第18話 「金玉を消し飛ばす」
暴力表現あります。タイトル通りです。
ガラッと、扉を動かす音がした。
「も——我慢できない! 何が起きてるのよ!?」
「住伏くん、蒼男くんは無事なの…? 切られてたよね……?」
ミカさんたちが、教室から廊下に出てきていた。
「あんたら。来ない方がいいのに…」
ハヤシがハートコントローラーの話をするから、この人たちには聞かれないように教室に入ってもらってたのに。
「うちらを仲間外れにして、何の話してたでありますか!?」
「聞かない方がいいから、仲間外れにしたのよ」
「友達に隠し事なんて許しませ———ん!!」
ミカさんに恋愛ドラマみたいなことで怒られる。そんなこと言われてもねぇ…。
「後にしてよ。敵はまだ生きてるのよ」
早く奴を倒して、カナデさんの怪我を手当てしなきゃならないの。
「蒼男くん、大丈夫!?」
「…あぁ。大丈夫…」
「いやいや、大丈夫なわけないじゃん! こんなに血ぃ出てるのに!!」
と、蒼男の心配してるのはレイナさん。この人はよくいろんな所に目が付くものだ。視野が広いわね。
「大丈夫だよ。それよりあいつ許さない…。ヨツハちゃんのこと弄んでたんだ…! アンだって…、戦ってくれてる。こんな怪我で、オレだけへばってるわけには行かないよ……!」
笑顔を見せて、強がる彼。辛い時に笑うなんて、なんでかしら……。
「あの、蒼田さん」
「ん、ヨツハちゃん。 どうしたんだ…?」
ヨツハさん、立ち上がった。蒼男に何か、話したいことがあるようだが…。
「前にハヤシさんから聞いた話なんですが……、あの人は…」
「んん……?」
ハヤシから聞いた話? 何それ、こんな状況で言うことかしら? しかし彼女が話しはじめる前に、
「ふん。出てきたな、カナデちゃん」
と奴が割って入ってきた。カナデさんのことを睨みつけて、
「黙って俺の物になれば、大切にしてやったのによォ…」
怖がるカナデさんの前に立って、ミカさんとレイナさんが、
「あいつ、まだカナデちゃんのこと狙ってるの…? 嫌な奴ね……」
「カナデちゃん、大丈夫よ! あいつが何者かは知らないけど…、うちらが何とかして守るわよ!!」
……。いい人だな、この二人。
「蒼男、この人たち守って。あとついでに、ヨツハさんも守りたければ…」
「ん…、あぁ……」
わたしの友達を守るのは、蒼男に任せた………。わたしは、ハヤシを倒すのに集中しよう。
「この人たちに手を出したかったら、わたしを先に殺せって言ったよね」
カナデさんたちの前に立って、ハヤシを見る。狙いは、こいつよ。すると奴が、
「フン。無口で暗いカナデちゃんには、一緒に話す友達なんざ出来やしないんだよ」
と言った。えっ…。今みんなと一緒にいるのに……。
「俺の誘いに乗ってれば……毎日話す相手が出来て、幸せになれたのに…。残念だなぁ」
いや、この男何を言ってるのよ。この人に友達がいないなんて、ふざけた勘違いを……。
「寂しいんだろ?」
付け加える奴。ふと気になって後ろの彼女に目を向けると、
「—————…」
彼女は泣いてた。黙ったまま、涙が傷に沁みて痛そうだった。
その姿を見た瞬間だった。体にぴりっと嫌な感じがした。友達が泣いてる……。きっと、あの男が言ったことのせいで…………。そう思うと。
「ふん、余所見したな! 殺してやる化け物がっ!!」
わたしの背後を、奴が狙ってくる。隙を突いてるつもりか…? こいつ。
気付いたらわたしは、奴の腹に拳を打ち込んでいた。すると血を吐き出しながら、奴は吹っ飛んだ。長い廊下を飛んで飛んで、10メートルくらい先まで。
それを見たみんなは、
「———………。す…住伏くん……?」
ドン引きしている。分かるわ、わたしもびっくりしてるもの。素手で人をあんな遠くに飛ばすほどのパワー、わたしにはあったか……。
何だか体の調子がおかしい。視界全体が赤く見える。単語帳の暗記に使う赤いシート越しに見てるようだ。それに体の内側から、沸々と力が爆発してくる。奴への、憎しみが湧き上がってくる。
