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ハート探偵  作者: 住伏暗
高1編
27/38

第27話 心臓乱壊


 左肩が切れて痛い。左足が撃たれて痛い。体中が焼かれて痛い。息も切れる。


「はー……はー………」


 結構な数の攻撃を、1Aの”キラーファウント”に打ち込んだ。これだけやって、何も変わってないはずがないのに……。


「なぜ…。あきらめないんだ……、アン…」


 機嫌が悪そうだ、1Aは。


「お前はこの”キラーファウント”を壊すことは、絶対にできないんだぞ…? 現に僕は、傷一つも付いていない。これだけの力を前にして、お前はなぜ僕に向かってくる!! いい加減あきらめろよ!! なぜだ!?」


 傷一つも、か…。心が折れそうになる状況だ。だけど。


「まだ…、お前をぶっ飛ばせてない」

「だから、それは無理だと…!!」

「じゃなきゃお前、あの人たちを殺すだろう?」


 ”ハート探偵”流・殺人術の技の一つ、”刺蹴速移(スティック・ブースト)”。感情を込めた足で、地面を強く蹴る。そうすることで、速く移動する技だ。

 これを使って、奴から先手を取る!


 そう思って奴に接近すると、左手のレーザー発射口を向けてくる。構えていたハンマーで、その左手をどかす。ビームがわたしの頬を掠めて、横に逸れる。


「わたしは絶対、あの人たちを死なせない!!」


 もう一度、ハンマーで鎧を叩く。下から突き上げるように、強く叩く。すると奴が、鎧ごと宙を舞った。今がチャンスだ…! 追撃しようとするわたしに奴が、


「『あの人たち』ってのは、友達のことか!? また『友達』か!? 何度も言うなよ、うざったい!!」


 みぞおち部分のボタンを押す。あれは……。


「”毒針”発射!!」

「うわっ…!!」


 上から毒針の雨が。奴がこっちを見下ろして、雄弁と語る。


「いいか! ”ハート業界”で成り上がるなら、よく覚えておけ!! 『友達』とは、『仲間』のこと…! 仲間の一人や二人、自分の正義の為なら犠牲にする覚悟を持て!!」


 ぶすっと針の一本が、わたしの足首に刺さる。


「うっ……!!」


 避けきれなかった…。


「全て守るなんて、甘ったれた奴はな! ”ハート業界”という場所では勝ち残れないのさ!!」


 何だろう、針の刺さった所が半端なく痛いぞ…。友達を犠牲にする覚悟……? 冗談じゃない。


「うるせえ—————っ!!」


 痛い時は、とりあえず叫んどけ。 そうやって自分を頑張らせるんだ。

 もう一度、奴に向かっていく。そんな中でふと一瞬、昔のことを思い出した。



 わたしが中学二年生になったばっかの頃。教室で隣の席の人が、わたしに話しかけてくる。


「友達がいないの…?」

「うん」


 周りがざわざわ喋ってる中で、あの人はわたしに言った。


「じゃあ、わたしが最初の友達だね♪」



 その時のことが、わたしは心に残ってるんだ。でも、今思い出すなんて気持ち悪いわね。毒にやられてるのだろうか。


「守れなきゃ、友達じゃねえ―――!!」


 そうだ、もっと叫べ! あいつを倒すんだ。


「”心臓(ハート)”…!」


 この教室の外に、みんながいるんだ。わたしの友達が……。その人たちのために、ハンマーを振れーっ!!


「”乱壊(スイング)”———————————————っ!!」


 両腕でハンマーをブランコのように振り動かし、鎧の胸部を殴りまくる。


 ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴン!! ガン!! ゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガ、ゴオォォォォ……ン!!


 奴が壁まで吹き飛んで、轟音を上げた。衝撃でパラパラと、壁が崩れ落ちる。

 ピシピシ…!


 奴の”キラーファウント”に、ひびが入る。そして……。粉々に砕けた。文字通りの粉々だ。もう着れる状態じゃないし、付いてる武器たちも機能しないだろう。ついに………、やった!


「ぜぇ…はー………。…もう少し…」


 あの鎧を砕いて、もう奴は生身だ。これでやっと、攻撃が通用するはず……。

 しかしそんな状況でも、奴は余裕の表情だった。焦ったり、驚いたりしていない。そして。


「ん? 何してんだあいつ…立たないのか――」


 どぼっ!!

