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ハート探偵  作者: 住伏暗
28/32

第28話 あなたのために


「決着付けるぞ、1A!!」


 奴に向かって、わたしは叫んだ。奴はイラついて、何かを呟いている。その声は徐々に大きくなって、


「僕は”イニシャルキラー”の1A…僕を救ってくれた”X”のために…XのためにXのために……!!」


 わたしを睨んだ。


「Xのためにっ!!」


 来るっ!!

 奴が突っ込んできた。速い……、けど見切れる。慣れたから、さっきよりは遅く見える…。

 ナイフをハンマーで受け止める。奴は手を休めず、次を仕掛けてくる。読み違えたら殺される、ギリギリの攻防……。心がビリビリするわ…。


「僕はずっと…、一人で生きてきた! 生まれた時から…ずっと……!!」


 ドカッ!! と叩きつける力が強い。重い…。


「うっ…!!」


 衝撃で後ろに弾かれる。そこに追い打ちで、ブーメランアックスを投げてくる。すかさずジャンプで上によける。


「友達からも、家族からも愛されず…! いじめられてきたんだ!!」

「わっ…!!」

「それを救ってくれたのがあの人、”X”だったのだ!!」


 ナイフを持ってない方の手で、首を掴んで拘束される。後ろからはブーメランアックスが返ってきて、このままじゃ挟み撃ちだ…。


「この…!」


 上からハンマーで腕を叩いて、捕縛をほどく。

 下に抜けてブーメランアックスは避けたが、今度は頭上からナイフが降ってくる。


「”X”のために!!」

「のわっ!!」


 横に転がることで回避。


「僕はここで!! お前を!! アンを!! 消すっ!! しくじるわけには行かないんだァ!!」

「んなもん……!!」


 下から跳び上がって、奴の顎に頭をぶつける。


「知らねえ!!」

「ぐがっ!! ぐ………」


 怯んだ。よし…!


「”心臓(ハート)”…!」


 これで決める! そう意気込んで仕掛ける。

 しかし、簡単には行かなかった。


「ぬ……うおおおおおおおお、アン―――――――――ッ!!」


 キレた奴は、さっき以上のスピードで飛びかかってきたんだ。透き通ったナイフの残像が、わたしの胸へと近付いてくる…。


「”暗殺(アンサツ)”ッ!!」

「うわっ!! 痛だだだ!!」


 間一髪、直撃はしなかった。けど完全にはかわせず、横腹を斬られた。痛みで思わず、そこを抑える。そこが、痛むのよ。


「くそ、早くしないと……。倒れたら、絶対立てねぇ…。時間がないってのに…!」


 さっき喰らった毒針のせいか、体がバテてきてるんだ。動けなくなる前に、あいつを倒さなきゃ…!


「何が”ハート探偵”だ!? 何が友達を守るだ!? クソくらえだ!! 友達は、利用する物だ!!」


 また同じ攻撃パターンだ。正面からナイフを刺しに来る。ただ、速い。


「偉大なる”X”の野望の前に…!! 消えちまえェエ!!」


 ここで負けたら、あの人たちに手を出される…。ちゃんと勝たなければ。


「これで終わらせてやる……。”心臓(ハート)”…!」


 わたしも、奴の心臓に狙いを定める。大事なのは、タイミングだ。ちゃんと標的に当たるタイミングで、ハンマーを繰り出せ。全身から手に、感情を集中させて…!


「バース…」


 クラッ…。


「えっ…!?」


 左足が、よろけた。あっ…、力が……。ハンマーを振れない………。

 バランスが崩れたわたしの左胸に、真っ直ぐにナイフが来ている。やば………、こんな時に毒針のダメージが……!

 避けきれ……ない…。


「”暗確殺(アンカクサツ)”ウゥッ!!」


 グサアッ!! 心臓のすぐ下に、ナイフが突き刺さる。こっ、これは……!


「うわアァあァ…!!」


 痛い!! 

