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ハート探偵  作者: 住伏暗
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第22話 マモルノダー


「あたしは4A(フォーエー)。組織”initiAl(イニシャル) killer(キラー)”の一人……、殺し屋よ」


 突如わたしの前に現れたその女の言うことには、知らないワードがいっぱいだった。イニシャルキラー? フォーエー? 何それ…。だけどわたしには、それ以上に引っかかったことがある。


「わたしの友達を殺すって、どういうこと?」


 お前の友達を殺しに来たと、わたしにそう言ったこと。聞き捨てならないわ…。わたしの質問にその女は満足そうに笑って、


「今からよ。昼休みの始まりを告げるチャイムが、スタートの合図。あたしたちの班のリーダーが、一年空組の生徒を一人殺すわ。あんたの友達なんでしょう?」


 一年空組は、わたしの属してるクラスだ。そんなことまで知ってるなんて、冗談とは思えないぞ? 昼休みのチャイムが合図。それがほんとなら…。


「そう。あと二、三分ってとこね」


 校舎のてっぺんに掲げられた大きな時計をちら見したのに、奴は目聡く気付いたようだった。この女は誰だろうか。悪い奴にしか見えないけど……。


「あんた知らないでしょうけど、あたしたちは気付いてたのよ? ”ハート警察”のハートJが、葉後高校に身を潜めてること。そして奴があんた、住伏暗と組んでることもね」


 若亭のことまで知ってる。隠れてわたしたちのことを、観察でもしてたんだろうか。だとしたら、蒼男とかエンマくんのことも……?


「ハートJは、いや。”ハート警察”は、あたしたちのことを探しているわ。なぜだと思う?」

「さぁ。ごちゃごちゃ言ってないで、早よかかってこいよ」

「葉後高校を恐怖に陥れている犯人は、あたしたち”イニシャルキラー”だからよ」


 言われて、あぁとなった。若亭がしょっちゅうしてる話。事件の元凶を探してるって。それがこいつらか。ってことは…、


「この改造を施したハートコントローラー……いや、『強制自殺させ機』でね」


 やっぱり、ハートコントローラーを持ってる。改造ってのは、よく分からないけど。


「あぁ。びびる必要はないわよ。あんたには、これを使うつもりはない」


 出したばかりのそれを、また服のポケットにしまい、


1A(ワンエー)があんたのことを警戒する理由が、あたしには分からない。ただの痩せこけたチビじゃない!」


 首を傾げながら、わたしに指を差す。


「このブーメランアックスで、あんたを切り刻んであげる! 切れ味は抜群。投げて命中させれば、簡単に首が弾け飛ぶわ!!」


 奴が持ってるのは、三枚刃のブーメランの形をした斧。斧というか、持ち手のないただの刃の塊だ。


「死になさい!!」


 とわたしを狙って投げる。ぐるぐると駒のように回転しながら、首に向かって飛んでくる。まったく。


「愚かな物だな。わたしの前で友達殺害宣言なんて…」


 服の裏に隠してるハンマーを取り出す。


「敵を舐め腐ってるな」


 ブーメランの下をくぐって、奴の前へ。両腕でハンマーを振って、


「は、速……!!」

「”心臓破壊(ハート・バースト)”!!」

「ま…待って…!」


 余裕こいた奴の表情が、恐怖に変わる。お構いなく、心臓にハンマーをお見舞い。

 それだけで、奴は伸びてしまった。何だ。大したことないのは、こいつの方じゃないの…。


「それっ…!」


 戻ってきたブーメランを、上から踏んづけて地面に落とす。こいつは一旦放っとくとして…。誰もいないグラウンドを、校舎の方へ走る。そこに学校のチャイムが鳴り渡る。確かチャイムを合図に、一人殺すって言ってたよな。


「あいつら、今どこにいるんだ…? 四時間目の授業なら、あそこの特別教室Bにいると思うが…」


 校舎の三階にある、一つの教室の窓を覗いてみる。金曜の四時間目は、いつもあそこで授業をやってるわ。


「蒼男と若亭が陰から守ってくれてるとはいえ、何が起きるか分からない。早く確かめに行かなきゃ…!」


 三階の教室までは、10メートルくらいの高さがある。わたしのジャンプ力は助走つけても、5メートルくらいしかない。ここからは届かないか。どうしよう…。考えながら走っていた。その時だった。