 突如わたしは、肩の傷を攻撃された。


「うぇっ……!!」


 何だ…? 奴は倒れていたはずじゃ…。疑問に感じている所に、後ろから何かが足を斬りつける。


「げ…!」


 痛ってぇ!! やられてから気付いたけど、これはブーメランアックスだ。

 見えなかった…。今、あいつが…!


 ここでやっと理解した。重い鎧が外れたことで、奴の移動スピードが上がったんだ…。


「うわっ!!」


 わたしが倒れ込んだのは、ちょうどブーメランアックスが戻ってくる位置だった。このままじゃ、頭に当たる……。


「やべぇ…! えん……!!」


 寝たまま体を回して、左足でアックスを蹴り飛ばす。直後鼻先に、今度はナイフが振り下ろされている。


「…!! くっそ…!」


 咄嗟にハンマーで受け止め、跳ね返す。しかし、またすぐに同じ攻撃が来る。


「ふんぬ…!!」


 決死の覚悟で、体を起こして回避する。しかし今度は目の前に、ブーメランアックスで斬りかかる奴の姿が……。


 またハンマーで受けるけど、重い………。ハンマーを持つ右腕を、たまらず左手で支える。

 跳ね返すので手いっぱいだ。こっちから仕掛ける暇がない…! 奴が喋る。


「”キラーファウント”を破壊したことは褒めてやるよ。いかなる衝撃でも砕けないはずの、この”キラーファウント”を…。キミは只者じゃない。だが……、」


 超高速でのナイフ、ブーメランアックスでの攻撃ラッシュ。脅威に感じる…。


「僕は2Aたちとは違う……本物の殺し屋だ」


 倒れたわたしの上にまたがって、首に照準を定める。やばっ…!! ナイフが振り下ろされる。


「ぐぬっ……!」


 喉に刺さる直前で、刃先を両手で掴んで止める。


「なっ、何を!?」

「んぎぎぎ…どらあああ!!」


 ナイフを持った奴の体ごと、あっちにぶん投げる。めっちゃ重いし、刃が手に刺さるけど…! 勝つためだから……!!


「だああああああ!!」

「ぐぼぁあ!!」


 ナイフから離れて、奴は壁に叩きつけられた。奪った真っ赤なナイフを、ざくっと床にぶっ刺す。


「小賢しい!!」

「…っ!!」


 素手で顔を殴って、ぶっ飛ばされる。それ自体は痛くないけど、衝撃が傷に触るわ。奴は激昂していた。


「あきらめろよ、もう!! ”キラーファウント”を脱いだ僕は、キミには見えないほどのスピードを誇る!! キミには、もう勝ち目はないんだぞ!?」


 床に刺さったナイフを再び取って、またこっちに来る。


「さぁ終末だ!! このナイフで、キミの心臓を一突きにしてやる…!!」


 …来るっ。何とかしないと…!

 ガラガラッ!! 突如、教室の扉が開く音がした。


「待て!!」


 叫び声……。誰か入ってきたのか? いや、この声は……。


「こっちを狙え1A! あ…アンを悲しませるにはオレを殺すのが、い、一番だよ!!」


 入ってきたのは、キョウだった。両手を広げて、震えながら1Aにアピールしている。な…。

 なんで来たんだ…!!


 にやっと笑って、奴は標的をキョウに変える。彼の胸の高さにナイフを構え、今にも突進しようとしていた。


「やめろぉお―――――っ!!」


 考えるより前に、走り出してる。こういう時はこうだ。


 彼の前に立って、ハンマーでナイフを受け止める。わたしに防がれても、なおも奴は笑ったままだ。友達を守れなかったわたしを想像して…? なんて趣味の悪い…!


「馬鹿! 何しに来たの…!!」


 後ろにいるキョウに聞く。それに彼は、


「あ…アンが守ってくれると信じてたよ…。これで、ハートコントローラーで操られて君を蹴った借りは返せたかな…?」


 と答える。


「いや、だからなんで…!!」


 答えになってないわよ!! わたしが言ってるのは、なんでこんな無茶をしたのか……。


 しかし、わたしはそこで驚くべきものを見た。

 1Aの後ろから、クラスの男子たちが飛びかかってくるのだった。


「かかれぇ————っ!!」


 そこにはエイジの姿も。運動部で鍛えてるであろう奴ら中心に、1Aに生身で襲いかかる。


「お前たち!?」

「うぬおあああああ———っ!!」


 数人がかりで体当たりし、奴を取り押さえる。


「ぐはっ!! な…何事だ…!? 動けない……!! くそ…!!」


 ほんとにびっくりした。キョウ、このつもりで……?


