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ハート探偵  作者: 住伏暗
25/32

第25話 ヒーローの証


 シーンと静寂に包まれた教室には、緊張が漂っていた。見つめ合うハート(ジャック)と2Aの早撃ち対決。

 2Aがレーザービームのボタンを押し、若亭の身体を貫くのが先か。それとも若亭が銃を取り出して、2Aの胸を撃ち抜くのが先か。


「おいどうした2A! 早くその手を掛けてるレーザーのボタン、押しちまえよ!!」


 3Aの急かしに2Aは、


「分かってるさ。だが焦るな。100パーセント勝てる勝負だからこそ、油断は禁物だよ」


 と、にやついている。勝利を確信しているね。


「あぁ~若亭…! 頼むから勝ってくれ……!! 悪霊退散、悪霊退散~!」


 そう言って旗を振ってる蒼男にわたしは、


「なぁ蒼男」

「え………?」


 あることを頼んだ。彼はびびりながらも、それを承諾してくれた。いや、何か嫌な感じがしたから…。


「ハートJ、破れたり…!」


 2Aの表情に、力が入る。

 パン! と乾いたクラッカーのような音が、風情もなく鳴った。この緊張感の中で拍子抜けするような、ちっぽけな音が。

 それと同時、わたしは、


「アンか……」

「お前はわたしを殺るんじゃなかったのか?」


 1Aと武器を交えていた。


「おい、邪魔すんなよ蒼神ィ!!」

「若亭を殺させはしないよ!!」


 声が聞こえる。どうやら彼も、3Aを止めてくれたらしい。こいつら、若亭にブーメランアックスを投げようとしていた。

 今響いたのは、発砲音を小さく改造された若亭の銃の音。つまり……。


「…!! な…ぜ………?」


 苦しそうな声は、2Aの物。勝ったのは、若亭だった。彼が2Aの付けた”キラーファウント”の隙間から、奴の胸を狙撃した……。


「2A!?」

「馬鹿な!! …そんなはずは!?」


 それに気付いて、1Aと3Aは血相を変えた。若亭が小さく呟く。


「拳銃くらい扱えて当然だろ。”警察”だからな。…あー足痛ぇ……」


 すごい…。わたしはテンションが上がった。

 若亭が腰のホルダーから銃を出して、狙いを定めて撃つまでの動き。2Aがボタンを押すまでのわずかな時間で、それを全部やったんだ。若亭、すごい…!


「2A!!」


 1Aが叫ぶ。2Aは若亭の早撃ちスキルのすごさに、負けたんだ。


「はぁっ、疲れた…」


 凍ってない右足と両腕を使って、立ち上がる若亭。


「住伏亭、自亭はこの足を解凍してくる。いいな? 早くしないと、足が死にそうなんだ」

「あぁ、行って!」


 凍傷の片足を引きずって、教室の窓から外に出ていく。あの状態で戦ったんだから、気力も失せるよね……。


「あとは、わたしたちが!」

「なぁアン、オレも逃げても…」

「いいわけないでしょ! 馬鹿!!」

「だ、だよね!」


 残る敵は、1Aと3Aの二名。倒れて動かなくなった2Aを見て奴らは、


「マイハ。こいつはよく戦った。こいつに代わって、僕たちがアンたちを殺すぞ。3A!」

「おう!!」


 切り替え早いな…。そもそも何とも思っちゃいないか……。


「殺されるのは、お前らだよ」

「ギャ――ッ! キレてるぞ、あいつら——っ!!」


 だがこの状況に水を差すように、何者かが教室の窓を割って入ってきた。


「誰だ!? また窓ガラス割って……!!」


 見ると、そいつの顔は何だか見覚えのある物だった。高飛車な殺し屋……。


「待って、1A!!」

「! 4Aか……。てっきりアンにやられて、死んだ物と思っていたよ…」


 4A? 何だ、わたしがさっき倒した女…。わたしの友達を殺すって言うから。そういえば、こいつは”キラーファウント”って鎧を着けてないな……。


「あぁ…。あの程度、痛くも痒くもないわ。見ていてちょうだい、アンはわたしが殺る!!」


 意気込む4A。何だ、また来るのか!? そう思って構えた。しかし、それを1Aが止めた。


「待て! そんな話をしているんじゃないんだ、4A。…いや、サラ」


 4Aの表情が不機嫌な物に変わる。さっきの『マイハ』といい、奴らの本名だろうか?


