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ハート探偵  作者: 住伏暗
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第2話 葉後高校


 2022年4月11日(月)


 正門をくぐる。


「でけぇ学校だなー」


 ここは葉後(はあと)島の海沿いに建つ、葉後高校だ。わたし住伏暗(すみふしアン)は、三日前の四月八日にここに入学した。

 入学式から休み二日を空けて、今日が二回目の登校となる。

 グラウンドの奥に一本大きな木が見える。近くまで歩いていって見上げてみる。桜の花が満開だわ。きれいだなー。


「はぁ…、メイさん元気にしてんだろうか」


 ため息混じりに呟いてみた。中学を出てから会ってないなぁ。あの人に”ハート探偵”になるって言ってから、もう一年半になる。


 わたしの振り分けられたクラスは、一年空組だった。ホームルームの時間、担任の先生からお告げが下った。


「えーこの時間はホームルームだ。生徒同士、お互いに自己紹介をしろ」


 自己紹介だ。みんなあっちこっち行ったり来たりしてあれこれ話してるが、わたしは窓際一番後ろの自分の席で一人を決め込んでいる。どうせ喋ったって、仲良くなるわけでもないからな。

 学校のクラスにはカーストなんて物がある。実際に学校行ってる人は分かるかもしれないわね。生徒間の地位のこと。上に来るのは見た目が優れてたり、よく喋るタイプの人。一方のわたしはと言うと、コミュ力がないし、ちびで痩せぎす。おまけに目つきも悪いと来たもの。まぁいわゆる陰キャという物ですな。友達なんてできるわけないわ。

 尤も、そんなの出来た所で面倒事が増えるだけだ。どうせ三年で別れるんだし、変に色々巻き込まれて疲れるよりは平穏な方がいい。


「よぉっす!」

「・・・・・・・・・」

「よぉっす!」


 あれ、誰か話しかけてきた? わたしに? その人を見たら、


「怖っ、目つき怖…!」


 ってびびられた。え、ただ見ただけで?


「名前は?」


 わたしが聞くと、


「えっ、…あっ、エイジだ! 仲良くしようぜ。よろしく…!」


 わー快活な人。


「覚えとくわ」


 その後ずっと黙ってたら、


「怖ぇー……」


 と言ってその少年は去っていった。あの感じは…、おそらく陽キャだな。

 その日はずーっとそんな感じで終わった。やっぱりわたしは友達ができない質のようである。



 4月13日(水)


 そこからまた二日経って。相変わらず一人で楽しくない生活だったのだが、この日のある休み時間。


「暴力沙汰…?」

「そうそう! ここ三日間、この学校でいっぱい起きてるらしいよ」


 教室にて、前の席に座ってた男子がわたしに持ちかけてきたのは噂話。新学期に入ったこの三日で暴力絡みの事件が多発していて、学校中その話で持ちきりなんだと。


「ふーん。それがどうかしたの?」

「なんでも、その事件がどれも奇妙なんだってよ!」


 奇妙?


「たとえばうちの学年だと、山組で起きた話らしいんだけど…、」


 その少年は意気揚々と語りはじめた。


「一昨日だったかな…。そのクラスのある生徒が急に豹変してさ。隣の席の人を殴り出したんだって! 周りが止めても聞かなくて、五分くらいずーっとその人を殴り続けたらしいよ。その後はっと我に返ったように大人しくなって、やめたらしいんだけど……。で、これと同じような事件が、学校中のいろんなクラスで起きてるらしいぜ…」

「へー」


 五分……?


「でも怖いのはこっから。どの事件も一緒なんだよ。加害者の言ってることが!」

「一緒って?」

「みんな同じこと言ってんだ。『なんで殴りたくなったのか分からない。だけど急にその人を殴りたくなった』って!」


 なぜか分からない。殴りたくなった。で、五分間か……。何だか引っ掛かるな…。わたしはそう思った。その少年の話が。彼が続ける。


「おかしいと思わないか? 加害者はどの事件も別々なのに、みんなそう言ってるんだぜ。これって偶然かなぁ?」


 随分と興味津々なことで。だけど、そういうわたしも気になって彼に質問をしてた。


「それって、全部で何件起きてるの? 加害者は全部の事件で別なの?」

「あぁ。三学年合わせてこの三日だけで十件! 新学期早々に停学者と怪我人が十人も出て、学校側は大忙しらしいよ。

 生徒間でも広まってて。加害者たちが裏で結託して、一斉に暴力事件を起こしてるんじゃないかとか言われてるんだって!」


 なるほど。加害者は十人か…。

 確かにそれだけの人数が同じような事件を起こして同じ言い訳してるんなら、そいつらが裏でつながってるんじゃないかって騒ぐ奴がいるのも頷ける。だけど、もしそうじゃないとしたら。その十件が全然関係のない事件だとしたら………。

 …って、何をこんな噂話で……。


「まぁ、わたしには関係ないわ」


 と強引に話を終わらす。


「えー? でも怖くないか? もしうちのクラスでもそういう事が起きたらさー、」


 この少年は知らないんだろうな。

 この世には、ハートコントローラーという物がある。”ハート業界”って裏社会で使われてる道具なんだけど。わたしは中学二年生の時にある事件でその存在を知った。


 スマホのような見た目をした道具。他人の心臓にセンサーから出るHT線を当てると、その人の心をスキャンできる。そしてそこにプログラムを送信することで、その人の心を思い通りに動かすことができる。

 たとえばAがBの心をコントローラーでスキャンし、『Cを殴る』とプログラムしたとする。この場合、BはCを殴るというわけだ。コントローラーに従って、だけどその存在を知らない人から見れば何の脈略もない。


 今この少年から聞いた事件の話、もしかしたらそのハートコントローラーが関わってるんじゃないか。そう考えたんだが……。まぁ、わたしの関わることではない。面倒事にはなるべく関与したくない性分なのだ。深く考えるのはやめましょ。


 気付くと、誰かがわたしの席の前に立っていた。見上げて顔を確かめると、


「あれ」

「……」


 なんだ。この前の自己紹介の時の少年じゃないか。エイジって人だっけな。わたしを見ている。


「あんた、この前の少年じゃない。なに? どうかした…」


 ドン! って音がした。どうやらほっぺたを殴られたらしかった。


「なに?」

「……」


 彼は黙ってわたしの胸倉を掴み上げて、繰り返しわたしをぶった。


「おい、お前どうしたんだよ!」

「おい止めろー!!」


 周りがやめろって言ってるけど、彼は言うことを聞かない。

 わたしが吹っ飛ばされた所で、他の男子たちが止めに入った。抑えられるのを振り切って、彼はわたしを殴ろうとする。


 あの時と全く違う、快活さの失せた表情。彼は別人のよう。まるで何かに操られてるような。そんな彼を見てて、わたしは確信した。なんだ、やっぱりそうなのか…。


 さっき聞いた話が本当なら、この学校で起きてる暴力事件は奇妙でも何でもない。みんな誰かに操られて、人を殴ってたんだ。今のこの少年のように、ハートコントローラーで。

 そんなことを考えながら、わたしは彼にただ殴られていた。止まることなく。


 次回11月17日(日)に更新予定です。

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