第20話 迫る
2022年11月14日(月)
こないだ文化祭があったと思ったら、季節が過ぎるのは早いですわね。もう11月である。もうすぐ冬。そんな時期の、ある一日の朝のこと。
わたしがいつも通り教室に入ろうとすると、何やら中が騒がしかった。まぁ、あの人たちはいつでもうるさいけどね。でも今日は何だか、話し声の雰囲気が違うような。そう考えながら扉を開けて入ると、
「見た!? 昨日のニュース!」
「見たぁ! また自殺が起きたんでしょ!? 怖いわよねー!!」
「こんだけ何か月も連続で起きてるとなるとねぇ…」
「さすがに不気味だなぁ……」
と、多くの人が一つの話題で盛り上がってるようだった。なになに、何の話してるのー?
「あっ、住伏くんやっほー!」
「あぁ。どうも…」
わたしに気付いて挨拶してきたのは、クラスメイトの女の人。その人に聞いてみる。
「ねぇ、これ一体何の騒ぎ?」
「いやー、それがさ…」
するとそこに割り込むように、
「おいアン、ニュース見たかい!?」
「え、リオン?」
リオンが話しかけてきた。なんか、テンションが馬鹿に高いのね。席は前後なんだから、話しかけるにしても自分の席で待ってればいいのに…。
「ニュース…、わたし見ないから……」
「じゃあ、昨日葉後島であった自殺のことも知らないか?」
何だ、みんなが騒いでるのはその話か。
「あぁ。毎月起きてるあれ? それなら知ってるよ。さっき人から聞いたわ」
自分の机に鞄を置きながら、わたしは答えた。
わたしたちが住む葉後島では今年の3月から、毎月決まったタイミングで人が自殺している。日付と時刻は、13日13時13分。その時刻に島内の三か所で、それぞれ一人の人間が飛び降り自殺する。
ここまで3月から10月まで連続で起きてきたが、昨日はまさに11月の13日だった。
「それで、昨日も三か所で自殺が起きたんだってね。どこで起きたのよ?」
「えっと、昨日はー…」
リオンの友達が来て、
「一つはハートハーバーにあるボート体験センター、二つはハートシティにあるスーパーマーケット『スーパー80』、三つは心路村の葉後島資料館だな」
とスマホのニュースで確認しながら、教えてくれた。
「ぜーんぶ建物の高層階とか屋上からの飛び降りだよ。もちろんいずれも発生時刻は13時13分!」
「ふーん。で、被害者の身元は?」
わたしの発言に、その場にいた四人ほどの男子たちの空気が凍り付いたわ。あっ、やっべ……。
「被害者って…、自殺だろ?」
「お! お! お、お前まさか!?」
言った後で気付いたわ。あわてて言い直す。
「あぁ、ごめんごめん…。自殺者の身元は?」
「だ、だよなー! なんでその人たちが被害者って知ってるのかと……」
「あーよかった、オレらも殺されるかと思ったー!!」
そんな、やめてちょうだいよ。友達を殺人犯みたいに…。
「えっと今回自殺した人は…、25歳の男性と、42歳の女性と、68歳の男性だな」
またスマホを見て、友達が情報をくれる。年齢、出てるのか。
「そう。じゃ、わたしの友達ではないわけだ。それなら別にいいわ」
「良くねぇ!! 怒られるぞー、そんなこと言ったら!」
自殺者はわたしの知らない人間と、知って安心。にしても自殺者のことを被害者だなんて…。こんな言い間違いをしたのも、あいつらのせいだわ。おかげで、あらぬ疑いをかけられる羽目になった……。
ここに来る前、中庭で…。
「自殺者たちの間に、これといった関係性は見られない。そいつらが同時に、同じ手段で自殺する。この『出来過ぎた偶然』を可能にするのが、ハートコントローラーだ。何者かがコントローラーで市民を操って、自殺するよう仕向けてる可能性は極めて高い……」
わたしは若亭と蒼男から、事件の話を聞いていたのよ。自殺はほんとは、ハートコントローラーを使った他殺なんだと。
「昨日13日、葉後島のどこかで自殺が起きることは当然考えられた。自亭たち”ハート警察”は三か所に分かれて対策を試みたが、どうしてもピンポイントで場所を予測できなくてな。また犠牲者を増やすことになった」
若亭が話すのに割り込むように、蒼男が突然、
「うおおおおおおおお!!」
大声で泣きはじめた。
「わっ、うるさいな。何なのよ急に!」
「殺された人たちのことを思ったら、オレ、オレぇ……!!」
「無駄に気負うな。疲れるだけよ…」
蒼男は知らん人のことまで考えるから、疲れるのよ。”ハート犯罪者”でありながら、正義感が強いからね。
「ねぇ若亭さ。”ハート警察”の人たちを全員この島に呼んで、何とか犯人を見つけられないの?」
そんなに自殺を止めたいならさ。って意味で聞いてみると、
「馬鹿。それは”ハート警察”の本部を完全留守にするってことだろ。んなことしたら、その隙に名だたる”ハート犯罪者”たちが一斉に暴れ出す。”ハート業界”で戦争が起きるよ」
