第35話(高2編-3) ”ハート探偵”クラブ
(一)
2023年4月11日(火)
ユメさんは、わたしに聞いた。
「アン、知ってるッスか? ボクのクラスに、転校生が来たッスよ!」
永正 結愛さん。わたしの、中学からの友達である。
学校から帰る途中でバッタリ会って、話をしてきた。
「転校生?」
わたしが聞き返すと、ユメさんは教えてくれた。
「名前、何だっけ…。フスサミ……? 結二ちゃんッス!」
彼女が言った名前に、わたしは覚えがあった。
きっと、浮荒味 結二さんのことだ。昨日会った。
あの人、葉後高校に通うって言ってたけど、本当に来たのか。しかも、わたしたちと同じ学年だったとは……。
「ボク、もう仲良くなっちゃったッスよ、結二ちゃんと! えへへ♪」
友達ができて、うれしそうなユメさんに、
「わたし、結二さんのこと知ってる。ボサボサの金髪の、女の人だよね?」
わたしは言った。それに彼女は、
「う~ん、金髪じゃないッスけど…、確かにボサボサッスよ。なぁんだ、知ってたッスか?」
と答える。
あれ? と不思議に思う。
ユメさんに聞いた話だと、結二さんは黒髪らしい。
「昨日会った時は、金髪だったわよ! 黒に染め直したのかしら…」
ユメさんに言いながら、わたしは考える。
先生に怒られないように、黒髪にしたのだろうか。
しばらく考えていると、ユメさんが、
「もしかして結二ちゃんのこと、気になってるッスか~? うふふ!」
丸メガネの奥の瞳をキラキラさせて、聞いてきた。
いや。別にそういうのでは…。
「分かったッス! 結二ちゃんのこと、教えてあげるッスよ!」
ユメさんは両手をぶんぶん振って、意気込むのだった。
ユメさんったら、勘違いしてるな…。
わたしは困った。
(二)
2023年4月17日(月)
結二さんが転校してきて、1週間ほど経ったこの日。
学校の外れの海辺で、わたしはトレーニングをしてた。
アシカの玉乗りのように、大岩を頭の上に乗せて。グラグラと、落とさないようバランスを取る。
そこに、結二さんがやってきて言った。
「ねぇ作ろうよー、住伏くん。”ハート探偵”クラブー!」
何、それ? と理解できてないわたしに彼女が、
「この学校の平和のために戦うクラブだよ。僕と一緒に作ろうよー!」
と、わたしの肩を引っ張って、ねだってくる。
ユメさんが言ってた通り、結二さんは髪を黒染めしていた。
黒髪の結二さんは、かなり大人びていて、高2には見えないほどだ。
そんな大人びた彼女が、
「住伏くんがよく言ってる”ハート探偵”ってー、友達を守るために戦う、戦士なんだろ?」
結二さんの質問に、わたしも答える。
「そうだよ、多分。わたしも、よく知らないけどね」
”ハート探偵”。
その言葉から連想する人が、わたしには3人いる。
1人は、わたしに戦い方を教えてくれた人。
そしてもう2人は、中2の時にわたしを助けてくれた人たちだ。
わたしは、ふと昔のことを思い出す。
(三)
2年ちょっと前の、2020年12月31日(木)
中2の冬休み。わたしの地元、心路村の川で。
わたしの友達のメイさんが、川でおぼれていた。
「ぎゃ—————!!」
彼女の悲鳴を聞いて、わたしが駆けつけたのは、川の急流にあたる場所。
メイさんは、川の流れに呑まれそうになっていた。
「助けてぇ———っ!!」
大変! 早く助けなきゃ!!
焦ったわたしは、持ってる物を手当たり次第に、彼女の方に投げた。
扇風機、水筒、手鏡、ガムテープ、リュックサック、バレーボール……。その中で、大縄用の長いロープを見つけた。
「やったぁ!」
わたしは、ロープの片方を踏んで固定し、もう片方の先端をメイさんの方に投げた。
数分後。
メイさんは、川の岸に戻ってきた。ロープを引っ張って、なんとか助けられた。
川岸に座ったメイさんが、ため息をつく。
「はぁ…、びっくりした。流されるなんて……」
「まったく、あんたは…。危ないから、川に入っちゃダメって言ったでしょ」
わたしが怒ると、彼女は、
「うぅ…。つい興味本位で……」
と、バツが悪そうに、水面をピチャピチャと蹴る。
おぼれた川の際に、よく座ってられるなぁ…。わたしは、心の中で呆れるのだった。
「ここは川の急流。わたしでも、落ちたら簡単には出られないから…、」
川に石を蹴り落としながら、わたしは喋っていた。
その直後だった。わたしは足を滑らせて、川に落ちた。
「ぎゃ—————!! 助けてぇ———っ!!」
流されながら叫ぶと、メイさんが、
「えぇ———!? バカなの――!?」
と、ロープを伸ばしてくれた。
しかし、そのロープは掴んだ途端、切れてしまったのだった。
またも流されるわたしに、メイさんが、
「やだ! 行かないで、アン―――!!」
と呼びかけている。
どうしようもなく、わたしは川底に沈んでいった。
もうダメかと思った、その時。
がしっ!!
