第33話(高2編-1) 金髪さん
(一)
2023年4月10日(月)
葉後高校の、2年花組の教室。
わたしは、いじめに遭っている最中だった。
「くたばれ、バケモノー!!」
にやついた顔の男子生徒が、わたしの体を突き飛ばす。
だけど、わたしは何とも思わなかった。ただ、「またか」と心の中で呟くだけ。
わたしの名前は、住伏暗。葉後島に住む人間。そして、葉後高校に通う、高校2年生だ。
今わたしは、名も知らぬ男たちに囲まれ、悪口を言われている所。
多分、同じクラスになった生徒なんだろうけど、そんなの興味ない。友達じゃないんだから、誰でもいい。
「きしょいんだよ、ゾンビ男が!!」
いじめっ子たちの中でも、一番背の高い奴が、わたしの髪の毛を引っ張る。その様子を、他の男子たちが笑う。
自分はこういう事をされるタイプだと、わたしは自覚している。小学校や中学校でも、こんな扱いを受けてきたから。
原因は、色々思い当たる。暗ーい性格とか、眼鏡を掛けた暗ーい容姿とか。
けど、一番の原因は、わたしの目だ。他人とは違う、真っ黒で光の無い目。
人は目に光が反射して、瞳にその色が浮かぶのが普通だと聞く。
だけど、わたしの目は、鏡に近付いて覗いても、ずっと真っ黒のまま。その瞳に、光は浮かばない。こんな目をしてるから、昔から『死人』とか『ゾンビ野郎』とか言われている。
家族や親戚は、みんな普通の目をしてるのに。どうして、わたしだけ……?
そんな訳で、わたしが他人から嫌がらせを受けることは、日常茶飯事なのだ。今更、それを嘆くような感受性も、わたしは失っている。
高1の時は、いじめられることは無かった。けれど、本来のわたしは、いじめられる運命なの。
「化け物ー!!」
「こっち見んなよ、どっか行けー!!」
ただ面倒と思いながら、悪口を聞いていた。すると、
「やめろ!!」
そこに、怒鳴り声がした。レイナさんのものだった。
わたしのクラスメイトの、友寄励奈さん。1年でも同じクラスだった、わたしの友達。
彼女はわたしの前に立って、いじめっ子たちを通せんぼすると、
「アンをいじめないでよ」
そう言って、いじめっ子たちを止める。彼らはそれに、面倒そうな顔をしている。そして、
「どっか行け———っ!!」
レイナさんがそう叫ぶと、いじめっ子たちは去っていった。
「はいはい、すいません」とか、そういう言葉を残して。
レイナさんが助けてくれたおかげで、わたしは嫌がらせから解放された。
(二)
その日の放課後。海辺の帰り道で、レイナさんに会った。
彼女はわたしを心配してるようで、「大丈夫?」と聞いてきた。
「どうして?」
わたしが聞き返すと、さっきの嫌がらせのことを、心配してるらしかった。
なぜ心配してるか。それは、今日のいじめが初めてじゃないから。さっきの奴らからは、何度もされている。高2になってから。
「なんでアンがあんな目に遭うの!? もう、ムカつくー!!」
とキレたレイナさんが一息ついて、
「わたしじゃ、何にもできないかなぁ…」
そう思い詰めた顔で言うので、
「いや、そんな悩むほどのことじゃ…」
わたしは彼女をなだめる。
レイナさんは、わたしを気に入ってくれてるようだった。
わたしが酷い目に遭うと憂うし、うれしいことがあれば、彼女も嬉しそうにする。
高1の時にわたしは、よく文化祭とかの手伝いに参加していた。そこに、レイナさんも来ていた。
特に役に立った覚えはないけど、わたしの働きようを気に入って、友達と認定してくれたらしい。
そんな小さい理由で、いじめっ子から守ってくれる。レイナさんは、優しい人。
彼女のそういう所が、わたしも好きだった。
突然、レイナさんが叫んだ。
「あ—————っ!! 誰か倒れてる!?」
彼女が路地裏を指差す。そっちを見ると、確かに人が倒れていた。