 ………………、痛みが…消えていく。やばい……、意識が遠のいていく。


「アン!?」


 どうやらわたしは、倒れたらしかった。誰かが心配して駆け寄ってくるのが、微かに聞こえる。多分…レイナさん。


「アン!! そんな……!」

「アン!! 起きてください!! 寝たら起きれなくなるわよ!?」


 レイナさんに…ミカさん……? うん。分かってるけど………。体が…起きないんだ…。


「あ、アンを保健室に――!! 治療してもらってくれ!!」


 今度はエイジやキョウ、男子たちの叫んでるのが…。


「この悪い奴は、オレらが何とかするから…とにかくアンを助けてくれ!! オレらのために、戦ってくれたんだ!」

「あぁ大丈夫だ! 早く連れてけ!!」


 あのバカな男子たち、1Aの前に……? やばい…、助けてやらなきゃ………。

 …ダメだ。もう…立ち上がる気力が……無…い………。


「う、うん…! でも保健室よりも、救急車呼びましょ!!」

「保健室にも行ってくる……! 絆創膏とかいっぱい…!!」


 みんな………。た、立たなきゃ……。

 メイさん……、先生……。なんとか……………。


 ——————————。


 しばらくして。

 すっ…と、体が軽くなった。あれ…? 立てる…。なんで……。


 立ち上がると、そこには若亭がいた。さっき教室から出ていったけど、戻ってきていた。その手に持ったハートコントローラーの画面には…、『1Aを倒すまで倒れない』とあった。

 わたしの心に、ハートコントローラーでプログラムしたんだ…。あいつに勝つように………。心を操って、むりやり気力を引き出した。


 若亭がわたしを見る目が鋭い。勝たないと承知しないって、脅されてるみたいだ。

 とにかく、体に力が湧いてきた…! 感情が高ぶる………。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 叫んだ。


「アン……?」


 突然わたしが立ち上がって、クラスのみんなはびっくりしている。後ろで、若亭が呟くのが聞こえた。


「行け。友達マニア」


 わたしを見て1Aは、


「ハートコントローラーで強引に闘志を引き出すとは…余計なことを!! だが、その気合いに身体はついて行けるのか!? もう限界なんだろう!?」

「それくらい分かってるよ…!」


 分かってるよ。体はもう限界…、だけど気力があるなら! それがコントローラーの効果なら、保つのは五分だけ。一発で決める…!

 もう一度ハンマーを持って、奴に向かってく。


「だけどこの人たちのために!! お前なんかに、わたしは負けねえ!!」


 わたしを悪い奴から守ってくれた。殴ったことを謝ってくれた。お話に入れてくれた。わたしと話してて、笑ってくれた。何より、「友達」と言ってくれました。

 わたしはこの人たちの友達だから。負けるわけには行かないんだ。


 友達がピンチの時に、ちゃんと守れる。そんな強い”ハート探偵”に、わたしは……!


「”心臓(ハート)”……!」

「思い上がるな!! お前に壊せるような、僕ら”イニシャルキラー”の野望じゃないぞ…!!」


 向こうも何か、仕掛けてくる気だ。だけど…、


「僕の勝ちだ!! ”暗確殺(アンカクサツ)”!!」


 ナイフが胸に刺さる。でも、


「がっ……! おりゃああああああ!!」


 退かずに突っ込むだけ…!


「”破壊(バースト)”オォ!!」


 ハンマーを、奴の心臓にめり込ませる。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 両手に握ったハンマーに、全感情を乗せる。夢中で、みんなのために。


 リオン、キョウ、セイくん、それからレイナさん、ミカさん、カナデさん、カイ、ナル、ソウタ、コウタ、ミワさん、ルナさん、エミさん、マイさん、リヨさん、ホノカさん、エイジ、コウヨウ、ユウト、レンヤ、ハルキ、シン、イロト、ケンペイ、カイト、ハル、トウジョウ、シュウ、ユリさん、トウカさん、ミオさん、チカさん、アキさん、リツカさん、カスミさん、ミクさん、サクラさん、ハルカさん、フミさんのために!


