第37話(高2編-5) 魔法のような杖
(一)
2Cたちが着用している鎧の名は、”キラーファウント”。
そのコンパクトなボディに、全6種の兵器が搭載された、『殺し屋の源泉』。それを着れば、誰でも殺し屋になれるという。
”キラーファウント”に備えられたライフルから、大量の銃弾が放たれ、わたしを襲った。
ユメさんがわたしに、
「危ないッスー! よけるッスー!!」
と叫ぶ。
ピョン!
わたしは、銃弾をジャンプでかわした。
2Cが、
「さすがね。聞いていた通り……。でも、空中では避けられないでしょう!?」
と、空中にいるわたしに、ナイフを投げつける。
そのナイフは勢いよく、わたしの心臓に向かってきた。
やばい、当たる…!! と、わたしは覚悟した。
そこに、その人は現れた。
「や―――――——っ!!」
ピンク色の髪をした女の人が、わたしの前に来て、飛んできたナイフを蹴り飛ばした。
ナイフが回転しながら、宙を舞う。
カランと床に転がり落ちたそれを、彼女は拾い上げた。そして、
バキッ!!
と真っ二つに、へし折った。
わたしは「あっ…」と声を出した。
その人に、見覚えがあったから。さっき校舎に入っていった、マントを羽織った女の人だ。
その女の人に、2Cが聞く。
「誰だい…?」
それに彼女は、ビシッ!! と見栄を切って、
「アタシの名は山村 零! ヒーローになる女よ!!」
と名乗った。
ヒーローって口上。それにマント姿も相まって、まるでアニメの主人公みたいな人だった。
マントが、炎の赤色を反射させて、ゆらめいている。
零さんは、捕まっているユメさんに、
「待っててよ、人質ちゃん! アタシが今助けるわ!!」
そう呼びかけると、
「その子を放しなさい!!」
ユメさんに付けたリードを握っている2Cに向かっていき、
「とりゃ—————っ!!」
と、2Cの鎧の中心に、クロスチョップをお見舞いした。
その後、
「どーよ!! 少しは頭を冷やしなさいってのよ、殺し屋どもめ!!」
そう奴らを煽る。
しかし、わたしは安心しなかった。
分かっていたんだ。その程度の力じゃ、2Cたちは倒せないって。
そして、その見積もりは、当たっていた。
零さんのチョップは、奴らの着た”キラーファウント”で防がれ、全く効かなかった。
「んん? その程度…?」
2Cに煽り返され、零さんは、
「あれ…? えい! えい!」
と何度も叩くが、カン! カン! と甲高い音がするだけで、鎧には傷一つも付かない。
2Cが、零さんに説明する。
「私たちの鎧、”キラーファウント”はスタークリスタルって宝石で出来ていてねぇ。いかなる衝撃でも、絶対に割れない代物なのよ」
奴の言うことを、わたしは既に知っていた。『スタークリスタル』ってのは、”ハート業界”という裏社会に出回る、希少な素材のこと。
奴らの”キラーファウント”は、そんな”スタークリスタル”で作られているのだ。
2Cが零さんを睨み、
「ヒーローだとか、綺麗事を言う奴は嫌いでねぇ…」
と言った後、ボウッ!! と右手から、大きな炎の玉を撃ち出した。
「”キラーファウント”には、6種の兵器が仕込まれているのよ。この右手には、火炎放射器が備わっているのよ……」
2Cが笑う。
全身を焼かれた零さんは、その場に倒れ込んだ。
それを2Cはドスドスと、何度も蹴って痛めつける。
「キャハハハ! くだらない正義感しか持たない馬鹿が! 私たちの計画に首を突っ込むんじゃないわよ!!」
と罵りながら、
「何がヒーローよ!! 私たちの友達は、救ってくれなかったくせに!? 笑わせないで!!」
そう言う2Cの顔は、確かに何かを憎んでいる顔だった。零さんのことが、かなり気に障ったんだろう。
大量に血を流す零さんを見て、ユメさんが、
「もうやめてッス!! 零ちゃん、ボクのことは置いて逃げるッス――!!」
彼女に呼びかける。
しかし、零さんは強がる。
「大丈夫……。アタシは、ヒーローだから……。こんな奴らに、負けないもん…!!」
そうやって意地を張るけど、零さんは立ち上がれなかった。怪我がひどいせいで。
そんな零さんの姿を、3Cが大笑いする。
「バーカ!! 逃げりゃいいだろ!? こんな奴は見捨ててよ!」
と言って、3Cが、ユメさんの頬をぶった。
ドガッ!! と、握った手で、加減なしに。
ユメさんのほっぺたに、ツーッと血が滲むのが見えた。
それを見た瞬間、わたしは熱くなるのを感じた。心が、3Cたちへの憎しみでガ——ッと。
わたしの友達を傷付けて、2Cたちめ…!!