女の人だろうか。髪の毛が金色で、ボサボサと乱れている。
「わたしの友達じゃないな」
わたしが、その人を放って立ち去ろうとすると、
「待て——っ!!」
レイナさんが、わたしの耳を引っ張って怒った。そして、倒れてる人の元に駆け寄って、
「大丈夫ですか!?」
と声を掛ける。
「知らない人を助けるなんて、お人好しなのね…。まぁ、あんたが言うなら、助けようか」
わたしも、その人の前に座る。
わたしの知り合いに医者がいるから、電話で呼ぼう。そう考えながら、その人の手に触れてみる。
その時だった。
その人が急に起きて、わたしの顔を右足で蹴り飛ばした。
視界が真っ黒になった。その人の蹴りで、わたしの頭はカベにめり込んだのだ。
「僕に近付かないで!!」
その人が、声を荒げる。
いや、近づきたくても無理だけど。壁に刺さりながら、わたしは思った。
(三)
「あ———っ! 僕ったら何てことをー!!」
金髪ボサボサのその人は、両手で頭を抱えて叫んだ。そして、
「ごめんよ。僕の身体に手を出す、不届き者と勘違いして…。まさか、殺気のない少年と少女だったとは……」
わたしがコンビニで買ったパンを食べながら、謝ってくる。
謝られると気まずくなって、
「気にしないわよ。痛くなかったし。それよりこの人が、倒れてたあんたを心配してたよ」
レイナさんを指差して、わたしは言った。
それに金髪さんが、
「いやぁ、ここ3日間何も食ってなくてさぁ…」
そう言って、カレーパンを一瞬で平らげてしまった。その後、
「飯をおごってくれて、ありがとな———っ!!」
と、わたしに抱きついてきた。
暑苦しいな、この人。そう思った。
その人に着てる服は、どこかで拾ったようにボロボロだった。
右目の上に1本、太い傷の跡があるのが、前髪の隙間から見える。何かの怪我の痕だろうか。
考えていると、金髪さんは切り出した。
「僕さ、『住伏暗』って人を探してるんだ。君たち、何か知らないか?」
あれ? と思ってレイナさんを見ると、目が合った。彼女が『早よ言え』って、目で訴えてくる。
仕方ないなぁ。わたしは、
「住伏暗ってのは…、多分わたしのことだけど」
と名乗り出た。すると金髪さんは、
「えっ、君が!? 住伏くん!?」
驚いてるようだった。わたしの顔をじーっと見て、
「う~ん。思ってたのと違うなぁ。チビで弱そう…」
と、がっかりしたように溜め息をついた。
「よく言われる」
わたしも、そう返した。
チビってのも、思い当たるんだよな。原因に。
落胆してた金髪さんが、次の瞬間、
「ま、いいや。君のこと、ずーっと探してたんだ———っ!!」
わたしに飛びついてきた。「キャ――ッ!」と声を上げて、うれしそうな様子で。
めんどくさいな、この人。そう思った。
「離れてよ。あんた、誰よ」
金髪さんを押し返しながら聞くと、
「僕? 浮荒味結二だよ」
と、その人は名乗った。
フスサミ…? 変わった名前だなぁ……。
「君たち、葉後高校の子だろ?」
結二さんの言葉にレイナさんが、
「そうだよ。なんで分かるの?」
と不思議がる。それに結二さんが、
「そりゃあ分かるよ。だって僕も…、」
何かを言い出そうとした、その時だった。
何者かの野太い声が、路地裏に響いた。
「ようやく見つけたぞ!!」
その声の方に、わたしは振り返る。
透明色のナイフを持った大柄な男が、そこには立っていた。
その男は、わたしたちに言った。
「俺の名は、2B。組織、イニシャルキラーに仕える、殺し屋だ」
そいつが言った『イニシャルキラー』という組織名に、ピンと来た。わたしは多分、その組織を知っている。嫌な響きだわ。
『葉後高校への復讐』。イニシャルキラーは、それを目的に掲げる、殺し屋集団だ。
次回は、11月9日(日)更新予定です。