 そしてついに。

 1Aの体がわたしの攻撃に押されて、


「オオオオオ……!!」


 ドカン!! と宙に舞った。

 その体は教室の窓を突き破って、遠くまで、遠くまで、吹き飛んでいった。


「……………はー……はー…は…」


 やった…のかな。しばらく見てても、奴はここに戻ってはこなかった。そんな様子を確認して、わたしはやっと「勝ったんだ!」と実感できた。


「は……、」


 1Aを倒した。そう思ったことでコントローラーのプロブラムから解放されて、わたしはその場に倒れ込んだ。


「アン!!」


 レイナさんたちが来る。


「アン…ひどい怪我…! すぐに何とかしなきゃ…!!」

「…心配性ね……。これくらいで…わたしは、いなくならない……」


「そんなこと言ったって、血ぃめっちゃ出てるし!! どこかにお医者さんとか!!」

「それなら救急車呼ぶぜ!!」

「でも…今から呼んでも、間に合うかな…!?」

「分からんけど、呼ばねぇとアンがやばいだろ!!」


 焦るクラスメイトの人たち。そこに、


「お医者さん連れてきたよ——!!」


 と女子の人の叫びが入った。


「医者…? どこから…」


 不思議がるみんなの前に現れたのは…、


「私が医者です! アンさんの治療、私がやります!!」


 この声は、エンマくんだな…。前にわたしも、怪我を治してもらったことがあるんだ。来てくれたのね。


「でも医者さん、傷だけじゃなくて毒もくらってるっぽいんだ…。何とかなるのか………!?」


 不安な質問に対しても彼は、


「大丈夫、すぐに解毒剤を作ります。私に救えない患者なんて、いませんから!」


 と意気込んでくれてる。頼もしいわね……。


「ほ、ほんとか!? じゃあ…アンを頼むよ!! オレらのために戦ってくれた、大事な友達(だち)なんだ…!!」


 必死に頼み込んでるのは、エイジか。エンマくんを連れてきてくれた人が、経緯を説明している。


「地組に医者がいるから呼んできてって、音雨くんに言われたの」


 音雨くんって、キョウのこと。そうか、キョウが……。彼がわたしの元に来て、


「アン、恩に着るよ…」


 と言ってきた。それにわたしは、


「これくらい……当然よ…」


 と返した。


友達(だち)だからな」


 その辺りからか。徐々にわたしは、意識を失っていった。ここからしばらくのことを、わたしは覚えていない。



 2023年2月1日(水)