 教室の窓の縁に、上る人影をわたしは捉えた。


「ん…?」


 あれは……、誰だ? 目を凝らしてみて、ぎょっとした。そこに立って、10メートル下の地面を眺めているのは、


「えっ…、セイくんだ…!?」


 セイくん。わたしのクラスメイトだ。そんな喋ったことないし、仲良くもないけど……。友達なの。

 直感的に察した。あそこから飛び降りるつもりだと。


「まさか…!」


 すっ……と彼の体が、教室の窓から離れる。そのまま宙に飛び出し、自由落下を始める。


「せ、セイちゃん!!」


 と三階の教室内から、悲鳴が上がる。まずい!! セイくんはわたしのような、打っても効かない人間ではないんだ。このままじゃ大変なことに…!!


「止めなきゃ! ”バウンド”…、」


 両足を地面に踏み込んで、思いっきり前に踏み出す。


「”ロケット”!!」


 幅跳びの要領で、超スピードで校舎に向かって飛んでいく。わたしの脚力を使えば、こうした方が普通に走るよりも速く進めるのだ。

 落ちる彼の真下にたどり着いた。すかさず校舎の壁を蹴って、


「吹っ飛べ―――!!」


 真上に跳び上がる。高く、高く。見上げると彼が、どんどん加速しながら落ちてくる。


「おりゃあ!! セイくんー!」


 手を伸ばす。ここは多分、地面から三メートルくらい。両腕で強く彼を掴む。よし、後はわたしがクッションになるように落ちれば…!


「ぶべっ!! …あうっ!」


 強く地面に、背中と頭を打ちつけた。弾みで一、二回ボールのように体がバウンドして転がる。わたしは痛くも何ともないけど、彼は無事か?


「ぇん…、危っぶねぇ…」


 見るとセイくんは、全速力で正門の方向に走りはじめていた。何も言わないその様子、ハートコントローラーのプログラムを遂行してる人のものだ。さっきのあの殺し屋が言うには、『強制自殺させ機』。

 思い浮かんだ自殺方法。確か、この学校を出た所には海がある。防波堤から落ちたら、そう簡単に上がってはこれない。


「海に飛び込むつもりだな!? そうはさせない!」


 手を掴む。そうでなくとも壁に頭をぶつけるとか、方法はいくらでもある環境だ。ぐいっぐいと、無言で離れようとする彼の力は強かった。だけど、わたしは離さない。


「どんな方法だろうが、絶対に死なせない!!」


 友達は、絶対に殺さない!! それがわたしの信念なんだ。この手を離すわけには、行かないよ!


「セイくんを守るのだ—————っ!!」


 わたしは、彼の手を引き続けた。



 そして、五分ほど経って………。


「おい! セイくん! しっかりしろ!! ……、」


 やっと足を止めたと思ったら、彼は膝から崩れ気絶してしまった。だけど、生きてる………。よかったー…。


「おーいアン! セイちゃんは…!?」

「あぁ、リオン。来てたの?」

「みんな来てるよ。それで……」


 ほんとだ。一年空組の人たちが来て、ざわざわしている。三階の教室から、駆けつけたのか。元気な人たちだな……。


「怪我はしてないわよ。自分が自殺しようとしたショックからか、気絶してるけどね」

「そうか。よかったー…」


 そういえば、リオンはセイくんと友達だったな。休み時間とか、一緒にいるのをよく見るよ。ミカさんが彼の前に来て、


「でも…、かわいそうに……。怖い目に遭って、気ぃ失うほど…」

「いや、これが正常よ。躊躇もなく死んでいい人間なんていないわ」


 わたしの言葉にミカさんは、


「…? そうね…」


 と頷いた。怖いと思えてるようなら、まだ健全よ。心を操られてると、それすらできないもの。


「とにかく、みんな一度教室に集まりましょ。今離れ離れでいるのは、危険だわ」


 みんなに呼びかける。すると男子たちが、


「そういやアン、なんでここにいるんだ?」

「停学中だったんじゃ…」

「余計なこと言ってないで、死にたくなきゃわたしに従えー!!」


 がぁ——っ!!


