後、零さんに報告する。
井丸の前に近付いて、わたしは言った。
「この馬鹿には、わたしがケジメを付けさせる」
井丸を脅かした気はなかった。
しかし、彼はびびって、自分が何をしたかをペラペラと話しはじめた。
その内容は、耳を塞ぎたくなるような、嫌な物だった。
次回は12月28日(日)更新予定です。




