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ハート探偵  作者: 住伏暗
高1編
20/38

第20話 迫る


 2022年11月14日(月)


 こないだ文化祭があったと思ったら、季節が過ぎるのは早いですわね。もう11月である。もうすぐ冬。そんな時期の、ある一日の朝のこと。

 わたしがいつも通り教室に入ろうとすると、何やら中が騒がしかった。まぁ、あの人たちはいつでもうるさいけどね。でも今日は何だか、話し声の雰囲気が違うような。そう考えながら扉を開けて入ると、


「見た!? 昨日のニュース!」

「見たぁ! また自殺が起きたんでしょ!? 怖いわよねー!!」

「こんだけ何か月も連続で起きてるとなるとねぇ…」

「さすがに不気味だなぁ……」


 と、多くの人が一つの話題で盛り上がってるようだった。なになに、何の話してるのー?


「あっ、住伏くんやっほー!」

「あぁ。どうも…」


 わたしに気付いて挨拶してきたのは、クラスメイトの女の人。その人に聞いてみる。


「ねぇ、これ一体何の騒ぎ?」

「いやー、それがさ…」


 するとそこに割り込むように、


「おいアン、ニュース見たかい!?」

「え、リオン?」


 リオンが話しかけてきた。なんか、テンションが馬鹿に高いのね。席は前後なんだから、話しかけるにしても自分の席で待ってればいいのに…。


「ニュース…、わたし見ないから……」

「じゃあ、昨日葉後(はあと)島であった自殺のことも知らないか?」


 何だ、みんなが騒いでるのはその話か。


「あぁ。毎月起きてるあれ? それなら知ってるよ。さっき人から聞いたわ」


 自分の机に鞄を置きながら、わたしは答えた。

 わたしたちが住む葉後島では今年の3月から、毎月決まったタイミングで人が自殺している。日付と時刻は、13日13時13分。その時刻に島内の三か所で、それぞれ一人の人間が飛び降り自殺する。

 ここまで3月から10月まで連続で起きてきたが、昨日はまさに11月の13日だった。


「それで、昨日も三か所で自殺が起きたんだってね。どこで起きたのよ?」

「えっと、昨日はー…」


 リオンの友達が来て、


「一つはハートハーバーにあるボート体験センター、二つはハートシティにあるスーパーマーケット『スーパー80』、三つは心路(こころ)村の葉後島資料館だな」


 とスマホのニュースで確認しながら、教えてくれた。


「ぜーんぶ建物の高層階とか屋上からの飛び降りだよ。もちろんいずれも発生時刻は13時13分!」

「ふーん。で、()()()の身元は?」


 わたしの発言に、その場にいた四人ほどの男子たちの空気が凍り付いたわ。あっ、やっべ……。


「被害者って…、自殺だろ?」

「お! お! お、お前まさか!?」


 言った後で気付いたわ。あわてて言い直す。


「あぁ、ごめんごめん…。()()()の身元は?」

「だ、だよなー! なんでその人たちが被害者って知ってるのかと……」

「あーよかった、オレらも殺されるかと思ったー!!」


 そんな、やめてちょうだいよ。友達(だち)を殺人犯みたいに…。


「えっと今回自殺した人は…、25歳の男性と、42歳の女性と、68歳の男性だな」


 またスマホを見て、友達が情報をくれる。年齢、出てるのか。


「そう。じゃ、わたしの友達ではないわけだ。それなら別にいいわ」

「良くねぇ!! 怒られるぞー、そんなこと言ったら!」


 自殺者はわたしの知らない人間と、知って安心。にしても自殺者のことを被害者だなんて…。こんな言い間違いをしたのも、あいつらのせいだわ。おかげで、あらぬ疑いをかけられる羽目になった……。



 ここに来る前、中庭で…。


「自殺者たちの間に、これといった関係性は見られない。そいつらが同時に、同じ手段で自殺する。この『出来過ぎた偶然』を可能にするのが、ハートコントローラーだ。何者かがコントローラーで市民を操って、自殺するよう仕向けてる可能性は極めて高い……」


 わたしは若亭と蒼男から、事件の話を聞いていたのよ。自殺はほんとは、ハートコントローラーを使った他殺なんだと。


「昨日13日、葉後島のどこかで自殺が起きることは当然考えられた。自亭たち”ハート警察”は三か所に分かれて対策を試みたが、どうしてもピンポイントで場所を予測できなくてな。また犠牲者を増やすことになった」