「このブーメラン野郎、アンを傷付けやがって! しっかり押さえろよー!!」

「おう!!」

「お…オレは逃げたいけどねー!! 怖ぇー!!」


 男子たちが乗って、その重みで1Aは動けなくなってる。

 彼らだけじゃない。みんな、教室に入ってきていた。口々にわたしに、


「大丈夫かい、アン!」

「やだ、さっきよりもボロボロ…!!」


 と声をかけてくる。逃げろって言ったのに…みんな、どうして戻ってきたのよ……! わたしの胸中を見透かしたようにミカさんが、


「と…、友達ですから!」


 と言った。さらにレイナさんが、


「アン一人じゃない! みんなでこの悪い人を止めるのよ!」


 それで、戻ってきたのか…。なおさらびっくりだ。この人たち、わたしのこと友達って思ってるんだ……。にしても、肝が据わってるのね…。


「くそっ…、お前ら! 誰を抑えつけてるんだ!! 早くどけえ!!」


 奴は抵抗してるが、どうにもできないままだ。そりゃ、こんな大人数が乗っかったらな…。今の内に……!


「”心上(ブレーン)”……!」


 跳び上がり、落下しながら回転して、勢いを付ける。そして、


「”降り(ダウン)”!! ドォ―――ン!!」


 全感情をハンマーに集中させて、ドーンと奴の頭に叩きつけた。この一撃で、完全に倒すつもりで。その後、


「…!! もう一発……、」


 血を吐きながら、もう一度跳ぶ。音を上げそうな体に鞭を打って、急降下する。


「とどめは刺した…。けど、まだ……!」

「アン、お前…!」


 クラスのみんなは引いてるだろうけど…、ごめんなさいね。手加減はしないよ。立ち上がれなくなるまで、奴を潰さないと…!!


「”心上降り(ブレーン・ダウン)”!!」


 どっすうぅ…ん!! と衝撃で床にも割れ目が入る。体の傷にも響く。痛ぇ……。だけど、


「もう一発だけ…。”心上(ブレーン)”…!!」

「ふ…」


 嫌な感じがした。まさか………。


「ふざけるな!! どけェええ!!」


 1Aは大きな叫びを上げながら、立ち上がったのだ。馬鹿な…、これだけ攻撃を入れたのに、まだ動けるの……?


「ぅわ!!」

「ぎゃ!!」


 押さえてた男子たちが、全員吹っ飛ばされた。


「おい、みんな…!」


 気付くとわたしのでこに、透明のナイフがサクッと当たっていた。


「う…!」


 間一髪、後ろに跳んで距離を取る。だが、


「調子に乗るなよォ…!!」


 すぐにまた迫ってくる。今度は背後から…。


「たかが高校生ふぜいがよォ!!」

「うげっ!!」


 また避けるが、背中を斬られる。


「僕は負けるわけには行かないんだ!! ”X”のために…”X”のためにィイイイイイイイ!!」


 どうやら奴はもう、ほとんど意識がないようだった。追い込まれている。それ故の暴走……。


「何だ、アイツ…ぶちギレてる!」

「怒りのあまり、暴走を始めたんだな…」


 キョウは冷静だな…。これ、みんながここにいるのは……まずいな。


「キョウ、それにレイナさんにミカさん。みんなを扉や窓から外に避難させて。ここに居たらどうなるか、分かるよな…!?」


 指示する。


「そ、それはアンも…!!」

「わたしは平気! あと一発くらいなら、あいつにぶち込めるよ…。先に行ってて!」


 ここに居たらどうなるか。暴走モードの奴を前にして、残酷な未来しか見えない……。だから、みんなは逃げて!


「いいんだな…?」


 キョウは呑んでくれたらしい。やっぱり、こっちの事情を知ってるからか。


「みんな、こっちだ!」


 と呼びかけている。


「え、アン置いて行くのか…!?」

「大丈夫!! あいつは、キレると強くなるタイプだよ。今、過去にないくらいキレてるから…、きっと勝てるさ」


 キョウの言う通り! 視界は赤い。奴への憎さが、心に溢れてる。それが力に変わるのを感じるわ。


「XのためにXのためにXのためにXのためにイイイイ!!」


 『Xのために』。奴はもう、それしか言わないのだろうか。どういう事情か知らないけど、わたしの友達を怖い目に遭わす奴は………。


「決着付けるぞ、1A!!」


 ぶっ倒す!! わたしは叫んだ。


 次回は5月11日(日)更新予定です。

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