第27話 心臓乱壊
左肩が切れて痛い。左足が撃たれて痛い。体中が焼かれて痛い。息も切れる。
「はー……はー………」
結構な数の攻撃を、1Aの”キラーファウント”に打ち込んだ。これだけやって、何も変わってないはずがないのに……。
「なぜ…。あきらめないんだ……、アン…」
機嫌が悪そうだ、1Aは。
「お前はこの”キラーファウント”を壊すことは、絶対にできないんだぞ…? 現に僕は、傷一つも付いていない。これだけの力を前にして、お前はなぜ僕に向かってくる!! いい加減あきらめろよ!! なぜだ!?」
傷一つも、か…。心が折れそうになる状況だ。だけど。
「まだ…、お前をぶっ飛ばせてない」
「だから、それは無理だと…!!」
「じゃなきゃお前、あの人たちを殺すだろう?」
”ハート探偵”流・殺人術の技の一つ、”刺蹴速移”。感情を込めた足で、地面を強く蹴る。そうすることで、速く移動する技だ。
これを使って、奴から先手を取る!
そう思って奴に接近すると、左手のレーザー発射口を向けてくる。構えていたハンマーで、その左手をどかす。ビームがわたしの頬を掠めて、横に逸れる。
「わたしは絶対、あの人たちを死なせない!!」
もう一度、ハンマーで鎧を叩く。下から突き上げるように、強く叩く。すると奴が、鎧ごと宙を舞った。今がチャンスだ…! 追撃しようとするわたしに奴が、
「『あの人たち』ってのは、友達のことか!? また『友達』か!? 何度も言うなよ、うざったい!!」
みぞおち部分のボタンを押す。あれは……。
「”毒針”発射!!」
「うわっ…!!」
上から毒針の雨が。奴がこっちを見下ろして、雄弁と語る。
「いいか! ”ハート業界”で成り上がるなら、よく覚えておけ!! 『友達』とは、『仲間』のこと…! 仲間の一人や二人、自分の正義の為なら犠牲にする覚悟を持て!!」
ぶすっと針の一本が、わたしの足首に刺さる。
「うっ……!!」
避けきれなかった…。
「全て守るなんて、甘ったれた奴はな! ”ハート業界”という場所では勝ち残れないのさ!!」
何だろう、針の刺さった所が半端なく痛いぞ…。友達を犠牲にする覚悟……? 冗談じゃない。
「うるせえ—————っ!!」
痛い時は、とりあえず叫んどけ。 そうやって自分を頑張らせるんだ。
もう一度、奴に向かっていく。そんな中でふと一瞬、昔のことを思い出した。
わたしが中学二年生になったばっかの頃。教室で隣の席の人が、わたしに話しかけてくる。
「友達がいないの…?」
「うん」
周りがざわざわ喋ってる中で、あの人はわたしに言った。
「じゃあ、わたしが最初の友達だね♪」
その時のことが、わたしは心に残ってるんだ。でも、今思い出すなんて気持ち悪いわね。毒にやられてるのだろうか。
「守れなきゃ、友達じゃねえ―――!!」
そうだ、もっと叫べ! あいつを倒すんだ。
「”心臓”…!」
この教室の外に、みんながいるんだ。わたしの友達が……。その人たちのために、ハンマーを振れーっ!!
「”乱壊”———————————————っ!!」
両腕でハンマーをブランコのように振り動かし、鎧の胸部を殴りまくる。
ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガ、ゴオォォォォ……ン!!
奴が壁まで吹き飛んで、轟音を上げた。衝撃でパラパラと、壁が崩れ落ちる。
ピシピシ…!
奴の”キラーファウント”に、ひびが入る。そして……。粉々に砕けた。文字通りの粉々だ。もう着れる状態じゃないし、付いてる武器たちも機能しないだろう。ついに………、やった!
「ぜぇ…はー………。…もう少し…」
あの鎧を砕いて、もう奴は生身だ。これでやっと、攻撃が通用するはず……。
しかしそんな状況でも、奴は余裕の表情だった。焦ったり、驚いたりしていない。そして。
「ん? 何してんだあいつ…立たないのか――」
どぼっ!!
突如わたしは、肩の傷を攻撃された。
「うぇっ……!!」
何だ…? 奴は倒れていたはずじゃ…。疑問に感じている所に、後ろから何かが足を斬りつける。
「げ…!」
痛ってぇ!! やられてから気付いたけど、これはブーメランアックスだ。
見えなかった…。今、あいつが…!