 若亭が話すのに割り込むように、蒼男が突然、


「うおおおおおおおお!!」


 大声で泣きはじめた。


「わっ、うるさいな。何なのよ急に!」

「殺された人たちのことを思ったら、オレ、オレぇ……!!」

「無駄に気負うな。疲れるだけよ…」


 蒼男は知らん人のことまで考えるから、疲れるのよ。”ハート犯罪者”でありながら、正義感が強いからね。


「ねぇ若亭さ。”ハート警察”の人たちを全員この島に呼んで、何とか犯人を見つけられないの?」


 そんなに自殺を止めたいならさ。って意味で聞いてみると、


「馬鹿。それは”ハート警察”の本部を完全留守にするってことだろ。んなことしたら、その隙に名だたる”ハート犯罪者”たちが一斉に暴れ出す。”ハート業界”で戦争が起きるよ」


 なるほど…。そしたら犠牲者がいっぱい出る。それは”ハート警察”にとっては良くないか。


「”ハート警察”はその存在が、”ハート業界”での抑止力なんだ。葉後島への増員は一応要請するが、どうせ断られるだろうな」

「ふーん……」


 ”ハート警察”も大変なのね。そう思った、朝の会話でした。



 時間は戻って現在、一年空組の教室で。


「等間隔で同じ数だけ自殺が起きるなんて、偶然にしては出来過ぎだぜ!?」


 会話に入ってきた男子が机を叩いて、わたしに迫ってきた。


「離れて…。うざいわよ」


 顔が、近い………。


「で、警察は自殺者たち同士の関係性を調査中ってわけだよ」

「例えば自殺者たちが画策して、タイミング合わせて飛び降り自殺してるとか!!」

「なー。そうじゃないと考えられねぇよなー」


 わたしもハートコントローラーなんて代物を知らなきゃ、そう考えてただろうな。この人たちは知らない世界なわけだが………。


「まぁ、わたしは興味ないわ」


 と言うと、


「嘘つけ! めっちゃ興味持ってたろ!」

「強がんなって!」


 みよーんと、男子二人にほっぺたを引っ張られる。


「うっ……」


 別に強がりしたつもりなんかないのに…。



 2022年11月28日(月)


 放課後の教室。わたしはキョウ男によって、テストの勉強をさせられていた。


「えっと…、数学とは数学であり、数学が数学なのは数学の数学ゆえであり、数学らしさが数学なのは、数学の数学が数学である時で……、えぇい分かんねぇ!!」


 開いた問題集を、手でカルタのようにバサッと弾き飛ばす。それを空中でキョウ男が見事に取る。ナイスキャッチ!