「ちょっと…あんた何のつもり!? 敵の前で…!」


 いずれにしろ、あまりバラされたくない物らしい。怒る4Aに、1Aは一つ質問をした。


「なぜキミは今、”キラーファウント”を付けていない? 僕はキミにアンを殺してくるよう指示したが、その時も生身のまま挑んだのか?」


 4A の表情が曇る。戸惑った様子で、


「は…はぁ? そんなの決まってるじゃない。アンを殺すのに、”キラーファウント”なんて使うまでもないからよ!」

「そうか。だが、その油断によってキミはアンに敗けた。分かってて、同じ失態を繰り返すのか……?」


 何だか変だな、1Aの態度。二名の会話は続く。


「つ…次は勝てるわ!! あんなチビなんかにあたしが、二度も敗けるはずない…!」

「この葉後高校に一年近く潜伏し、奴らを観察した僕が言ったんだ。アンは油断ならないと。

 サラ…。キミには敵の実力を、根拠も無く見限るという悪癖があった……」


 また本名で呼んだ。


「そんなキミは我々”イニシャルキラー”の計画にとって、邪魔でしかない…。自分がどうなるべきか、分かるな……?」


 数秒思考停止した後、4Aの表情が恐怖に染められた。


「まさか…!!」

「殺れ。3A」

「了解!」


 3Aが”キラーファウント”の左手部分のボタンを、カチッとプッシュする。

 直後、ビュン! と4Aの胸部に向けた左掌から、一本の細いレーザービームが発射された。


「アァッ!!」


 苦しむ姿を見せた後、4Aは倒れた。ビームによって胸を焼かれて。あいつら、仲間を始末したんだ…。


「2Aは全力で戦った上で、ハートJに負けたんだ……。あいつの想いを無駄にしてはならないんだ! 油断するなよ、3A」

「あぁ……」


 どがっと蹴って、4Aの体を教室の端に追いやる。その傷から焦げて煙が上っている。同じく、彼女の体を貫通してレーザーが当たった壁からも。


「まずは、蒼神をぶっ殺してやる!!」


 3Aの視線が、蒼男の姿をロックオンした。しかし、


「あ…わわ……、」


 当の蒼男は、パニックのようだった。敵がレーザーで殺られる所を目撃して、自分がそうなったらって考えたんだろうか。逃げ出した。


「もう無理!! こんなとこで死にたくねぇよ!」


 腕を大きく振って、割れた窓へと一直線。


「馬鹿、敵を前にして逃げるなよ蒼男!! 殴るよ! ハンマーで!」

「嫌だ! オレは弱ぇんだ! こんな奴らに勝てねぇよお!!」


 蒼男の奴、こんな時にびびり発動かよ…!


「背を向けてるほど隙だらけの奴ぁいねぇぜ―――!! ブーメランアックスゥ!!」


 そんな彼へ投げられる斧。くるくる回転しながら、それは彼の背中を切り裂いた。ザックリと。そしてまた、持ち主の手に戻る。


「うっ…………、うわああぁああっ!!」


 痛みで上げる彼の悲鳴が、悲痛なものだった。


「臆病者に逃げ場なんか、あるわけねぇだろう?」


 3Aが彼の元へと近付く。そして言った。


「蒼神……、本名を春風(はるかぜ)天人(テント)。お前の慕っていた家族の奴らは、あの『マネキン事件』の被害者らしいな」

「え、家族…!? なんでそれを……」


 『マネキン事件』のことを言われて、蒼男が驚く。彼の家族のことは前に聞いた。どういう仕組みか、ある日心の無いマネキンになってしまったと…。でもそれを、奴が知ってるなんて。1Aが、それも盗み聞きしてたのだろうか…。


「知ってんだぜ!? マネキン人間の話は、表社会でも散々報じられた!! その中に、お前の家族もいるんだろう!?」

「ぐわあっ! あぁ…!!」


 蒼男の背中の傷を、足でつつく3A。さらに罵る。


「お前がここで逃げ出す弱虫なんだ。春風家の奴らは皆そうなんだろう? 父親も、母親も、弟も、妹も。弱くて卑怯な人間ばっかりなんだろ? 心王にマネキンにされちまって、正解だったんだよ!」