「す、すぐ教室に行きまぁす!!」


 こんな時に、のんきな人たちなことで…。


「さてと…。セイくんも教室に連れて行こうか。寝てるけど」


 彼を肩に担ぐわたし。そこにキョウ男が来た。


「……」


 こっちをじっと見てるので、こくっと頷いて合図する。「そう。これはきっと、ハートコントローラーのせいよ」。


「手伝うか?」

「あっ…、どうも。すいません…」


 何だ、一人でもできるよ。彼を連れてくのぐらい…。



 校舎一階、一年空組の教室。


「みーんないるわね? 一人残らず!」

「うん。全員いるよー!」

「よかった! これで誰に何があっても、わたしが守れるわ」


 友達の顔を一人一人、確認しながら数える。39人。うん、みんないるわね。


「頼もしい――――っ!!」

「アンの顔見るの久々ー! 三日振りか?」

「今日来てたんだね、住伏くん!」

「えぇ。じゃ、今から緊急学級会議を始めるわよ。主催者は、わたし」


 みんなに呼びかける。


「もう知ってると思うが、セイくんが自殺未遂をしたわ。みんな、何か知ってることがあったら、教えてちょうだい」


 何かわたし今、探偵っぽい…? 思ってると、情報が出てきた。


「なんか、急に飛んだんだ!」

「気付いたら窓の外側の、安全バーを越えた所に立ってて…。だからびっくりしたよね?」

「うん、うん!」


 ふむ…。するとそこにリオンが、


「アン、ちょっと…」

「ん?」


 ここで、有力な情報に出会うことになる。リオンがわたしに言ったのは、


「怪しい奴に会った…? あんたとセイくんが?」

「うん…。授業が終わって、セイちゃんと教室に戻ろうとした時だよ。急に声を掛けられてさ。スマホを手に持ってて、怪しい人だったよ」


 気が気じゃない。スマホを持ってたって、それ……。


「何て言われたのよ、そいつに」

「なんか、よく分からないことばっか言ってたよ。すぐどっか行ったけど…その後セイちゃんが急に教室に入っていって、窓から飛んだの。だから、その人と何かあったのかも…」


 なるほど…。

 スマホってまさか、ハートコントローラーじゃないの? じゃあそいつが、さっきの殺し屋が言ってたリーダー? そいつがセイくんを操って、自殺させようとした………。


「そいつ、かなり怪しいわね。わたし、そいつを探したいな」

「そう?」

「えぇ」


 しかし、探す必要はなかった。そいつは直接、わたしたちの前に現れたからだ。


「怪しい人ってのは、僕のことか?」


 いつの間に入ってきたのか、教卓の上に一人の男が座っている。


「あ!! あの人だよ! さっきぼくたちの前に現れた人…!!」


 リオンの言葉に、ざわつく教室。確かに、嫌な感じのする奴だった。上半身には、透明の鎧みたいな物を付けてるし。


「オレ、あいつのこと知ってる! 部活の先輩から聞いた…。四月に転校してきたっていう三年生、市川(いちかわ)有田朗(ユウタロウ)だ!」


 近くにいた男子に教えられる。え?


「なに、この学校の生徒…?」

「フッ。それはこの学校に潜るための、仮の名。僕の本当の名は、コードネーム1A(ワンエー)。殺し屋だ」


 そいつの言葉に困惑するクラスの人たち。こ、殺し屋…? だけど困惑したのは、わたしも。さっきの4Aって奴が言ってた名前……。


「みんな離れて!! そいつが、セイくんを殺そうとした奴よ!!」


 確信したわ。こいつはわたしの友達を傷付ける、倒さねばならない敵…!


「ハハハ! そうさ!! キミの言う通り、『セイくん』が自殺するよう仕向けたのは、この僕さ」


 その憎ったらしい笑い方、いかにも悪い奴って感じがする……。


「こいつ…!!」


 ハンマーで殴るべく、走って間合いを詰める。しかし奴が殺し屋というのは、やはり本当だった。わたしの心臓へ真っ直ぐに、鋭く尖ったナイフが向かってくるからだ。


「えっ…!?」


 このままじゃ刺される。反射的に避けようと、体をずらす。だけど、間に合わなかった。

 どすんとナイフの刃が、わたしの身体に突き刺さった。


「えっ………。アン!?」


 みんなの切迫した声が聞こえる。


「うっ………」


 あっ、これはやばいかも…。そう思った。


 次回は4月6日(日)更新予定です。

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