奴に追撃すべく、右手にハンマーを握って走る。だが、
「ぐ…何だよ、この力は…!!」
と奴は起き上がった。
「”揺鋸削”!!」
鋸を両手で寝かせるように構えて向かって来る奴を、わたしは横にかわす。
「わたしの友達を……、泣かすんじゃねぇよ!!」
心拍数がドクドクと上がる。奴が憎ければ憎いほど、力が増す気がした。奴の後ろから……、
「”背骨斬り”!!」
ぐるんと回転して、奴の背中を斬るようにハンマーをぶつけた。剣を振って裂くように。
「…!! がはっ………!」
奴は床に倒れ込んで、そのまま動かなくなった。10秒見ても、ピクリともしないわ。これは…倒したかな。
「…は……はー、はぁ…は………」
こいつを倒したら、心がスカッとした。そしたら体から力が抜けて、心拍も落ち着いてきた。体が、元に戻った。視界の赤みが消えて、爆発するような熱さもない。いつもの調子に。
「アン――――――!」
「…、蒼男」
空組の教室の方から、蒼男が追いかけてきた。
「アン、お前どこにそんな力が……」
「分かんない。でもなんか、すっごい疲れたわ…」
何だったんだろ、今の。なんか、普段よりも何倍もバテちゃった…。この程度の運動で、いつもそんなに疲れたりしないのに。もうへとへと……。
ミカさんたちも来て、
「す……住伏くんって、怒ると怖いですなぁ…」
そんなことないんだけどな…。怖いなんて言われるのは傷付くものよ。
「あ、あの人はどうするの? 警察呼んで捕まえてもらう…?」
倒れてるハヤシを見て、レイナさんが聞いてきた。
「あぁ。そうね。わたしの友達に警察いるから、そいつに持ってってもらうわ」
「警察…友達?」
まぁ、”ハート警察”だけどな。あいつ、今日は別の用事で学校には来てないんだよな。呼んだら来るかしら。
カナデさんにわたしは、
「どうして泣いてるの?」
そう聞いた。まだ、泣いていたから。
「友達がいないって言われたこと、そんなに嫌だったの?」
「………ううん」
首を横に振る。
「じゃあ笑いなさいよ。わたし、あんたの笑ってる顔好きよ」
彼女の左頬の赤い傷が、目を引いた。それを見てはっとする。あっ!
「って、こんなこと言ってる場合じゃないわ! 保健室行かなきゃ…!」
その時。スッ…と自分の背後に気配がした。
「住伏さん危ない!!」
ヨツハさんが叫んだ。奴が復活して、鋸を振ってきていた。
「そいつに友達がいないこと、お前も知ってんだろう!?」
この男、カナデさんの何を知ってるのよ…。刃をまた左腕で受け止める。刺さって痛いけど、
「わたしたちが友達だよ!」
右手で腹を殴って押し返す。
「うっ!!」
「まだ生きてるか…。うっとおしい奴ね……」
腹を摩りながらキレるハヤシ。
「お前を殺すっ!!」
あんなに強く殴ったのに、まだ動けるのか……。
「お前を殺して!! その次は俺に逆らったヨツハちゃんもカナデちゃんも殺してやるっ!!」
「………しょうがないな」
まだ邪魔をしてくるんなら、仕方ないな。
「おい蒼男、目ぇ閉じてろ」
蒼男に指示すると不可解そうに、
「え、なんで…」
と聞き返す。なんでって…、
「今からこいつの、金玉を消し飛ばすわ」
わたしの言葉に、みんなが耳を疑った。
「え…?」
「今なんと……?」
「……」
「ほ…、本気ですか……?」
「え……………、えぇえぇええぇ―――!?」
と、みんな思い思いの反応。
「行くぞ。”金玉”…、」
「ま、えっ、待て! …それだけはやめろよ!! それだけは!!」
うろたえるハヤシ。びびって反撃もしないみたいね。全く動かないわ。なら今のうちに、
「”破壊”ォ!!」
ぞりっ!! とハンマーで消し飛ばした。
「かっ…、カ……———!!」
と奴が声にならない悲鳴を上げる。やっぱり効くのね。蒼男も、
「ぎゃああ———、潰したぁ~~~!!」
と苦しがってる。奴はブクブクと、泡を吹きながら気絶してしまった。わたしはしゃがんで、
「もう起き上がるなよ、この男尊女卑野郎」