「…!! やめろお前! あの人たちのこと悪く言うな! がっ…!!」


 反論しようとするも、蹴られる蒼男。彼の家族が、馬鹿にされてる。


「見ろ見ろ! 蒼神の家族の真似ー!! ………」


 3Aがにやつきながら1Aに言った後、わざとらしく無表情になる。感情を持たなくなった、マネキン人間のものまね。


「ハハハ! 全然似ていないぞ、3A!」

「いや、テレビで見たマネキンどもは全部こんなだった! ほら。………」


 体の力を抜いて、虚ろな目をしながら歩いてみせる。


「アッハッハッハ!! 確かに特徴は捉えているかな…? 面白い…ハハハハ…!」


 笑う1Aと3A。マネキンになった人たちを茶化し、笑う。ガッと両手の拳を床に叩きつけ、蒼男は立ち上がる。


「ハハハハハ!」

「ハハハハハハハ!!」


 笑う奴らに対し彼は、


「やめろォこのカタカナ野郎どもオ!!」


 ぶるぶると体を震わせながら、叫んだ。


「あぁ!?」

「うっ……!!」


 睨まれるとびびって、足がガタガタしている。


「お……オレにとって、あの人たちは誇りだ!! 親父たちを馬鹿にする奴は…、絶対に許さねぇ!!」


 恐怖で泣きながらも、これが蒼男の叫びである。突然逃げるのをやめた彼を、奴らは怪訝な顔で見ている。だが、彼がキレてる理由なら分かるわ。


「確かにオレはお前の言う通り臆病者だけどな!! 背中に逃げ傷作っても…みっともなくても!! 通さなきゃいけねぇ意地があんだよ!!」


 蒼男が家族の話をした時の、あの顔。彼は家族を守れなかったことで、心から悔いていたんだ。


「あの人たちを笑ったことも! この島の人たちを殺したことも!! 絶対許さない!! お前は必ず…、ここでぶっ飛ばしてやる!!」


 服のポケットから、何かを取り出した。青い布……。何かの柄が入った。バンダナだ。涙の浮かんだ顔をしたまま、ぎゅっと頭に巻く。


「ハッ、それでパワーアップしたつもりかよ…?」

「親父がくれた。ヒーローの証だ!」

「ヒーロー? ふん、幼稚な家だな!」

「もう馬鹿にすんな。親父は…、」


 両手で剣を持って、向かっていく。


「オレのヒーローだぞ!!」


 ヒーローの証をまとった彼は、さっきよりも見違えて勇敢だ。気合いを入れる時に、あのバンダナを付けるのか。だが、


「レーザービィ――――ムッ!!」

「わわぅわあ———っ!!」


 ビームがギュンギュン飛んできて、どうしようもない。泣きながら逃げ回る蒼男。


「どわ————!! ぎゃ——!!」

「何だそりゃ! 結局何も変わってねぇじゃねぇか!!」

「ぐおぉ―――っ!! ぬぅあ――――っ!!」


 いや、変わったはずだよ。だって、あんなに気合い入ってたんだもん。何か手があれば………。


「このライフルで蜂の巣にしてやらぁっ!! オラァ!!」


 3Aが”キラーファウント”の両肩のボタンを押した。二つの発射口から大量の銃弾が、太い直線をかくように撃ち出された。蒼男の胸を狙って、


「…!! 変わったさ! この時を待ってたんだ!!」


 彼が逃げるのをやめた。何かをする気だ…。

 腰を落として頭を伏せながら、銃弾の来る高さに横向きに剣を構えた。刃で銃弾を受け止める気? でも何のために……。


「ふん!! まずその目障りな剣をへし折ってやれ。ライフル弾よ!!」


 蒼男の頭上を通過するライフル弾。その内の何発かが、剣の刃の部分に当たった。だがそこでわたしたちは、驚くべき光景を見ることになる。


「今だ!! バウンドしろ! ”神勝(カミマサ)”!!」


 彼は自分の剣に、そう語りかけた。すると。

 剣にぶつかった銃弾が、逆方向に跳ね返ったんだ。勢いそのままに…いや、さらに加速して。


「何ぃ…!?」


 驚く3Aに向かって、きれいな直線を描く。そして、


「”神鏡(カミカガミ)”! 行っけぇーっ!!」