「そんなこと言ってアン、前回のテスト何点だったのさ?」


 真面目で勉強好きのキョウ男に聞かれて、わたしはとってもバツが悪い。渋々答える。


「…数学は28点、他の教科も20点とか30点とかです」

「そんな欠点ばっかじゃ留年するぞ————!! 喝ぁーつ!!」

「うぅ、すいません…」


 怒るキョウ男が、いつもより大きく見えるわ。


「その問題が分かんねぇなら、まず数学の数学の公式からやった方がいいな。教えよう」

「あー、勉強は嫌いであります…」


 キョウ男が参考書片手に、黒板にチョークでいろいろ書きはじめる。それがわたしには怪文に見えるのよ。


「いい? 数学の数学の公式ってのは、数学が数学である場合数学は数学において数学を数学する。という事なんだ。つまり数学では…、」

「にゃあぁぁあ…」

「あくびすなー!!」

「は…はいー!」


 問題集を見てたら、眠くなるのよね…。


「お前、夜寝てないのか?」

「あんまり。事件のことが気になるのよー」

「まぁ、その気持ちは分かるけどさ」


 何のこと言ってるか、キョウ男は察してくれたようで。


「毎月三か所で自殺が起きてるが、現場がどんどん葉後高校の方向に近付いてきてる。そこも気になるよな……」

「あぁ。一つはハートハーバーから、二つはハートビーチから、三つは心路村から、この学校を囲むように近くなってきてるわ。まぁ、ただの偶然かもしれないけど」


 長ったらしく言ってるけど、要するに三つの事件現場がみるみる葉後高校に近くなってるの。


「一連の事件とは別に、葉後高校では4月末に三年生が飛び降り自殺をしている。あれもハートコントローラーによる物の可能性が高いってね」

「あぁ。自殺した時のそいつの様子が、不自然だったらしいからな。何も言わずに、機械的に飛び降りたらしくて。あれもコントローラーで操られてた線は強いわ」


 前にこの学校で起きた、不自然な自殺事件の話。そしてそれとは別に、毎月起きてる島での自殺。さらにその現場は、三か所とも葉後高校に向かってきてる。

 若亭が以前言ってた通り、この学校に元凶となるハートコントローラー使いがいるとしたら……。


「わたしたちが通ってるこの学校は、この一連の事件に深く関わってるかもしれないわね…」


 キョウ男がわたしの机に問題集を置き直して、ツンツンと指で叩いた。


「手が止まってるよ」

「そ、そんな殺生な…!!」


 こいつには血も涙もないわね…。わたしが事件のことで悩んでるのに、勉強しろだなんて……。すると少し間を置いて、キョウ男はわたしに言った。


「アン、お前は”ハート探偵”になるんだろ? 友達を守るためにさ」

「! あぁ。学校なんて、どうでもいい…。わたしは、友達を守れさえすればいいわ」


 まぁあの人たちは、この学校に何かあったら困るでしょうけど…。答えながら思った。


「じゃあ勉強しろ」

「いや、それはおかしいわよ…。わたしに勉強させたいだけでしょ……」


 『じゃあ』の文脈が、すっごく雑だな。結局この後わたしは、下校時間ギリギリまで問題集とにらめっこすることに……。あぁ辛い!



 2022年12月12日(月)


 二学期の期末テストがあった。そして今日の授業では、数学のテストが返ってきた。自分の点数を見て、驚いたわ。


「すごいわ……。こんな点数、今まで取ったことない………」


 これがほんとに、わたしの答案? 衝撃で体が震えてるわ。勉強の成果ってすごいのね。そんなわたしの様子に気付いて、


「お、アン何点だったんだ?」


 前の席のリオンが聞いてきた。


「すごいわよ。今までで一番いい点数よ」

「へー、見せてよ」

「いいわよ」


 いつも同じ班で一緒に掃除してる女子の人たちも見たがるので、わたしは答案を見てもらった。


「見て! 38点!」


 ノリノリで見せると、


「……………」

「? おかしいな。なんで黙るのよ三人とも」


 見た三人の友達が、三人とも言葉と表情を失う瞬間。それをわたしは見たの。


「欠点じゃないか」

「す、すごく反応に困る点数ね……」

「アン、こんなこと言うのもあれだが……それ高いのかい?」

「高いわよ。わたし、前の数学のテスト22点だったもん」


 何だかすごい微妙な反応ねぇ。わたしとしては頑張ったつもりなんだけど。


「す、住伏くんは…もうちょっと目標を高く持った方がいいと思いますわよ…」

「うっ。あんたに言われると刺さりますわ……」


 クラスで一番勉強(努力)してそうな人に怒られた。これじゃあキョウ男に見せても、同じことになりそう…。

 次の授業は、こことは別の教室で行われる。そこに向かおうと席を立つと、ふと教卓の方に目が行った。

 クラスメイトの女の人が、教科書を持って先生と話してる所だった。テスト終わったばっかなのに質問か……。随分と勉強熱心なことで…。そう思いながら見てると、


「アキちゃんがどうしたでありますか?」


 と後ろにいたミカさんに聞かれた。アキちゃんってのが、あの人の名前。


「あぁ、何でもないわ」

「何でもないことはないでしょ? ねぇ!」

「うるさいなぁ。次、移動教室よ」


 本当に何となくで見てただけなのに、すぐからかうんだから…。心の中でため息つきながら、廊下に出る。よし、誰も来てないな。と左右を確認してから。

 しかし突然。ドン!! と横から何かにどつかれた。衝撃でわたしは弾かれて、廊下を転がった。


「わっ、うぉぶっ…!」


 地面に体を打っても痛くない体質だからいいけど、びっくりするなぁ。起き上がって見ると、知らないおっさんがこっちを見下ろしている。先生かしら…。


「あっ、ぶつかった? ごめんなさい」


 向こうから当たってきた気もするが、まぁどっちでもいい。わたしは移動教室に行かなきゃならんのだ。しかしそこに、


「待ちなさい!!」


 廊下中に、おっさんの怒鳴り声が広がる。周りの人たちがこっちを見て、何事かという顔をした。

 おっさんがぽんと、わたしの肩を掴んできた。振り返って顔を見ると、キレているようだった。はぁ、めんどくさい……。

 この時はまだ気付いていなかった。後にわたしは、このおっさんをぶん殴ることになる。そしてそれは友達の命を賭けた、殺人鬼たちとの戦いの始まりとなることに………。


 次回は3月23日(日)更新予定です。

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