ここでやっと理解した。重い鎧が外れたことで、奴の移動スピードが上がったんだ…。
「うわっ!!」
わたしが倒れ込んだのは、ちょうどブーメランアックスが戻ってくる位置だった。このままじゃ、頭に当たる……。
「やべぇ…! えん……!!」
寝たまま体を回して、左足でアックスを蹴り飛ばす。直後鼻先に、今度はナイフが振り下ろされている。
「…!! くっそ…!」
咄嗟にハンマーで受け止め、跳ね返す。しかし、またすぐに同じ攻撃が来る。
「ふんぬ…!!」
決死の覚悟で、体を起こして回避する。しかし今度は目の前に、ブーメランアックスで斬りかかる奴の姿が……。
またハンマーで受けるけど、重い………。ハンマーを持つ右腕を、たまらず左手で支える。
跳ね返すので手いっぱいだ。こっちから仕掛ける暇がない…! 奴が喋る。
「”キラーファウント”を破壊したことは褒めてやるよ。いかなる衝撃でも砕けないはずの、この”キラーファウント”を…。キミは只者じゃない。だが……、」
超高速でのナイフ、ブーメランアックスでの攻撃ラッシュ。脅威に感じる…。
「僕は2Aたちとは違う……本物の殺し屋だ」
倒れたわたしの上にまたがって、首に照準を定める。やばっ…!! ナイフが振り下ろされる。
「ぐぬっ……!」
喉に刺さる直前で、刃先を両手で掴んで止める。
「なっ、何を!?」
「んぎぎぎ…どらあああ!!」
ナイフを持った奴の体ごと、あっちにぶん投げる。めっちゃ重いし、刃が手に刺さるけど…! 勝つためだから……!!
「だああああああ!!」
「ぐぼぁあ!!」
ナイフから離れて、奴は壁に叩きつけられた。奪った真っ赤なナイフを、ざくっと床にぶっ刺す。
「小賢しい!!」
「…っ!!」
素手で顔を殴って、ぶっ飛ばされる。それ自体は痛くないけど、衝撃が傷に触るわ。奴は激昂していた。
「あきらめろよ、もう!! ”キラーファウント”を脱いだ僕は、キミには見えないほどのスピードを誇る!! キミには、もう勝ち目はないんだぞ!?」
床に刺さったナイフを再び取って、またこっちに来る。
「さぁ終末だ!! このナイフで、キミの心臓を一突きにしてやる…!!」
…来るっ。何とかしないと…!
ガラガラッ!! 突如、教室の扉が開く音がした。
「待て!!」
叫び声……。誰か入ってきたのか? いや、この声は……。
「こっちを狙え1A! あ…アンを悲しませるにはオレを殺すのが、い、一番だよ!!」
入ってきたのは、キョウだった。両手を広げて、震えながら1Aにアピールしている。な…。
なんで来たんだ…!!
にやっと笑って、奴は標的をキョウに変える。彼の胸の高さにナイフを構え、今にも突進しようとしていた。
「やめろぉお―――――っ!!」
考えるより前に、走り出してる。こういう時はこうだ。
彼の前に立って、ハンマーでナイフを受け止める。わたしに防がれても、なおも奴は笑ったままだ。友達を守れなかったわたしを想像して…? なんて趣味の悪い…!
「馬鹿! 何しに来たの…!!」
後ろにいるキョウに聞く。それに彼は、
「あ…アンが守ってくれると信じてたよ…。これで、ハートコントローラーで操られて君を蹴った借りは返せたかな…?」
と答える。
「いや、だからなんで…!!」
答えになってないわよ!! わたしが言ってるのは、なんでこんな無茶をしたのか……。
しかし、わたしはそこで驚くべきものを見た。
1Aの後ろから、クラスの男子たちが飛びかかってくるのだった。
「かかれぇ————っ!!」
そこにはエイジの姿も。運動部で鍛えてるであろう奴ら中心に、1Aに生身で襲いかかる。
「お前たち!?」
「うぬおあああああ———っ!!」
数人がかりで体当たりし、奴を取り押さえる。
「ぐはっ!! な…何事だ…!? 動けない……!! くそ…!!」
ほんとにびっくりした。キョウ、このつもりで……?