なるほど…。そしたら犠牲者がいっぱい出る。それは”ハート警察”にとっては良くないか。
「”ハート警察”はその存在が、”ハート業界”での抑止力なんだ。葉後島への増員は一応要請するが、どうせ断られるだろうな」
「ふーん……」
”ハート警察”も大変なのね。そう思った、朝の会話でした。
時間は戻って現在、一年空組の教室で。
「等間隔で同じ数だけ自殺が起きるなんて、偶然にしては出来過ぎだぜ!?」
会話に入ってきた男子が机を叩いて、わたしに迫ってきた。
「離れて…。うざいわよ」
顔が、近い………。
「で、警察は自殺者たち同士の関係性を調査中ってわけだよ」
「例えば自殺者たちが画策して、タイミング合わせて飛び降り自殺してるとか!!」
「なー。そうじゃないと考えられねぇよなー」
わたしもハートコントローラーなんて代物を知らなきゃ、そう考えてただろうな。この人たちは知らない世界なわけだが………。
「まぁ、わたしは興味ないわ」
と言うと、
「嘘つけ! めっちゃ興味持ってたろ!」
「強がんなって!」
みよーんと、男子二人にほっぺたを引っ張られる。
「うっ……」
別に強がりしたつもりなんかないのに…。
2022年11月28日(月)
放課後の教室。わたしはキョウ男によって、テストの勉強をさせられていた。
「えっと…、数学とは数学であり、数学が数学なのは数学の数学ゆえであり、数学らしさが数学なのは、数学の数学が数学である時で……、えぇい分かんねぇ!!」
開いた問題集を、手でカルタのようにバサッと弾き飛ばす。それを空中でキョウ男が見事に取る。ナイスキャッチ!
「そんなこと言ってアン、前回のテスト何点だったのさ?」
真面目で勉強好きのキョウ男に聞かれて、わたしはとってもバツが悪い。渋々答える。
「…数学は28点、他の教科も20点とか30点とかです」
「そんな欠点ばっかじゃ留年するぞ————!! 喝ぁーつ!!」
「うぅ、すいません…」
怒るキョウ男が、いつもより大きく見えるわ。
「その問題が分かんねぇなら、まず数学の数学の公式からやった方がいいな。教えよう」
「あー、勉強は嫌いであります…」
キョウ男が参考書片手に、黒板にチョークでいろいろ書きはじめる。それがわたしには怪文に見えるのよ。
「いい? 数学の数学の公式ってのは、数学が数学である場合数学は数学において数学を数学する。という事なんだ。つまり数学では…、」
「にゃあぁぁあ…」
「あくびすなー!!」
「は…はいー!」
問題集を見てたら、眠くなるのよね…。
「お前、夜寝てないのか?」
「あんまり。事件のことが気になるのよー」
「まぁ、その気持ちは分かるけどさ」
何のこと言ってるか、キョウ男は察してくれたようで。
「毎月三か所で自殺が起きてるが、現場がどんどん葉後高校の方向に近付いてきてる。そこも気になるよな……」
「あぁ。一つはハートハーバーから、二つはハートビーチから、三つは心路村から、この学校を囲むように近くなってきてるわ。まぁ、ただの偶然かもしれないけど」
長ったらしく言ってるけど、要するに三つの事件現場がみるみる葉後高校に近くなってるの。
「一連の事件とは別に、葉後高校では4月末に三年生が飛び降り自殺をしている。あれもハートコントローラーによる物の可能性が高いってね」
「あぁ。自殺した時のそいつの様子が、不自然だったらしいからな。何も言わずに、機械的に飛び降りたらしくて。あれもコントローラーで操られてた線は強いわ」
前にこの学校で起きた、不自然な自殺事件の話。そしてそれとは別に、毎月起きてる島での自殺。さらにその現場は、三か所とも葉後高校に向かってきてる。
若亭が以前言ってた通り、この学校に元凶となるハートコントローラー使いがいるとしたら……。
「わたしたちが通ってるこの学校は、この一連の事件に深く関わってるかもしれないわね…」
キョウ男がわたしの机に問題集を置き直して、ツンツンと指で叩いた。
「手が止まってるよ」
「そ、そんな殺生な…!!」
こいつには血も涙もないわね…。わたしが事件のことで悩んでるのに、勉強しろだなんて……。すると少し間を置いて、キョウ男はわたしに言った。
「アン、お前は”ハート探偵”になるんだろ? 友達を守るためにさ」
「! あぁ。学校なんて、どうでもいい…。わたしは、友達を守れさえすればいいわ」
まぁあの人たちは、この学校に何かあったら困るでしょうけど…。答えながら思った。
「じゃあ勉強しろ」
「いや、それはおかしいわよ…。わたしに勉強させたいだけでしょ……」
『じゃあ』の文脈が、すっごく雑だな。結局この後わたしは、下校時間ギリギリまで問題集とにらめっこすることに……。あぁ辛い!