頭をハンマーで繰り返し叩いてやる。わたしの友達に、痛い目遭わせやがって…。そうしてるとヨツハさんが、
「す、住伏さん! 蒼田さんが…」
「ん?」
見ると蒼男は、
「気絶してる……」
ハヤシと同じく、白目のまま寝てしまってる。だから見るなって言ったのに…。見てるだけで痛ぇだろうし。
「あっ、そうだ…」
ポケットからハートコントローラーを出す。奴がヨツハさんを操るのに使ったっていう。蒼男とカナデさんに回収してもらったやつだ。
それをバキンと、真っ二つにする。いつもやってる通りに。若亭は怒るかな。でも、
「ハートコントローラーなんて、無い方がいい………」
ということで、今回も悪い奴のハートコントローラーを破壊完了である。
事件解決後。
ミカさんとレイナさんが帰って、教室はわたしとカナデさんの二人だけになった。彼女のほっぺたには、馬鹿みたいに大きな絆創膏が貼ってあった。
「そのほっぺたの傷、痛そうね」
何となく話してみる。特に返事もないけど、別に独り言のようなものよ。
「あの鋸持ったナンパ男は、わたしの友達の警察に捕まえてもらったから。もう心配ないわ」
「うん」
静かに頷いた。あのハヤシって男は、若亭がちゃんと”ハート警察”に連行していった。多分、”ハート監獄”という地獄に入れられるだろう。女の心を操って手を出した、不届き者として。
「蒼男もあんたに感謝してたわよ。あのスマホを奴に渡さなかったこと。助かったけど、一般人があまり無茶しちゃダメよ?」
彼女は何も言わない。だからわたしも、一方的に喋る喋る。
「あの野郎、あんたに友達がいないって言うからムカついちゃって…。わたしの方が友達いないんだからね? あんた以外にほとんどいないわ。
だからその友達をいじめる奴が許せないの! あのハヤシって奴なんて、もう殺してもいいくらいだわ…」
そんなこと言いながらふと見ると、また彼女が泣いてるのに気付いてしまった。
「うん。………、」
無理に返事して、袖で目を拭く。わたしは困った。
「えっ、なんで泣くのよ」
わたしが泣かしたから、なんか気まずいわ。この人、泣いてる時に大声出したりしないのね。さっきもそうだったけど。
「あんた優しいから。わたしよりは友達いるはずよ」
こんなこと言ってまずかったかしら…。この人が泣いてる理由も、ろくに知らないのに。
ただこの人が優しいのは、きっとそう。わたしにありがとうって言ってくれたし。笑顔も優しい感じがするし。
「アンー!!」
突然扉が開いて、教室に大声で飛び込んできたのは、
「ヨツハちゃんが帰ろうとしてる! 追いかけるよー!!」
蒼男だった。もちろんパンツ一枚の。
「…………」
「あっ、え、カナデちゃん!?」
「はぁ……。もう…」
あたふたしてる彼、呆れるわたし。人が泣いてる時に、何て空気の読めぬ奴か。彼女が何も言わないのも当然よ。
「……と! とにかく行くよ!! オレまだヨツハちゃんに服返してもらってねぇんだー!」
「いや、ちょっと…そんなのあんた一人で行きなさいよ。わたし今友達と話してる最中…、あぁあああ—————………」
蒼男に腕から引きずられ、壁やドアに頭をバウンドさせながら廊下に飛び出したわたし。彼女だけ放ったらかしで、教室の外へ連れ出されてしまった。
わたし、ヨツハさんの話にはあんまり関係ないのに……。もう少しカナデさんと話してたかったわよ。
「お——い、ヨツハちゃーん!!」
蒼男が正門に歩いていく彼女の後ろ姿に向けて叫ぶ。いやぁ、外暑っつい。夏ですわ。
「蒼田さん…。それに住伏さん」
彼女が振り向いた。
「ありがとうございました。二人とも、ハヤシさんを止めてくれて…」
「いやぁ、オレは何にも…」
「別に、あんたのためにやったんじゃないわよ」
コラ、アン! って蒼男から怒られてると彼女が、
「私、この学校を出ていくことにしました」
その言葉に蒼男は、
「え…?」
と顔を曇らせた。
次回は3月9日(日)更新予定です。