 キュン! と鎧の穴を通り抜けて、銃弾は3Aの胸にヒットした。


「ぐああああっ!!」


 3Aが叫んだ。胸を抑えようとするが、鎧越しでは手が届かない。


「な…、なんで……!!」


 その場に奴は蹲る。どうやら、今のだけで致命傷をくらったようだった。

 息を切らして倒れた蒼男が説明する。


「はぁ……はぁ…、オレの剣は…刃の部分が動くように、バネが仕込んであるんだ…。衝撃を受けたら刃が引っ込んで、それが戻る勢いで……倍の力を跳ね返すんだ………。ぜー…」


 バネ。そういえばこの前、「バネ付きの剣」って言ってたな。刃がバウンドして、受けた攻撃を倍にして跳ね返す…。かっこいい!


「お…俺が……こんな奴に………! くそっ…!! ……」


 自分の敗北に納得できぬ様子のまま、3Aは気絶した。それを確認して蒼男は、


「か……、勝った………? …やっ……………やっっったあ~~~!! 勝ったぞ~…!」


 両手を宙に突き上げて、絞るように叫んだ。そしてその後、すっかり気が抜けて寝落ちしてしまった。


「ぐう……、ぐう…」


 何となくわたしは、


「お疲れ。蒼男」


 と呟いた。さっき聞いたテントって名前がよぎったけど、「蒼男」の方で呼ぶことにした。わたしたちに名乗ってるのはそっちだから、多分そっちが正しい。

 若亭と蒼男がそれぞれ一人ずつ倒して、残ったのは…。


「…………」

「あとはお前だけ? 仲間が三名もやられたな」


 一人になった1Aの前に立つ。これはもう、わたしがこいつをぶっ倒す流れ…!!

 奴のセリフがフラッシュバックする。わたしを怒らせるには、わたしの友達(だち)を傷付けるのが手っ取り早いって。よく調べてるな、わたしのことを…。


「あの人たちを守るには、お前をぶん殴ればいいんだな!」


 廊下にいるあの人たちを思ってハンマーを構えると、奴に笑われる。


「まさか……この”キラーファウント”の防御を、ハンマーで破るつもりか? 今までの戦いを見た上で…?銃弾のように、ハンマーを隙間に通すことはできないぞ?」


 確かに、この”キラーファウント”って鎧は硬い。”スタークリスタル”っていうので出来てて。若亭の殺人術のパンチでも、傷一つ付かなかった…。

 さらに硬さだけじゃない。鎧の上にいろんな武器が付いてる。確か武器は六種類って言ってたな。その内判明してるのは、ライフル、火炎放射器、レーザービーム、アイスボール…。まだ出てない武器もありそうだが……。


「行くぞ!」


 変に考えても意味ないわ。どうせ想定外なんて起こる物。ドッ!! 地面を強く蹴り込んで、真正面から突っ込む。

 あの”キラーファウント”の、ど真ん中を叩き割れ!! 奴の心臓への道を開けるために。


 奴が肩のボタンに手を置く。その腕のスピードが速い。さっきの若亭の早撃ちとも、引けを取らない。正面からライフル弾が来る! 軌道は直線…、右上にジャンプで避ける。

 着地したとこに、休む暇もなくレーザーが。こいつ、速い…。わたしの行動を先読みして、攻撃を打ってきてる。強いよ、2Aや3Aよりも……。


 頭狙いのビームを伏せてかわし、そのままゴロゴロ転がって移動。その先にブーメランアックスが放たれていたから、左手で床を叩いて寝たまま前に跳ぶ。ギリギリでブーメランの下をくぐった後、両足で加速を付けて奴の懐に突撃。


「速い……!!」


 驚く奴の胸は空いている。”キラーファウント”の心臓部分に、下から頭突きをかます。

 ゴオォォ……ン!! 甲高い金属のような音が鳴り響いた。奴の体が、鎧ごと壁まで吹っ飛ぶ。その衝撃で動かなくなった、今がチャンス…!


「…! くっ………!!」


 1Aもびびっている。


 突き破れ―――!!

 走りながら思いっきり振り被って、ハンマーを叩きつけた。


 次回は4月27日(日)更新予定です。

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