2022年12月12日(月)
二学期の期末テストがあった。そして今日の授業では、数学のテストが返ってきた。自分の点数を見て、驚いたわ。
「すごいわ……。こんな点数、今まで取ったことない………」
これがほんとに、わたしの答案? 衝撃で体が震えてるわ。勉強の成果ってすごいのね。そんなわたしの様子に気付いて、
「お、アン何点だったんだ?」
前の席のリオンが聞いてきた。
「すごいわよ。今までで一番いい点数よ」
「へー、見せてよ」
「いいわよ」
いつも同じ班で一緒に掃除してる女子の人たちも見たがるので、わたしは答案を見てもらった。
「見て! 38点!」
ノリノリで見せると、
「……………」
「? おかしいな。なんで黙るのよ三人とも」
見た三人の友達が、三人とも言葉と表情を失う瞬間。それをわたしは見たの。
「欠点じゃないか」
「す、すごく反応に困る点数ね……」
「アン、こんなこと言うのもあれだが……それ高いのかい?」
「高いわよ。わたし、前の数学のテスト22点だったもん」
何だかすごい微妙な反応ねぇ。わたしとしては頑張ったつもりなんだけど。
「す、住伏くんは…もうちょっと目標を高く持った方がいいと思いますわよ…」
「うっ。あんたに言われると刺さりますわ……」
クラスで一番勉強(努力)してそうな人に怒られた。これじゃあキョウ男に見せても、同じことになりそう…。
次の授業は、こことは別の教室で行われる。そこに向かおうと席を立つと、ふと教卓の方に目が行った。
クラスメイトの女の人が、教科書を持って先生と話してる所だった。テスト終わったばっかなのに質問か……。随分と勉強熱心なことで…。そう思いながら見てると、
「アキちゃんがどうしたでありますか?」
と後ろにいたミカさんに聞かれた。アキちゃんってのが、あの人の名前。
「あぁ、何でもないわ」
「何でもないことはないでしょ? ねぇ!」
「うるさいなぁ。次、移動教室よ」
本当に何となくで見てただけなのに、すぐからかうんだから…。心の中でため息つきながら、廊下に出る。よし、誰も来てないな。と左右を確認してから。
しかし突然。ドン!! と横から何かにどつかれた。衝撃でわたしは弾かれて、廊下を転がった。
「わっ、うぉぶっ…!」
地面に体を打っても痛くない体質だからいいけど、びっくりするなぁ。起き上がって見ると、知らないおっさんがこっちを見下ろしている。先生かしら…。
「あっ、ぶつかった? ごめんなさい」
向こうから当たってきた気もするが、まぁどっちでもいい。わたしは移動教室に行かなきゃならんのだ。しかしそこに、
「待ちなさい!!」
廊下中に、おっさんの怒鳴り声が広がる。周りの人たちがこっちを見て、何事かという顔をした。
おっさんがぽんと、わたしの肩を掴んできた。振り返って顔を見ると、キレているようだった。はぁ、めんどくさい……。
この時はまだ気付いていなかった。後にわたしは、このおっさんをぶん殴ることになる。そしてそれは友達の命を賭けた、殺人鬼たちとの戦いの始まりとなることに………。
次回は3月23日(日)更新予定です。