その時、後ろから結二さんの声がした。
「住伏くん! これを使いな!!」
わたしは安堵した。結二さん、やっと来てくれたのか……。
彼女のトスした鉄球が、ギュルギュルと高速回転しながら、わたしの足元に落ちてくる。
わたしは零さんに、
「零さん、伏せてて!」
そう呼びかけた後、
「ユメさんを守るのは、このわたしよ!!」
鉄球を、思いきり蹴った。
「”心臓砲撃”!!」と、技名を叫びながら。
(二)
その後のことは、驚きだった。
蹴った鉄球が、壁や床、天井を何度も反射し、2C・3C・4Cの3人を、一気に弾き飛ばしたのだ。
その威力は凄まじく、奴らの”キラーファウント”を、まとめて破壊してしまった。奴らのタトゥーの刻まれた上半身が、無防備になる。
わたしは、何も考えずに蹴っただけなのに。結二さんは、こうなるように鉄球に回転を加えてトスしたのか。
2Cから解放されたユメさんの元に、結二さんが駆け寄って、
「ユメちゃん、無事かい!?」
と声を掛ける。ユメさんが、
「ひどい目に遭ったけど、ボクなら大丈夫ッス…。………あっ! それより、零ちゃんを助けるッス! ボクを助けようとして、怪我をしたんス!!」
「あ、アタシはこの程度、平気よ! ヒーローだもん!!」
ユメさん・結二さん・零さんが会話をしていると、後ろから、
「つ…ついに来たわね。”Y”……。待っていたわよ」
2Cがフラフラと立ち上がって、結二さんに向かって言った。
”キラーファウント”が砕けるほどの衝撃を受けたにも関わらず、2Cたちは生きていた。
結二さんを見つめて、奴らは『Y…Y…』と連呼していた。まるで何かの、呪いのように。
わたしは、気にかかった。『Y』って、結二さんのこと……?
結二さんが、2Cたちに警告する。
「お前たち。この家庭科室の火を消せ。そして、葉後高校から立ち去るんだ!!」
それを無視して、4Cがナイフを振りかざして、
「ここでY! キミを消せば、Xにほめてもらえるんだ!!」
結二さんに襲いかかる。
やばい! 結二さんが…!
わたしは、4Cを止めようとした。しかし、結二さんはそれを、
「いいんだ。住伏くん」
と制した。そして、
「みんな、ここは僕に任せて!」
そう言うと彼女は、長い魔法の杖のような武器を構えた。
「この超化学の杖、”キラータクト”で、奴らを止めてみせる!」
『キラータクト』。それが、その杖の名前だった。
結二さんは、唱えた。
「”キラータクト”に宿りし、炎の鳥よ! 僕の憎しみに応え、奴らを焼き尽くせ!!」
そして彼女は、杖の先端から、巨大な棒状の炎を撃ち出した。
「”炎の矢”!!」
結二さんがそう呼んだ炎の鳥は、ボオッと燃え盛りながら、飛んでいく。
そして、その軌道の先で、炎は2C・3C・4Cの胸を、撃ち抜いた。
決定的ダメージを与えられた2Cたちは、
「え……、X…。エイイチ…くん……」
とボスの名を、腹の奥から絞り出しながら、気絶した。
(三)
結二さんの使う武器、”キラータクト”。それは、火・水・電気を自在に操れるという、化学を超越した杖だった。
彼女がタクトから放った水で、家庭科室の消火をしながら、
「便利だろ? 僕、こういう発明は得意なんだ。親父がマッドサイエンティストだったから、色々教えられてね」
と、得意げに話す。
それを聞いて、わたしは気付いた。そういえば、結二さんの家族の話って、聞いたことない。
結二さんは、零さんのことを気に入ったようで、
「ねー零ちゃん、僕たちのクラブに入ってよー! 君、ヒーローの才能あるよー!」
と、彼女を”ハート探偵クラブ”に勧誘している。
でも彼女は、
「い、嫌よ! アンタたちと一緒じゃなくても、アタシ勝てるんだから!!」
と拒否している。
わたしには、一つ気になることがあった。
さっき2Cたちが、結二さんを『Y』と呼んでいた。
奴らのボスが『X』と呼ばれているのを、わたしは知っている。
アルファベットで。
イニシャルキラーの殺し屋は、『1A』とか『2C』とか、一人一人がコードネームを持っている。
だとしたら、結二さんは……。
考えていると、ユメさんが、
「みんな無事で、よかったッスね!」
と、うれしそうに話しかけてきた。いきなりで驚いて、わたしは、
「あっ。そうね…」
と微妙な返事をする。
わたしは、心の中で結二さんに語りかけた。
『結二さん。そろそろ、ほんとのこと教えてほしいわ』。
次回は、12月14日(日)に更新予定です。