巨大なツリーの手が、わたしの身体を掴んだ。
そして、その後。
ぶわっ!!
と、川底から、風が巻き起こった。
その風は川の流れを切り裂いて、わたしを天高く吹き飛ばし、川岸に落とした。
「ぶべっ!!」
地面に叩きつけられ、わたしの身体は数回バウンドした後、仰向けに着地した。
逆さになった景色の中に、二つの人影を見つけて、
「あっ」
と、わたしは声をもらした。そして、その人たちの名前を呼ぶ。
「草子先生と、組風先生」
二人は、わたしとメイさんに声をかけた。
「何やってんだ? お前ら」
「よかったわぁ~。二人とも無事で♡」
草子先生と、組風先生。
この二人の”ハート探偵”に会ったのは、この日が最後だった。
(四)
「メイさんが川に入って、大変だったんです! 川に入るなって、あんな言ったのにー!!」
事の始終をメイさんのせいにするわたしに、
「住伏くん」
と、草子先生は語りかける。
「友達のために、いかなる時も動く。これは、”ハート探偵”としての基本だよ」
彼女に怒られて、気まずくなったわたしは、
「は、はぁい…」
と、締まらない返事をした。
ピンチを、友達のせいにしてはいけない。何も言わず、ただ友達を助けろ。
きっとこの時、草子先生はそういう事を言ってた。
草子先生が、メイさんを見て、
「それはそうとして…、」
と前置きしてから怒る。
「櫻花ちゃんも、面白半分で危ないことしないの!」
先生に言われて、メイさんも気まずそうにしてる。
「ごめんなさい。好奇心が抑えられなくって…」
と謝る。
草子先生が組風先生に、
「クミっちも、櫻花ちゃんに言ってあげてよ。ガツーンと!」
それに組風先生が、「えっ?」と少し考えた後、
「メイちゃん。しっかり周りを見て行動しなきゃ、ダメだよ~?」
と、ぼーっとした口調で言った。
メイさんが、「は、はい!」と返事する。
「クミっちは、ゆるすぎるの! もっと強く言わなきゃ、櫻花ちゃんは覚えてくれないよー!」
と、草子先生がまた怒る。その後、
「住伏くんも、櫻花ちゃんも、しっかりしなさいな」
落ち着いた口調に戻って、わたしたちに言う。
「わたしたち、しばらく二人に会いに来られないからね」
彼女のその一言に、メイさんが、
「えっ、そうなの…? アイアちゃん、エイミちゃん…」
二人の名前を呼んで、不安そうにする。
わたしは知っている。
二人が忙しくて、大変なこと。何かと戦っていること。
わたしと会う時、二人はいつも体中に、怪我の手当ての跡があったから。
もう会えないの? と不安がるメイさんに、二人は言った。
「ただ、お前らが呼んだら、その時は必ず来るから!」
「いつでも呼んでね~♡」
わたしたちの”ハート探偵”としての名前、『Smile』の名を呼んでくれたらね。
そう、二人は付け加えた。
この日以来、わたしは『Smile』の二人に会っていない。
(五)
再び、2023年4月17日(月)
「住伏くんってー、友達を守るために、強くなろうとしてるんだろ?」
結二さんが、わたしに言った。
「だから、僕も手伝うよ。住伏くんの友達を守るの!」
さらにもう一押し、
「一人でやるより、僕と一緒にやる方が楽だろ? だから、作ろう! ”ハート探偵”のクラブ!」
結二さんが提案しているのは、クラブの結成。つまり、僕と一緒に戦おう! ということだった。
『一緒に』。そのワードに、わたしの心が少し動いた。
わたしは彼女に、
「まぁ…、作る分にはいいかもね。クラブ」
そう返した。
それに結二さんが、
「そうだろ!?」
と食いつく。
共に戦う仲間。それにわたしは、憧れてない。そんな訳でもないからだ。
昔から周りからいじめを受けてきて、友達も少ない。
そんな自分だからこそ、仲間を欲してる部分があるのよ。
わたしの反応が上々だったからか、結二さんは、
「僕、早速メンバーを連れてくるーっ!」
目をキラキラさせて言った後、どこかに駆け出した。
なーんだ。二人でやるわけじゃないんだ…。
そう思った後、わたしは結二さんを追った。
次回は、11月23日(日)更新予定です。