「このブーメラン野郎、アンを傷付けやがって! しっかり押さえろよー!!」
「おう!!」
「お…オレは逃げたいけどねー!! 怖ぇー!!」
男子たちが乗って、その重みで1Aは動けなくなってる。
彼らだけじゃない。みんな、教室に入ってきていた。口々にわたしに、
「大丈夫かい、アン!」
「やだ、さっきよりもボロボロ…!!」
と声をかけてくる。逃げろって言ったのに…みんな、どうして戻ってきたのよ……! わたしの胸中を見透かしたようにミカさんが、
「と…、友達ですから!」
と言った。さらにレイナさんが、
「アン一人じゃない! みんなでこの悪い人を止めるのよ!」
それで、戻ってきたのか…。なおさらびっくりだ。この人たち、わたしのこと友達って思ってるんだ……。にしても、肝が据わってるのね…。
「くそっ…、お前ら! 誰を抑えつけてるんだ!! 早くどけえ!!」
奴は抵抗してるが、どうにもできないままだ。そりゃ、こんな大人数が乗っかったらな…。今の内に……!
「”心上”……!」
跳び上がり、落下しながら回転して、勢いを付ける。そして、
「”降り”!! ドォ―――ン!!」
全感情をハンマーに集中させて、ドーンと奴の頭に叩きつけた。この一撃で、完全に倒すつもりで。その後、
「…!! もう一発……、」
血を吐きながら、もう一度跳ぶ。音を上げそうな体に鞭を打って、急降下する。
「とどめは刺した…。けど、まだ……!」
「アン、お前…!」
クラスのみんなは引いてるだろうけど…、ごめんなさいね。手加減はしないよ。立ち上がれなくなるまで、奴を潰さないと…!!
「”心上降り”!!」
どっすうぅ…ん!! と衝撃で床にも割れ目が入る。体の傷にも響く。痛ぇ……。だけど、
「もう一発だけ…。”心上”…!!」
「ふ…」
嫌な感じがした。まさか………。
「ふざけるな!! どけェええ!!」
1Aは大きな叫びを上げながら、立ち上がったのだ。馬鹿な…、これだけ攻撃を入れたのに、まだ動けるの……?
「ぅわ!!」
「ぎゃ!!」
押さえてた男子たちが、全員吹っ飛ばされた。
「おい、みんな…!」
気付くとわたしのでこに、透明のナイフがサクッと当たっていた。
「う…!」
間一髪、後ろに跳んで距離を取る。だが、
「調子に乗るなよォ…!!」
すぐにまた迫ってくる。今度は背後から…。
「たかが高校生ふぜいがよォ!!」
「うげっ!!」
また避けるが、背中を斬られる。
「僕は負けるわけには行かないんだ!! ”X”のために…”X”のためにィイイイイイイイ!!」
どうやら奴はもう、ほとんど意識がないようだった。追い込まれている。それ故の暴走……。
「何だ、アイツ…ぶちギレてる!」
「怒りのあまり、暴走を始めたんだな…」
キョウは冷静だな…。これ、みんながここにいるのは……まずいな。
「キョウ、それにレイナさんにミカさん。みんなを扉や窓から外に避難させて。ここに居たらどうなるか、分かるよな…!?」
指示する。
「そ、それはアンも…!!」
「わたしは平気! あと一発くらいなら、あいつにぶち込めるよ…。先に行ってて!」
ここに居たらどうなるか。暴走モードの奴を前にして、残酷な未来しか見えない……。だから、みんなは逃げて!
「いいんだな…?」
キョウは呑んでくれたらしい。やっぱり、こっちの事情を知ってるからか。
「みんな、こっちだ!」
と呼びかけている。
「え、アン置いて行くのか…!?」
「大丈夫!! あいつは、キレると強くなるタイプだよ。今、過去にないくらいキレてるから…、きっと勝てるさ」
キョウの言う通り! 視界は赤い。奴への憎さが、心に溢れてる。それが力に変わるのを感じるわ。
「XのためにXのためにXのためにXのためにイイイイ!!」
『Xのために』。奴はもう、それしか言わないのだろうか。どういう事情か知らないけど、わたしの友達を怖い目に遭わす奴は………。
「決着付けるぞ、1A!!」
ぶっ倒す!! わたしは叫んだ。
次回は5月11日(日)更新予定です。