 覚ました目に入ってきたのは、真っ白な天井だった。あれ、ここはどこ…? 思うわたしに声を掛けてきたのは、


「アン…?」


 レイナさんだった。眼鏡かけてないせいで見えないけど、声で分かるわ。


「あぁ。あなたね…。ここは、どこだい? それに、今は何日…?」


 わたしの質問にも答えずに彼女は、


「よかった………、ほんっとよかったわよー!!」


 わたしの手を強ぉく掴んで言った。え…、そんなに泣かなくてもいい……。


「このままずっと起きないかと思ったよぉ———!! アン―――!!」

「い、言ったでしょ…。わたしはいなくならないって。まぁ、心配してくれたのはありがと…」


 話を聞くと、あのままエンマくんが治療してくれたらしい。怪我も毒も、ちゃんと克服したんだって。すごいな、彼…。そしてここは、


「学校の保健室か…。四日も寝てたの、わたし…」

「そうよ。あのエンマくんってお医者さんが、夜通し看てくれてたのよ!」


 保健室のベッドを一つ占領してたとは、迷惑だったろうな…。まぁでも、エンマくんの家がやってる病院に運ばれなくて良かったか。そしたら、迷惑どころじゃなかったもの。


「あれから、みんな何ともないの?」


 クラスのみんなについて聞いてみる。


「うん! 『催眠術』なんて物があるって話に戸惑ってはいるけど、その催眠術師も警察に捕まったみたいだし…。元気にやってるわよ!!」


 『催眠術』。そういえばコントローラーの操りを、そう表現したのはわたしだっけ。


「アンが起きたって知ったら、みんなもっと元気になるわよー?」

「そ、そんな心配されてると思わなかった……」

「するわよ! 友達だからっ!!」


 話しているといきなり、


「あぁ————————っ!!」


 と部屋の入口から声がした。


「アンさんっ!! 起きたんですねー!?」

「あっ、エンマくんに若亭…」


 二人揃って来るなんて。そういやこの二人、仲がいいんだっけ。エンマくんがわたしに近付くなり、


「うぉわあぁあん、良かっだでずぅ~~~~~!!」


 と大声で泣き出す。え。


「な、なんでお前が、一番泣いてるの…」

「だっで!! だっでぇ!! アンさんは私にとっても、大切な人なんですよお~~!!」


 横で見てるレイナさんが引くじゃないか…。


「病み上がりの所悪いが、話したいことがある。友達(だち)に外してもらっていいか?」


 そう言うと、若亭はじーっとレイナさんを見る。しばらくして彼女が、


「え………えぇ!? わたし…!?」


 急に『出ていけ』って空気を出されて、困惑している。


「すまねぇな」

「い…いえ! お構いなく…」


 何の話か気になるだろうけど…、彼女は部屋の出口に向かいはじめた。そこにエンマくんが、


「みんなもアンさんに会いたがってるはずです。後で連れてきてあげてください!」


 と。


「はっ…、はい!」


 返事してレイナさんが出ていくと、若亭は早速、


「さて……。話ってのは他でもない。あの”イニシャルキラー”と名乗る連中のことだ」


 秘密の話を始めた。


「その話だと思った…。若亭が探してた奴らだもんね」

「えぇ……。葉後島で起きている連続自殺。それを引き起こした元凶ですもの…」


 そう。この葉後島では昨年の三月から、不可解な自殺が続いている。若亭がこの学校に生徒として潜入してるのも、その元凶を見つけるため。

 そしてやっと、犯人と名乗る奴らを見つけた。


「待ってー!」


 ガラッと窓が開いてそこから、


「”ハート業界”の話なら、オレも入るぜー!」

「なんで窓から入ってくるんだ」


 蒼男が来た。こいつ、生きてたのか…。


「おぉ、アン起きたんだな! よーっす!」

「あーっ、はいはい…」


 人数が増えてきた所でエンマくんが、


「とにかく一度、情報を整理しましょう!」


 と、手を叩いた。


「じゃあ改めて言うが………。先日この葉後高校を襲ってきた、1A・2A・3A・4Aと名乗る殺し屋たちの話だ。奴らは自分たちを、”イニシャルキラー”という組織に所属していると言っていた。

 そいつらは住伏亭のクラスメイトをコントローラーで殺そうとし、さらに自亭たちをも殺そうとしたが、いずれも失敗に終わった……。

 さらに葉後島で毎月起きてる事件も、自分たちが仕組んだと言い張っている……」


 若亭のまとめた情報。一気に言われると、頭の中がこんがらがるなぁ…。結局、そいつらが人をいっぱい殺してるって話だけど。


「若亭があいつら捕まえて、”ハート警察”に送ったんだろ? 何か手掛かりとか、聞き出せなかったのかよ?」

「あぁ。”ハート監獄”にぶち込んで、仲間がいろいろ問い詰めてる所だよ」


 蒼男の問いかけに、答える若亭。


拷問(取り調べ)で聞いた所によると、”イニシャルキラー”は毎月13日に葉後島内の三か所に分かれて、コントローラーで人を自殺させてる。とのことだ。13時13分という同時刻に合わせてな。

 だが、それ以上の情報はない。その組織の実態は? 目的は何か? それらを吐く気配はないらしい。ただ…、”イニシャルキラー”が見せる悪夢は、まだ始まったばかり………とのことだ」


 なぁんだ。知ってる情報ばっかり…。組織のことは吐かないつもりのようね、そいつら。


「悪夢の始まり…。1Aが崇拝する”X”という者が、組織のボスなんでしょうか? だとしたら、彼は何を企んでいるのでしょう……」

「う~ん。むむむ……」


 いろいろ分かんないことがあって、みんな不安そうね。だけど。


「そんなのわざわざ考えなくても、直接来るんじゃないの?」

「え…?」


 蒼男とエンマくんが、こっちを見る。だから、


「現場に送った下っ端が帰らないってなったら…、その”X”って奴がさ!」


 ここ、葉後高校にね。わたしの言ったことに若亭が、


「まぁな。1Aたちが計画の下見役だったなら、次の一手を仕掛けてくるだろう。奴らの目的は、葉後高校への『復讐』…。であるならば、その標的は、この学校の生徒も…教師も…全員かもな」

「それって、あの人たちも狙われるってこと…」


 思わず呟いた。一年空組のみんなのこと。気が滅入るわ。やっと守ったばっかりなのに…。もっと厄介な敵が来るかもしれない、ここに……。


「嫌ー!! 来てほしくなーい!!」

「同じくです~~!! 怖いです~~っ!!」


 びびりな蒼男とエンマくんには、頭を抱えるような話らしい。


 まぁでも、来るんならやるしかないわね。誰が来ても、あの人たちに手ぇ出すんなら容赦しないわ。


 わたしは心の中で、そう決め込むのだった。


 次回は5月18日(日)更新予定です。

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